死なないからってどうしろと?   作:明石雪路

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血液型は無くなった

「随分と頼られたもんだな。この英雄さんは」

 黒髪の女、新見咲耶(にいみ さくや)は、そう呟いて絵本を閉じた。

彼女がいるのは、大司教にあてがわれた一室だ。高級ホテルの如き豪華絢爛な様はここが王国大聖堂の一室であることを忘れさせる。

彼女が呼んでいたのはこの国では桃太郎レベルにメジャーな『ベルグベルツのえいゆう』という童話である。

戯れに手にとって見たが、

(結局超がつくほどのお人好しが人助けするだけの話だったな。まあ、子供に『見習って人に親切にしろ』って教えるための物だし、当然っちゃ当然か)

絵本を木製のデスクに置く。

ソファから立ち上がると、暖炉の上の時計を確認した。時間だ。

白衣を羽織ると、ドアを開けた。白衣なんて目的地ですぐに脱ぐのだが、この聖堂内での身分証のようなものなので仕方が無い。

ドアの両脇に立っていた警備(と言う名の咲耶の見張り)に

「私はこれから施術だ。その、今回も来るのか」

「肯定です。私が同行します」

そう言って警備の一人がついてきた。身の丈ほどの槍を持ち、腰には短剣を帯びている。左胸のエンブレムは、ペンタグラムの中の中にアームの等しい十字架。何があってもマニュアル通りな、つまらない男である。

 

カツカツと硬質な足音が屋根の高い聖堂に響く。耳を澄ますと、下の階層から僅かに喧噪が聞こえてきた。宴か何かでもやっているのだろう。ゲラゲラと下品な笑い声が聞こえてくる。一応ここは国で最も大きな宗教組織、『アーディア教』の総本山なのだが……。

「君は行かなくてもいいのか?」

「私の任務は貴女の護衛です」

なんともつまらない返事だ。

目的の部屋のドアを開けると、そこは現代的な空間が広がっていた。

手術室。

その部屋を一言で表すならそれが一番合っているだろう。

壁は一面大理石で覆われている。部屋の中央に設置されている手術台は、石の上に布を重ねて作ったマットが敷いてあり、更にその上に絹のシーツをかぶせてある。

地球のルネサンス調とロココ調を混ぜたようなデザインの大聖堂には似合わない一室は、最近召喚された『聖人様』のためにわざわざ用意されたものだ。

部屋にはすでに三名の人間がいた。

一人は、部屋のなかの護衛。先ほど側を歩いていた護衛と大差ない格好をしており、部屋の隅でたたずんでいる。

もう一人は、黒い祭服に身を包んだ神父。カトリック教会の司祭平服にも似ていた。

そして、三人目は手術台に横たわる少年。

胸から腹にかけて患者服を開けて露出させている。

あどけなさの薄まった、少し大人びた顔は今は安らかな眠りについており、これから起きることなど欠片も暗示させない。

「彼はちゃんと意識を失っているんだろうね?」

「もちろんです、ドクター。五時間は起きることは無いでしょう。」

「ならいい」

緑色の手術服に着替えた咲耶は、丹念に石けんで手を洗うとタオルで水気を拭い、少年の脇に立った。

 腹の近くに立ち、両手を胸の高さで上げるその様はこれからからオペを始める事を如実に表している。

本当はゴム手袋もしたかったが、そもそもこの国……否、この世界に無いのだから仕方ない。

「では始めよう。」

(くそくらえだ)

咲耶は心の中で舌打ちをした。

こんなものは手術でもなんでもない。ただの搾取だ。

それでも自分は逆らうことが出来ず、言われるがままにここに立っているという事実は、彼女に取って生き恥に他ならない。

(すまない)

咲耶は、少年の胸にメスを刺し入れた。

 

少年、龍童良太郎は、薄暗い石づくりの牢屋の中で目を覚ました。

 寝起きの頭は霞がかっているのか、思考がハッキリとしないが、少なくとも自分が見たこともない場所で寝ていたということはわかった。学ランではなく見たことのない麻の服を着ていて、木の手枷が嵌めてあった。

