テレビで放送してたアニメを映画で見るのは同じようで違う
これは和平会談が始まる数日前の出来事である。
日曜日。世間では休みの日であり、ほとんどの人間が日々の疲れを癒せる貴重な日である。
駒王町も例外ではなく、町は多くの人で賑わっている。
そんな町の中を十天師の一人である無六龍牙が歩いていた。
「相変わらず平凡な町だ。まっ、暇つぶしには持ってこいだな」
目つきが鋭く、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出しながら、龍牙は町を見渡す。
彼がここにいるのはなんとことはない。ただのサボりである。
十門寺家の当主及びその関係者の護衛の任務でこの町にやって来たが、この手の任務は強者との戦いを望む彼の性格故に退屈なものでしかない。
幸い任務自体は彼の恋人である聖良一人で十分なものであるため、彼女の任務が終わるまで龍牙は一人ゆったりとした休日を過ごそうとしたその時、彼にとってこの世で一番見たくないであろう顔が見えた。
「「あ?」」
その顔と目が合った途端、龍牙の顔が明らか不機嫌になる。尤も、それは相手も同じであったが。
「たく、貴重な休みだってのに、この世で一番死んでほしい野郎の顔を見ることになるとはな。せっかく気分が最高潮に達してたってのに、一気に底辺まで下がったぜ」
「同感だ馬鹿野郎。任務ほったらかして、堂々とサボりとはぁいい度胸してんじゃねぇか。まっ、俺も暇じゃねぇんだ。せっかくの休日をテメェとのお喋りに費やすのは時間の無駄だ」
「そうだな。俺もテメェの顔は見たくねぇ。さっさと消えな」
言われなくともっと言うと、陸兎はさっさと歩いて行った。
「ちっ、ウゼェ天然パーマと鉢合わせちまったがまぁいい。今は昼時、丁度腹も減ったし、前に来たあの店に行くとするか」
舌打ちしながらも空腹を感じ、龍牙は歩みを進める。
しばらく歩いた龍牙は、定食屋の前に止まった。
「ここだな。前ここ来た時に食った俺専用メニュー無六スペシャル定食。あの至高の味は今でも忘れられねぇ。さてと、早速中に入って――」
入ろうとした瞬間、目の前に取手を掴もうとする誰かの手が横から伸びてきた。
手を止めて横を見ると、こちらを見つめている陸兎と目が合った。
二人はまたしても不機嫌な顔になる。
「おいおい、無六君?俺は君に言われた通り、君の視界から消えてあげたんだけど、どうしてまた俺の前に現れたのかな?」
「こっちのセリフだコバンザメ。人のケツを付け回しやがって」
「誰がオメェのカレー臭漂う汚ねぇケツなんか付け回すかよ。寧ろ、速攻で蹴り倒すわ」
「俺も腹減ってなきゃ今すぐにでもテメェのケツを蹴ってやるところだがな」
互いに嫌悪感を曝け出し合いながら言い争う陸兎と龍牙。
そんな二人を建物の陰から見ている男がいた。
「遂に見つけたぞ十天師。まさか、憎き『暴龍』の他に『白鬼』までいようとは・・・!」
黄土色のコートと同じ色の帽子を被っており、まるでマフィアのような雰囲気を持つ男。後ろには彼の部下と思われる黒いスーツを着た人間が二人いた。
コートの男は自身に起きた出来事を回想する。
「(先日、『暴龍』によって取引先の組織を潰されたせいで、ウチとの取引がパーになってしまった。お陰で俺はボスから小声を三時間も貰い、終いには『暴龍』の首を持って来いと無理難題を押し付けられる始末・・・!だが、それも今日で終わりだ。ここで『暴龍』を、更には『白鬼』の首も取れば、俺は幹部昇進どころかボスになるのも夢ではない!)」
内なる野心を胸に秘めていると、彼の部下が声を上げた。
「リーダー!奴らあの店に入りやしたぜ!」
