アザゼルが去った後もギャスパーの特訓は続いた。
途中眠いとの理由で陸兎は帰ったが、一誠たちは夜中までギャスパーの特訓をしていたのだが・・・
「んで、色々試した結果、引きこもりに逆戻りと」
「すまん・・・」
陸兎に言われて、気まずい様子で謝る一誠。
陸兎が帰った後、体育館に移動し、アザゼルに言われた通り、匙の神器をギャスパーの頭に繋いで、力を抑えることはできたが、肝心のギャスパーがその力をコントロールすることができず、この特訓は失敗に終わった。
結果、めげてしまったギャスパーは、翌日再び部屋に閉じこもってしまったのだ。
「ギャスパー、出てきて頂戴。無理に出そうとした私が悪かったわ」
「ふぇぇぇぇぇぇん!」
リアスが優しく声を掛けるが、部屋にいるギャスパーは大声で泣き叫ぶばかり。
「すみません、部長。忙しい時期なのに呼び出しちゃって」
「気にしないで。貴方たちはこの子の為に頑張ってくれたもの」
謝る一誠に、気にするなと返したリアスは、ギャスパーの経歴について話し出した。
「ギャスパーの父親は名門のヴァンパイアなのだけれど、母親は人間なの。ヴァンパイアは悪魔以上に血統を重んじる種族だから、ギャスパーは家で差別的な扱いを受けていたわ。それでも仲間が、友達が欲しかったギャスパーは、今度は人間界に来たけど、そこでは化物扱いされて、更には時間を止めるなんて力まで授かった上に、制御もできない。いつしか周りから怖がられ、嫌われるようになったわ。自分が気づかない内に何をされるのか分からない。そんな存在と一緒にいたいとは思わないでしょうね」
暗い顔で語ったリアスは、扉の方を見る。
部屋の中からギャスパーの泣き声が聞こえてくる。
「僕、こんな力なんていらない。皆止まっちゃうから、皆怖がるし、嫌がる・・・ぐすっ・・・僕だって、仲間の、友達の止まった顔を見るのはもう嫌だぁぁぁぁぁぁ!!」
ギャスパーの悲痛な叫びを聞き、何とも言えない顔になるリアスと一誠。
すると、今までの話を黙って聞いてた陸兎は、頭をかきながら口を開いた。
「しょうがねぇなぁ・・・」
「八神?」
「どうするの?」
扉の前に立った陸兎に、疑問の声を上げる一誠とリアス。
次の瞬間、陸兎は『洞爺刀』を振り、封印されているはずの扉を真っ二つに斬った。
「「「ええええええ!!?」」」
あっさりと封印の扉を破った陸兎を見て、一誠とリアス、中にいるギャスパーさえも驚きの声を上げた。
そんな彼らの様子を気にともしない陸兎は、そのまま部屋の中に入り、ギャスパーを肩に担いだ。
「ふぇ!?」
「ちょっくら借りてくぞ」
「待ちなさい!ギャスパーをどこに連れて行く気!?」
慌てながら聞いてくるリアスに、陸兎は堂々と答えた。
「ちょっくら、こいつと散歩してくるわ」
そう言うと、陸兎はギャスパーを担いだまま、窓から旧校舎を出た。
残されたリアスと一誠は、二人が出ていった窓を呆然と見つめる。
「えーと・・・どうします?部長」
「・・・ひとまず、彼に任せましょう」
ギャスパーの事は陸兎に任せると決断したリアスは、祈る様に青空を見上げた。
一方、外に出た陸兎は足を宙に蹴り続けながら空を飛んでいた。
「ふぇぇぇぇぇぇ!なんでお空飛んでいるんですか!?陸兎先輩って悪魔じゃないですよね!?」
「体鍛えりゃ、人間空だって飛べる」
「いや、普通無理ですよね!?」
担がれたまま叫んでいるギャスパーに、淡々と答えながら飛ぶ陸兎。
やがて、町の真ん中まで辿り着くと、陸兎は軽々と地面に着地し、肩に乗せたギャスパーを降ろした。
「うぅ・・・まさか、こんな形で連れ出されるなんて思いませんでした・・・」
「こうでもしねぇと、お前一生引きこもるだろ。途中何回も時間停止しやがって・・・」
「・・・やっぱり、陸兎先輩には効かないんですね」
途中何度も神器を発動させても、止まることなく飛び続けてた陸兎を見ながら、ギャスパーは呟く。
今まで人間から化物呼ばわりされていたが、この人なら、自分の力を怖がらず、受け入れてくれるのだろうか。
ぐぅ~
そんなことを思っていると、ギャスパーの腹部から可愛らしい腹の虫の音が鳴った。
「どうやら、腹は主人よりせっかちみたいだな」
「あうぅ・・・」
陸兎の指摘に、恥ずかしそうに頬を赤めるギャスパー。
ひとまず腹ごしらえをしようと、二人がやって来たのは、町の中にある小さな定食屋だった。
「陸兎先輩、ここは・・・?」
