少年は思春期を超えると、いつの間にかパパになる
ある日の放課後。陸兎、一誠、木場のオカルト研究部男子三人は旧校舎へ向かいながら話をしていた。
「聞いたかお前ら?元アイドルのきびうんこができちゃった結婚したってよ」
「腐ってんな」
一誠の言葉にいつも通りのだらけた顔で返す陸兎。
「最近の世の中って腐りまくりだよな。やれーできちゃった婚やら、やれー出会い系やら、物事に対しての筋道ってモンがないよな」
「ホントだよな。世の中もそうだが、学園にも腐った奴がいるし、溜まったもんじゃないぜ」
陸兎のその言葉に、一誠は足を止めて、詳しく聞き出す。
「学園に腐った奴がいるって・・・いったい誰なんだよ?」
「そんなの、お前と木場に決まってんだろ」
「はぁ!?なんで俺と木場が腐ってんだよ!?」
「誤魔化すなよ。学園で女子が噂してっぞ。最近は木場×兵藤か兵藤×木場だって。どうせ毎晩毎晩、部長とアーシアには内緒で、夜中に二人っきりであれやこれやしてんだろ?」
「・・・なぁ、お前の腐ってるは、いったいどういう意味の腐ってるなんだ?」
「そりゃ勿論、腐女子歓喜の関係――」
「おいやめろ。ただでさえ危ない噂が広がってんのに、これ以上行ったら、俺マジで舌嚙み切るぞ?」
「僕は別に、もう少し君と関係を築いてもいいけど・・・」
「木場ぁー!お前一度マジでぶっ飛ばすぞ!」
笑顔でアブナイ発言をする木場に一誠がマジギレした。
そんなやり取りをしながら進んでいくと、いつの間にか旧校舎が見えてきた。
旧校舎の入口に立ち、扉を開けようとしたその時、陸兎の足元から声が聞こえてきた。
「バブ~」
「ん?」
声がした方に振り向くと、そこにいたのは赤ん坊だった。籠の中で小さな手足をゆらゆらと動かしているその姿は実に愛らしい。
しかし、容姿はボサボサした銀髪頭に気だるけな目。その見た目はどっかの誰かさんにそっくりだった。その上、赤ん坊の上には『あなたの子供です。責任持って育ててください。私はもう疲れました』と書かれた紙が置いてある。
一誠と木場がその誰かさんに目線を向ける中、誰かさんは自分そっくりの赤ん坊をジーと見つめる。
「いや、ないない。これはない」
そう言いながら、旧校舎に入ろうとした誰かさんこと陸兎だったが
「バブ~!」
「・・・・・・」
後ろから、自分を呼んでるかのような赤ん坊の声が聞こえ、後ろ歩きで戻る。
「いやいやないない。あれはあれだったから。そう、あれだった。だから、ない」
もう一度自分に言い聞かせて、陸兎は再び旧校舎に入ろうとしたが、赤ん坊は今度はでっかい声で叫んだ。
「バブバァブー!」
「ないないないないないない!ないったらない!そう、あれはあれだ!なんやかんやで色々あったけど総合するとない!」
三度目の呼びかけに、流石の陸兎も顔を青くしつつも、必死に否定する。
しかし、赤ん坊は止まらない。
「バブゥ」
「だーかーらー!」
「何やってるの貴方たち?」
ふと入口の扉が開き、そこにいたのは、玄関が騒がしくて様子を見に来たリアスだった。
「腐ってるわ」
「腐ってます」
「腐ってますわ」
「腐ってます?」
オカルト研究部女子部員から一斉に軽蔑の眼差しを向けられる陸兎。正確には、向けているのはリアスと小猫であって、朱乃は面白そうに微笑んでおり、アーシアは腐ってるの意味が分からず、きょとんと首を傾げた。
「だから誤解だって。俺は別に隠し子も既成事実も作ってねぇよ。そんな保健体育1の奴がやりそうなミスを俺がするわけないだろ」