 

 「ここは、何処だ……?」

 

 無意識に呟く。石と大して変らない感触のベッドのせいか、背中がズキズキ痛んだ。

 

 首をゆっくり動かして周囲を見渡す。

 四畳ほどの細長い部屋だった。自分の今横になっているベッドをもう二つ並べたら部屋は埋まってしまいそうだ。さして狭くないのだろうが、窓が鉄格子の向かいの壁の高い所に一つしかないので奇妙な狭窄感を醸し出していた。足下のほうに便器、鉄格子に食事を入れるためのスリットがある。こういうのはユニットベッドルームとでもいうのか。

 不意に喉の渇きを感じた。

 鉄格子の向こうに人影が見えたので、

 

 「すみません、水を一杯くれませんか?」

 

 鉄格子の側に立っていた人間が、こちらをみた。

 ヘルメットのような兜に、身の丈ほどもある槍。左胸の、ペンタグラムの中にアームの等しい十字が描かれたエンブレムは所属組織のものだろうか?

 

 「お目覚めになられましたか。」

 

 少し安堵したような顔をして、どうぞと木製のジョッキに水を汲んで渡した。

 格子の隙間から受け取って礼を言うと、手枷に難儀しつつも一口飲む。

 ひんやりと冷たい感覚が喉から渡り、一息ついた。

 冷たい水を飲んだからか、意識が大分しゃっきりしてきた

 「ここはどこなんでしょうか?」

 「ここはウィラト大聖堂の地下の牢屋です。意識がハッキリしたようなので、先生を呼んできますね」

 

 そう言って兵士の男は去って行った。

 思考がクリアになると、疑問が次々と湧いてくる。

 聖堂なんて聞いたことがない。ここは日本なのか。何故自分は鉄格子の中で手枷を嵌められているのか。出してもらえるのか。牢屋の中なのに兵士の態度が柔らかいのはなぜなのか。

 眠る前の最後の記憶があやふやだ。冷静になって記憶を探ってみる。

 

 思考にふけっていると、外から足音が聞こえてきた。なにやら騒がしく、揉めているようだった。

 

 「おやめください、これから診断を控えているので、面談は後で……」

 「あーあー、うるせえなあ。俺がこの教会にどんだけ貢献してきたと思ってやがる。テメエ如きがオレと同じ戦果だせんのか? 命令出来る権利があんのかよ」

 「しかし……!」

 

 足音を立てて、一人の男が牢屋の前に立った。

 若い。年は良太郎と同じくらいか。真っ赤なジャケットにパンツ。ファッションに疎い良太郎でも、趣味が悪いとわかる格好だった。

 「おいおいおい、この聖人様はもうお目覚めじゃあねえですか」

 

 不快感を呷る口調で喋る男。

 

「あなたは、誰ですか」

「緊張しなくていいぜ、龍童。同い年だしな。タメ口許してやるよ」

「……じゃあ、アンタは誰だ」

 

 良太郎は男の尊大な態度がひっかかり、少しむっとしてしまう。

 

 

「ウィラト大聖堂護衛隊長、金城彰。日本人な」

「日本人って、そこの人は違うのか」

「今この世界にゃ日本人は百人くらいしかいねえよ。オレからしたら百人も、だがな」

 

 金城のその発言は、良太郎の疑問を大きく刺激するものだった。

 

「どういう、ことだ? 日本人が百人くらいって、ここは、この大聖堂があるのは日本じゃ無いのか?」

「うるせえな、別にオレはテメエとお話したいわけじゃねえんだよ。ただ大司教のオッサンの話が本当かどうか試したくてな」

「何の話だ……?」

 

 金城は、右の人差し指を立てて良太郎に向けた。

 

「?」

 

 急な金城の行動が理解できず、ついその人差し指を見てしまう。

 

 そのとき、不思議な事が起こった。

 