「俺がよく行く食堂だ。量が多いし、値段も良心的だ」
「でも、僕お金持って・・・」
「安心しろ。今日は全部俺の奢りだ。おばちゃん、いつもの頼む。お前はどうする?」
「えーと・・・おまかせでお願いします」
曖昧な答えにも、亭主と思われる女性は微笑みながら頷き、料理を作り出した。
数分後、それぞれの料理が届いたのだが・・・ギャスパーには唐揚げ定食が、陸兎にはご飯の上に溢れんばかりの餡子が乗せられた見るからに激甘な丼が置かれた。
あまりにも得体が知れない料理に、ギャスパーは恐る恐る問い掛ける。
「り、陸兎先輩、この料理はいったい・・・?」
「宇治銀時丼だ。運動した後はこれが一番だと言われている最強の料理だ。ほれ、お前も食ってみろ」
「え!?これをですか!?」
驚きながら、ギャスパーはその宇治銀時丼を見つめる。
甘さの大草原と言えるくらい餡子が敷き詰められており、見るだけで胸焼けしそうだ。
絶対に美味しくない。だけど、先輩が注文したのなら、もしかしたら美味しいかもしれない。
覚悟を決めたギャスパーは、箸を手に取り、餡子が乗ったご飯を口に入れた。
「!?」
その瞬間、ギャスパーの目が大きく見開かれた。
しばらくの間、ギャスパーは無言だったが、ゆっくりと箸を置いて一言。
「・・・もう、いいです」
口内に広がる強烈な甘味を感じながらギャスパーは思った。
この人の舌は何か特殊な呪いでも掛けられているのだろうかと。
その後も陸兎は色んな場所にギャスパーを連れ回した。
「ヒイイイイイイ!!」
「おい!吸血鬼がゾンビ相手に怖がってんじゃねぇ!」
「そう言われても怖いものは怖いんですぅーーー!」
ゲームセンターのゾンビゲームで遊んだり。
「今だ!神器を発動させろ!」
「は、はい!」
カキーン!
「(これ、何の意味があるんだろう・・・?)」
バッティングセンターで疑問を浮かべながらもギャスパーが丁度いいタイミングでボールを停止させ、それを陸兎が打ったり。
「気合い入れろギャスパー!こんなんじゃ、ポピパ愛が伝わらねぇぞ!もっと腕を大きく振って、会場全体に響くよう叫んで!」
「ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!」
ライブハウスで行われている推し(ポピパ)のライブで、一緒にペンライトを振り回しながら盛り上がり(この時、二人は『ポピパLOVE』と書かれた鉢巻きを頭に巻いていた)。
「というわけで、山登るぞ!」
「いきなり!?いくらなんでも唐突過ぎませんか!?」
「男はなぁ、ふとした瞬間山を登りたくなる時が訪れるのさ。そんじゃ、行くぞ!」
「ちょ、登るって、そのままてっぺんまで飛ぶんじゃ!?」
「そのまさかだぁーーー!」
「ヒイイイイイイ!」
ギャスパーを抱えたまま、駒王町にある山の頂上までひとっ飛びし
「どうだ?頂上から見た景色は?」
「凄い・・・テレビやパソコンで見たものと全然違います・・・」
山の頂上から見える駒王町の街並みを堪能したら
「うしっ!そろそろ日も暮れるし、帰るか!」
「帰るって・・・まさか!?」
「当然、来た道を戻るに決まってんだろ・・・ダイナミックになぁ!」
「やっぱりぃぃぃぃぃぃ!!」
猛スピードで山を下るのであった。
そんな感じで遊び回ってたら、あっという間に夕方になった。
「つ、疲れました・・・」
一日中陸兎に振り回されたギャスパーは、疲れた様子だった。
そんな彼に、陸兎は今日の感想を聞く。
「んで、今日一日外に出てみてどうだった?」
「・・・正直、無理矢理連れ出された上に、色々振り回されたりして散々でした。でも・・・」
一拍空けながら、ギャスパーは笑顔になって言った。
「とっても楽しかったです!色んな所に行って、美味しいものを食べたり、色々遊んだり、綺麗な景色を見れて、僕が生きた人生の中で一番笑顔になれた日でした!」
「だろ。引きこもってたら、こんな体験はできないだろうよ」
陸兎がそう言うと、ギャスパーは顔を俯かせながら陸兎に問いかけた。
「陸兎先輩は・・・自分の力が怖いって思わないんですか?」
「思わねぇよ。この力があるから、俺はテメェの護りたいモンを護ることができるからな」
きっぱりと言った陸兎に、ギャスパーは一瞬驚いたが、再び暗い顔になって口を開いた。
「僕にだって・・・護りたい人達はいます。でも、僕の力は皆を不幸にします。いつか僕の力が護りたい人達の時間さえも止めてしまうかもしれない・・・!皆が止まってしまった世界で、独りぼっちになってしまうことが怖いんです!だから、僕は――うみゅ!?」
