ハイスクールD×D 銀ノ魂を宿し侍   作:イノウエ・ミウ

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後始末ができない奴は仕事もできない

顔を殴打する音が鳴り響く。

何百倍も強化された拳を顔に受けた龍牙は、猛スピードで遠くに飛ばされて、そのまま瓦礫と化した校舎に激突した。

 

「リュウ君!」

 

「マジか。あいつに一発入れるとはなぁ(後、赤メッシュザマァ)」

 

聖良が声を上げながら龍牙を心配し、陸兎は龍牙に一発入れた一誠に感心すると同時に、心の中で殴り飛ばされた龍牙を罵った。

一方、殴り飛ばした当の本人は、「ハァ、ハァ」と息を整えていた。

 

「へへっ、一発入れてやったぜ・・・」

 

そう言って笑った直後、一誠はその場にバタッと倒れた。

 

「イッセー!」

 

リアスを始めとした眷属たちが、一斉に彼の下に駆け寄る。

倒れた一誠は、鳩尾に穴が開いており、すぐに治療しなければ危険な状態だった。

 

「酷い傷!アーシア、すぐに治療して!」

 

「はい!」

 

リアスに言われたアーシアが、神器の力で一誠の傷を塞ごうとした瞬間だった。

 

ドーン!

 

崩壊した校舎の方から衝撃音が鳴り響いた。

まさかと思いながら全員が振り向くと、吹き飛ばされた龍牙が瓦礫を払いながらこちらに向かってゆっくりと歩いてきた。

 

「やってくれたじゃねぇか。今のは効いたぜ・・・」

 

体はボロボロで、額や口からは血が流れているが、体から溢れ出るオーラは先程までよりも更に濃く、辺り一帯が震え上がっている。

 

「血ぃ流したのは2年ぶりだな。'あの野郎'との戦い以来だぜ・・・認めてやるよ赤龍帝。テメェを目障りな'敵'としてなぁ・・・!」

 

闘気がどんどん膨れ上がり、龍牙の周囲にスパークが迸る。

リアス達は一誠を守るよう彼の前に出て、武器や魔力を解放させる。

どうやら龍牙はまだ戦うようだ。しかも、先程と違って怒っているのが明確に分かる。

 

「さっきの拳の礼だ。俺も見せてやるよ。始原の龍の真の力を・・・!テメェの体の細胞一つ残らず、消し炭にしてやらぁ!」

 

黒いオーラが広がっていき、怒りの力で龍牙の体に闘気が溜まっていく。

闘気を正面から受けてるリアス達は、体中が震え、恐怖が体や心を支配していくが、決して背は向けず、一誠を守ろうとする。

その間にも闘気はどんどん溜まり、溜まった闘気が龍牙の体を包み込もうとした。

 

「バランス――っ!?」

 

その時、剣を持った薄透明の騎士が十人現れ、一斉に龍牙の体に剣を突き付けていた。

騎士の一人一人が膨大なプレッシャーを放っており、龍牙が少しでも動いたら、彼の体を容易く斬り刻むことが可能だろう。

突如現れた薄透明の騎士に、龍牙やこの場にいる人間以外の者達が困惑する中、空から声が聞こえてきた。

 

「そこまでだ。これ以上の戦いは僕が認めないよ」

 

全員が声がした方を見上げると、白いオーラを身に纏い、左右の手にこれまた薄透明の剣を持ちながら龍牙を見下ろす剣夜の姿があった。

特に何の動作もしないまま宙に浮き、身から溢れ出す白いオーラからは、ただならぬプレッシャーを周囲に感じさせた。

 

「十門寺・・・!邪魔するんじゃねぇ!」

 

「相手が日本の驚異となりうる存在なら止めなかったさ。だが、兵藤一誠はまだ未熟だ。少なくとも日本の驚異にはなりえない。それに、今ここで兵藤一誠を殺したら、グレモリー眷属・・・いや、悪魔との戦争が起こるだろう。そうなれば多くの国民が、平穏に暮らす弱き人間が巻き込まれる。それだけは絶対に避けなければならない」

 

この騎士たちが剣夜が作ったものだと察して、憤怒の顔で剣夜を睨む龍牙に対して、剣夜もまた冷たい目で龍牙を見下ろす。

 