「誤魔化さないで。その癖っ気のある天然パーマに如何にもやる気がなさそうな目。どっからどう見ても、貴方の遺伝じゃない」
「馬鹿野郎、俺は絶対に天然パーマの遺伝子を自分の子供に移さないって決めてんだ。例え遺伝子を操作して、コーディネーター第一号にしてでも、俺はサラサラヘアーの子供を作る」
「自分の子供をジョージ・グレンにしようとすんな。連合とザフトで戦争が起きるぞ」
遺伝子操作で新しい人種を作ろうとしている陸兎に、一誠がツッコんだ。
その横で、陸兎の腕の中にいる赤ん坊をジーと見つめていた小猫が口を開く。
「部長、この子様子がおかしいです」
「これは・・・もしかして、お腹がすいてるのかしら?」
リアスも赤ん坊の様子がおかしいことに気づき、赤ん坊の様子から腹がすいてるのだと予想した。
「腹減ってるって言われてもな。部室に赤ちゃんが食えそうな物ってあったっけ?」
「あら、でしたら私の乳を飲ませて差し上げますわ」
「あ、朱乃さんのおっぱいを吸うだと!?貴様!なんて羨ましい真似を!俺にも飲ませろ!」
「とりあえず、お前は黙るか一回死んでこい。後、女子高校生がテメェのでっけぇ乳を見知らぬガキに吸わせるのは、どうかと思うぞ?」
一誠に毒を吐きながら、見知らぬ赤ん坊に母乳を飲ませようとしている朱乃を制止する陸兎。
そうこうしている間に、リアスが何処から取り出したのか、ミルク瓶を手に持って、赤ん坊を抱きながらミルクを飲ませていた。
「あらあら、いっぱい飲んでいますね」
「部長、本物のお母さんみたいです。私にもやらせてください」
「わ、私も少しだけ抱っこしてみたいです!」
「僕ももう少し近くで見てもいいですか?」
「あ!ずりぃ!なら、俺も!」
「コラッやめなさい。落っこちちゃったらどうするのよ」
「(え?なにこれ?)」
いつもとは明らかに違う部室の雰囲気に困惑する陸兎。
そんな陸兎を気にともせず、リアス達は部屋の奥から取り出した子供用のおもちゃを使いながら赤ん坊を愛でていた。
「こんなこともあろうかと、部室に子供用のおもちゃをいくつか用意してあったのよ」
「こういうのを用意しないとダメですから、世話が焼けますね。赤ちゃんのお世話は」
「うふふ、あまり笑わないところも、どっかの誰かさんとそっくりですわ」
「確かにそうですね。日本のことわざで言う親は子に似るってこう言うことなんですね」
「でも、そこがまた可愛いと僕は思うよ」
「ホントだよなー」
「(なんか、皆メロメロになってるし・・・)」
「陸、貴方はあんな父親になったらダメよ」
「リク王、ミルクまだいる?」
「陸次郎、お母さんよ」
「リクルートちゃん、こっち向いてください」
「リッキー、一緒に遊ぼう」
「八神、アホの八神」
「(他人の赤ん坊を勝手に名付けんな!つーか、全部俺にちなんでんじゃねぇか!)」
他人の赤ん坊に好き勝手名前を付けている部員たちにツッコミつつも、場の空気に耐え切れなくなった陸兎は大声で叫んだ。
「うわぁーーーーーー!!」
「あ!待ちなさい!」
そして、素早い動きで赤ん坊を持ち上げると、そのまま部室を出て、猛スピードで学園を出た。
一誠たちは慌てて追いかけたものの、校門を出たところで陸兎の姿を見失った。
「あの野郎!また捨ててくるつもりだな!」
「追いかけるわよ!」
リアスが眷属たちに指示しながら翼を広げようとしたその時、後ろから声を掛けられた。
「あのーすみません。少しよろしいでしょうか?」
声を掛けられ、後ろに振り向くと、複数の人物が立っていた。
その中心にいたのは、杖を持った老人だった。
