ハイスクールD×D 銀ノ魂を宿し侍   作:イノウエ・ミウ

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今回で番外編完結となります。


赤ん坊にも記憶と心はある

始まりは、飯田屋に就職した女性が一人の男に出会ったのがきっかけだった。

女性の名前は登古。彼女は悪魔でありながらも幼い頃から現世の都会に憧れており、将来は東京で働くことを夢見てた。

そして、成人した彼女は憧れの東京にやってきたのだが、異形である彼女を雇う者がいなく、中々就職先が見つからなかった。挙句の果てに、異形ということもあり、退魔師から狙われる日もあったのだと言う。

そんな彼女を雇ってくれたのが飯田屋だった。登古は飯田屋の使用人として、病弱で寝たきりとなっている加平の息子、飯田勘一郎の世話を任された。

勘一郎という人物は、登古を含む使用人に、よくいたずらを仕掛けていたが、悪魔である登古にも友人のように接する優しい性格の持ち主だった。

そんな勘一郎に、登古は徐々に惹かれていった。

ある日のこと、いつも通り勘一郎の世話をしていた登古だったが、ふと勘一郎が口を開いた。

 

『なぁ、登古。悪魔ってどのくらい生きるんだ?』

 

『そうですね・・・最低でも数百年くらいですね』

 

『そりゃまた、退屈な時間が続きそうだな。俺みたいに、もうすぐ死ぬ奴なんかとは大違いだ』

 

『そんなこと言うものではありません。旦那様も悲しみますよ。旦那様は勘一郎様の病気を治そうと必死なんですから』

 

『あのおっさんは俺を飯田屋の跡取りとしか考えてねぇよ。財産とか跡取りとか、そんなに大事なモンかね?」

 

『・・・それは、私にとっては我儘に聞こえます。全てを持っている人の』

 

『そうかもな。それだったら、俺は何もいらねぇな。どうせ後少ない命ならそうだな・・・俺は桜の花びらになりたいな』

 

『桜の花びらにですか?でも、桜の花びらは春が終わるころに全て散ってしまわれますわよ』

 

『いいんだよ。だって、こんなにも綺麗に、その身を咲かせているんだからさ』

 

勘一郎が見上げている庭には、満開の桜が咲き誇っていた。

それから二人は、こっそりと屋敷を出て、東京から離れた一軒家で暮らし始めた。

生活こそは貧しかったものの、お互いに泣き合い、笑い合いながら、二人は幸せな日々を過ごしていった。

しかし、その幸せは長くは続かなかった。

二人が駆け落ちしてから一年経ったある日、勘一郎の病気が悪化したのだ。それと同時に、加平も二人の居場所を特定し、部下と共に家にやって来た。

 

『ようやく見つけたと思ったら、この様だ。私の下で大人しくしていれば、病が悪化することはなかった。全て貴様のせいだ』

 

激怒した加平は勘一郎を屋敷に連れ戻し、登古を飯田屋から追放した。

追放された登古は、勘一郎が死ぬ最後の瞬間まで彼の姿を見ることはなかった。

それから少し経ったある日、登古から一人の赤ん坊が産まれた。彼女は己の子を勘四郎と名付け、死んだ勘一郎の分まで勘四郎を立派な子に育てようと決心した。

だが、程なくして勘四郎の噂を聞きつけた加平が、勘四郎を跡取りとして飯田屋に連れていこうとした。

勘一郎を失い、子である勘四郎をも失うことを恐れた登古は、勘四郎を連れて、住んでいた家を出た。そんな二人を飯田屋の者達が毎晩追いかけていた。

追手の手が日に日に厳しくなっていく中、登古はある日、複数の悪魔が住んでいる駒王町という町とその町を治めているリアスという悪魔の存在について聞いた。

登古は同じ悪魔であるリアスに会って、自分と勘四郎を飯田屋から守ってもらおうと思い、駒王町にやって来た。だが、追手もまた、駒王町まで追いかけてきた。

追手に追われてた登古は、勘四郎をたまたま近くにあった建物、駒王学園の旧校舎の傍に勘四郎を置くと、自分は囮となって追手の目を引き、追手を撒いた後で勘四郎を迎えに行こうと思っていた。

