今回からあの堕天使総督が本格的に登場します。
公開授業の翌日、オカルト研究部は放課後になると、旧校舎一階にある開かずの教室と言われていた部屋の前に立っていた。
「んで、この中にいんのか?引きニートが」
「その表現やめなさい。これでも、きちんと悪魔の仕事はしているわよ」
『KEEP OUT』と書かれた黄色いテープが幾重に張られている扉を見つめながら呟いた陸兎に、リアスが注意した。
「部長、昨日サーゼクス様が言ってた『
「そうよ。深夜には封印の術が解けるから、旧校舎内限定で部屋に出ていいことになってるの。でも、中にいる子がそれを拒否しているわ」
一誠の問いに、深刻な顔で答えるリアス。
事の発端は、昨日の公開授業が終わった夜、一誠の家にリアスの父やサーゼクスが訪れた際に、サーゼクスが発した一言から始まった。
なんでも、封印してたもう一人の『僧侶』を解放するとのことだ。
その『僧侶』は強大な力を持っているが故に危険視されており、今まではリアスの力が足りず、サーゼクスの判断で封印されていたが、ライザーやコカビエルとの一戦、一誠やアーシア、ゼノヴィアといった新しい眷属も増えたことで、これまたサーゼクスの判断で解放することを許可された。
「要するに、引きこもりなんですか?」
「でも、この子が一番の稼ぎ頭なんですのよ」
「マジですか!?」
呆れたように問いかけた一誠だったが、朱乃の言葉を聞いた途端に驚いた。
「パソコンを介して、特殊な契約を人間と執り行ってるんだ」
「そりゃ、随分と現代チックなこった。本とかに出てくる邪悪な存在がやる事とは思えねぇな」
木場の説明を聞いた陸兎が呟く。
そんな彼の呟きに補足するかのように、リアスが口を開いた。
「そうでもしないと契約が取れないのよ。基本的に人間は悪魔に対して良い感情を持っていない人が多いからね。そういう人の為に、こうした形で関係を保つようにしてるわ。ずっと古いやり方に拘ってたら、今の人間社会の時代に取り残されてしまうもの」
「へぇー、悪魔にもそう言う考えの奴がいるんだな」
リアスの説明を聞いて、少しだけ感心する陸兎。
悪魔は歴史や古い文化を重視してるイメージがあったが、今の悪魔は少し違うようだ。
彼がまだ退魔師の卵だった時に教わった悪魔は、プライドが高く、人間を見下しており、捕まえては自分の欲の為に利用する邪悪な存在と教えられたが、その悪魔がこうして見下しているはずの人間の技術を使っているのを見ると、とてもではないがそう思えなくなる。
「(まぁ、部長達が例外なだけであって、それ以外の悪魔は基本的に
無論、全ての悪魔がリアスやサーゼクス達と同じ考えではないことを陸兎は忘れない。彼はあくまで退魔師であり、人々の平穏な暮らしを脅かす異形を滅ぼす存在なのだから。
そんなことを思っていると、リアスが封印を解いていた。
「封印が解けます」
小猫の呟きと共に、赤い魔法陣が扉に貼られてた黄色テープを消滅させた。
「扉を開けるわ」
封印が解けた扉をリアスが開けようとした次の瞬間
「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」
「な、何だぁ!?」
とんでもない声量の絶叫が中から発せられてきた。突然の絶叫に一誠が困惑する。
リアスは部屋の中に入り、目の前に置いてある黒い棺に話しかけた。
「ごきげんよう、元気そうで良かったわ」
「な、何事なんですかぁーーー!?」
棺の中から男なのか女なのか分からない中性的な声がする。この段階では、まだ性別は判断できない。
朱乃が棺に近づきながら声を掛ける。
「封印が解けたのですよ。さぁ、私たちと一緒に出ましょう?」
「嫌ですぅ!ここがいいですぅ!お外怖いーーー!!」
優しい声で言いながら、朱乃は棺の蓋を開けると、駒王学園の女子の制服を着た人物がこちらに涙目を向けながら叫んだ。
「おぉ!女の子!しかも、アーシアに続く金髪美少女!」
その人物を見た一誠が興奮気味に声を上げる。
「フッ」
「何だよ木場!?」
何がおかしかったのか、一誠の反応を見た木場が小さく笑い、それに対して一誠が文句を言う。
すると、リアスから衝撃の事実が語られる。
「イッセー、この子は男の子よ」
「え?」
リアスから語られた衝撃の事実に、一誠は呆けた声を出しながら固まってしまった。