駒王学園から逃げるように出た陸兎が向かった場所は東京の浅草だった。
そこである人物に会い、色々と相談しようと思っていたのだが・・・
「腐ってるわね」
「お前もかよ。何、流行ってんの腐ってるって言葉。最近の女子が使う言葉ランキング一位なの?」
陸兎をゴミを見るような目で見つめる少女、茨木真紀に対して、陸兎は半ば疲れた様子で言った。
そんな真紀の隣で、陸兎や真紀同様あやかしと縁のある少年、天酒馨もまた、同様の視線を向けていた。
「だから言っただろ。放課後、旧校舎の玄関でこいつを拾ったんだよ」
「そう言われてもな。この赤ちゃん、どっからどう見ても、お前とクリソツじゃないか」
「馬鹿だなお前。今時の子供はゲームやネットのし過ぎで、皆こんな顔なんだよ。お前も一度24時間ゲーム生活にチャレンジしてみ?そう言う顔になるから」
「無茶言うな。そんな生活すれば、視力が下がるだろ」
呆れるように馨が言うと、陸兎は「そうだ」と何か思いついた顔をした。
「なぁー、いっそのことお前らでこいつを預かってくれよ」
「はぁ!?なんで俺たちが!?」
「いやだって、お前ら前世は夫婦だったんだろ?こう言った子育てとかしてたんじゃねぇのか?」
「子供のあやかしとかならば世話したりしてたけど、実際に子供を産んで、育てた経験なんてないぞ」
「なんだよ。子育てもしねぇで、毎晩合体してたってのかよ。そんなんだから、リア充に対して怒りの炎を宿した頼光に除霊されるんだよ」
「誰も毎晩合体したって言ってねぇよ!つーか、頼光絶対そんな理由で俺たちを襲うわけ・・・あ」
「心当たりあんじゃねぇか」
否定しようとしたが、心当たりがあるのか言葉を濁した馨をジト目で見る陸兎。
「たく、これだから鈍感系イケメンは。この間だって、実はお前のことが少し気になってる日本陰陽師協会の女性役員からプレゼントを渡されそうになった時に『さっき真紀から似たような物貰ったのでいらないです』って真顔で断ったら、目に薄っすら涙を溜めながら去っていったって聞いたぜ。なんだよお前、ヘタレと鈍感を兼ね備えた主人公かよ」
「おい待て、なんでお前がそれを知ってんだ!?」
「なんですって!?あんた、また私をダシに使って断ったのね!」
「お前も話に乗ってくんな!それに、その人料理が壊滅的だし、もし貰って、そのまま食べたら絶対病院のベット行きになると思ったんだよ。渡されそうになった時も、箱からダークマターらしきオーラが漂ってたし・・・」
「問題はそこじゃないでしょう!断るのはまだいいとして、なんで断る際にいちいち私の名前を使うの!?そんなことしたら、渡そうとした人は泣くに決まってんじゃん!」
「うぐっ!それはだな・・・」
真紀の剣幕に圧倒され、たじろいでいく馨。
「あんたが私の事をそれだけ思ってくれているのは嬉しいけど、きちんと渡す側の気持ちも考えてから断りなさい!千年前もそうだったけど、あんたって恋愛面に関しては基本ヘタレなのよ!あの時もそうだったし、この時も――」
「え?さっきまで非難の対象は陸兎だったよな?なんで矛先がいつの間にか俺に向いてんの?」
先程まで非難されていたのは陸兎だったのに、いつの間にか対象が自分になっている事に困惑する馨。
「ちょっと!陸兎も何か言いな――え?」
「あ」
ふと真紀が陸兎の方に顔を向け、そこで見たのは、四つん這いでこの場から退散しようとしている陸兎と彼の横で同じく四つん這いで真紀から離れようとした赤ん坊だった。