そして、その勘四郎を陸兎が見つけて今に至る。

 

「貴方たちには、すまないことをしたと思っています。私の勝手な都合で、こんな事に巻き込んでしまって」

 

「気にしないでください登古さん。それに、この事は僕たちにも関係はあります」

 

木場の言葉に、きょとんとする登古。

その隣で小猫が説明する。

 

「私たちは、貴方が探していたリアス先輩の眷属です。ここに来たのも、リアス先輩のご命令があったからです」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「はい。ですから、まずはここを出て、これからの事はリアス先輩に相談しましょう。大丈夫です。あの人なら、きっと貴方たちのことを何とかしてくれるはずです」

 

そう言って、小さく微笑む小猫を見て、登古は希望に満ちた表情を浮かべた。

 

「それにしても、あの爺さん。予想以上のゲス野郎だな」

 

「ゲスはその女だ」

 

一誠が呟いた途端、前の方から声が聞こえてきた。

正面を見ると、加平が先程よりも多い数の黒服たちを引き連れて、通路の奥に立っていた。

 

「そいつさえいなければ、飯田屋は安泰だった。勘一郎に飯田屋を継がせて、私の生涯の仕事は完遂するはずだった。それを、貴様のような薄汚い悪魔に壊された!私がどんな思いで、この飯田屋を守ってきたか分かるか!?泥水を啜り、汚い事にも手を染め、良心すらも捨ててここを守ってきた私の気持ちが分かるか!?」

 

「勘一郎様は貴方のそういうところを嫌っていました!何故こうも飯田屋に執着するのですか!?」

 

「ふん!女、子供には分かるまい!」

 

「分かりたくねぇな。そんな気持ちなんて」

 

「何?」

 

加平の言葉に反論したのは一誠だった。

 

「自分自身の目的の為に他人の自由を奪って、その幸せを奪おうとするテメェの気持ちなんて分かりたくもねぇ!そんなテメェの歪んだ気持ちが分かるくらいなら、俺は子供でいた方が何倍もマシだ!」

 

しかし、一誠の怒りの籠った言葉にも、加平は鼻で笑った。

 

「そんなものは所詮世間を知らぬ者の戯言に過ぎないのだよ小僧。男は何か成すために、命すらも掛ける必要がある。成すものは人それぞれだが、私にとって、それは飯田屋なのだよ。飯田屋を守るためなら、私はいくらでも汚れてくれる!私にはその覚悟があるのだよ!」

 

そう言うと、加平は周りにいた黒服たちに「行け!」と指示する。黒服たちは一斉に襲い掛かった。

それに対して、一誠たちは応戦しようと戦闘態勢に入ったその時

 

ドーン!

 

『ぐぁーーー!!』

 

衝撃音と共に黒服たちが一斉に吹き飛ばされて地面に倒れた。

衝撃が煙となって、辺りを曇らせていく中、煙の中から人の声が聞こえてきた。

 

「すみませーん、社長室はここですかー?」

 

煙の中から聞き覚えのある声が聞こえ、一誠たち悪魔組は目を丸くした。

やがて煙が晴れ、そこから現れたのは・・・

 

「アッポー」

 

「ナポー」

 

りんごを片手に持った陸兎と勘四郎であった。

 

「なんだ貴様は!?」

 

「なんだチミはってか?そうです、私が子守狼です」

 

何者かと問い掛ける加平に、陸兎は某変なおじさん風に言った。

そんな彼に向かって、今度は一誠が問う。

 

「八神!なんでここに!?」

 

「どしたイッセー?とうとう部長に愛想つかれて、ここに就職したのか?まぁ、お前のことなんざどうでもいいから、とりあえず今の状況を30字で説明しろ」

 

「いきなり出てきて、とんでもないこと言いやがったな!?もし、部長に愛想つかれたら、俺はガチで死ねるぞ。とりあえず30字は無理だから、なるべく簡潔に説明すると・・・」

 

一誠は今までに聞いてきたことや見てきたこと全てを陸兎に話した。

説明を聞き終えた陸兎は、めんどくさそうな顔をしながら加平を見た。

 

「おいおい、せっかくガキ返そうと思って、わざわざ足を運んだってのに、どうやら無駄足だったみてぇだな」

 