「ぶ、部長・・・今、何と?」
「見た目は女の子だけれど、この子は紛れもなく男の子」
「ウフフ、女装趣味があるのですよ」
「ええええええ!!?」
叫ぶ一誠をリアスは気にせず、涙目になっているギャスパーを優しく抱きしめながら紹介する。
「この子はギャスパー・ヴラディ。私の眷族でもう一人の『僧侶』。一応駒王学園の一年生で、転生前は人間とヴァンパイアのハーフよ」
「ヴァ、ヴァンパイア・・・」
「吸血鬼って・・・こいつが!?」
ギャスパーの紹介を聞いて、アーシアとイッセーが意外そうな顔をする。言われてみれば、彼の口元にヴァンパイアの象徴とされている鋭い牙がある。
「こんな残酷な話があっていいものかぁ!?見た目は完全に美少女な姿なのにぃ!」
しかし、一誠にとって、そんなことはどうでもよく、それ以上にギャスパーが男であることにショックを受けていた。
「でも、よく似合ってますよ?」
「その分ショックがデカいんだって!つか、引き篭もってる癖に、その女装はいったい誰に見せるんだよ!?」
アーシアの言葉に強く返しながら、一誠はギャスパーに女装してる理由を問う。
「だ、だって、この格好の方が可愛いもん・・・」
「'もん'とか言うなぁ!一瞬だが、アーシアとお前のダブル金髪美少女『僧侶』を夢見たんだぞ!」
「人の夢と書いて儚い」
「童貞の夢なんてそんなモンだろ」
「そこ!シャレにならないから止めろ!」
横で呟いた小猫と陸兎に、ビシッと指を指しながら叫ぶ一誠。
「ギャスパー、お願いだから外に出ましょう?」
「嫌ですぅーーー!」
「ほら、部長が言ってるんだからさ――」
「ヒィーーー!」
リアスに言われても外に出ることを拒否するギャスパーに、一誠が若干苛立ちながら彼の腕を掴もうとした瞬間、ギャスパーの悲鳴と同時に空間が揺らいだ。
その瞬間、一誠やリアス達は石像のように動かなくなった。まるで、ギャスパー以外の時間が止まっているかのようだ。
「お?なんか、急に静かになったな」
「ふえ?」
しかし、陸兎だけは普通に動いており、真顔で周囲を見渡しながら呟いた。
それを見たギャスパーが驚愕の表情となる。
「な、なんで動けるんですか!?僕の力が発動してるはずなのに!」
「一瞬だが体に奇妙な感覚を感じたからな。咄嗟に霊力を体に纏って、そいつを防いだんだよ」
「そ、そうなんですか・・・初めて見ました。僕の力が発動しても動ける人・・・」
見ると、彼の周りに白いオーラのような纏っているのをギャスパーは感じた。
近づくと肌がピリピリするが、それ以上に自身の力が発動しても動ける存在にギャスパーは少しだけ安心を感じていた。何せ、これまで自身の神器が発動して、動けた者を見たことがなかったから。
そんな彼の心情を知らない陸兎は、力の正体について問う。
「そんで、見た感じ周りの奴らがポーズ画面のような状態になってるが、これはお前の力ってのが原因なのか?」
「はい、僕の神器の力なんです。僕の神器は『
「そりゃまた反則な神器なこった。イッセーが宿したら、100億パーセント覗きに使うだろうよ・・・待てよ、時間が止まっているということは・・・」
ギャスパーの説明を聞いた陸兎は、物凄く悪い顔を浮かべる。
しばらくして、神器の力が解けて、一誠たちが動けるようになった。
「あれ?八神、お前いつの間にこいつの隣に・・・」
『ブフッ』
一誠が呟いた途端、他の部員たちが彼の顔を見て笑い出した。
急に笑い出した部員たちを見て、困惑する一誠。
「え?どうしたんですか部長?皆も俺を見て笑って・・・」
「イッセー、鏡を見なさい」
リアスに言われて、一誠は部屋にある鏡を見る。
「な、なんじゃこりゃーーー!?」
鏡に写っていたのは、う○この形をした眼鏡とチョビ髭のラクガキが施された自身の顔だった。
「ガハハハハハハッ!」
いつの間にか顔にこんなラクガキをされている事に驚いていると、陸兎が腹を抱えて爆笑した。
一誠はすぐに彼が犯人だと察した。
「八神ぃ!テメェの仕業か!?」
「悪ぃな!最近、お前を弄るのが少なくなってる気がしてな。せっかく、お前らが動けない状況なんだから、普段できないボケをかましてやろうと思ってな。似合ってるぜ、う○こ眼鏡www」
「うるせぇ!そんなモンに気合い入れんでえぇわ!」
