朝、寝起き早々陸兎は三つの違和感を感じていた。
まず一つは昨日寝ていた布団が明らかに重くなっていること。
二つ目は何かいい匂いがすること。しかも、ただのいい匂いではない。普段から結構な数の女子が自分に寄ってくるから分かるが、この匂いは明らかに女子のいい匂いだ。
そして三つ、先程から自分の上に人が乗っているような感触を感じる。しかも、気配からしてただの人ではなく悪魔である。
これらの違和感から思い至る可能性を胸に秘めながら陸兎は恐る恐る布団を捲る。
「・・・・・・」
そこにいたのはほぼ全裸で眠っていらっしゃる朱乃さんだった。
状況が理解できず、死んだ魚のような目をしながら固まっていると、朱乃が「ん?」と目を覚まして陸兎の方を見た。
「あらあら、おはようございます」
「あ、うん、オハヨウ」
律儀に挨拶してくれたので、片言で返す陸兎。
「少し顔色が悪そうですわね。昨日は良く眠れましたか?」
「あぁ、大丈夫だ。睡眠はもう頭がボーとなるぐらい取れてるから心配すんな。なんなら、今の状況が理解しずら過ぎて、頭も体も全てボーちゃん状態になってるぐらいだ」
そう言って、体を起き上がらせると、陸兎同様に起き上がり、ベットの上に正座したブラとパンティーのみの朱乃の方を見た。
流石二大お姉さまと言われているだけあって、実にナイスバディの持ち主だ。
「んまぁ、いきなり人ん家に住みだしたり、人のベットに忍び込んだり、色々言いたいことはあるが、これだけ言わせてくれ・・・」
陸兎は心を落ち着かせるために一旦呼吸を整えると・・・
「何やっとんじゃーーーーーー!!!」
あらん限りの大声で叫んだ。
それに対し、朱乃はきょとんとした顔を浮かべた。
「あら?ひょっとして嫌でしたか?」
「嫌でしたか?じゃねぇよ!!お前、いつから
「そんなの夜中に決まっているじゃありませんか」
「だろうな!予想通りの答えありがとよ!」
半ばやけくそ気味に叫んだ陸兎は「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」と息も絶え絶えになりながら、再度問いかける。
「何?お前ってそういう悪魔なの?会ったばかりの男の布団に潜り込むハレンチモンスターなの?」
「まさか、殿方の布団に潜り込むなんて、その日の気分でしかしませんよ」
「その日の気分で、まだ会って間もない男の布団に入るもんじゃありません!」
丁寧な口調で再度ツッコミを入れた陸兎は、もうこの話題に関しては切り上げようと思い、朱乃に着替えてくるよう促した。
「とりあえず、さっさと着替えてこい。俺は朝飯の準備をしてくるから」
「それなら、昨日みたいに私が作りましょうか?」
「いや、いい。小猫用のお菓子作りもあるしな」
そう言うと、陸兎は自分の部屋を出ていった。
「うふふ、本当に見てて飽きないお人ですわね」
残った朱乃はいたずらっ子のように微笑むと、制服に着替えるべく自身の部屋に戻った。
「・・・なんで、そんなに不機嫌なんだよ?」
「・・・朝食が美味しすぎましたわ」
現在、朱乃と一緒に登校している陸兎は隣で不機嫌な顔をしてた朱乃に怪訝そうな顔で問いかけた。
どうやら、陸兎が作った朝食が美味しすぎて、女としてのプライドが少し傷ついたようだ。
「そりゃこちとら五年前から一人暮らししてんだ。料理の一つもできねぇで、いったい何食っていけゃいいんだよ。そういうお前も昨日の夕飯、中々美味かったぞ」
「ありがとうございます。料理は小さい頃からしていますので大体の物は作れますわ」
「ふーん。誰に教えてもらったんだ?母親とかか?」
すると、朱乃の足がピタッと止まり、少し悲しげな顔をしながら言った。
「母は・・・死んでしまいましたわ。私がまだ小さかった頃に」
「・・・悪かった」
「いえ、大丈夫ですわ」
どうやら、お互い母親とは既に別れていたようだ。
その後、話題を変えてお互いの休日の過ごし方など日常での生活について会話を弾ませていく陸兎と朱乃。
やがて、学園の中に入り、しばらく歩いたところで朱乃と別れる。
「それでは私はこれで。放課後、また会いましょう」
「おう、じゃあな」
朱乃と別れ、教室の扉を開いた途端、エロ三人組が恐ろしい形相で陸兎に向かって飛びかかってきた。
「八神!なんでお前が朱乃さんと一緒に登校しているんだ!?」
「やっぱり顔か!?顔がいいから女の子にチヤホヤされるのか!?」
「イケメンめ!死にさらせぇぇぇぇ!!」
「はぁ~・・・フンッ!」
その光景を一瞥した陸兎はめんどくさそうにため息をすると、左右にいた元浜と松田の頭を掴み、真ん中にいる一誠の頭に思いっ切りぶつけた。