「ふむ、定食屋か・・・今は昼時、奴らも緩んでいるはずだ。この隙を逃さんぞ」
リーダーの男は部下に指示を出しながら定食屋に入る。
中では陸兎と龍牙が間に席を一つ空けたままカウンターに座っていた。
部下二人が空いてたテーブル席に座る中、リーダーの男は陸兎と龍牙の間の席に座った。
ふと両隣を見ると、陸兎も龍牙も何もすることなくジーと注文した料理が来るのを待っていた。
「(フッ、思った通りだ。十天師と呼ばれる者達でも、空腹ではこうも隙だらけになるとはな。これなら容易に始末できそうだ・・・)」
そう思いながら、男は隠し持っている銃を取り出そうとした瞬間、右にいた陸兎の料理が来た。
「へい!駒王陸兎丼一丁!」
「っ!!!(なにぃぃぃぃぃぃ!!なんだあの大量のカスタードは!?なんちゅーモン食べてんだ!ウプッ、み、見ているだけでこっちが気持ち悪くなる・・・!)」
大量のカスタードが乗せられた丼をがっつくように食らう陸兎を見て、気分が悪くなる。
思わず顔を逸らすと、龍牙の方に視線が移った。
「へい!無六スペシャル定食お待ち!」
どうやら龍牙が頼んだ料理も届いたようだ。
名前は知らないが、その見た目はロースカツに白米や味噌汁に漬物とごく普通の定食のようだった。
「(お、おう、なんだ普通のロースカツ定食じゃないか。脅かせてくれる・・・どうやら、『暴龍』の方は舌がまともみたいだな――)」
「それじゃ、追いカレーをするよ。カツにご飯、キャベツに漬物、そして・・・味噌汁!」
「(MISOSIRUぅぅぅぅぅぅ!!??)」
カツにご飯、更には付け合わせの千切りキャベツや漬物、味噌汁までにカレーがかけられて、男は心の中で絶叫する。
そんな彼の心情を知りもしない龍牙は、カレー入り味噌汁を一口含んでホッと息を吐く。
「あ゛ぁ~、やっぱ飯の始まりはこれだな~」
「(何ホッと一息ついた顔してんだ!味噌汁にカレーって、どんな頭をしたらそんな発想が思い浮かぶんだ!ウッ、スパイスの臭いが店中に充満して・・・鼻がおかしくなる・・・!)」
鼻を抑えながら強烈なスパイスの臭いに耐えていると、隣にいる陸兎が龍牙に話しかけた。
「すみません、そこのカレーだらけの人、悪ぃんだけど、席外してもらえねぇか?さっきからカレー臭が酷くて食欲失せるんだよ。ね、おじさん?」
「えっ?俺?」
突然話を振られて、男は困惑してしまう。
「だったら、テメェが席外しやがれ。ご飯にクリームかけて食うようなイカれた味覚の奴が定食屋に来る資格はねぇ。ね、おじさん?」
「いや、あの・・・」
龍牙もこちらに話を振って来て、更に困惑する。
そうしてる間にも、二人の会話は徐々にヒートアップしていく。
「バーカ、太古の昔から小豆とクリームは炭水化物と同様の栄養を得られるって言われてんだよ。あんぱん然りケーキ然りよ。ね、おじさん?」
「知らないんだけど、そんな情報・・・」
「何を味わうにも、まずはそれを引き立てる主役の味が必要なのを分かんねぇのか。コクのあるスパイスで食材の味を更に引き立つことができる・・・つまり、カレーが一番なんだよ。ね、おじさん?」
「いや、もう俺に振らないでくれない?関係ないから・・・」
「俺の駒王陸兎丼をテメェのインド製造機と一緒にすんな。こいつはフランス革命でマリー将軍がパンの代わりに食った唯一正しき食べ物なんだよ。ね、おじさん?」
「いや、誰マリー将軍って!?その人、パンの代わりにケーキ食べることを勧めた人だよね!?」
「それを言うなら俺のはなぁ、飯とカレーを別々に食うのが怠かったバラバラス将軍が――」
「だから誰その将軍たちは!?別々に食べたくなかったら普通にご飯の上にかければいいだけだろ!」
