死なないからってどうしろと?   作:明石雪路

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リンゴと酒と馬

「ごめん、エルナさん。勝手に決めちゃって」

 

夜。夕食を終えた良太郎は、部屋で新聞を読むエルナに謝罪をした。

 

「なんで謝るのよ。私はあれで良いと思ったから何も言わなかったのに」

 

 信悟の「雇い主のところへ行く」という提案はかなり魅力的な物だった。旅の役に立つ何かがあるというなら是非欲しいし、雇い主が新たな技術を欲しているのならば、「カラドエリア」の情報を売れると考えたからだ。売れれば金になる。旅の資金には困らなくなるはずだ。

 

(この世界じゃ医療は地球と同じくらいの水準らしいし、最悪「俺の中身」を売れば……)

「貴族相手に臓器売ろうとか考えてたらひっぱたくからね」

「ヴェ!?」

 

 良太郎は図星を突かれて奇声を上げてしまった。

 

「旅の旅費は私の貯金で十分足りるから平気。だから心配しなくて良いよ。」

「でも、俺はずっとエルナさんに頼りっぱなしだ。食べ物も着る物も」

「それが契約内容でしょ? 『あなたの肝臓をくれる代わりに、あなたを友達の元へ連れて行く』。私はあなたのおかげで姉が助かったことをすごく感謝してる。だから私も対価として全身全霊であなたを友達と会わせる。なら、物の準備からスケジュール管理まで私が行う。変なこと言ってる?」

「ぜ、全然そんなことないよ。でもな……」

「それとも、私が信用できない?」

 

 眉を下げ、少し悲しそうな顔をするエルナ。

 若干上目遣いで、至近距離で見つめられた良太郎は悩みとか全て飛んでいった。

 ランタンのオレンジ色の光に照らされて金色の瞳がキラキラと光って

 

(可愛すぎるッッッッッッッッッ!!)

 

 良太郎の心中は大パニックになっていた。心臓の鼓動が早くなっているのを感じる。クラスの同級生の女子と話すときはそんなこと無かったのに。頬や耳が熱くなってきた。紅潮しているのだろう。ヤバい、絶対バレたくない。

 

「は、や、あの……。いや俺はエルナさんを信用してる疑った事なんて無いこれからも頼りにしてるそういえば昼間には戦って蹴られてたんだよなじゃあそろそろ休んだ方が良いベッドは使ってくれ俺は外の空気を吸ってくるッ!!」

 

 一息で言い切った良太郎は席を立って部屋を出た。

 一人部屋に残されたエルナは部屋の時計を確認した。時刻は九時頃を差している。

 

「なにそれ」

 

 いきなり早口になって部屋を飛び出したのは何故なのか。エルナはよくわからなかったが、目が泳ぎまくっている様を思い出して小さく笑った。

 傷は特に痛くないし、時間もまだ早い。エルナはリュックから本を取り出した。

 

「私は椅子で良いかな」

 

 

 

 夜風が熱くなった頬を撫で、ひんやりと心地良い感触がする。

 頭も冷えてきたので一安心。冷静になると先ほどの言葉が反芻された。

 

『私を信用できない?』

 

 そんなことはない。何度も窮地を助けてくれたし、今良太郎が英二と美里の元へ行けるのは彼女のおかげだ。ただ良太郎が気にしているのは、

 

(完全に頼り切っているのがな……。旅をマネジメントして貰うのは別に普通なんだろうが、どうしても手伝いたいって思っちゃうな。自分が座ってて人にやって貰ってるとむずがゆくなる)

 

 

「よお」

「ん?」

 

 良太郎がブツブツ考え事をしながら一番上のテラスに出ると急に声をかけられ、見てみると北見信悟がいた。

 傍らには飲み物の入った瓶や食べ物の袋がいくつかあった。

 

「龍童じゃん。何やってんだ?」

「外の風でも吸おうかなって。北見は」

「晩酌だよ。お前もどうよ」

 

 特に断る理由も無いので食べ物を挟んで隣の席に座る。

 月明かりが随分と明るく、夜にも関わらず周りがよく見えた。

 瓶のラベルを見てみると、アルコール何%の文字が。

 

「お前同い年だよな」

「この世界じゃあ15歳から飲めるんだと。郷に入ったら、な?」

「確かに日本人が海外行ったら未成年でも酒飲めるけどさあ」

 