真紀の方に振り向いた二人の顔は、それはもうそっくりであり、言わなければ親子と見間違える程だった。
真紀は無言で釘バットを手に持つと、陸兎の顔面に向けて思い切っり振った。
「やっぱり、クリソツじゃねぇかぁーーーーーー!!」
「ふべぇ!」
「なんで俺までーーーーーー!?」
何故か馨も釘バットで殴られ、吹き飛んだ二人は近くの川に落ちた。
「最低ね。あんたら二人、そこで一生流されてなさい」
ゴミを見るような目で二人を一瞥すると、真紀は去っていった。
一方、川に落とされた二人はというと・・・
「(はぁー・・・なんで俺の周りには、人の話を聞かない奴しかいないんだ?)」
「(それは、お前も普段から人の話を聞かないからだろ)」
心の中で会話しながら、流されていくのであった。
一方、駒王学園では、一人の老人にグレモリー眷属が対応していた。
「あのー、どちら様で?」
「申し遅れました。私は東京で営業を勤めております飯田加平と申します。少しお聞きしたいことがありまして、こちらの写真の人物を見かけなかったでしょうか?」
そう言いながら、加平は一枚の写真をリアスに見せた。写真に写っているのは、二十代くらいの女性。
リアス達はその写真を見つめていたが、誰も見覚えがなかった為、リアスが代表して頭を下げながら答えた。
「すみません。誰も見覚えがありません」
「そうですか」
「あのー、失礼ですが、この女の人がどうかしたんですか?」
遠慮無しに質問した一誠に、リアスが咎めるような視線を向ける。
しかし、加平は気にしてないようで、リアス達に事情を語る。
「実は、先日私の大切な孫が突然居なくなってしまって・・・」
「それって、誘拐ですか?」
「孫はまだ赤ん坊で、歩くことすらおぼつかないので恐らく。それで、調査したところその娘が赤ん坊を連れてこの町に来たと聞きまして・・・」
「それは大変ですね・・・っ!?」
加平が説明する最中に、アーシア以外の部員が突如一斉に旧校舎の方に振り向いた。
何者かが学園内に侵入したのを気配で感じたからである。
「・・・裕斗、小猫」
「はい、部長」
「捕まえてきます」
リアスに命令された木場と小猫は旧校舎に向かって走っていった。
急に走り去った二人を見つめながら、加平はリアスに問い掛ける。
「えっと・・・今のは?」
「気にしないでください。少しやるべき事があったので、頼んだだけです。それよりも、もしこれが誘拐だとしたら、かなり大きな問題ですよね?警察に相談しないんですか?」
「何分込み入った事情がありまして、あまり公に広めるのは・・・」
リアスの問いに、少し焦っているかのように答える加平。
「とにかく、どうかこの娘を見かけたら連絡だけでも・・・あ!孫の写真もありますのでこれを・・・」
加平がもう一枚の写真をリアスに渡したその時、木場と小猫が戻ってきた。
「部長、旧校舎に入ろうとした侵入者を捕まえたのですが・・・」
「この女の人、人間じゃありません。悪魔です」
二人の間に挟まれながら歩いていたのは、見た目が二十代ぐらいの茶髪の女性。あの写真に写っていた女性だった。
写真と同じ女性が現れたこともそうだが、女性が人ではなく悪魔だったことにリアス達は驚愕する。そんな中、真っ先に口を開いたのは加平だった。
「捕えろ!」
加平に命じられ、彼の周りにいた二人の黒服が女性に襲い掛かった。
女性は突然襲い掛かれた為に抵抗する暇もなく左右の腕をそれぞれ掴まれ、加平の前に出される。
「やめて!離して!」
「ようやく見つけたぞ女狐め。勘四郎をどこへやった!?言え!」