「「「ふげぇ!?」」」
お互いの頭がぶつかり合ったエロ三人組は情けない声と共に倒れるのであった。
そして放課後。陸兎はオカルト研究部の部室にやって来た。
「ウイース、どうも~ポピパ大好き芸人で~す」
「よっ、八神。相変わらずポピパ好きだな。少しはパスパレにも興味持てよ。アイドルバンドはいいぞ~。特にドラムを叩いている時の麻弥ちゃんの胸揺れといったら・・・!」
「ハイハイ、パスパレ派は黙ってろ。中の人が実際に演奏しているポピパさんはなぁ、他のバンドとはひと味違うんだよ。ちなみに木場は何派だ?」
「僕はRoselia派かな。実力派ガールズバンドなだけあって、聞いてて飽きないよ」
「お、剣夜と同じじゃねぇか。やっぱり、爽やか系イケメンは皆Roseliaが好きなんだな」
「え?何その法則?スッゲー気になるんだけど」
男子三人でガールズバンドトークに花を咲かせていると、陸兎はソファーに座っている小猫を見つけ、彼女の下へやって来た。
「よう、小猫。昨日約束してた通りお菓子作ってきたぞ」
「本当ですか・・・」
お菓子を持ってきたと言われた小猫は少し嬉しそうな顔をした。
「応とも。俺特性、牛乳プリンだ」
陸兎は鞄からラップで蓋されている容器とプラスチックのミニスプーンを取り出し、小猫の前に置いた。
容器の中には真っ白な牛乳プリンが入っていた。
「スゲー。美味そうだな」
近くで見てた一誠も純白のプリンに目を光らせる。
小猫はプラスチックのミニスプーンを手に取り、一口食べる。
「・・・美味しいです」
「そうか、食い終わったら容器は返せよ」
そう言いながら小猫の頭を撫でた陸兎は元の場所へ戻り、再び男子三人でガールズバンドトークに花を咲かせるのであった。
その後、小猫は牛乳プリンを残さず食べ、空になった容器はきちんと陸兎に返した。
陸兎がオカルト研究部に入部した日から数日後
「イッセーが風邪で休みだぁ?」
元浜と松田から一誠が風邪で学校を休んだことを聞いた陸兎は顔をしかめた。
「昨日まであんなに元気だったのにいきなり風邪を引くなんて・・・いったい何があったんだ?」
「・・・もしかして、昨日の夜に初めてをやったからとか!?」
「まさか!?・・・いや、だが前にリアス先輩と一緒に登校してたから、無くはないぞ!」
「おのれイッセー!羨ましい!」
馬鹿二人の会話は無視しつつ、陸兎は一誠の風邪について考える。
「(悪魔が風邪を引くことなんてありえねぇし、こりゃきっと何か裏があるな)」
少なくとも、只事ではないと陸兎は予想した。
そして、その予想は当たることとなった。
夜、陸兎はオカルト研究部の部室に向かっていた。
部室の前に辿り着き、いつも通り中に入ろうとした瞬間
パシッ!
頬を叩いたような音が部室に響き、部室に入ると風邪で休んでいた筈の一誠含む部員全員が揃っていた。
ただし、全員その表情はよろしくない。お互い向かい合う一誠とリアス、一誠の頬には平手で叩かれたような跡がある。そして、それを黙って見守る部員たち。
陸兎はあまり音を立てないように木場の下まで行き、状況の説明を求める。
「・・・何があった?」
「今日の昼頃に自分を殺した堕天使に攫われたシスターを教会まで助けに行かせて欲しいって一誠君が部長にお願いしてるんだ」
木場の説明を聞き、なるほどと言わんばかりに頷く陸兎。
要は女攫われたから助けに行きたいけど、行く場所が教会なせいでリアスに猛反対されているのだろう。
うん、そりゃ反対するわな、と陸兎は思った。上級悪魔ならまだしも、転生してまだ間もない一誠が教会に。しかも、堕天使や複数の悪魔祓いがいるであろう場所に行くというのだ。自殺行為もいいところだ。
前の方を見ると、一誠とリアスが未だに睨み合っていた。
「何度言えば分かるの?あのシスターの救出は認められないわ」
「じゃあ、俺を眷属から外してください」
「できるわけないでしょう!貴方はグレモリー眷属の『兵士』よ!勝手な真似は許せないわ!」
お互い一歩も譲らない一誠とリアス。
すると、魔法陣から朱乃が現れて、リアスに耳打ちした。
リアスは一瞬驚きつつもすぐに表情を戻し、朱乃と共に歩き出した。
「急用ができたわ。私と朱乃は少し外出するわ」
「部長!まだ話は終わって――」
何処かへ行こうとしているリアスを見て、一誠は慌てて制止しようとしたが、その前にリアスが口を開いた。
「いい、一誠。貴方は『
そう言って、リアスは朱乃と共に魔法陣で何処かへ行ってしまった。