「手を引け龍牙。勝負は既に決した。兵藤一誠はもう動けない。この戦いは君の勝ちだ。君も動けない相手をいたぶる趣味は無いだろう?」

 

「・・・チッ」

 

睨み合いが続いたが、渋々と言った様子で龍牙は闘気を収めて、籠手と背中の翼を解除した。

それを見て、戦いが終わった事を悟り、ホッと安堵したリアス達が視線を一誠と彼を回復してるアーシアの方に戻す。

しかし、先程から一誠の体が良くなる気配がなく、呼吸もだんだん少なくなってきている。

一誠の命が危ないと感じたリアスや眷属たちが必死になって叫ぶ。

 

「イッセー!しっかりして!」

 

「イッセー君!目を覚ますんだ!」

 

「イッセーさん!お願いです、死なないでください!」

 

アーシアが涙を流しながら回復を試みるが、一誠の様子が変わることはない。

彼の腹は貫かれて、内蔵が破損している状態だ。何でも治せるアーシアの『聖女の微笑み』の力があるとはいえ、ここまで深い傷を負えば、治すのに時間が掛かるし、その前に一誠の命が尽きるだろう。

それを感じた陸兎が深刻な顔で呟く。

 

「ありゃ、すぐに死ぬな」

 

「・・・聖良、君の力なら助けれるはずだ」

 

聖良の力なら一誠を治せるとふんだ剣夜が、彼女に向かって言うが、聖良は嫌そうな顔をしながら断る。

 

「嫌。あの人、私を嫌らしい目で見てたし、何よりリュウ君を傷つけたから嫌い」

 

先の会談で自分の事を嫌らしい目で見てきて、更には愛しい人の顔を殴ったことで、聖良の兵藤一誠に対する評価は底辺まで下がっていた。

そんな聖良に、剣夜は頭を下げて懇願する。

 

「頼む聖良。ここで兵藤一誠が死んだら、人間と悪魔の関係に亀裂が起きる」

 

「お願い聖良。私も彼は苦手だけど、生徒会の皆が悲しむのは見たくないわ」

 

「・・・麗奈にも言われたら断れないな。今回だけだからね」

 

仕方ないと言わんばかりに、聖良は一誠の方に近づく。

突然近づいてきた聖良にグレモリー眷属が警戒するが、聖良はお構いなしに『月の機神糸』を展開させる。

大量に放出された糸が大きな繭のような形に束ねられて一誠の腹を覆う。

 

「何をするの!?」

 

「黙って。今、蘇生してる最中だから。後、貴女は惚けてないで回復を続けて」

 

「は、はい!」

 

リアスの声を無視し、驚いて回復を中断しかけたアーシアに声をかけながら、聖良は指を動かして糸を操作していく。

糸で作られた繭が生き物のように動き出し、何処か不気味さを感じつつも、リアス達は治療の様子を見守る。

 

「リュウ君のパンチを受けて、お腹に穴が開いたよね?そのせいで、肉体の活動に必要な臓器が欠けている。このままにしておけば、いずれ生命活動が停止するから、『月の機神糸』の糸で欠けている部分の臓器を人工的に作って補う必要があるの。後、いくつかの臓器も停止してるから、糸で無理矢理動かしているよ。貴女は傷を治す力を持ってるみたいだけど、この調子じゃ先に命が尽きるから、こんな風に生命活動を維持する必要があるの」

 

そう解説していると、アーシアの神器の力が効いてきたのか、一誠の腹から流れる血が徐々に減ってきた。息も僅かだが聞こえるようになっていき、治療が上手くいっていることが分かる。

やがて完全に止血して、腹の穴が塞がった所で、聖良は糸をしまいながら口を開いた。

 

「これで手当ては完了だね。少し時間を置いたら、目が覚めると思うから。顔の火傷や潰れた目は・・・そっちで治しておいて」

 

そう告げた聖良の言葉を聞いたグレモリー眷属は、一誠の安否を確認すると、先程まで死に向かっていた状態と違って、呼吸をしながら眠る一誠を見て、安堵の表情を見せる。

 

「どうやら、兵藤一誠は一命を取り留めたようだな」

 