怒りの形相で孫の居場所を問う加平だが、女性は一向に口を開く気配はない。
その様子に激昂した加平は女性の顔を平手打ちすると、黒服に命じた。
「連れていけ」
加平に命じられ、黒服二人は女性の両腕を掴んだまま車に乗った。
加平や残りの黒服もまた、車に乗ろうとしたが、その前にリアスが制止した。
「待ちなさい」
リアスに制止され、顔をリアスの方に向ける加平。
「百歩譲って、その人が貴方のお孫さんを誘拐したのなら、私も何も言わないわ。だけど、その人が悪魔だとしたら、こちらも黙って返すわけにはいかない。彼女は勿論、貴方たちにも詳しい話を聞く必要があるわ」
「・・・これは家族間の問題です。あなた方には関係のないことだ」
「関係ならあるわ。私はこの駒王町を治めている領主ですもの。人間同士の関係ならまだしも、悪魔が関わっているとなれば見過ごせないわ」
リアスがそう言うと、加平の表情が嫌悪に満ちた。
この町が悪魔によって治められていることは加平も知っている。故に、孫を奪った女と同じ悪魔であるリアスに良い感情なんて持てなかった。
「同じ悪魔だから、その女を庇うつもりか?所詮、貴様らも人の大事な物を奪おうとする薄汚い悪魔というわけか」
「なんですって・・・?」
加平の物言いに、リアスが少しだけ怒りながら微小のオーラを纏う。そのオーラに当てられ、まだ車に座っていない残りの黒服たちは、加平を護るかのように前に出る。
一発即発の雰囲気になりかけたその時、リアスに声を掛ける者が現れた。
「待ってリアス」
声を掛けた者は生徒会長であるソーナ。
ソーナは加平の正面に立ち、堂々と話し出す。
「私はこの学園の生徒会長を務めております支取蒼那と申します。何か、うちの学園の生徒に御用ですか?」
「ふん!用ならとっくに済んだわい!」
「なら、なるべく騒ぎを起こさないようお帰り願いいただきます。ここには他の生徒もおりますので」
そう言いながら、ソーナが辺りを見渡すと、周りの生徒たちが「なんだ、なんだ?」と気になるような視線でリアス達を見ていた。
加平はその視線に少しドキッとしつつも、黒服たちと共に去っていった。
「ソーナ、なんで止めたの?」
「ごめんなさいリアス。でも、あの人に手を出したら、日本陰陽師協会を敵に回すことになるわ」
「え?」
詳しく話を聞くことを制止したソーナを睨んだリアスだったが、ソーナの予想だにしなかった返答に疑問符を浮かべた。
その横で、一誠たちは加平が残していった赤ん坊の写真を見て、目を見開いた。
「ちょ、部長!見てくださいよこの写真!」
一誠が慌てた様子でリアスに写真を見せる。
「これは・・・!まずいことになりそうね・・・」
写真を見たリアスは、不安気な表情で呟いた。
その写真に映っていたのは、ボサボサとした銀髪に気だるけな目の赤ん坊。現在、陸兎が連れ歩き回っている赤ん坊だった。
あの後、川から上がった陸兎は、赤ん坊と共に住宅街を歩いていた。
しかし、何の進展もないまま未だ厄介事に巻き込まれている為、陸兎は何処か疲れている様子だった。
「はぁ~、なんか自分に自身無くなってきたな。お前ホントに俺の息子じゃないんだよな?」
「アプ?」
「お前の本当の親はどこにいるんだよ。早くこの地獄から俺を解放してくれ・・・なぁ、お父さーんって呼んでみて、お父さーんって」
「バブーブー」
「・・・ん?」
そんなやり取りをしながら歩いていると、いきなり不審な者達に囲まれた。
二人を囲んでいる者達は黒スーツにグラサンをかけた男たちだった。
