次の日、陸兎は剣夜に呼び出されて、駒王学園の屋上にやって来た。
「そんで、ここに呼び出した用件はなんだ?まぁ、
「・・・昨日、日本陰陽師協会本部に教会の使者が訪ねて来たんだ」
昨日、陸兎たちがはぐれ悪魔の討伐に向かっている少し前に、東京にある日本陰陽師協会の本部に教会の使者二人が訪ねて来た。
彼女たちが言うには、教会が保管している聖剣エクスカリバーが盗まれ、盗んだ犯人である堕天使の幹部がこの日本に滞在しているのだと言う。
彼女たちはそれの奪還、或いは破壊を目的として日本に来訪し、教会と堕天使のいざこざに余計な混乱を生むのを防ぐべく、退魔師並びに各地方の陰陽師局の介入をしない事を交渉しに来た。
陰陽師協会の面々はその交渉に頭を悩ませていたが、一般人を巻き込まない事とエクスカリバーの回収が済めば即座に撤退することを条件に今回の件に干渉しないことを約束した。
「事情は粗方分かった。んで、本題は?」
「聞いてなかったのかい?向こうは余計な混乱を防ぐために、僕らに一切の介入をしないこと約束――」
「そんな口約束、上の連中があっさり守るわけねぇだろ。どうせ、裏でそのエクスカリバーとやらを破壊して、そいつを奪った堕天使を潰して来いって言われてんだろ?」
「・・・そこまで分かっているのなら話は早い。十天師頭目として命ずる。聖剣エクスカリバーを奪取、或いは破壊し、この町の平和を脅かす堕天使を排除せよ」
「りょーかい。けどよ、奪った奴を除霊するのは構わねぇが、聖剣は奪取した後どうすんだ?それと、もし教会の人間と鉢合わせるようなことになったら?」
「なるべく衝突しないよう穏便に対応してくれ。聖剣の方も心配はいらないよ。上はこっちでエクスカリバーを回収したら、ちゃんと返すつもりだから・・・返すまでの間、ちょっと調べるつもりでもいるみたいだけどね」
「下心満載だなおい。まっ、俺らには関係のないことだな」
そう言うと、陸兎は屋上から出ようとしたが、扉を開けようとした瞬間、剣夜が再び話しかけてきた。
「それと、さっき言った教会の使者なんだけど、今朝ソーナの所に来たみたいでね。明日の放課後、オカルト研究部の方にもお邪魔するみたいだから。その場にいてもいいけど、なるべく変な騒ぎは起こさないように」
「それって絶対面倒な事が起こる前振りじゃん」
げぇと顔をしかめながらも、陸兎は屋上から出ていった。
一人残った剣夜は、変わらぬ駒王町の景色を見つめながら呟く。
「エクスカリバー、堕天使幹部、赤龍帝・・・そして、先日の情報処理班の報告で出された日本に滞在していると思われる白き龍、白龍皇の存在。これらの強大な存在が何の因果かこの町に集おうとしている・・・これもまた、神が定めた運命と言うべきか・・・それとも、起こるべくして起きている必然か・・・」
とりあえず、自分たちのやるべき事は一つ。これらの存在から人々を守り、日本の平和を脅かす存在を排除し、その秩序を守ること。そう決意を改めながら、剣夜は昼休みが終わるまで駒王町の街並みを眺めていた。
そして次の日、剣夜の言う通り、教会の使者がオカルト研究部の部室にやって来た。
「会談を受けて頂き感謝する。私はゼノヴィア」
「紫藤イリナよ」
ソファーに座りながら、青い髪に緑のメッシュを入れている少女ゼノヴィアと、栗色の髪をツインテールにしている少女イリナは自分たちの名前を名乗った。
「神の信徒が悪魔に会いたいだなんて、どう言うことかしら?」
二人の向かい側にあるソファーに座っているリアスは、挑発的に問いかける。