突然そんな声が聞こえて、全員が声がした方に振り向くと、龍牙にやられてボロボロになったヴァーリが中華風の鎧を着た男の肩に腕を担がれながら立っていた。

龍牙が突然現れた見知らぬ男について聞き出す。

 

「いつの間にか知らねぇのがいるな・・・誰だ?」

 

「よっ、俺っちの名前は美猴。相方がお前さんにやられてピンチだったもんで駆けつけてきたのさ」

 

笑みを浮かべながら名乗る美猴。

すると、アザゼルが美猴を見ながら口を開いた。

 

「そいつは闘戦勝仏の末裔、孫悟空だ」

 

「・・・か○は○波でも撃つのか?」

 

龍牙の言葉に対して、アザゼルは冷静にツッコミを入れる。

 

「そっちの悟空じゃねぇよ。西遊記の方だ・・・まさかお前まで『禍の団』入りしてたとは世も末だな。いや、白い龍に孫悟空。ある意味お似合いでもあるか」

 

呆れるように言うアザゼルに対して、美猴はケラケラと笑いながら喋る。

 

「カッカッカッ、俺っちは初代と違って自由気ままに生きるのさ。そういうわけだ。よろしくな、始原の龍」

 

「そうか。明日の朝飯を食う頃には名前忘れてるかもな」

 

「それはひでぇぜぃ。まっ、俺っち達も暇じゃないんで、ここは帰らせてもらうぜぃ」

 

そう言いながら、美猴は棍を手元に出現させると、くるくると器用に回し、地面に突き立てた。

すると、地面に黒い闇が広がり、美猴とヴァーリを捉えるとずぶずぶと沈ませていく。

闇に沈んでいく中で、ヴァーリは龍牙を見ながら口を開いた。

 

「無六龍牙、二天龍と始原の龍の三つ巴の戦いは君の勝ちだ。だが、俺は負けてままでいるつもりはない。次に君と戦う時は、俺の持つ全ての力を出して君に勝つ。それと、兵藤一誠が目が覚めたら伝えてくれ。次に会う時はもっと激しくやろうと」

 

「いつでも来い。最強は俺のモンだ。誰にも譲るつもりはねぇよ」

 

龍牙は追撃することなく、笑みを浮かべながら言葉を返すと、ヴァーリもまた満足そうに微笑みながら美猴と共に闇へ消えていった。

それを見届けた龍牙は、聖良の下へ歩み寄る。

 

「俺らも行くぞ聖良。ここ来た時は退屈だったが、久しぶりに強ぇ奴らと戦えた。もう用はねぇ」

 

「うん、帰ろう。青森に」

 

龍牙は聖良をお姫様抱っこすると、剣夜に視線を向ける。

 

「つーわけだ。ゴミ共を掃除して、会談もほとんど終わったことだ。もう護衛はいらねぇだろうし、俺らは先に帰らせてもらうぜ」

 

「・・・構わないよ。壊した校舎の修理代は君の給料から引かせてもらうけどね」

 

「好きにしな。じゃあな」

 

剣夜から許可を貰い、龍牙が飛び立とうと足に力を入れる。

しかし、龍牙たちが去ろうとする前に、リアスが龍牙を呼び止めた。

 

「待ちなさい!イッセーの怪我を治してくれた事にはお礼を言うわ。でも、元はと言えばそこの彼がイッセーを傷つけたからこうなったのよ!私の可愛い下僕をこんな目に合わせて、ただで済むと――」

 

「ハイハイ、せっかく丸く収まりそうなんだから文句言わない」

 

「ウッ!」

 

下僕を傷つけられたリアスは、オーラを出しながら龍牙に怒りを向けていたが、後ろから陸兎の手刀を首筋に受けて、意識を失ってしまった。

倒れそうになったリアスの背中を腕に乗せながら陸兎は呆れた様子で言う。

 

「さっき見ただろ。あんたじゃ眷属全員で戦ってもあいつには勝てねぇ。俺ら十天師に嚙みつくには、まだまだ早すぎるんだよ。あんたもイッセーもな・・・悪いな魔王様。あんたの妹、自殺願望があったから止めといたわ。流石にこれで打ち首って事はないよな?」

 

「・・・いや、リアスを止めてくれてありがとう。君の言う通り、リアスはまだまだ実力不足だ。強大な存在と対等になるには色々足りなすぎる」

 

