死なないからってどうしろと?   作:明石雪路

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 やっと時間がとれました。


いろいろごと

良太郎とエルナがバイトを始めて三日目。

 2ケツしたスクーターが、グレイシャープ家の屋敷のある山から下りてきた。ブルブルと弱々しい駆動音()をならして、麓の馬車駅の近くに停まった。

 そこそこ人目に付く場所であるが、特に隠す必要も無いので放っておく。

 良太郎は作業用のツナギ、信悟は今日もスーツである。

 

 運転手の良太郎がスタンドを立て、エンジンとタイヤの魔力経路を立つ間に、『左手』から記録用紙とスケッチボードを取り出して書き込み始めた。

 

 

「なあ、停めるのこれでいいんだっけ」

「それでいい。少し記録を取るから、受付の近くの鳩郵便でハリーさんから手紙来てないか見てきてくれ。あとベーコンサンド買ってきて。チーズをたっぷりと振りかけてさ」

 

 

 良太郎が買い出しに行っている間、信悟は屋敷から麓までの走行記録を書いていた。

 距離20キロを30分。走行機能はだいたい地球のスクーターと同じくらいだ。

 二人乗りであることと、踏み固められているとは言え山道を走破できたことを考えるとまあまあの性能と言えるだろう。その代わり時速40キロに届かないくらいが全速力なので、なんとも言えない。性能の割に制作費用がえげつないので性能よりも材料面で見直すべきか。

 車軸をチェックすると、小さなヒビが入っていた。魔力伝導率の高い素材を選んだ結果、強度が足りなかったようだ。再び左手から工具箱とパーツケースを取り出すと、レンチを取り出してパーツの交換を始めた。

 

 

「戻ったぜ」

 

 

 作業がちょうど終わった頃に後ろから声がして振り返ると、良太郎がホットドッグとベーコンサンドを持って立っていた。

 近くの木陰で食事を取る。

 飯を食べながら良太郎が尋ねた。

 

 

「そのスクーターのメンテとか慣れてるけどさ、こっちでずっとそういうの勉強してんの?」

「ああ、屋敷に雇われてからは博士とハリーさんからたたき込まれた。」

「ふーん。ハリーさんって紳士みたいな人だろ。初日に出かけちゃったからよく知らないんだよね。どんな人?」

「くそ真面目だな。丁寧で冷静で優しいけど厳しくもある……みたいな。完璧超人だ。あとクソ強い」

「強い?」

 

 

 ゴクンと飲み込んで、昔の恥ずかしいときの事を思い出すように言った。

 

 

「俺がこっちに来たばっかりの時さ、半年くらい前だけど、結構荒れてたんだよな。ネットも無いし知り合いもいないし、やっと貰った変な能力は他の奴よりもショボかったもんだから教会の奴も俺を舐めてたし。そんなときに俺を見つけてくれたのが博士で、会いに来てくれたのがハリーさんだ。アレが無かったら俺は今頃あの、前言ってた……クイロ? みたいにヴィランみたくなってたかも」

「北見がねえ。人に歴史ありってやつか」

 

 

良太郎は信悟におちゃらけているイメージを持っていたので、そういう過去があるのは意外だった。

 

 

「この屋敷に来る時も地球人を排斥しようとするグループに襲われたんだけど、ハリーさんが助けてくれた。そん時に言ってくれたんだ。『あなたは我々にとって必要な人間です、どうか生きるのを諦めないでくれ』ってさ」

「へえ」

 

 

 興奮した様子で話す信悟を、良太郎は相づちを打って聞いていた。

 

 

「ヤバかったよホントに。バッタバッタと氷柱とか冷気で倒してってさ。息一つ乱れてないし超かっこよかった。それで憧れて俺もスーツ着てんだ……」

「そうか」

「そうだ、手紙来てたか?」

「貰ってきたよ。ほら」

 

 

