夕食の準備ができたということで、俺たちは居間に移動した。
食卓にはアノスの大好物だというキノコのグラタンを始めとして、豪華な料理が並べられていた。
「さあ、召し上がれ」
アノスの母親、イザベラさんがそう言って、大皿に入ったグラタンを、小皿に取り分けてくれる。
芳ばしい匂いがする。
「キリヤくんにミーシャちゃんも、沢山食べてね」
「……ん……」
「ありがとうございます」
「では、さっそくいただこう」
さて、さっそくいただきますかね。まさか異世界で地球の料理を食べられるとは思わなかった。似てるだけの別物かもしれんが……。
お、これはなかなか……
「美味いです」
「あら、ありがとう♪」
「これは……!?」
ん? なんか隣でアノスが驚いてる?
「このグラタン、キノコが三種類も入っているだと!?エリンギにマッシュルーム、それにポルチーニダケ。いつもは一種類だけなのに!」
「お母さん、奮発しちゃったわ」
いや、それそんなに感動することか?
「ほらほら、召し上がれ」
「う……!」
なんか涙流してるよ……。
「……アノスはお母さんの料理が好き……?」
「ああ、当たり前だ!」
「あら、嬉しいわー。ふふー、アノスちゃんはすぐに大きくなっちゃったけど、食べてるときの顔はまだまだ子供だよねー」
「ところで、お母さん、ちょっと訊きたいんだけどね……」
そう前置きをして、イザベラさんは真剣な表情を浮かべた。
「キリヤくんにミーシャちゃんは、アノスちゃんのことどう思う?」
「がはっ、がはっ……」
あ、むせた。
「あ、アノスちゃん、大丈夫っ?」
「お、おう……」
しかしどう思う、か。
「それはもちろん友人として、ですよね」
「まさかもうイケナイ関係にっ!? だ、ダメよ! 男同士でそういうのは!」
「断じて違う」
おっと、ついタメ口が。
「……優しいところ……」
淡々と言葉が発せられた瞬間、イザベラさんはぐっと拳を握った。
「そうっ、そうなのよっ! アノスちゃんって本っ当に優しいのっ! だってね、だってね、アノスちゃんは本当は一人でディルヘイドに来ようとしてたんだけど、お母さんが寂しいっていうのを知って、一緒に連れてきてくれたのよ!!」
親バカってやつか?異世界にもいるんだな。
アノスも恥ずかしそうに顔を逸らしてる。
「……親孝行……」
「そうでしょそうでしょっ。ミーシャちゃんって、わかってるわ。さすがアノスちゃんが友達に選んだだけのことはあるわね」
「俺も友人が作れて嬉しいです」
「あら、ありがとう♪ これからもアノスちゃんと仲良くしてあげてね? そうだ。もう一個気になってたんだけどね?」
ん?なんだ?
「ミーシャちゃんとキリヤくんの馴れ初めって、どうなの?」
「ゲフッ、ゲホッ……」
こ、今度は俺がむせた……。
「キリヤ、大丈夫?」
ミーシャが心配して声をかけてくれた。
「だ、大丈夫、大丈夫」
「あのな、母さん」
お、訂正行くか。
「アノスちゃんはキノコのグラタンおかわりいる?」
「なにっ? まだあるのか。もらおう」
「待てや、おい」
こいつあろうことか誘惑に負けやがった。
「おい、アノス」
……ダメだ、反応しねぇ。夢中になってグラタンに食らいついてやがる。むしろちょっと怖いぐらいだ。
「動物かよ……」
「それでそれで、二人の馴れ初めって、どうなの?」
「……馴れ初め……?」
「どんな風に出会ったの? どっちから声をかけた?」
「……声をかけたのは、私……」
「まあ。 どんな風に?」
「……怪我をしてたから、治したい……」
「まーっ、優しいのねー!」
あの時は本当に助かった。
こっちの世界に来た時の反動は凄まじいもので、全身筋肉痛に加えてあちこち内出血。おまけに片足は靭帯断裂。
まあ今はもう完治してるが。魔法ってスゲー。
「それが二人の出会い、ってわけねー。いいわねー、こういうのも。じゃあ、じゃあ、あのね……その、二人は、もう……キスした?」
よし。この質問をきっかけにして、本当のことを説明できそうだな。さすがにキスをしていないで恋人同士というのは疑わしいだろう。
「……してない……」
「ええぇぇぇぇぇぇ、結婚までとっておくなんて、ロマンチックゥゥっ!!」
……くっそ、そう来たか。
興奮するイザベラさん。グスタさん(アノスの父親)は酒を飲みながら、息子の交友関係に満足するように一人うんうんとうなずき、遠くを眺めている。
とりあえず、そのうち落ちつくだろうと思っていたが、イザベラさんは終始テンション高めで、まくしたてるように喋ってくるので、ミーシャのことを訂正する隙はまったくない。
あれよあれよという間に夕食は終わり、そのまま賑やかに喋り続けている間に夜もすっかり遅くなってしまった。
こっちの世界に来てから一番平和な時間だったかもしれない。
……さすがにアノスがまだ生後一ヶ月という事実にはミーシャ共々驚いたが。
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「二人とも手を出せ。<
「場所も分からないのにか?」
「家の場所を思い浮かべてくれ。思念を読み取って送る」
「……できる……?」
「余裕だ」
ミーシャがじっとアノスを見る。
「……すごい……」
俺たちは自分たちの家を思い浮かべる。
「今日は悪かったな」
突然、アノスが謝罪をしてきた。まあ理由は分かる。本当に謝罪の気持ちがあるんだったら……
「あの両親の手綱は握っとけ」
「……善処しよう」
やらないやつじゃん、それ。
「……楽しかった……」
「二人には後で朋友と訂正しておく」
朋友って。また古い言葉使うなぁ。
「……朋友……?」
「友達ってこと」
俺の解説を聞いたミーシャは自分、俺、アノスを交互に指さした。
「……友達……?」
「違ったか。ではなんと言うんだ、こういう関係のことを?」
ミーシャは首を横に振り、それからにっこりと笑った。
「……嬉しい……」
「そうか」
「……ん……」
アノスの手に魔力が集まる。
「じゃ、また学校でな」
「おう、じゃあな」
「……さよなら……」
俺とミーシャの体が消えていき、俺たちは転移した。