リアス達が転移したのを確認した一誠は黙って部室から出ようとしたが、その前に陸兎が扉の前に立ち、一誠の道を遮った。
「どこ行く気だ?」
「決まってるだろ。アーシアを助けにだよ」
「・・・俺はそのシスターの事なんざ一ミリも知らねぇから、お前がそこまで必死になる理由が分からねぇ。だが、今のお前がカイドウもびっくりの自殺願望者だってのは理解できる」
「自殺願望者でもいいさ。アーシアは俺の友達だ。俺が助ける」
「今のテメェはドラクエで言ったところのレベル1だ。それがレベル30の敵に挑むようなモンだぞ。戦う以前に瞬殺されるのがオチだ」
「じゃあ、どうすりゃいいってんだ!アーシアを見捨てて、ただ黙って怯えてろってか!?」
大声で怒鳴る一誠に対し、陸兎は興味ないと言わんばかりの表情で言った。
「知るか、他人にテメェの道を委ねんな。女護って死ぬか、女見捨てて生きるか。テメェにとって納得のいく結果になる道をテメェで勝手に選んでろ」
そう言って、陸斗は部室から出ていった。
「八神・・・」
陸兎が去った扉を一誠は黙って見つめていた。
彼は忠告こそしたが行くなとは言わず、選べと言っていた。それはつまり、行くか行かないかは自分自身で決めろということだ。
選ぶべき道?納得のいく結果?そんなの一つに決まっている。
一誠は意を決した表情で部室を出ようとすると、今度は木場が制止した。
「一人で行く気かい?神器があっても、堕天使と悪魔祓いの集団を一人で相手はできない」
「それでも行く」
「意気込みは立派だよ。でも、無謀だ・・・だから、僕も一緒に行くよ」
予想外の言葉だったのか、一誠は驚いた顔で木場を見た。
「僕もアーシアさんのことは知らないけど、僕は君の仲間だ。それに、部長は『兵士』は敵陣でプロモーションを発揮するって言ってたよね。つまり、部長は教会を敵陣地と認めたんだ。だから、僕が一緒に行っても何の問題はないだろう?」
そう言って笑ってみせた木場に、一誠はこれ以上何も問わなかった。
すると、二人の話を聞いてた小猫が口を開いた。
「私も行きます」
「小猫ちゃん?」
「二人だけでは不安です」
そう言って参加を決意した小猫に一誠は感動してた。
「感動した!俺は今、猛烈に感動してるよ小猫ちゃん!」
「あれ?僕も一緒に行くんだけど・・・」
木場が少し悲しそうな表情で言うと、一誠は「悪い悪い」と謝った。
「よし!行こう二人共!待ってろよ、アーシア・・・!」
決意を胸に一誠たちは部室を出てアーシアが囚われている廃教会へ向かった。選んだ選択の中で最高の結末を手に入れるために。
廃棄された教会付近の林、今その場所に陸兎はいた。
陸兎の目的は二つ。一つは既に廃教会に向かっているであろう一誠たち(木場や小猫も付いてきてると予想している)の戦いの行方を見守るため。もう一つはその廃教会で良からぬことを企んでいるであろう堕天使たちを苛める・・・じゃなくて、捕まえて目的を問いだすこと。
部室から出た後、剣夜から日本陰陽師協会直々の依頼だと聞かされた陸兎は、依頼を果たすべく、一誠たちとは別のルートで廃教会に向かっていた。すると、陸兎同様、教会に向かっているであろう二人の姿が陸兎の視界に写った。
陸兎は特に驚いた様子も無く、その二人に声を掛ける。
「どうやら目的は同じみてぇだな」
そう言って、声を掛けられた人物、リアスと朱乃は陸兎の方に振り向いた。
リアスは驚いた顔をし、朱乃は一瞬だけ驚いたがすぐに微笑んだ。そんな二人に陸兎は近づいてく。
「ここにいるってことは、貴方も依頼されたってこと?」
「まぁな。依頼したのは日本陰陽師協会の連中だけどな。ここ最近、ここら辺に潜んでいる堕天使を捕縛し、目的を洗い出せ。人類の脅威となるなら殺害もやむを得ずってな」
「そう・・・イッセーは?」
「多分先に行ったぜ。一応今のお前じゃ瞬殺されるぞって忠告しといたが、あれはその程度で引き下がるようなタマじゃねぇよ」
「そう思うなら、力尽くでも止めなさいよ・・・」
そう言いながら呆れるリアスに対し、陸兎は大声で笑った。
「ハハハハハ!そいつは無粋だろ!男が女護る為に戦おうとしてんだ。それを止めるKY野郎が何処にいる。あんただって、あんな事言っときながら、ひっそりと許可出しただろ?」
「うふふ、どうやらお見通しみたいですわね」
「はぁ~・・・まぁいいわ。私たちも急ぎましょう」
一応納得したリアスは陸兎を加えた三人で廃教会へと足を運ぶのであった。
・日本陰陽師協会
日本の陰陽師の親睦団体である。本部は東京の何処か(まだ決めてない)に置かれ、十師族同士の会議などが行われたりしている。