 抵抗を示す良太郎に、信悟はやれやれと言うように肩をすくめた。

 

「わかったよ、じゃあコイツでも食え」

 

 信悟は紙袋から、黄色と黒の縞模様の丸い果実を取り出した。

 

「何コレ?」

「リンゴ」

「こんな蜂みたいな色のリンゴあるかよ」

「でも店の人はリンゴだっていってたぜ。まあ食えばわかるよ」

 

 何が? と思いながら一口。シャリ、と言う音とともに甘い味が広がり、歯に種が挟まった。

 

「は、ええ? 果肉の外周に種埋まってるんだけど。でも味と食感はリンゴだ。美味いけど…これホントにリンゴか?」

 

 引っかかった種を必死に取り出そうとする良太郎を見て信悟は笑った。

 

「ポジション的にはリンゴだ。」

「ポジション?」

「その果実は、果肉の外周に種があって育つと色は黄色と黒になる。でも味や形、育つまでの期間はリンゴだ。この世界じゃそれを使ったジュース、パイがあって、メジャーな果物だ。」

「ああ、俺らの世界のリンゴと、この縞々の果実は同等の存在ってことか」

「そうだよ。結構面白いだろ」

 

 そういって信悟は酒瓶を持ち上げた。

 

「アルコール度数、5パーセント。」

「俺は日本じゃ酒を飲んだこと無かったけど、コレは結構美味いよ」

「……もしかしたらコレも、俺らの世界のお酒とはいくつか違うのかもしれないな」

「お、知りたかったら確かめるしか無いねえ」

 

 ニヤニヤ笑う信悟に酒瓶を手渡されて良太郎も観念した。

 

 数分後。少しばかりテンションが上がって喋る二人の姿があった。

 つまみのポテト(コレも少し地球のと風味が違うが美味い)を食べながら益体もないことをダラダラ話していたが話題はシフトしてゆき、エルナの話になった。

 

「ところでよお、あの金髪美少女と一緒に旅なんて羨ましいことしてるじゃねえか、ああ?」

「まあ、確かにそうかもなあ。すんごい世話焼いてくれるし、料理は美味いし。丸焼きばっかだけど……」

「俺は一人で回って飯も自分で調達してるってのに、くそっ」

「俺は何度も命失ってるけどな」

 

 信悟に肩を殴られ、殴り返した。

 

「だからお前何度も殺されてるんじゃ無いの? 羨まし罪で」

「マジかよ、だとしたら……まだ殺されちゃうなあ、困った困った」

「キエエエエエエ!!」

 

 ついに限界を超えた信悟が良太郎の頬をビンタしたが、動じていないのか良太郎はニコニコしている。キッショ。

 溜飲が下がった信悟は酒瓶を呷り、

 

「でも、エルナちゃんって何者なんだろな。旅の旅費全部負担できるって、そうとうなお嬢様だったとか?」

「森の薬剤師に弟子入りして勉強してたんだって。でもそれにしては結構ダーティーなんだよな……。前に襲ってきた魔術師を殺そうとしてたし。タコとやったときもあんまり動じてなかった」

「物騒だなぁ……。疑ってるなら、ホントのこと教えてって聞いてみれば?」

「えっ」

 

 良太郎のポテトを取る手が止まった。

 

「だってそれが一番早いじゃん。」

 

 確かにそうだ。それが一番手っ取り早い。だが良太郎は

 

 

「いや、全部終わってからでいいや」

「あっそ。まあお前が良いなら良いけどね」

 

 その後も雑談をして盛り上がり、適当な時間に切り上げた。

 

 

 

 部屋に戻ると、エルナが机に突っ伏して寝ていた。

 ベッドが一つしか無いのは部屋代を節約するためだ。エルナは心配するなと言っていたが、良太郎がゴリ押した。

 

「ベッド使ってって言ったのに」

 

 良太郎は苦笑して、エルナを抱えてベッドに寝かせた。鼻孔を良い匂いがくすぐったので、急に犯罪臭がしてきて息を止めた。

椅子に座り、毛布の一枚をベッド下の引き出しから取り出して被って眠る。

 頭の中では、さっきの話が反芻していた。

 

「エルナさんは何者なんだろな。」

 