 金城の指先から唐突に炎が発生し、球状になって良太郎に飛んできたのだ。

 

「うわあ!」

 

 注視していたおかげで、首を横に振ることには成功したが、躱しきれずに左耳に命中した。

 

「ガッ、アアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 

 火の球は左耳に着弾すると爆発し、良太郎の耳を吹き飛ばした。

 肉がえぐれ、血が噴き出す。左から音が聞こえなくなった。鼓膜が破れたのかもしれない。

 急に湧き上がる激痛で、バクバクと心臓の動きが速くなるのがわかる。

 

「ハッ、ハッ、いきなり、何すんだ……。」

 

 息も絶え絶えの良太郎が金城を睨むが、当人は罪悪感など欠片も見せない。むしろワクワクと目を輝かせて良太郎を見ていた。

 

「いいから、左手どけろよ。傷口見えねえだろ」

「なんっ、お前、俺に何したかわかってッ……!」

 

 そこまで言って、良太郎はギョッとした。

 左手に、耳の感触があった。

 

「えっ」

 

 信じられないというように左手でまさぐると、先ほど吹き飛ばされた耳が元に戻っている。流れていた血も止まっており、袖で拭うと、直ぐに綺麗になった。聴覚の違和感もない。

 人の耳を吹き飛ばしたくせに金城はテンションがブチ上がっている。良太郎は困惑していた。

 

 

 

「おお、本当に治るんだな! すげえ、おもしろ!」

「どうなってんだ、これは!」

「もうちょっと試してもいいか?!」

 

 興奮冷めやらぬ金城は外道な企みの元、再び人差し指を向けた。

 良太郎は目をつむって痛みに備えるが、結局火球は飛んでこなかった。

 そっと伺うと、白衣の女が金城の腕を掴んでいた。

 

「君、私の患者に何してるのかな。何か問題が起きたらどうするつもりなの?」

「んだよ、ババア。どうせこいつは死なねえんだから少しぐらい怪我すんのはいーだろ」

「再生能力には未知の部分が多い……。君の能力が下手な干渉によって龍童君の再生能力を阻害するケースも無いと言い切れない。そのとき処分されるのは誰だろうね。武力系の転移者の席って少ないんじゃないの?」

「死ね」

 

 金城は女の腕を払って一言吐き捨てると、その場を去って行った。

 

 「コンプレックスの塊だな。折角異世界に来たのに没個性な能力だったからか」

 「えと、あなたは」

 

 そうだった、と女は牢屋に向き直り、椅子を鉄格子の前にもってくるとドカリと腰を下ろした。手をしっしと払うと見張りは出て行き、地下室には二人だけ残った。

 

「こんばんは。私は新見咲耶。君の担当医だ」

「龍童良太郎、です。担当医師というのは?」

「そのままの意味だよ。君の体調管理、メンタルヘルス、施術を担当している。今回は術後経過を見に来たんだ。施術するようになって、初めて意識がはっきりし始めた日だからね、今日は。」

「術後って、俺はどこか悪いところがあったんですか? 病気かなんかで、だから牢屋に隔離的な?」

「いや、違うよ。牢屋にいるのはただ、逃げないように、だ」

 

 強調するように咲耶は言う。

 良太郎は意味がわからなかった。自分の過去を顧みても牢屋に監禁されるような罪は犯していないと思うのだが……。

 

「じゃあ、どうして俺は牢屋に」

「君の耳が治る事に関係しているよ」

 

 言われて、良太郎は左耳をなでた。あきらかに吹き飛び、鼓膜まで破けた良太郎の左耳は今は何事も無く再生している。

 

「率直に言おう。君はこの世界に召喚されてから、心臓を五つ、肺を六つ、肝臓を九つ、腎臓を十四個摘出されている。」

 

 「は?」

 

 訳がわからなかった。召喚されるとはなんだ。そしてなんで臓器が二桁も摘出されるのだ。人間の臓器はほとんど一つか二つであることは小学生でもわかることだ。

 