その後ろで、オカルト研究部の面々は立ったまま見守っているが、悪魔にとって弱点とも言える聖剣が目の前にあるため、ただならぬ緊張感に包まれている。
特に木場はゼノヴィア達を憎悪の視線でジーと睨んでいる。もし、何かあれば即座に斬りかかりそうな雰囲気だった。
リアスの問いに答えたのはイリナだった。
「元々行方不明だった一本を除く六本のエクスカリバーは、教会の三つの派閥が保管していましたが、そのうちの三本が堕天使に奪われました」
「奪われた!?」
イリナの説明を聞き、一誠が驚きの声を上げる。他の面々も声は上げなかったが、陸兎以外は驚いていた。
そんな中、ゼノヴィアは布に巻かれた聖剣を持ち、リアス達に見せる。
「私たちが持っているのは、残ったエクスカリバーの内、『
「私の方は『
イリナもまた、腕に巻かれている紐のような聖剣を見せる。
「それで、私たちにどうしてほしいの?」
「今回の件は我々と堕天使の問題だ。この町に巣食う悪魔に要らぬ介入をされると面倒なのだ」
「随分な物言いね。私たちが堕天使と組んで、聖剣をどうにかするとでも?」
「悪魔にとって聖剣は忌むべきものだ。堕天使共と利害が一致するじゃないか」
ゼノヴィアの物言いに、リアスは瞳を赤く染め上げる。彼女がキレかかっていることが、この場にいる誰もが感じた。
ゼノヴィアは特に気にすることなく言葉を続ける。
「もしそうなら、我々は貴方を完全に消滅させる。例え、魔王の妹だろうとな」
「そこまで私を知っているのなら言わせてもらうわ。私が堕天使と手を組むことなんて無いわ。グレモリーの名にかけて、魔王の顔に泥を塗るような真似はしない」
真剣な表情でリアスが言い切ると、ゼノヴィアは「フッ」と笑った。
「それが聞けただけで充分だ。今のは本部の意向を伝えただけでね。魔王の妹が、そこまで馬鹿だとは思っていないさ」
「なら、私が神側。即ち、貴方たちに協力しないことは承知しているわけね」
「無論、この町で起こる事に一切の不介入を約束してくれれば良い」
「・・・了解したわ」
リアスの了承を得ると、ゼノヴィアとイリナは立ち上がった。
「時間を取らせてすまなかった」
「せっかくだし、お茶でもどう?」
「いや、悪魔と馴れ合うわけにはいかない」
リアスの誘いをゼノヴィアは断ると、イリナと共に部室を出ようする。
しかし、ゼノヴィアの目線が突如アーシアに向けられた。
「兵藤一誠の家を訪ねた時、もしやと思ったが・・・アーシア・アルジェントか?」
「え?あ、はい」
突然名を呼ばれて、アーシアは少し驚きながら返事する。
「・・・まさかこんな地で魔女に会おうとはな」
ゼノヴィアから吐かれた魔女と言う言葉に、アーシアはビクッと体を震わせた。
イリナもアーシアの存在に気づき、彼女を見る。
「あぁ、貴方が魔女になったって言う元聖女さん?堕天使や悪魔をも癒す能力を持っていた為に、追放されたって聞いてたけど、悪魔になっていたとはね~」
「あ、あの・・・私は・・・」
ずかずかと言い寄られ、アーシアはどう対応すればいいのか分からず、戸惑っている。
そんなアーシアに、ゼノヴィアは軽蔑の視線を向ける。
「しかし、かつて聖女と呼ばれていた者が悪魔とはな。堕ちれば堕ちるものだな」
「!? テメェ!」
「ダメです、イッセー先輩」
ゼノヴィアの物言いに、一誠が突っかかろうとするが、小猫に止められる。ここで教会と揉め事を起こすわけにはいかないことは、一誠でも分かっている。
そんな中、ゼノヴィアはアーシアに問いかける。
「まだ我らの神を信じているのか?」