激愛する妹を助ける為に妹を気絶させたからなのか、サーゼクスは怒りはしなかったが複雑な顔をしていた。

龍牙は視線を倒れている一誠と彼を囲むグレモリー眷属の方に向ける。

 

「そこの赤龍帝が目を覚ましたら伝えておけ・・・テメェはいつか必ず俺が潰す。それまで精々強くなりやがれってな」

 

「それでは皆さん、縁があったらまた」

 

二人がそう言い残すと、龍牙は空高く飛び、結界を破壊して外に出ると、そのまま黒い閃光となって空の彼方へ飛び去った。

その閃光が完全に見えなくなるまで、陸兎たちは黙って空を見つめているのであった。

 

 

 

 

しばらくの間は後始末に追われていた。

三大勢力や日本神話、更には十門寺家所属の者達まで力を貸しながら、魔術師の死体を運んだり、崩壊した駒王学園の修復を行っていた。

やがて、駒王学園の新校舎がほとんど元に戻ったタイミングでサーゼクスが口を開いた。

 

「今回の件、我々に問題があった」

 

「こっちもヴァーリが迷惑掛けたな。未然に防げなかったのは、俺の過失だ」

 

「全てはこれからですね」

 

トップ同士で会話し、ミカエルがこの場を去ろうとしたところで、陸兎が呼び止めた。

 

「あー、天使長様。一つ頼みがあるんだが、聞いてくれねぇか?」

 

「私に可能なことであれば」

 

「ありがとよ。頼みなんだが・・・アーシアとゼノヴィアが神様に祈る時に受けるダメージを無くしてやってくれねぇか?」

 

「「!?」」

 

陸兎の言葉に、ゼノヴィアとアーシアが驚いていた。

 

「こいつら毎晩教会まで行って神様に祈ってな。俺は護衛として付き添ってるんだけど、美少女が中二病みたく頭を押さえてる姿がどうも見るに堪えなくてよ。あんたの方でこいつらの中二病を直すことできねぇか?」

 

「一応できますが・・・アーシア、ゼノヴィア、神はもういません。それでも祈りを捧げますか?」

 

「はい、主がいられなくても、私は祈りを捧げたいです」

 

「同じく、主への感謝と・・・ミカエル様の感謝を込めて」

 

真剣な表情で問うミカエルに、正面から答えるアーシアとゼノヴィア。

そこにイリナもミカエルに頭を下げてきた。

 

「私からもお願いします。ミカエル様」

 

「イリナ・・・」

 

「ごめんなさい、ゼノヴィア。貴女と別れた時に事情も知らないまま裏切り者だと思い込んで、貴女に酷いこと言って」

 

「そんな。あれは仕方がなかった。君が謝ることじゃないさ」

 

「それでもよ。アーシアさんも駒王学園で貴女に酷いこと言っちゃったね。本当にごめんなさい」

 

「そんな!わ、私は、別に、気にしてないですから!」

 

頭を下げながらゼノヴィアとアーシアに謝罪するイリナを見て、普通に接するゼノヴィアに対して、アーシアは慌てふためいていた。

その様子をミカエルやサーゼクス達が微笑ましく見守っていた。

 

「悪魔と信徒の友情ね☆」

 

「今回の和平を象徴した光景だと思いませんか?ミカエル殿」

 

「えぇ、本部に帰ったら早速システムの操作に取り掛かりましょう。祈りを捧げてもダメージを受けない悪魔が二人いても問題ないでしょう」

 

ミカエルがそう言うと、アーシアとゼノヴィアとイリナの三人は嬉しそうな顔をしながら神に祈りを捧げた。悪魔であるアーシアとゼノヴィアがダメージを受けたのは言うまでもないが。

その様子を眺めていた陸兎は、ふと一誠やリアスがいなくなったことに気づき、近くにいた木場に聞き出した。

 

「そういや、イッセーはどこ行ったんだ?」

 

「サーゼクス様の計らいで、冥界の病院で本格的な治療を受ける事になったよ。部長と朱乃さんも付き添いでね」

 

「そっか・・・悪かった。馬鹿が迷惑掛けた」

 