「何かの冗談ですか?」

「いいや、マジだよ。この世界に来て受け取った君の祝福は〈不死身〉。つまり肉体がいくら破壊されても再生するんだ。耳も治ったろ?」

 

 現実感がなかった。召喚された、不死身になったと言われて、はいそうですかと受け入れる奴がどこにいる。先に隠しカメラとパネルを抱えたADでも探した方が賢明というものだ。

 だが、良太郎はついさっき、金城の異能とも呼ぶべき力の破壊力、そして不死身能力の一端を実地で体験している。吹き飛んだはずの左耳をなでた。

 じゃあ、ウソじゃ無いのか。いやでもまさか。

 混乱して言葉が出なくなった良太郎を見かねて、咲耶はつづけた。

 

 

「とりあえず、今の状況について説明しておこう。

 ここは我々の住んでいた日本国ではない。というか、世界が違う。別の星とか、別の銀河とか、そういうのではない。異世界というやつだ。

 君は今から一週間前に、友人と三人でこのウィラト大聖堂の祈祷室に召喚された。召喚というのはこの聖堂の、アーディア教オリジナルの奇跡のことでね。この国を助けてくれる、祝福を与えられた勇者を呼ぶものらしい。実態は私たちの世界からランダムに無許可で人間を呼び出して異能を付与して厄介ごとを押しつける他力本願なシステムなんだが。」

「はー、いやっ、うーん……」

 

 突飛な内容に頭の処理が追いつかない。異世界。異世界である。頭の中で反芻してみるが、やっぱりしっくりこなかった。クラスのモッサリメガネがめちゃくちゃ押しつけてきた小説にそんなタイトルのものがあったような……。召喚はわかる。マナを払ったり、モンスターを一体か二体生け贄にするやつだ。

 

 頭をひねって思考を巡らせる良太郎に、咲耶は言った。

 

「正直このあたりは飲み込んでくれないと困る。もっと驚くべきことがあるのでね」

「わ、わかりました。……じゃあここが異世界だとして、さっきいっていた祝福というのは?」

「祝福ってのは君の不死身とか、金城の炎とか、まあ超能力のことだ。この世界に呼び出された人間はもれなく祝福を受けている。私もね。」

「ちなみに、どんなものか聞いても」

「〈解析〉。見ている物を十全に理解する力、だよ。数式を見れば途中式と答えがわかるし、けが人を見れば何処が重傷でほっておくとどのくらいで死ぬかとかわかる。」

「な、なるほど?」

 

 正直よくわからなかった。

 というか、ちょっと待て。

 

「友人というのはなんですか? 俺は一人でここに来たわけじゃないんですか?」

「ああ。同時に二人、男子一人と女子一人で召喚されたと聞いたよ。黒髪で背の高い男子と、茶髪でセミロングの。名前は……」

「刃金英二と旅掛美里?」

「そうそう、そんな名前だ。」

 

 その名前は、龍童良太郎にとって忘れられるはずのない名前だ。

 同級生である刃金英二と旅掛美里。彼らは良太郎の幼なじみであり、かけがえのない親友なのだ。

 

「今、あいつらはどうなっているんですか? 俺みたいに体を切り刻まれているんじゃ」

「そんなことはない。君の祝福が特殊なだけで、彼らは大司教の命令によってしかるべき場所に派遣されているはずだ。VIP待遇で。」

 「そ、そうですか。なら良いか……?」

「よくはないよ」

 

良太郎の楽観を、咲耶は真っ二つに否定した。

 

 「よくはないんだ、良太郎君。このままでは君たちは非人道的な扱いを受けて使い潰され、きっと元に戻れなくなる。」

 「え?」

 

 咲耶は真剣な眼差しで良太郎を見つめて言った。

 

「君はすでに元に戻るから、と言う理由で不当に臓器を摘出されている。もしこれが地球なら無許可の臓器摘出によって傷害罪だ。この時点でこの世界のモラルなんでたかがしれるが、そんなことはどうでも良い。

