「……ずっと、一緒?」
杏はちとせの言葉を、ちとせが発したあの日の千夜の言葉を復唱する。
「ええ。確か……そう。絶滅危惧種のコーナーに行ったの。」
ちとせは水族館で歩いた道筋をなぞるように、廊下を歩き出す。
杏はその後ろを付いていきながら、スマホの画面をちらりと見た。
芳乃達が何かを見つければ、メールが来る手筈だった。
「ぜつめつきぐしゅ。
お外だと、死んじゃうかもしれないお魚さんね。」
ちとせは二人の会話を再現する。
杏の持つスマホが微かに震える。
ちとせがこちらに振り向く気配がないことを確認し、メールを開く。
画像が一件。……隠しながらではよく見えない。
「この子、しんじゃうの?」
恐らくこれは、千夜が発したものなのだろう。
ちとせの声色が一段高くなる。
杏は添付された画像を拡大する。
何かの数値。
「この中にいれば大丈夫。
ここではみんなが、守ってくれるから。」
再び声色が戻る。
ちとせは会話の内容を全て思い出したようだった。
暗記した台本を読み上げるように、ちとせは声を響かせる。
杏は画像をスワイプし、数値の横にある文字を見る。
「へー……。
じゃあここは──」
ちとせの口から発する千夜の声が、一拍、止まる。
杏は文字の内容を理解し、それが何を意味するかを知った。
ちとせが振り返ろうとしていることには、気付かなかった。
「──みんなの、天国なんだね。」
ちとせは杏の方に一歩踏み出し、目の前に立つ。
杏はそれによってようやく、こちらを見下ろしているちとせに気づく。
ちとせは杏の顎に手をやり、そっと持ち上げる。
ちとせと、目が合った。
「私の眼を魅て。」
その言葉に。彼女に。逆らえない。
杏の焦点は吸い込まれるように、彼女の双眸に合わさった。
彼女の、紅い瞳に。
「ごめんね。でも、それを知られるわけにはいかないの。
……それを知られることなく、千夜ちゃんを、助けなきゃ。」
杏の手はだらりと下がり、持っていたスマホを落とす。
足元に転がったそれを拾い上げ、ちとせはメールを削除する。
「思ったより、好奇心が強いんだね。
あなたに耳と尻尾が生えてなくてよかった。」
杏のポケットにスマホを戻し、ちとせは歩き出す。
杏は放心状態のまま、ぴくりとも動かない。
「全てを忘れて帰りなさい。
私に関して。千夜ちゃんに関して。
誰に何を言われても、それは真実ではないよ。」
ちとせが片手を挙げる。
指を鳴らすときの形を作る。
ギロチンが落とされるように、指が擦り合わせられ──
──ぱちん。
「……ーさん、杏おねーさん!」
仁奈の声に、私はゆっくりと目蓋を開ける。
「杏おねーさん! どうしちまいやがったですか!」
「だいじょーぶぅ?」
目と鼻の先に、心配そうにこちらを覗き込む2人の表情があった。
「……え、うん。大丈夫、だけど。」
2人とも、何をそんなに心配しているのだろう。
今日はオフで、1日中ぐーたらしていただけだったというのに。
「杏ちゃん、急に動かなくなっちゃったんだよぉ?」
「電池の切れたロボットみてーでごぜーました……。」
え、何それ怖い。
「今日は、もう早めに寝よ?」
「きっと仕事のし過ぎで疲れちまったでごぜーます!
慣れねーことはするもんじゃねーですよ!」
「へえ、仁奈。言うようになったじゃないか。」
私はわざとらしく両手を執刀医のように見せ、これまたわざとらしくワキワキと動かす。
「そんなことを言う子は……こうだーっ!」
「わああああああんずおねーさそれはんそあははははは!」
仁奈を思いきりくすぐりながら、考える。
……今日1日の記憶が無い。
ただ「今日は1日中ぐーたらしていた」という記憶だけが残っている。
「ふぅ……これくらいで許してやろう。」
仁奈やきらりの言う通り、本当に疲れているのだろうか。
確かにここ最近は、事務所全体の知名度の上昇に伴って仕事が増えていたし。
仁奈のこれからのことを考えると、お金は少しでも多くあるに越したことはないから、入れられる限りの仕事を入れていた。
「わ……笑い疲れたでごぜーます……。」
そしてそれ以外に、思い当たる理由が無いのだ。
私は本当に、仕事か仁奈と遊ぶかくらいしかしていなかった。
「はいっ、今日のお遊びはおしまいっ☆ 明日からまた仕事なんだからにぃ☆」
きらりは床にべちょりと横たわる仁奈を、ひょい、とおんぶする。
「「はーい。」」
……まあ、いいか。
今は、今を考えよう。
私には大切な、今があるのだから。
「……じゃあ、二人とも。」
川の字に布団を敷いて、私、仁奈、きらりの順に入る。
仁奈の横顔を眺めながら、いつものように呟いた。
「「「おやすみなさい。」」」
information : アカウント"黒埼ちとせ"がアクセス権限を求めています。
information : 要求を拒否しました。
information : アカウント"黒埼ちとせ"がログインしました。
【error】アカウント"黒埼ちとせ"にはアクセス権限がありません。
【error】不正なアクセス手段です。
information : アカウント"黒埼ちとせ"を強制ログアウトします。
information : 強制ログアウトが拒否されました。
information : すべてのerror処理を無効に設定しました。
command?
> DELETE FILES
select files.
> [Tips] 飴
> [Tips] ちとせの昔話
> [Tips] 美術館の火災
> [Tips] 生きた化石
> [Mission] 白雪千夜を水槽から出してください
> [Mission] 鷹富士茄子に気取られないでください
> [Mission] 火災の真実を探ってください
start deletion.
…
…
…
the deletion was successful.
there is no files.
command?
> LOGOUT
account "黒埼ちとせ"logged out.
account"双葉杏"logged out.
〔Mission List〕
empty.