怒る一誠だったが、割り込むようにリアスが陸兎に問う。
「ちょっと待って。陸兎、もしかしてだけど、貴方ギャスパーの力が効いてなかったの?」
「あぁ、咄嗟に霊力を纏って防いだ」
「流石ね・・・最強の退魔師の名は伊達じゃないわね」
まだ見えぬ陸兎の力に戦慄するリアスだった。
その後、リアスと朱乃と木場の三人は、会談の打ち合わせのため席を外し、残りのメンバーは外でギャスパーの特訓をすることになった。
「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」
「ほら走れ!モタモタしてると、このデュランダルの餌食になるぞ!」
デュランダルを持ったゼノヴィアに追いかけられながら悲鳴を上げるギャスパー。
「吸血鬼狩りみたいだな」
「つか、最早イジメだろこれ?」
一誠と陸兎がそんな会話をしてると、ギャスパーが木に背中を付けながら座り込んだ。
「うぅ・・・どうして、こんなことをするんですか?」
「健全な精神は健全な肉体に宿る。まずは体力から鍛えるのが一番だ」
「ゼノヴィアの奴、随分と楽しそうだな」
「え、えぇ・・・あぁいうノリがお好きなみたいですね・・・」
楽しそうに笑みを浮かべるゼノヴィアを後ろで見ながら呟く一誠とアーシア。
「もうダメですぅ!一歩も動けません!」
「ギャー君。これを食べればすぐに元気になる」
ギブアップ宣言するギャスパーに、小猫が近づいた。その手にヴァンパイアが苦手とするニンニクを持ちながら。
「ニンニク嫌いーーー!」
「好き嫌いは駄目だよ、ギャー君」
当然ギャスパーはニンニクを持つ小猫から逃げ出し、小猫は手にニンニクを持ったままギャスパーを追いかける。
「小猫ちゃんもちょっと楽しそうですね」
「小猫ちゃんがこんなことをするなんて意外だな。いつも、八神に弄られてるからか?」
「おいおい、お前程弄ってるつもりはねぇよ」
「そう言われても嬉しくねぇよ・・・」
意外な行動をしてる小猫に、戸惑い気味のアーシアと一誠。
一誠はいつも陸兎に弄られている鬱憤晴らしのつもりだと考えていたが、当の本人は自分よりも弄っているつもりはないと言い、いつも弄り倒されている身としては、正直言われてもあまり嬉しくない発言にげんなりする一誠。
「おぉ、やってるな」
すると、匙がこちらにやって来た。
「お、文字じゃねぇか」
「だから、匙だ!漢字が二文字に増えてるぞ!」
相も変わらず名前を間違える陸兎に、自身の苗字の漢字が二文字になっていることも含めてツッコミを入れる匙。
一誠がここに来た理由を聞く。
「なんのようだ匙?」
「解禁された引き篭もり眷族がいると聞いて、ちょっと見にな・・・おぉ!金髪美少女かよ!」
「女装野郎だけどな」
「マジか・・・こんな残酷な話があっていいものか」
ギャスパーを見て興奮する匙だったが、男だと分かった途端、両手と両膝を地面に付けてショックを受けていた。一誠も気持ちは分かるぞ、と言わんばかりの顔で頷く。
すると、陸兎が首を横に動かしながら口を開いた。
「ところで・・・さっきから如何にも無職って感じがするおっさんがこっちを見てんだけど、お前らの知り合いか?」
「失礼だな。これでも、堕天使のトップなんだぜ俺は」
『えっ!?』
声がした方に振り向くと、浴衣を着た金髪の男がこちらに視線を向けながら立っていた。
その男は一誠に声を掛ける。
「よぉ、赤龍帝。この間以来だな」
「アザゼル・・・!」
一誠はこの男をよく知ってた。自分のお得意様であり、堕天使の総督だと、この間目の前で堂々と宣言してた。
他の面々も数日前にアザゼルの事を一誠から聞いており、それぞれの武器を手に持ちながら、アザゼルを囲むように立つ。
そんな彼らに、アザゼルを忠告する。
「やめとけ。お前らが束になったところで勝負にすらならねぇよ。まぁ、そこの十天師が相手なら、良い勝負ができるかもしれないな」
陸兎の方を指差しながら告げるアザゼルだが、一誠たちは武器を収める様子は見せない。尚、指を差された陸兎だけは、『洞爺刀』を出す様子も見せず、吞気な顔でアザゼルを見てた。
警戒しながら、一誠がアザゼルの目的を問う。
「何しに来たんだ・・・?」
「ちょっと散歩がてら見学に来たんだ。それと、聖魔剣使いとそこにいる十天師、『
「・・・木場ならここにはいない」