「だったら!俺の駒王陸兎丼とテメェのインド製造機、どっちが優れているか食べ比べてみるか?ね、おじさん?」
「え!?」
「上等だ!ね、おじさん?」
「全然上等じゃないし!何、俺が食べるの!?」
「公正な判断は赤の他人じゃないと下せないからね、おじさん」
「頼んだぜ。ねおじさん」
「ねおじさんって何!?なんか名前みたいになって――ウォォォォォォ!!?」
最終的に陸兎と龍牙はリーダーの男ことねおじさんに、己の料理を無理矢理食べさせた。
しばらくの間咀嚼してたねおじさんだが、ゴクリと飲み込んだ瞬間、ピタッと動きを止めた。
「どうだねおじさん。俺の方が美味いだろ?・・・ねおじさん?」
不審に思った陸兎が声を掛けるが、ねおじさんからは返事が無い。
二人が顔を覗き込むと、ねおじさんは座ったまま白目を向いて気絶していた。
「「ねおじさーーーん!!」」
二人の絶叫が定食屋に響くのであった。
「あー、気分悪ぃ。貴重な休みの日に嫌なボサボサと二回も顔を合わせるとはな」
あの後、定食屋を出た龍牙は不機嫌な様子で再び町を歩いていた。
せっかくの休日(サボり)なのに、二度も嫌いな奴と鉢合わせて、更には一緒の場所で昼飯も食べてしまった。彼にとってこれ以上ない苦痛だった。
何とかこのストレスを解消しようと、町を見渡した龍牙が次に見つけたのは映画館だった。
「映画か。今やってんのは・・・なんだこれ?」
『ユユユーユ・ユーユユは勇者である』
タイトルが書かれた電子版には魔法少女っぽい衣装に身を包んだ少女たちがポーズを取っていた。
「ははーん、さてはプリキュアみたいな幼女向けアニメって奴か。こういう映画は内容がいまいちでも、幼女にペンライト持たせて、プリキュア頑張れーって言わせるだけで盛り上がるからな。まっ、暇つぶしには丁度いいかもしれねぇな」
半ば興味無さそうに、けれども暇つぶしにには丁度いいと考え、龍牙は映画館に入る。
だが、映画の内容は彼の予想だにしない物だった。
『許さない・・・よくも私たちを騙してくれたわね。殺してやる・・・!』
『ヤバいわよユーユユ!』
『風先輩!落ち着いてください!』
『大変そうね。ユーユユちゃん』
『殺してやるわ。東郷森の助』
「うぅ・・・ぐすっ、クソ、なんて感動する映画なんだ・・・ぐすっ・・・ユユユーユ・ユーユユ、美竹蘭の次の次くらいに覚えておくぜ」
幼女向けの映画かと思っていたが、予想以上に感動した龍牙は、右手で顔を押さえながら啜り泣きしていた。今流れている映像は明らかに泣くような場面ではない気がするが・・・
「(いや、ここ泣く場面じゃないだろ・・・だが、この暗闇なら)」
先程の駒王陸兎丼と無六スペシャル定食のダメージから回復し、こっそりと龍牙の後を追っていたねおじさん一味が後ろに座りながら、妙なところで涙腺が崩壊した龍牙を引き気味に見ながらも、彼を暗殺しようとねおじさんが再び銃を取り出そうとしたその時、後ろから龍牙に話しかける男の声が聞こえた。
「おい、そこの黒髪。ぐすぐすぐすぐすうるせぇよ。全然聞こえねぇんだよ。今風先輩なんつったんだ?ユーユユがピンポンダッシュしたのか?」
「あぁ悪ぃ。ユーユユが風先輩の家にピンポンダッシュして――って」
「「あぁー!!」」
ポップコーンを食べながら号泣する陸兎に注意されて、龍牙は謝ろうとしたが、お互いの顔を見た瞬間、二人揃って大声を出した。
そのまま足をドンっ!と一歩前に出して、喧嘩を始める陸兎と龍牙。ちなみに、間に挟まっていたねおじさんは、二人の足に体を踏まれて、床に這いつくばってしまった。
「またテメェか!毎回俺の行くところに現れやがって!このストーカーが!」
「こっちのセリフだボケ!なんだ?お友達になりてぇのか!?」