「無駄足ではない。その子は私の孫だ。飯田屋の大事な跡取りだ。こちらに渡せ」

 

「俺はこいつから解放されんなら、ジジイだろうが母ちゃんだろうがどっちでもいいけどな。お前はどうなんだ?」

 

「マウ」

 

勘四郎の意志を聞いた陸兎は、「そうかい」と頷くと、登古に勘四郎を渡した。

 

「悪ぃな爺さん。ジジイの汚ねぇ乳を吸うくらいなら、母ちゃんの貧相な乳しゃぶってた方がマシだってよ」

 

「やめてくれません!その嫌らしい表現、やめてくれません!」

 

陸兎が発した嫌らしい表現に顔を赤らめる登古。

一方、加平はまだ諦める様子はなかった。

 

「ふん!逃げ切れると思うなよ。こちらには、まだ切り札が残っている」

 

加平がそう言った途端、一誠たちの後ろの方から足音が聞こえ、後ろに振り向くと、胃蔵がこちらに向かって歩いてきた。

 

「盲目の身でありながらも、数多くの異形を一撃で葬ってきた居合いの達人。その傭兵の名は岡部胃蔵。『異形斬りの胃蔵』の異名を持つ男だ」

 

「やぁ、また会えると思っていたよ。今度は両腕が使えるみたいだねぇ」

 

そう言いながら、嬉しそうに笑う胃蔵。

一方の陸兎は、何処か納得したかのような顔で口を開いた。

 

「なるほどな。どっかで見たことある面だと思ったら・・・テメェ、退魔師の傭兵『異形斬りの胃蔵』だな」

 

「ほう、この俺も有名になったモンだねぇ」

 

「『神速』で相手の懐に入り、相手が気づいた頃には、既にその首を斬り取っている居合いの達人。そんな傭兵が、こんな大企業の社長さんに雇われてたとはなぁ」

 

「俺は傭兵なんでねぇ。それ相応の報酬さえ払えば、いくらでも斬ってあげるよ。例え獲物が・・・同じ人間であってもねぇ!」

 

そう言った直後、胃蔵は『神速』で陸兎に急接近した。

それに対して、陸兎は咄嗟に『洞爺刀』を振ったが、胃蔵が陸兎の後ろまで移動した瞬間、陸兎の肩から血が飛び散った。

 

「八神!」

 

斬られた陸兎の下に、一誠と木場が駆け寄る。

更に、あの一瞬で起きた出来事はそれだけではなかった。

 

「勘四郎が!?」

 

「いけないねぇお母さん。赤ん坊はしっかり抱いておかないと」

 

登古の腕に抱いていた勘四郎が消え、胃蔵が口を開いた頃には、胃蔵の刀に吊るされている勘四郎の姿が見えた。

胃蔵はあの一瞬で陸兎の肩を斬ったと同時に勘四郎を奪ったのだ。

胃蔵から勘四郎を渡された加平は、上機嫌に喋る。

 

「よくやった胃蔵。後はゆっくりと高みの見物と――」

 

「悪いねぇ社長さん。俺もあの男を相手するのに手一杯みたいだ。さっさとガキを連れて逃げな」

 

そう言って、膝を付きながら額を押さえている胃蔵の頭からは血が流れていた。

先程の一瞬、陸兎はただ『洞爺刀』を振ったのではなく、その一瞬の間に胃蔵の額を斬ったのだ。

あまり思しくない現状に、加平は顔を険しくさせていると、腕の中にいる勘四郎が突如暴れ出した。

 

「こ、コラッ!暴れるな!どうしたと言うんだ!?」

 

慌てて勘四郎をあやすも、勘四郎が止まる様子はない。

 

「おいおい、随分嫌われてんなぁ」

 

その様子を見ていた陸兎が、加平に向かってそう言った。

 

「俺と一緒にいた時は、初デートで緊張している中学男子並みに大人しかったってぇのによぉ。孫ってのは普通、祖父ちゃんの事を好きなはずなんだけどな・・・祖父ちゃんの資格ねぇんじゃねぇのかあんた?」

 

「う、うるさい!胃蔵、さっさと止めを刺せ!」

 