「そうか。まぁいい。本命はどちらかというと、お前さんだからな。
そう言うと、アザゼルは陸兎の方に視線を向ける。
対する陸兎は、少し顔を顰めながら喋る。
「とりあえず、
「そうか。じゃ、『
「好きにしろ。んで、なんのようだ?デートのお誘いって訳ではないみてぇだが」
「男とデートする趣味なんざ俺にはねぇよ。お前さんの持つ、人工的に作られた神器、誓約神器について聞きたい事があってな」
アザゼルの目的が陸兎の持つ誓約神器だと知ると、陸兎は『洞爺刀』を出現させた。
「前々からそいつに興味があってな。神器ってのは、元々神が作った異質な力だ。俺も長年研究しているが、まだまだ解明されてないことも結構ある。それを人工的に、ましてや人間が作ったなんて、とてもじゃないが俺には信じられねぇな。少なくとも、そいつは間違いなく人間の領域を超えていると言っていい」
「かもな。んで、俺に聞きたいことってなんだよ?」
「別に大したことねぇよ。その誓約神器について、お前さんが少しでも知っていることがあれば教えてくんねぇかって話だ。そいつはいつの時代、誰が作り出した物なのか、とかな」
誓約神器について少しでも知っていることはないか問うアザゼル。
神器を長年研究している彼にとって、人間が作り出した誓約神器という存在は、神器以上に異質な力なのであろう。
陸兎はひとまず、自分の答えを言う。
「悪いが、こいつがいつどこで作られたかは、俺には分かんねぇよ。作った奴に関しても、当時陰陽師に関わってた技術者としか言いようがねぇ」
「・・・まぁ、そう言われると思ったよ。誓約神器ってのは神器よりも分からないことだらけでな。俺が800年くらい調査しても、分かったことはこいつが霊力で動いているのと、持ち主が死んだら次の契約者と契約されるまで日本のどこかに飛ばされること。後は神器同様人間にしか宿らないことぐらいだけだ。それ以外の事については調査中だが、一向に進展がない厄介な代物だよ。そいつをただの使い手でしかないお前さんが、詳しい情報を知ってるとはハナから思ってねぇよ」
予想通りと言わんばかりの顔で喋るアザゼル。
そんなアザゼルの態度が気に入らなかったのか、陸兎は呆れた様子で口を開いた。
「そう思うなら、最初っから聞くなよ。いい年したおっさんの癖に、こういうのには疎いんだな。そんなんじゃ、女ができてもすぐに離婚されるぞ」
「な、何言ってんだ!?俺は別に女になんて興味はねぇぞ!」
女性関係の話になった途端、何故か焦り出したアザゼル。
それを見た陸兎は、何かを察したのかニヤリと笑いながら言葉を続ける。
「へぇー、そうかい。ところで、あんたの周りって結婚してる奴はいるか?」
「・・・割といる」
「なるほど。そんで、周りが次々と結婚してる状況を見て、あんたはどう思っている?」
「・・・正直、ちょっとだけ羨ましいと思っている」
「だけど、あんたは何万年も生きてるけど、今まで一度も結婚したことが・・・」
「・・・ない」
「やっぱりな。初めて見た時から結婚した奥さんに逃げられてそうな奴だなって思ってたよ。飽きるほど長生きして、堕天使のトップになっても、生活に関してはダメダメだな。まるで駄目なおっさん・・・」
陸兎はとびっきりの悪い顔を浮かべながら一言。
「マダオ♪」
「ぶっ殺すぞ!」
今まで生きた人生の中で一番と言える程の不名誉なあだ名で呼ばれてキレるアザゼル。
ひとまず冷静になったアザゼルは、ギャスパーの神器についてアドバイスした。
「とにかく!俺の用事は終わりだ。近いうちに会談でまた会えるだろうから、その時はよろしくな・・・あ、言い忘れてたが、そこのヴァンパイアの神器を制御したかったら、赤龍帝の血を飲ませるか、ヴリトラの力で余分なパワーを吸い取るといい。じゃあな」
そう言い残すと、アザゼルは去っていった。
堕天使総督の突然の来訪に困惑してた一誠たちだったが、気を取り直してギャスパーの特訓を再開するのであった。
神器好きのアザゼルが、人工的に作られた誓約神器に興味を持たない訳がないんですよね。
それと、見て分かる通り、この作品のまるで駄目なおっさん、略してマダオ枠はアザゼルです(笑)。流石にアザゼルの立場上、本家マダオのような無職ネタはできませんが、それなりの扱い?にできよう私なりに頑張りたいと思います。