「おいおい、確かに俺はお父さんを呼んだけど、こんなにいるなんて聞いてねぇぞ?しかも、如何にも危ねぇ取引をしてそうなお父さんばっかだな」
「貴様、社長の孫を誘拐したあの悪魔の愛人か?社長の孫を誘拐して飯田屋の財産でも狙うつもりか?」
軽口を叩く陸兎を無視しながら、黒服の一人がそう言うと、他の者は姿勢を低くし、すぐにでも陸兎を襲い掛からん勢いだった。
あまり状況を理解できなかった陸兎だが、このまま事が進めば、物騒な事になりそうだと思った陸兎は、両手を軽く上げて黒服たちに落ち着くよう促しながら問い掛ける。
「ちょっと待てよ。とりあえず、一旦落ち着いてこっちの話を聞いてくれ。俺は別に誘拐なんてしてねぇ。愛人?財産?何それ?全然分かんないんだけど・・・」
「ふん!なら、その赤ん坊を置いていけ。さもなくば・・・」
「分かった分かった。寧ろ、面倒事が片付いて大歓迎だ。好きなだけ持っていきやが――ん?」
ふとズボンに違和感を感じ、下を見下ろすと、赤ん坊が陸兎のズボンを掴んでいた。
赤ん坊の考えていることは陸兎でも分からない。けれども、何かしらの意思を伝えようとしていることだけは理解できた。
そんな赤ん坊を無言で見続けていると、一向に赤ん坊を渡す気配の無い陸兎に痺れを切らした一人が声を上げた。
「従わないのなら、力づくで奪うまでだ!」
一人の言葉と共に、黒服たちは一斉に襲い掛かった。
黒服たちのせっかちな態度に、陸兎は額に青筋を浮かべる。
「だーかーらー!さっさと持ってけって言ってんだろうがぁぁぁぁぁぁ!!」
そして、大声を上げながら赤ん坊を上にぶん投げた。
「こ、こいつ!?なんて真似しやがる!」
黒服たちが陸兎の奇行に驚きつつも、空中に投げられた赤ん坊を受け止めるようと慌てて追いかける。
その時、陸兎は手元に『洞爺刀』を出現させた。
「ふっ!」
ズバッ!
そして、『神速』を使って男たちを斬り、そのまま下に落下する赤ん坊を片腕でキャッチした。
だが、陸兎の攻撃を凌いだ者が一人だけいた。
「!?」
キンッ!
即座に反応し、咄嗟に『洞爺刀』で防ぎながら、自身に向けて刀を振った人物を見る。
その男は黒スーツを着ておらず、私服の上に羽織を羽織り、オレンジのグラサンをかけている。そして、『神速』を使用した攻撃から逃れ、それで生まれた隙を的確について、彼に一太刀加えようとしたことから、相当な手練れであることが分かる。
「ほう・・・さっきの『神速』に加えて、その反射神経。中々いい腕をしてるじゃないかあんた」
「(こいつの纏っている気、強い霊力を感じる。てことは退魔師か)・・・ただの用心棒って訳でもなさそうだな・・・何モンだ?」
「何、通りすがりの人斬りならぬ異形斬りだよ」
男の言葉に、陸兎はいつものだらけきった顔から戦闘モードの顔へと切り替える。
「ククク・・・さっきよりも殺気が増したねぇ。いいねぇ、実にいい」
楽しそうに笑いつつも、男は手に持った刀を鞘に戻した。
「片腕で殺り合うには惜しい男だ。行きな。次は両腕が使えていることを祈ってるよ」
「・・・・・・」
道を譲った男を警戒しつつも、陸兎は赤ん坊を手に抱いて走り去った。
男は終始楽しそうに笑いながら、去っていく陸兎の背中を見続けるのであった。
お気づきかもしれませんが、これの元になっているのは銀魂の『ミルクは人肌の温度で』です。
母親が悪魔だったり、似蔵のモチーフキャラが退魔師だったりなど、一部ハイスクールD×Dならではの設定となっておりますので、後編も引き続き読んでいただけたら幸いです。