「いや、君が謝ることじゃない。今回の件で改めて自分の不甲斐なさを思い知ったよ。仲間がピンチな時に、圧倒的な力を前にその場で立っていることしかできなかった・・・だからこそ、僕はもっと強くなる。白龍皇に始原の龍、これらの強大な存在を相手に臆することなく戦えるように・・・!」

 

そう決意する木場を見て、真面目なやつだと思っていると、アザゼルがこちらに話しかけてきた。

 

「まっ、向上心があるのは良いことだと思うぜ」

 

和平を結んだとはいえ、未だにこちらを警戒する木場をチラッと見ながら、アザゼルは陸兎に話しかける。

 

「赤龍帝とリアス・グレモリーがいねぇから、先にお前さんに言っておくぜ、白鬼君。俺、しばらくはこの町に滞在することにしたからよろしくな」

 

「滞在だと?もしかして、駒王町ナンバーワンのホームレスを目指すために・・・!?」

 

「んなわけあるか!どんだけ俺をマダオキャラにしたがってんだよ!」

 

必死にツッコミを入れるアザゼルに、陸兎は悪い顔をしながら喋る。

 

「そう言うなよ。オメェみたいな顔はいいけど臭いがきつそうなおっさんは、精々路上で段ボールに座りながら金を拾う生活がお似合いだぜ・・・独身のマダオ♪」

 

「テメェ・・・!いつかぜってぇ泣かしてやるからな・・・!」

 

肩にポンッと手を置きながら煽る陸兎に対して、アザゼルはプルプルと拳を震わせながら怒りを募らせた。

そんなアザゼルに、大旦那が話しかけてきた。

 

「大変そうだな。マダっ――アザゼル」

 

「おい、今さりげなくマダオって言おうとしたよな?」

 

「気のせいだ」

 

さらりと誤魔化す大旦那をジト目で見つめてたアザゼルは、やがてため息一つこぼしながら彼の隣に立った。

 

「三大勢力の和平・・・嘗ては叶わないと思っていたが、今この現代で、しかも和平が結ばれる光景をこの目で見れるとは思わなかったよ。これもまた、一つの時代の変化なのかもしれないな」

 

「そうだな。大旦那はこれからどうするんだ?」

 

「ひとまずは天照大御神様に今回の会談について報告だな。今後は日本神話もテロリストの警戒を強めていくだろうし、神々とも連携を取る必要がある。これから忙しくなりそうだ」

 

「そうか。こっちも後始末やらで忙しくなるし、お前さんの宿に行けるのは、大分先になりそうだな」

 

「いつでも待っているよ・・・ところでアザゼル、前に来た時、今度は美人な嫁さんも一緒に連れていくって言ってたけど、その様子じゃ嫁どころか女一人捕まえられてないみたいだな」

 

「言うな!この間、その話でダメージ負ったんだよ!つか、お前さんも人の事言えねぇだろ。独身の鬼神様よぉ」

 

「フッ、残念ながらついこの間、美人で料理が得意な嫁ができたんだよ」

 

「なん、だと・・・!?」

 

友から聞かされた衝撃の事実にアザゼルはその場で項垂れた。尚、その嫁が半強制的に攫った人間の女性であることをアザゼルは知る由もなかった。

一方で道玄三武郎たちもこの後の方針について話していた。

 

「俺らも帰るぞ。面倒だが他の当主共に報告しねきゃならねぇしな」

 

「えぇ・・・くれぐれも会談の時みたく、他の当主の方達に無礼のないようにね。そもそも、公の場であんな敵意丸出しで威圧しながら入ってくること自体が間違いだと思わないかしらねぇ、ア・ナ・タ?」

 

「え?・・・いや、だって、俺の初登場シーンだったし、なんかこう最強キャラ感出した方が話的にも盛り上がりそう――「だから?」・・・はい、すみませんでした」

 

冷静を装うが後ろからゴゴゴゴゴゴゴと怒りのオーラを出す妻を前に、道玄三武郎は大人しく謝った。彼女的には会談中の道玄三武郎の態度はよろしくなかったらしい。

先程までの威厳はいずこやら、筋肉モリモリの厳つい大人が超絶美人に折檻される姿は何ともシュールな光景であった。

やがて折檻を終えた桜蘭は、無表情のまま近くで見守っていた護衛の男、五条(ごじょう)(わたる)に声を掛けた。

 