陸兎に向かってそう言うと、加平は胃蔵に止めを刺すよう促し、勘四郎を抱えながら逃走した。

 

「イッセー、木場、小猫。先に行け」

 

陸兎は後ろにいる一誠、木場、小猫の三人に加平を追うよう言った。

それに対して、一誠が待ったをかける。

 

「待ってくれ!あいつに一人で相手するなんて、いくら何でも無茶だ!ここは皆で、あいつを倒してから――」

 

「もしこいつが、本物の『異形斬りの胃蔵』だとしたら、こいつは中級悪魔クラスを討伐できる程の実力者だ。はっきり言うが、今のお前らが戦っても足手纏いになるだけだ。俺にできることは俺がする。だから、お前らはお前らのできることをしろ」

 

「でも!」

 

未だ引く様子のない一誠に、陸兎は三人に向かって笑顔で言った。

 

「後で・・・必ず行くからよ」

 

陸兎の思いを受け取った一誠たちは決心し、登古と共に加平を追った。

一人残った陸兎は、正面から胃蔵を見据える。

 

「いいのかねぇ。侍が果たせぬ約束をするもんじゃないよ」

 

「心配いらねぇよ。こう見えて、俺はデートの待ち合わせ場所に30分前には絶対に行くくらい律儀なんでね」

 

「ククク・・・やっぱり、面白い男だねぇ」

 

嬉しそうに笑う胃蔵に対して、陸兎は一つ胃蔵に問い掛ける。

 

「一つ聞いていいか?お前、なんで傭兵になったんだ?退魔師で食う気なら、地方の陰陽師局で働いた方が給料もいいだろ」

 

「・・・俺は若い頃に目が逝っちまってねぇ」

 

胃蔵は語る。かつて目を失った彼は、その損失を他の器官で補っていたことを。目が無くなったのなら、他の器官でその穴を埋めればいいと。

 

「おかげで今じゃ、鼻も耳も人一倍勘が鋭くなってねぇ。前よりも色んな物が見えるようになった。ところで、あんたは見たことあるかい?命が断たれた瞬間に出てくる'あれ'を」

 

そう言いながら、楽しそうに語る胃蔵の顔は狂気に満ちていた。

 

「'あれ'は魂って奴かねぇ?殺った瞬間にぼわぁと出てくるんだけど、これが綺麗な色をしててねぇ。色んな命ごとに、'あれ'の色が違うから、何回見ても飽きないんだよ。だけど、今の現代社会で無差別に人斬りなんてしてたら、退魔師の連中にすぐ捕まっちまうからねぇ。かと言って、俺みたいな命を奪うのを楽しむ外道を頭がお堅い連中が雇うはずがなかった」

 

「それで傭兵になったって訳か。確かに退魔師って職は、傭兵だろうが依頼さえ受けりゃ、余程の事がない限り、命を奪おうとも法で罰せられる事はないからな」

 

納得した陸兎は、目つきを鋭くさせ、体中に闘気を湧き上がらせながら胃蔵に向かって言った。

 

「俺は写輪眼や皇帝の眼(エンペラー・アイ)などの特別な眼は持ってねぇが、そんなもん無くても俺には見えるぜ。テメェの汚ねぇ魂の色がな。ウンコみてぇな汚ねぇ色しやがって。テメェみてぇに命を奪って喜ぶ奴なんざ、他人の痛みも苦しみも何一つ見ようとしねぇクソ野郎だけだ。テメェの魂は何も見えちゃいねぇよ」

 

そう言いながら、陸兎は『洞爺刀』の刃先を胃蔵に向ける。

 

「来いよ、テメェの汚ねぇ魂ごとその頭叩き割ってやる――っ!?」

 

闘気を剥き出しに構えていた陸兎だったが、胃蔵はその瞬間で生まれた隙を見逃さず、『神速』で陸兎に斬りかかった。

移動を終え、後ろに振り向いた彼の見えない目に映った光景は、右腕を斬り落とされ、そこから血を流しながら倒れている陸兎の姿だった。

 

「来いよって言ったから来てやったけど、ちと早すぎたかねぇ。どうやら、見えてないのはあんたの方だったねぇ」

 