 ポケットから封筒を取り出すと、信悟に渡した。

 

「ふーん。明後日には帰れるのか。明日伝統派の待ち合わせに強襲して警史に突き出してから帰るって」

「一人じゃ危なくね? あのジョン・マクレーン並に厳つい奴がまとめてる組織なんだろ。みんな強いんじゃないの?」

 

 

良太郎は船での戦闘を思い出した。カラドエリアのパンチを受け止め、倍以上の力で投げ飛ばした怪力。二度と会いたくない相手だ。

「まあハリーさんだし勝つだろ。」

「なんて雑な。それフラグだからな」

「いやお前マジで舐めんな。あの人超つえーし」

「……」

「…」

 

 その後適当に雑談を続け、昼ご飯のゴミを捨てると屋敷に戻った。

 

 

 屋敷に戻ってからは再び試作品のテストがあった。ホバーや反発力(?)で浮くマジカルギミック搭載機が多かったが、どれも失敗。良太郎がいっぱい命を散らせて終わり、タイヤが一番という結論に至った。

 

 

 

 

その夜。

 

 良太郎達が食堂で夕食を摂っていると、遅れてアレグリオが入ってきた。

 

「いやスマン遅れてしまった悪いがワシは夕飯を部屋で食べようと思う。」

 

 

 入ってくるなり、早口でアレグリオが言った。随分な言い草だな、と良太郎は思ったが、アレグリオはどこか変な様子である。先の言葉を言ったきり何も言わなくなってジッとルカを見つめている。

 

 

「承知しました。夕飯は、」

「おお、それは美味そうだ。いただこう」

 

 

 まだ何も見せていない。

 ルカはソレで何かを察したようで、黙ってキッチンに向かった。

 

「ねえ、アレは何なの?」

 

 エルナが尋ねると、信悟は肩をすくめただけだった。どうやら彼は知らないようだ。

 

 

「どうぞ」

「ありがとうでは部屋でいただこう」

 

 

 それだけ言ってアレグリオはさっさと出て行ってしまった。

 

 

「メイベルさんは何か知ってるんですか?」

「ついて行くと面白い物が見られますよ」

 

 

 それは気になる。

 良太郎は最後のパンの一切れを放り込むと、席を立った。

 

 

おかしな博士に興味を特に持たなかったエルナと信悟はそれぞれ部屋に戻ってしまったので、良太郎だけアレグリオを探すことになった。

 ランプが薄く照らす廊下を良太郎が一人歩く。

 外から見た感じと中を歩いた感じでは広さが違う気がする。コレも魔術のおかげなのかと考えながら廊下を歩いていると、薄く開いているドアを見つけた。

 何かと思ってのぞき込むと、歯抜けの本棚と目が合った。ここは書庫のようである。

 四角い部屋の真ん中に大きな本棚が等間隔に並んでいるのだ。

床は大量のハードカバーの本が散乱し、荒らされたような散らかり具合である。壁も天井まで届くほどの本棚がなっていたが、こちらもやはり所々本が抜け落ちている。

 踏まないように気をつけながら部屋の端の角まで行くと、向こうの奥の角で開かれた本が浮いていた。しかもページはペラペラとめくられている。耳を澄ますと、カチャカチャと何かがぶつかる音も聞こえてくる。

 

 

「なんかの魔術かな」

 

 

 あり得ない光景ではあるが、良太郎は鎧が体の中に埋まり、腕を腹に突っ込まれ、バイク事故で吹き飛びタコに食われても生きている男である。そこまで驚くことは無く、カラスが券売機で切符を買っているのを見るような気分で観察していた。

 良太郎がよく見ると、何かが本を持っている。何故かぼやけてよく見えない。

 

 

(なんだアレ……)

 

 

そちらに集中していたからか、良太郎は足下の本の山を崩してしまった

 

 