考えてみたまえ。不死身を成立させるほどの再生力を持つ君の腹をどうやって切り開くんだ。切開しているうちに傷は塞がってしまうだろう。」

「え……」

「答えはね、器具を使って傷を固定するんだ。張り付かないように頻繁に交換しながら。そして君には薬効耐性もあるから麻酔は効かない。だから魔術師による催眠魔術をかけて施術をおこなっていたんだよ。精神に作用する魔術は被術者へ甚大な影響があるはずなのにだ。意識が一週間戻らなかったのもそれのせいだ。」

「……でも、寝ている時に行われるんでしょう? それで再生するなら、助かる人がいるなら、俺の臓器をいくらでも持って行ってもかまいません。」

 

 良太郎はきっぱりと言い放った。

 咲耶は絶句した。牢屋の中の目の前の少年は、痛くないなら臓器をとっていけと言っているのだ。お人好しなのか、深く物事を考えていないのか。二十年と少し生きてきた咲耶にとって見たことのない人種だった。痛みを感じないとはいえ、自分の体を刻まれるよりも他人の治療を優先するとは、まるで幸福な王子様だ。

 だが、現状が見えていないのならば教えるだけだ。

 

「じゃあ良くない理由を追加しよう。問題はそれにすら耐性をつけ始めていることと、この教会連中は神ではなく金に仕えていると言うことだ。麻酔や魔術が効かなくなったくらいで君という金のなる木を手放すとは思えない。いつか君は生きたまま腸を抜かれる羽目になるぞ」

「な……」

「それだけじゃない。君の友人二人の派遣先は戦場だ。派手に戦火が飛び交い、派手に人が死んでいくそうだ。特別な訓練を受けていない高校生がそんなところに送り込まれて、生きてゆけると思うか? 死ぬことはなくても、正気を保てるわけがないと思わないか?」

「そんな……」

 

 今度は良太郎が黙る番だった。不死身なら、そして誰かが助かるなら臓器をいくらでも持って行ってもかまわない。だが、生きたまま身を斬られる覚悟なんてできるだろうか。それだけではない。大切な二人が危険な目に遭うのだとしたら……。

 

「先生、俺はいつこの牢屋から出られる?」

「この国から臓器移植を必要とする人間がいなくなるまで、とか大司教は考えそうだ。なんせ君の臓器は誰に対しても拒絶反応を起こさないから、将来君を必要とする人間が現れるなんて言ってね。」

 

 良太郎の心の中で、焦りが生まれ始めた。映司は、美里は無事なのか?

 一刻も早くここから出て、二人を探したい。会いたい。そして、元の世界に帰りたい。

 自然と毛布を握りしめていた。

「君、この牢屋から出たいか? 友人たちと元の世界に帰りたいか?」

「! もちろん。俺は、最初はこんな目に遭うのは自分だけならいいかと思った。助かる人もいるわけだし。けど、俺の友達が危険な目に遭っているなら助けに行きたい。悪いけど、世界のどこかの誰かよりも俺の大切な人を優先したい……。こう考えるのって、俺は嫌なやつかな」

「全然。いたって普通の感性だよ。」

 

 咲耶はあっさりと言い切った。

 

「なら、覚悟を決めたまえ。これから襲いかかる痛みにも、絶望にも、打ち克つという覚悟を。」

 

 咲耶はそう言って立ち上がり、白衣のポケットから鍵を一つ放り投げた。

 慌てて手かせのはまった両手で受け止める。

 「これは?」

「三階の東側一番奥の私の研究室の鍵だ。近いうちにチャンスが訪れたとき、中にあるものをもっていきなさい。アーディア教の最強兵器を調べてやるという名目で置いてあるんだ。それじゃ」

「待ってくれ、どうして俺の脱走を手助けするんだ」

「医者は患者の意思を尊重するものだろ?」

 

 咲耶は牢屋の前から立ち去り、薄暗い地下室には龍童良太郎だけが残った。

 

 




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固有名詞ちょくちょく間違えてるごめんなさい。
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