白雪千夜の美術観   作:maron5650

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3.光の届かぬ水底に

「美術館での火災……死亡者アリ……今から約5年前……。」

 

仁奈が寝静まった夜。

私は光が漏れないように、布団にくるまってスマホを操作していた。

 

「……これか。」

 

ちとせの言述をもとに、過去の記事を検索する。

すると、ちょうど1件、当てはまるものがあった。

 

「美術館で火災、展示中の作品も焼失……。」

 

記事をスクロールし、何か新たな情報が無いかと目を走らせる。

 

「出火元は不明……死者数名……。」

 

しかし、ちとせが言った以上の情報が出てこない。

 

「……検察は、事故として……。」

 

それどころか。

芳乃が気を読むことで発覚した彼女の嘘が、真実として記されていた。

 

ここまでは、予想通りだ。

あの場でいくら嘘を言ったって、こうして調べられるのは明白なのだから。

調べた程度でバレるような嘘なんて、最初から吐くはずがない。

 

彼女は実際に現場にいたんだ。

もしはっきりと見ていなくとも、火災が誰か人間の手によるものだと理解していて。

しかし事故として済まされようとしているのであれば、通常なら異議を唱えるだろう。

これは事故じゃない。だって、誰かが火をつけるのを見たんだ。そう言えばいい。

しかし彼女はそうしなかった。

事故ではないと分かっているのに、事故で済まされることを良しとした。

それならばもう、彼女が犯人を匿っているとしか、考えようがない。

 

美術館の火災は事故ではない。

その犯人を、個人の特定とまでいかなくとも、ある程度ちとせは知っている。

ちとせはその犯人を匿っている。

ここまでは、確定した。

 

状況を整理しよう。

解決すべき問題は、水の中に囚われた白雪千夜の救出。

それは白雪千夜本人の願いであり、鷹冨士茄子が叶えたもの。

だから、白雪千夜には、何かがある。

水の中で漂うことで解決する。あるいは、先延ばしにできる。

そんな問題が存在する。

 

しかし黒埼ちとせの話に、水に関するものは何ひとつ出てくることはなかった。

出てきたものといえば、彼女がすべてを失った原因。

美術館での火災。

炎で家族を失ったのだから、水を求めるという行為に矛盾こそ無いけれど。

単に水を求めているなら、あのことに説明がつかない。

 

白雪千夜の水槽は、徐々に光を通さなくなってきている。

 

『なんか……ちょっと、暗い? 感じがするの』。

私達と共に千夜を見たとき、ちとせは違和感を覚えていた。

単純にもう二度と、自分の大切なものが燃えてほしくない。そんな願いなら。

そんな変化は起こっていないはずだ。

 

事故として処理された美術館の火災。

光を通さなくなってきている白雪千夜の水槽。

この2つが、現状追及すべき点だろう。

 

 

 

「んー……トイレぇ……。」

 

寝ぼけた仁奈の声に、私は布団から顔を出して寝たふりを始める。

一人でトイレに行くのが怖いとき、私かきらり、どちらかを起こす時があるからだ。

 

「んんぅ~……。」

 

声にすらなっていない声を出しながら、私の布団をゆさゆさと揺する。

 

「んー。……なあに、仁奈。トイレ?」

 

あたかも今起きたかのように伸びをしてから、私は仁奈の頭を撫でた。

半分以上目が閉じたまま、仁奈はこくりと頷く。……というか、重力に逆らえず頭を落とす。

 

「はいはい、がんばれー。ついてってあげるから。」

 

右に左に揺れる仁奈を、半ば抱きかかえるようにトイレまで誘導する。

トイレの明りをつけて便座に座ると、流石に少し目が覚めたようだった。

先程より目蓋が少し開いているのを見て、トイレのドアを閉める。

 

「いなくならねーでくだせーね?」

 

寝ぼけているからか、いつもより敬語が妙ちくりんになっている。

 

「はいはい、いるよ。置いてかないよ。」

 

ドアをコンコンと軽く叩きながら返事をする。

「あの子」によって幽霊の存在が証明されて以降、声だけでは不安が拭いきれなくなってしまったのだ。

……多分「あの子」も、ノックくらいできるけれど。

仁奈がそれを知ったら夜のトイレの難易度が跳ね上がってしまうので、言わないようにしている。

 

しばらくして、仁奈がトイレを終えて廊下に出てくる。

また仁奈の頭を撫でてから、布団に戻ろうと手を繋いだ。

その時だった。

 

「杏おねーしゃ……なにをうんうん考えてごぜーましぁ……?」

 

バレてたのか。

相変わらず、人の感情の機微にはとことん敏感だった。

 

「んー……水が暗くなるのって、どういう時かなって。」

 

当たらずとも遠からずなところを言ってみる。

火事だの犯人だのは、仁奈が触れるには早すぎる。

 

「よるぅ……?」

 

「うん。そうだねぇ。」

 

「あとは……もぐってるときぃ……。」

 

「……潜ってるとき?」

 

仁奈はかくりと頭を下げ、立ったままスヤスヤと眠り始めてしまう。

こういうのも慣れたもので、流れるように潜り込み、仁奈をおんぶする。

布団に寝かしつけながら、仁奈の言葉を反芻した。

 

潜っているとき。

潜水。

それも、光が届かなくなるほどの。

そこにあるものは。

そこにいるものは。

 

「……生きた、化石?」

 

 

 

 

 

information : データが更新されました。

 

 

[Tips] 美術館の火災

 

ちとせは美術館での火災を事故と説明したが、実際はそうではない。

誰か、千夜の家族を殺した犯人がいる。

黒埼ちとせはそれを知っている。

 

 

[Mission] 火災の真実を探ってください

 

ちとせは火災が事件であることを知っており、事故として扱われることを望んでいる。

当時の報道から、警察も事故として処理したようだ。

千夜を助けたいはずの彼女が、その協力者である杏や芳乃にもこのことを隠そうとするのは、何か理由があるのだろうか。

何にせよ、今は少しでも情報が欲しい。

 

 

 

〔Mission List〕

・白雪千夜を水槽から出してください

・鷹富士茄子に気取られないでください

・火災の真実を探ってください

 

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