「ゼノヴィア。彼女は悪魔になったのよ。悪魔になった彼女が主を信仰してるはずないでしょう?」
「いや、背信行為をする輩でも、罪の意識を感じながら信仰心を忘れない者がいる。その子には、そういう匂いが感じられる」
「へーそうなの?ねぇ、アーシアさんは今も主を信じているの?」
イリナの問いに、アーシアは悲しそうな顔で答える。
「・・・捨てきれないだけです。ずっと、信じてきたから・・・」
だが、アーシアの返答を聞いたゼノヴィアは、布に包まれている聖剣を彼女に向けた。
「ならば、今すぐ私たちに斬られるといい。君が罪深くとも信仰心を忘れていないのなら、我らの神も救いの手を差し伸べてくれるはずだ。せめてもの情けだ。私の手で断罪してやろう」
下僕が斬られそうになり、流石に黙って見ているわけにはいかないと、リアスは席を立ち、ゼノヴィアに向けて軽くオーラを出しながら言う。
「そこまでよ。これ以上、私の下僕を貶めるのは止めてくれるかしら?」
「貶める?これは信徒として当然の情けに過ぎないがな」
「っ!?」
我慢の限界だった。自身を制止していた小猫の手を振りほどき、一誠はアーシアを守るようにゼノヴィアの前に立った。
「ふざけるな。アーシアはな・・・!ずっと一人ぼっちだったんだぞ!」
「聖女は神からの愛のみで生きていける。それなのに、愛情や友情を求めるなど、元よりアーシア・アルジェントに聖女の資格なんて無かったのだ」
「何が神からの愛だ!アーシアの優しさを理解できない奴らなんて皆馬鹿野郎だ!」
「・・・君はアーシア・アルジェントのなんだ?」
視線を鋭くさせながら問いかけるゼノヴィアに、一誠は正面から言い切った。
「家族だ!仲間だ!友達だ!お前らがアーシアに手を出すのなら、俺はお前ら全員敵に回してでも戦う!」
「・・・その発言は我々教会への宣戦布告か?」
「イッセーお止めに――」
「よく言ったイッセー」
一誠を制止しようとしたリアスの言葉を遮ったのは陸兎だった。
彼は豪快な笑みを浮かべながら喋り出す。
「やっぱ、オメェはこうじゃないとな。アーシアも神ってモンを便利な道具だと思ってる馬鹿の発言なんざ気にすることねぇぞ」
陸兎の発言にゼノヴィアは一瞬目を開き、すぐさま殺気を含んだ視線を陸兎に向けた。
「貴様・・・今なんと言った?我らが主を道具だと?」
「そりゃそうだろ。さっきからテメェはアーシアを斬るために神って言葉を使って、殺しを正当化しようとしてんじゃねぇか。お前らの慕っている神は、よっぽどお前らにとって都合のいい存在なんだな」
「なんですって!?」
次々と繰り出される発言に、ゼノヴィアはそうだが、イリナも怒りを露わにする。
特にゼノヴィアは今にでも陸兎に飛びかからん顔をしながらも、何とか感情を抑えているといった感じだ。
「我らの神を愚弄する気か・・・!主の尊き教えを知らない貴様が・・・!」
「知らねぇな。悪行を正当化するために使われる神なんざ。テメェの脳みその奥まで神って言葉だけでできてる連中が信仰してんだ。祟られている神もいい迷惑だろうな」
「貴様!!」
等々激情したゼノヴィアは、聖剣を陸兎に向けた。
「悪魔に取りつかれた異端者め!主を冒涜したその発言!万死に値する!」
「やるか青髪?」
聖剣を構えたゼノヴィアに対して、陸兎もまた『洞爺刀』を手元に出現させ、目つきを鋭くさせる。
一触即発の空気になったその時、新たに介入する者が現れた。
「丁度いい。なら、僕が相手になろう」
二人の会話に介入したのは、今までのやり取りを壁に背中を預けながら聞いていた木場だった。