 すると変化が起きた。浮いた本がページをめくるのを止め、何かが良太郎の方を見たのだ。

 それは、光が人型になったと言うべき造形をしていた。頭があり、体があり、腕があり、足があった。それらは全てぼんやりと光を放っている。その光る腕は本をもっている。先ほどページを捲っていたのはコイツだろう。

 しかしなんと面妖なことか。顔も何もなく、ただ、光が人型となっている姿は不気味であった。

 

「おい、何してんだ」

 

 ノイズかかった声でそんなことを言いながら、スイ、と空中を滑って光ののっぺらぼうが良太郎に向かってきた。カラスの券売機どころでは無い。口さけ女が長ドス握りしめて突っ込んできた様な物だ。

 

 

「へえあああ装着!」

 

 

 だっさい悲鳴を上げながら良太郎は反射的にカラドエリアを展開。赤の騎士となって諸刃の剣を抜いた。切っ先を光に向けると、

 

 

「落ち着けリョータロー」

 

 

突如本棚が迫り、壁側の本棚に押しつけて良太郎をがっちりと挟み込んでしまった。

 カラドエリアで良太郎のパワーは上がっているはずだが、それでも動けない。本棚も何かしらの力を受けているのだ。

 

 

「ふんぬぬぬぬ……あれ?」

 

 

書庫荒らしの犯人。光ののっぺらぼう。それらの正体は、カラドエリアによって拡張された視力が教えてくれた。

 

 

「グレイシャープ博士?」

「イキナリ人の書庫に入ってワシを殺そうとするな。」

 

 

 ふわふわと浮きながらアレグリオはため息を吐いた。部屋の隅ではアレグリオの肉体が無心にパンを口に放り込んでいた。

 

 

 

 魂を体に戻したアレグリオは

 

「ウオッ」

 

 

 レモンの皮を吐き出した。肉体を自動操縦にした結果、皿の上の物を全て食べていたらしい。エフエフと咳き込むアレグリオに、良太郎は尋ねた。

 

 

「幽体離脱してたんですか?」

「まあな。栄養を摂りつつ勉強も出来る。昔はこれで学院のテストを乗り切ったもんだ。」

「寝ながら飯食ってるみたいだ。体調とか平気なんですか?」

「全然。体に戻ったときに少しふらつくが、ソレが収まると元気が沸く……チッ!!」

 

 

 良太郎は目の前で歯の隙間の肉の筋が詰まりまくって不機嫌そうなアレグリオを見て、便利な魔術とは思わなかった。

 スジをとってスッキリとした表情になったアレグリオは、思い出したように言った。

 

 

「というか、お前さんの方が無茶しとるだろう。カラドエリアなんて骨董品の鎧着て森の主を倒すなんてな」

「!!」

 

 

 カラドエリア、そして森の主というワードを聞いて良太郎は反射的にアレグリオを見た。

 

 

 カラドエリア。

 大聖堂の研究室で日本人、『解析』の祝福を持つ新見咲夜によって良太郎に託された魔道具。あらゆる身体能力の強化と三つの装備形態、そして命を削る副作用をもつピーキーな鎧である。

 良太郎はソレでもって襲いかかったタコに似た怪物を

 

 

「赤色の鎧騎士ってカラドエリア着たお前だろ。黒バンダナはドルドエヴァか」

「知ってたんですか?」

「これでもこの国の魔術工学の第一人者だからな。新聞の写真と、テストの時に見せた蒼色の鎧ですぐにわかったよ、お前さんが指名手配中の悪党コンビだってな。」

「……どうしてすぐに警史に突き出さなかったんですか?」

「じゃあ、お前さんらは悪党なのか?」

「いえ」

「そういうことだ」

 

 それでいいのぉ? 良太郎はいまいち納得いかなかったが、自分が悪人でないことがわかってくれているようだったのでそれ以上追求しなかった。

 そして何より聞きたいことがあった。

 