一仕事終えた胃蔵は、一服と言わんばかりに点鼻薬を鼻に入れようとした。

その時、点鼻薬を持つ彼の腕が突如誰かに掴まれた。

 

「どした?俺が斬られた幻覚でも見たのか?」

 

「!? 馬鹿な!?」

 

胃蔵は目の前に斬ったはずの男が立っていることに驚きつつも、再度刀を抜いたが、そこで彼は異変に気づいた。

 

「なっ!?刀身が折れてる!?」

 

「抜き身も見せねぇ『神速』の居合いが仇になったな」

 

胃蔵の持っている刀の刀身が折られていた。

胃蔵は陸兎を斬り損ねたのではなく、刀身が無かった為に斬れなかったのだ。

 

「(まさか、最初の一撃で既に俺の刀を!?しかし、霊力を纏った刀だぞ!それをどうやって・・・?)」

 

「どうやら、俺の気配は見えても、俺が持ってる誓約神器の波動は見えなかったみてぇだな」

 

最初の一太刀で陸兎は胃蔵の額だけでなく、その刀さえも折っていたのである。陸兎の闘気に応じて、身に纏う霊力を高めた『洞爺刀』の力によって。

 

「!?(誓約神器だと!?馬鹿な!それだけの大きい色、俺が気づかないはずが――)」

 

しかし、胃蔵は更に疑問符を浮かべた。陸兎が誓約神器を持っているのだとしたら、その強力な色を自分が見逃すはずがない。

胃蔵は再度正面を見るが、見えない目に映っている物は、目の前にいる男の凄まじい闘気のみだ。

 

「(いや、違う!あの男の闘気が濃すぎたんだ!誓約神器の激しい色すらも凌駕する程に)」

 

胃蔵は誓約神器が放つ色を感じ取れなかったわけではない。それ以上の凄まじい色を持つ陸兎の闘気が誓約神器の色をも覆したのだ。

 

「言っただろ。お前の魂は何も見えちゃいねぇって。もうちょっと目ん玉見開いて生きろ!このタコ助!」

 

呆然とする胃蔵の隙を付いて、陸兎の一撃が胃蔵の脳天にヒットした。

陸兎は床に倒れた胃蔵を一瞥すると、一誠たちの後を追うのであった。

 

 

 

 

一方、加平を追いかけてた一誠たちは、飯田屋の屋上で遂に加平を追い詰めた。

 

「はぁ・・・!はぁ・・・!勘四郎は渡さんぞ!飯田屋もだ!」

 

「飯田屋なんて好きにしてください!でも、その子は私の子です!」

 

「忌々しい女だ。私から勘一郎を奪って、更には勘四郎まで奪う気か!」

 

追い詰められながらも、加平は正面に立っている登古に向かって叫ぶ。

その時、加平の腕の中にいた勘四郎が再び暴れ出した。

加平は慌てて勘四郎をあやすも、勘四郎が止まる様子はない。

その様子を見て、登古は真剣な表情で言った。

 

「勘四郎にも聞こえているんです。貴方の言っている事が」

 

登古の言葉に加平は一瞬「うっ!」と顔を歪ませるも、すぐに言い返す。

 

「馬鹿な!こんな赤ん坊に分かるはずが――」

 

「分かるんですよ!そして、覚えているんです。どんなに幼くても、優しく抱かれていた時の事は・・・」

 

そう言うと、登古は前に勘一郎が言っていた事を語る。

そこには、たくさんの綺麗な花と祭壇、綺麗な女性の写真が置いてあった。

そして、幼き自分を腕に抱きながら父は亡き妻の写真の前でこう言っていた。

 

『大丈夫。お前がいなくてもやっていけるさ。飯も私が作るし、おむつの取り換えもだ。だから、安心して眠ってくれ。勘一郎と飯田屋は私が必ず守ってみせる』

 

その言葉は加平にとっては何気ない一言だったかもしれない。

だけど、幼い勘一郎にとって、その言葉は死ぬまで忘れることのなかった大切な言葉だった。

 

「・・・・・・」

 

「こんなことをして、勘一郎様や奥様が喜ぶとでも?」

 