「さて、そろそろ行きましょう。五条、引き続き護衛を頼みましたわよ」

 

「ハッ、桜蘭様」

 

「おーい、五条君。君、俺の側近だよね?主そっちのけで帰ろうとするのはどうかと思うぞ・・・あ、ちょ、待って、置いてかないで~」

 

この場から立ち去る桜蘭と五条を慌てて追いかけようとした道玄三武郎は、ふと立ち止まって陸兎に声を掛けてきた。

 

「おう、そうだ。陸兎、今日のテメェが見せた闘気、中々喰らいがいがありそうだったぜ。その闘気、龍牙の野郎とそっくりだ」

 

「ハァ!?おいおい、勘弁してくれよ当主様。あんなイカれた赤メッシュと一緒にしないでくれ」

 

「俺が言いてぇのはそこじゃねぇ。前のテメェの闘気は濃かったが'色'が無かった。だが、今のテメェには龍牙(あいつ)と同じ'色'がある。あの日、お前の中に居座る白鬼(しろおに)が醒めた時に生まれた憎悪や復讐、虚無とは違う・・・その色は、お前自身の'進化'を表している証拠だ」

 

「・・・・・・」

 

道玄三武郎の言葉に、陸兎は何も言えなかった。

ふと脳裏に浮かんだのは、毎日一緒に馬鹿騒ぎするオカルト研究部の面々、同居人である大食いの青髪少女に飼い主の頭をよく嚙んでくる使い魔(ペット)、よく振り回されているけど甘えん坊で自分に寄り添ってくれるポニーテールの少女の姿だった。

 

「だが、色が濃い程飢えた獣ってのは貪欲になるモンだ・・・覚えときな、テメェらの敵は何もテロリスト共だけじゃねぇからよ・・・」

 

そう言い残して、道玄三武郎は桜蘭たちの後を追うように去っていった。

 

「敵、ねぇ・・・」

 

意味ありげに語った道玄三武郎の言葉を思い出しながら、陸兎はもうすぐ夜明けが来る空を見上げるのであった。

 

 

 

 

こうして、長かった和平会談は終わりを迎えた。

天界代表天使長ミカエル、堕天使中枢組織『神の子を見張る者』総督アザゼル、冥界代表魔王サーゼクス・ルシファー。そして、日本神話代表大旦那と人間代表十門寺道玄三武郎が見届け人となり、三大勢力の各代表のもと、和平協定が調印された。

以降、三大勢力の争いは禁止事項とされ、協調体制へ。日本神話も『禍の団』の対策として、後日三大勢力と協定を結ぶことが決まり、異形の驚異と言わしめる十天師は、いざと言う時の助っ人として、協力することが約束された。無論、三大勢力側が人間を害さない限りではあるが。

この和平協定は会談の舞台となった駒王学園から名を採って、『駒王協定』と呼ばれるのであった。




・五条渉(ごじょう わたる)
今回の章でちょろっとだけ登場した十天師。十天師の中で唯一、地方に属さず道玄三武郎の側近を任されている男。見た目は「とある魔術の禁書目録」の後方のアックア。その実力は十天師の中でも高く、陸兎が絶対に勝てないと心に刻まれた人物の一人である(もう一人は道玄三武郎)。


<駒王町コソコソ噂話>
最強と言わしめる十門寺道玄三武郎だが、キレた妻(桜蘭)には頭が上がらないのである。そんな二人の馴初めだが、当時十門寺家の当主になり立ての頃の道玄三武郎は、先代当主が無理矢理仕組んだお見合いに(めんどくさそうに)参加し、そこで初めて桜蘭に出会った。当初はお見合いに全く興味がなく、適当に済ませていた道玄三武郎だったが、彼の自分勝手な態度に腹を立てた桜蘭が彼の頬を平手打ちしたのだ。桜蘭の行動に周りで見ていた誰もが殺されるとハラハラしながら見守る中、殴られた当の本人は自身の圧や気に臆さず、このような行動に出た桜蘭を面白れぇ女と気に入って、そのまま彼女との結婚を決めたのであった。



長かった第四章も次で終わりです。
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