「あの、博士はこの鎧について何か知っていることは無いですか?」

「見た感じお前、鎧のすごさわかってなさそうだな。良いぞ」

 

 オホンと咳払いをして、

 

 

「太古の昔、空から来る悪魔を討伐せんと国に100万の騎士が集結した。彼らは世界中のレアメタルと、発見されていた数多の魔術を集めて作られた鎧、魔装天鎧を身に纏って戦場に突撃した。その鎧の頑強さたるや、一万の死者も出さなかったほど。悪魔は絶滅し、人類の天敵も現れず不要となった鎧は鉱石に戻され、乗り物や装飾品などに姿を変えた。今残っているのは博物館や学院の研究資料と教会の倉庫に10着あるかどうか……」

「じゃあめちゃ貴重じゃないですか!」

「めちゃ貴重だ。教会から持ってきたんだろ? 普通に指名手配するレベルだぞ」

「……まあどうせ俺自体も捜索対象だろうし、国宝の一つや二つ持ってても同じかな……」

「お前さんといいシンゴといい、地球人の境遇には流石に同情したくなるな」

 

 

 うつろな目で現実を受け止めた良太郎に、アレグリオは珍しく同情的な言葉をかけた。

 

 

「そうだ、博士はこの鎧に興味ないんですか? 一応コレも魔道具ですよね?」

「ない。学院の卒業研究で死ぬほど記録とって見飽きたし。それに、結局ソレは兵器だからな。ワシはもう兵器は作らねえ」

「さいですか。……『もう』?」

 

 

 言葉尻を捉えて良太郎が繰り返すと、アレグリオは一瞬後悔したような顔をして、不機嫌になった。

 

 

「もういいだろ。明日も朝からテストするんだからさっさと寝ろ」

「わかりましたよ。……そだ、肉体を操作するときはもっと語彙とか抑揚とか増やした方がいいですよ。不自然極まりなかったから」

「魂引っこ抜いて生き霊にするぞ!」

 

 

 散らばっているハードカバーが浮き上がりべしべしと良太郎を叩き始め、良太郎は突然のポルターガイストにひいいと悲鳴を上げて部屋を出て行った。

 そんな後ろ姿を見て、アレグリオは昔教鞭を執っていた頃を思い出した。

 

??? 場所不明。深夜

 

 

 伝統派のボス、ネス・ミルドズムは部下を数名連れて宿場町外れの廃墟に向かっていた。

 数年前に閉鎖された劇場だ。街の中心部に新しい劇場が出来てから客足が途絶え、今では堅気で無い者のたまり場となっていた。もちろん数日前に「清掃」は終えている。

 

 

 今この世界では地球からの文化の輸入が多い。小説や劇の話だけで無く、演出方法も新しく伝授されているという。この劇場が荒れ果てたのも、地球産の技術を取り入れた劇場が新しく建てられたからだ。この、世界を超えた文明開化は果たしてどんな結果をもたらすのだろう。

 

 

 ネスは真っ直ぐに劇場に向かうと、軋む木製のドアを開けた。

 中のチケットの販売所の横のドアを開けると、荒れ放題の舞台が広がっていた。

 500ちかい観客席はどれも綿が抜けたか椅子ごと引っこ抜かれている。テーブルを代わりに置かれている箇所もあった。

 

 

 その奥の舞台に、一人の男が立っている。黒縁のメガネをかけ、黒のスーツに身を包んだ紳士然とした男である。

 

 

 ネスはその男をみて、ニヤリと笑った。事前に調査は済ませてある。

 

 

「こんばんは、ハリー・マグナ! 舞台に立って何か芸でも見せてくれるのかね?」

「そうだな、大捕物なんてどうだ。あなた方が悪役(ヒール)だ。観客はいないのですぐに終わらせよう」

 

 

 ハリーの両手袋の魔法陣が起動、冷気を纏う。

 ネス達伝統派のメンバーもまた、各々の武器に魔力を通わせ始めた。

 




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