「何気持ち悪ぃこと言ってんだよ!さっきから後ろでポップコーンモッサモッサうるせぇ奴がいると思ったら・・・今すぐ出ていけ!」
「お前が出ていけよ!こっちは歯に挟まったポップコーン取るのに苦戦して、映画の内容付いていけてねぇんだよ!」
「侍を名乗ってる癖に、そんな甘いモン食ってるからそうなるんだよ!ポップコーンみたいな頭しやがって!」
「そっちこそ、赤メッシュなんて思春期の黒歴史になるようなモン付けやがって!どうやってセットしてんだ?カレーでセットしてんのか!?」
「テメェ・・・!表出ろゴラァ!墓前には何を供えて欲しいんだ?クリームか!?それともポップコーンか!?」
「ちょ、君たち・・・さっきから踏んでる!踏んでるって!」
ねおじさんを踏みながら言い争う二人。
すると、先程から大きな声で言い争う陸兎と龍牙に、映画を楽しんでいた観客たちが注意し出した。
「おい、さっきからうるさいぞ!」
「お前ら迷惑なんだよ!」
「喧嘩なら外でやれ!」
観客たちの声を聞いて、言い争いを一旦止める陸兎と龍牙。
敵意を抱きながらこちらを見つめる観客に、陸兎は視線を鋭くさせながら口を開いた。
「なんだテメェら?昼間からこんな幼女向けの映画見やがって・・・こんなモン見る暇があるなら外出て働け変態オタク共が!――って、そこのコートの人が言ってました」
「はぁ!?」
「こっちはイライラしてんだ。全員まとめてかかってこいや!――とも言ってました」
「待て!なんで俺が!?」
何も言ってないなのに陸兎と龍牙からあらん罪を押し付けられ、いつの間にか自分も巻き込まれていることに気づいて焦るねおじさん。
「上等だゴラァ!やっちまえ!」
二人の言葉にキレた観客たちは、一斉に陸兎と龍牙、ねおじさんの三人に襲い掛かった。
襲ってくる観客は数十人もいるが、陸兎と龍牙も裏では最強と言われる退魔師。うっかり殺さないよう極力手加減しながら、次々と襲い掛かる観客たちをなぎ倒していく。
そんな中、巻き込まれないよう必死に逃げていたねおじさんは、戦いに夢中になっている龍牙の背中が目に映った。
「(しめた!この混乱に乗じて、奴らを仕留めれば――)」
ガシッ!
そう思った次の瞬間、巨大な手に頭を掴まれたねおじさんは、「あ!」と声を出しながら、スクリーンに向かって飛ばされた。
ドーン!
衝撃音と共にねおじさんがスクリーンに激突する。
その音に喧嘩をしていた者達の動きが一斉に止まり、呆然とする中でねおじさんを投げた人物・・・いや、
「皆さん!映画は静かに見ましょう」
~♪
数時間後、映画が終わり、エンディング曲が流れながら'完'の文字が映るスクリーン。
「泣けるね。この映画」
この場にいる観客全員が椅子の上に正座し、目元を手で覆いながら泣いていた。尚、屁怒絽は普通に座って観賞していた。
・ねおじさん
原作では土方の命を狙う暗殺者だが、この作品ではとある組織の中間辺りの地位にいる男。この後酷い目に合うのが確定している可哀想なお人。
・駒王陸兎丼
宇治銀時丼とは違う陸兎限定の激甘飯。ご飯の上に宇治銀時丼と同じ量のカスタードが乗っている。当然だが、常人は一口食べただけで甘さでやられる。
・無六スペシャル定食
龍牙限定オリジナル定食。一見普通のロースカツ定食だが、そこにカツからご飯、千切りキャベツに漬物、味噌汁など出されている物全てにカレーをかけるスパイスの大草原。土方スペシャル(ご飯に大量のマヨネーズをかけたヤバい飯。犬の餌)に比べたら体にはいいかもしれない。
今回のパロディは「似てる二人は喧嘩する」です。
陸兎と龍牙、銀さんと土方のような関係を彷彿させる二人が、この後どんなトンデモ展開を引き起こすのか!?後編に続きます。