登古に諭された加平は、先程までの憎悪の表情から一転して、悲しげな顔で俯いた。

 

「・・・勘一郎は産まれた時から病弱だった。どれだけ死力を尽くしても、人の1/3しか生きられないと医者に言われてな。だが、妻は1/3しか生きられないのなら、その3倍笑えるように生きていけばいいと・・・桜の花のように、短くとも美しく鮮やかにその花を咲かせてあげようと言っていた。だが、私は妻より利口ではなかった。勘一郎を檻に入れたかのように育てた。金を手に入れる為に汚い事にも染めた。日本陰陽師協会との繋がりも得た・・・どんな形であろうと、生きていて欲しかった。妻にも、勘一郎にも・・・結局、皆無くしてしまった。約束も、何もかもだ・・・」

 

そう言って、加平はその場にしゃがみ込んだ。

そこに映っていたのは、大企業として成功した社長の姿でなく、その代償に、大切な者達を失ってしまった一人の老人の姿だった。

 

「・・・っ!?」

 

ふと自身の頬を触れられ、驚きながら下を見下ろすと、勘四郎が加平の頬に触れていた。

その様子を見た登古は、優しく微笑みながら加平に近づく。

 

「何も無くしてなんかないじゃないですか。勘四郎は私の子供です。でも、貴方の孫でもあるんですよ。だから、今度家に来る時は、飯田屋の社長としてでなく、孫想いのおじいちゃんとして来てくださいね。お茶くらい出しますから」

 

「うぅ・・・うぅ・・・!」

 

加平は勘四郎を抱きながら、その場で泣いた。

愛すべき家族を失ったと思っていた男にも、まだ自分の事を愛してくれている家族は残っていた。

 

「やれやれ、これで一件落着だな」

 

その様子を、一誠たちは後ろの方で見ながら安堵するのであった。

 

 

 

 

辺りがすっかり暗くなった頃、陸兎たちは飯田屋を出て、勘四郎と登古を連れて駒王町の公園にやって来た。

しばらくの間、公園で話していると、魔法陣が出現し、リアスが現れた。

 

「登古さん、貴方と勘四郎くんの事なんだけど、この町で住めるよう手配しておいたわ」

 

「本当ですか!?」

 

「えぇ。仕事の方も、いい場所が見つかり次第、貴方たちの所に連絡するわ」

 

リアスの言葉に驚きながらも、登古はリアスに頭を下げた。

 

「皆さん、この度は誠にありがとうございました。この御恩は一生忘れません」

 

勘四郎を守ってくれた陸兎たち、自分たちの住処を用意してくれたリアスに礼を言う登古。それに対して、リアス達は気にするなといった感じで微笑んだ。

そこから少し離れた所で、陸兎と勘四郎はベンチに座って約束の一杯を飲んでいた。

 

「「プハッ!」」

 

陸兎はいちご牛乳、勘四郎はミルクを一気に飲み干して息をついた。

 

「どうだ、うめぇか?」

 

「アウ」

 

「何?酒の方がいい?馬鹿言ってんじゃねぇよ。酒は色んな所に毛が生えてから飲めるんだ・・・そうだな」

 

陸兎はベンチから立ち上がり、正面から勘四郎を見据える。

 

「いつかお前が大人になって、その時にまだ俺のことを覚えていたら、また会いに来い。そん時は酒でも何でも、いくらでも付き合ってやるよ」

 

「ヤウ?」

 

「おう、こいつは約束だ。侍は果たせない約束はしねぇんだよ」

 

そう言いながら、陸兎は勘四郎の頭を撫でた。

 

「精々いっぱい食って、いっぱい寝て、さっさと大人になるこった・・・じゃあな、いつでも待ってるぜ」

 

そう言い残して陸兎が去った途端、勘四郎は大声で泣き出した。

勘四郎の泣き声を聞き、登古が慌てて駆け寄る。「普段は滅多に泣かないのに」と不思議がりながら登古は勘四郎をあやした。

勘四郎の下を去った陸兎は、ふと花びらが散りゆく桜の木を見上げる。

 

「春もそろそろ終わりか・・・」

 

その呟きは、少し暖かすぎる春風と共に消えていった。




次回はオリキャラ達の紹介となります。
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