 やけに戦闘慣れしていること。様々な薬品を扱えること。貯金がかなりあること。そして、人を殺すという選択肢がすんなり出ること。

 堅気では無いのかもしれない。冒険者とか言う職だったのかもしれない。答えは出ない。だが別にそれでも良いと思った。

 身寄りのない良太郎の最初の友達。必死になって助けてくれる彼女が悪人のはずは無い。元の世界に帰るときにでも尋ねればいい。

 そう結論づけた良太郎はやがて微睡み、意識は沈んでいった。

 

 

 翌日の正午。

 

 『駅』で降りた3人は信悟の予約していた馬車を待っていた。

 

「あのウマ何食ってるんだ?」

「焼いた肉かな? チーズ乗っけてるね」

「草食じゃ無いのか」

「この世界のウマは雑食らしいぜ。あれはウマが人を食べないように美味しく味付けしてるらしい。グルメにすることでマズい人間を襲わないようにしてるんだな」

 

 また1つ異世界豆知識が増えたところで、予約していた馬車が来た。舌を出してウインクするウマのロゴをドアに貼り付け、ばんえい馬並に筋骨隆々、モリモリ筋肉を持つウマに引かれて走る一頭立て馬車は3人の前で停車した。

 車輪は黒いゴムが嵌めてあり、車軸にはサスペンション一式が搭載されている。少なくとも地球の歴史において中世の馬車にサスペンションは搭載されていない。御者台には剣が立てかけられている。

 こういう辺りは異世界人の知識の偏りが原因だったりするのだろうか等と良太郎は考えてみる。

 

 眼帯にヒゲという強面に制服と思しきグレーのスーツを来た御者は降りてくると、信悟に向かって言った。

 

「3人ですか。1人と伺っていましたが」

「ああ、新しくできた友達を連れて行こうと思って。代金追加で払います」

「いや、ウチのウマなら二人増えても問題ありません。むしろ箱が少し手狭になるが、変えますか?」

「大丈夫ッス」

 

 ジロリと赤い隻眼で睨まれ、良太郎は思わず肩をすくめてしまう。エルナは全然ビビっていないが、胆力はどうなっているのか。

 

「馬に水を飲ませたらすぐに出発します。トイレは済ませておいてください。途中で降りられません」

「えっ?! あ、はい」

 

 ドスの利いた低い声で引率の先生みたいな事を言われてしまった。

 

「飴いりますか?」

「い、いただきます」

 

 軍曹みたいな見た目と慇懃な気遣いのギャップで少し混乱してきた。

 飴は滋養効果を優先するタイプだった。好みの分かれる味で、良太郎と信悟は苦い顔をした。エルナは結構気に入っていた。

 

 

 御者と良太郎達三人を乗せた馬車は険しい山を登って屋敷へ向かう。ゴムタイヤなどの悪路対策が無ければ尻が4つに割れていただろう。

 

「随分へんぴな場所にあるんだな。貴族なんじゃないの?」

 

 良太郎が言うと、隣に座るエルナが返した。

 

「この辺りって結構レアな鉱物が採れる所よね。それ目当て?」

 

 エルナの推測を、向かいの席に座る信悟が肯定した。

 

「そうそう、鉄だけじゃ無くてね。魔力伝導率の高い魔鉱石も良くとれるらしい。魔術工学の研究を進めるには最適な場所なんだとよ。高い金払って山ン中にラボを建てたんだ」

「よっぽど研究に対して真面目なんだな。その人は」

 

 

 

 

グレイシャープ家、研究ラボ。

 

「旦那様。旦那様……。クソジジイ!! ××××!!」

「ああ? なんじゃいうっさいのお!! もっと静かにしゃべりなさい!」

 

 

 話し声よりもうるさい金属音を立ててハンマーを振り下ろす上裸の老爺は、メイドにやかましい胴間声で返事をした。

 

 

「北見様がもうすぐお帰りになるそうです。あと、会わせたい人間がいると」

「あのガキ途中で殺されたりしなかったか、よしよし。給料上げといてやれ。あと、なんかおおっぴらに言えない悪口とか言わなかった?」

「言ってません。それより、もうお年なのですから無茶は控えてください。今年70でしょう」

「無茶ァ? この肉体で無茶な事なんかあるかい! それになにより…。」

 

 

「ワシが国の次世代技術を支えてやらねば、誰がやるってんだ?」

 

 アレグリオ・グレイシャープはタバコに火をつけ、自信たっぷりに言い放った。。

 




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