喋ってる途中のギャスパーの頬を両手で抓り、彼の言葉を遮る陸兎。
「はいはい、そういう暗いのは無しだ。そもそも、テメェの毛先から何まで時間が止まる世界なんざ一生起きやしねぇよ。そうじゃなきゃ、歴史なんてモンはこの世に生まれてねぇだろ」
「でも、もしかしたら今後そうなるかも・・・」
「心配すんな。仮にもし、そんな世界が来たとしても・・・」
陸兎はギャスパーに向けて、優しく微笑みながら言った。
「俺はちゃんと、お前の前で動いてやるよ。めちゃくちゃ怠くて動くのが面倒な時が来てもな」
そう言いながら、ギャスパーの頭を撫でる陸兎。
目頭が熱くなるのを感じながら、ギャスパーは震える声で口を開いた。
「本当に動いてくれるんですか?途中で止まったりしませんよね?」
「あったりめぇよ。こちとら後輩に追い越されるほど柔な背中はしてねぇよ」
そう言って、陸兎はギャスパーに背中を見せながら語る。
「覚えときな後輩。侍はな・・・果たせない約束はしねぇんだ」
そう語る陸兎の背中は、夕焼けに照らされて光り輝いていた。
普通の人から見たら、何の取柄も無いちっぽけな背中。けれど、ギャスパーにとっては、あまりにも大きく、自分の闇を払う光のようだった。
気づいたら、ギャスパーは涙を流しながら泣いていた。
「おいおい、泣くなよ。男は便所以外の場所で泣いちゃいけねぇよ」
「うぅ・・・だってぇ・・・!」
「たく、世話が焼ける後輩だぜ・・・」
やれやれと言った様子で、陸兎はギャスパーが泣き止むまで、彼の頭を撫で続けた。
「お!やっと戻ったな」
「お帰り陸兎君。その様子だと、ギャスパー君と打ち解けられたみたいだね」
ギャスパーの部屋に帰って来た二人を出迎えたのは、一誠と木場の二人だった。
陸兎とギャスパーが戻り、この場にオカルト研究部の男子が揃った所で、一誠が上機嫌に口を開いた。
「丁度良かった。俺は今、オカルト研究部男子チームによる連携を考えてたんだ!」
「連携?」
「何でも、イッセー君が僕たち四人の連携を思いついたみたいでね。興味深い話だったから、ここで二人が戻るのを待ってたんだ」
「ふーん、そんで、その連携ってのはなんだ?」
興味無さそうな陸兎だったが、一応聞くことにした。
一誠は自慢げに笑いながら、その連携について話した。
「まずは俺が力を貯める!その貯めたパワーをギャスパーに譲渡させる!そして、ギャスパーが時間を止める!その間・・・俺は停止した女の子を触りたい放題だ!」
「は?」
「えーと・・・それだと僕と陸兎君は必要ないんじゃないかな・・・?」
あまりにもくだらない。というか、明らかに一誠しか得しない連携に、困惑する陸兎と木場。
「いいや!俺がエッチな事をしている間に敵が攻めてくるかもしれないだろ!お前と八神は命懸けで俺を護ってくれ!これぞ、完璧なれん――フゲェ!?」
興奮気味に語る一誠の頭を陸兎が『洞爺刀』で思いっきり叩いて黙らせた。
一誠は体を床に埋め込みながら気絶し、彼を気絶させた陸兎は、ゴミを見るような目を一誠に向けながら言った。
「こいつは一度警察に突き出そう。その方が世のためになる」
「・・・友人をあまり悪く言いたくないけど、僕もそうした方がいいんじゃないかなって思ったよ」
普段は一誠に肯定的な木場も、こればっかりは難色を示した。
その後はアーシア達が部屋に入って来て、アーシアが人見知りなギャスパーの為に、頭に紙袋を被せるという提案をし、それをギャスパーが気に入ったりと、色々ありつつも、最終的に皆で焼肉を食いに行くことになり、三年生を除く陸兎たちオカルト研究部の面々は、和気藹々とした様子で部屋を出た。
尚、一誠はそのまま放置された。ついでに言うと、木場とギャスパーからは忘れ去られ(陸兎は気づいた上で放置&高速で顔に紙を貼り付けた)、後から来たアーシア達に至っては、いたことすらも気づいてもらえなかった。不憫な男である。
数時間後、部屋に入って来たリアスは、体を床に埋められ、顔に『私は後輩を犯罪に利用しようとした変態野郎です』と書かれた紙が貼られたまま気絶している一誠を発見し、大いに驚くのであった。
あれ?ギャスパーってヒロインだったっけ?
それは置いといて、今回でようやく4章の半分行きました。逆に言えば、まだ半分もあります。色々内容が濃いんじゃよ原作4巻は。