少女は、目を瞑っていた。あの爆発する火球を食らえば、ひとたまりもないことはわかっていたから。
だから、爆音がしたにも関わらず、自分が五体満足である理由がわからなかった。
そっと目を開けると、
「間に合った」
鎧騎士が、少女の眼前に立ってこちらを見ていた。見覚えがある見た目と声。先ほどの研究室にあった鎧であり、その声の主は、
「もしかしてリョータロー? 私をかばったの? その姿は?」
「俺もよくわからない。さっきの研究室にあった鎧だと思うんだけど」
自分でも信じられないといった様子で鎧騎士はそう答えた。少女は手を引かれて立ち上がった。
鎧騎士……良太郎は輝く鎧に身を包んでいた。さきほど研究室で見たときとは印象が全く違う。どこか活力というか、血潮が巡っているようだ。
「多分、これが先生の言っていた助けだ。すごく力が沸いてくる」
良太郎は、両手をしげしげと見る。ゆっくりと指を動かしてみるが生身の時とは感覚が全然違った。すべての血管が開いているというか、自分の思ったとおりに動ける気がする。
腰の左には剣が、左腕に円盾が装備されている。
「どういう仕組みかわからないけど、これならアイツにも勝てる!」
鎧騎士は金城の方を見た。金城は謎の圧力にたじろぐが、頭を振って追い出した。
「やっちまえええええッ」
金城の号令とともに、後ろで控えていた兵士が突っ込んできた。
「貴女は隠れてろ!」
鎧騎士は腰から剣を引き抜くと、一番槍を力任せに剣でもって叩き落とした。
続けて後ろから突きに来た兵士の懐に入り込む。絶好の機会。
(これ、思い切り打ち込んだら死んじゃうんじゃね?)
刃を使わず、みぞおちを柄で強打。うめく兵士をヤクザキックで蹴り飛ばし、後続を混乱させる。
横合いから攻める兵士の槍を躱すと、剣の腹でブッ叩く。
倒れゆく仲間にたじろぐ兵士に向かって盾を突き出した猛チャージ。思い切り食らった兵士はふらつきながらも意識があるようなので、こちらも剣の腹で一叩き。
戦い方はチンピラの鉄パイプと変わらないが、鎧騎士の一振りは鎧の身体強化によって驚異的な一撃と化す。
「ウラァ!」
ヤクザキックで蹴り飛ばし、次の兵士に飛びかかる。
戦いの様はチンピラのそれであったが、生身の時よりも膂力が上がっているため、まさしく獅子奮迅ともいえる暴れ方だった。
数では有利。祝福も戦闘向きである自分の方が有利。金城のその考えはものの数分で破綻した。
金城が少女を人質にしようと近づくと、足下に最後に倒された兵士の槍を投げつけられ、たじろいだ隙に鎧騎士は少女をつれて距離をとっていた。
「これで形勢逆転だぜ」
「ちょっと、肩を抱かないで」
赤面した少女を離すと、鎧騎士は金城に向き直った。
一対一。鎧騎士は片手剣を左の鞘にしまい、右の拳を岩のように堅く握りしめる。
金城は、べたつく汗をダラダラと流し、めちゃくちゃ焦っていた。
(なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ!? さっきまで俺が勝ってたよな!? 何で俺があんなやつとタイマン張らなくちゃならねえんだ! アイツは家畜だったのに急に強くなりやがって。そんなのチートだろ! 俺の〈爆炎〉は範囲がでかくて至近距離じゃ使えねえ。近づかれたら終わりだ! 祝福とボーナスで身体強化をもらっちゃいるが、それじゃあ僅差の戦闘になっちまう。おれは圧倒的に勝ってないと戦いたくねえってのに!)
そういうところが僻地に飛ばされた理由なのだが、金城は気づいていない。
「ふざけんなァ!!」
金城はガッと右の手のひらを突き出した。廊下を埋めるかのごとく成長した火球が、鎧騎士に襲いかかる。
(ヤバい!)
先ほどの一発とは一線を画している。
鎧騎士は姿勢を下げ、左の円盾を上げて防御。
受けきれるだろうか。
火球は飲み込まんと鎧騎士に迫り、そして
ッゴオオオ!!と。熱風を巻きながら爆発した。
金城は勝利を確信し、少女は絶望しかけた。
爆炎の中から、重装備の騎士が現れた。
「姿が、変わった?」
少女の言うとおり、鎧騎士の姿は先ほどとは変わって重戦士とも呼ぶべき姿となっていた。先の形態よりも鈍重さを感じさせるが、その分防御力は格段に上がっているようだ。
片手剣と円盾は、タワーシールドとハンマーに変わっていた。
「この鎧は姿を変えることができるのか!」
「クソッタレエエエエエエ!」
ヤケクソになった金城は破れかぶれの乱れ打ち。火球が何発も鎧騎士に命中するが、どの爆発も堅牢な盾と装甲に守られ、ダメージにはなっていないようだ。
「なら!」
良太郎は、重戦士のまま走り出した。
(速く走りたい。一瞬でやつの懐に届くくらい!)
想いが通じたか、重戦士の姿が光り輝いた。
装甲がすべてパージされ、新たな形態へと組み替えられてゆく。
新たな姿は、
「武者か!」
良太郎を包む鎧は、戦国時代の武将ともいえるような姿に変貌していた。先の重戦士の姿よりも、体が軽い。
一番最初の姿よりも敏捷性が大幅に上がった武者スタイルでもって鎧騎士は一瞬で間合いを詰める。
(殺される)
金城は自分の死期を悟った。新たな武器、緩やかにカーブを描く曲刀は一瞥しただけでもかなりの業物であることがわかった。
だが金城の悪寒は全くの的外れだった。
鎧騎士は刀を素早く峰側に持ち直すと、バットのフルスイングの容量で思い切り振り切った。
「ダアアアラッシャアアアアアア!!!」
低速ライナーで鋭くカッ飛んだ金城は、廊下の奥の壁にぶち当たり、めり込んで気絶した。
金城彰、戦闘不能。
「やった、か」
気が抜けたように鎧騎士が膝をつく。
影から様子をうかがっていた少女が駆け寄った。
「ねえ、体調は大丈夫なの?」
「わからん。心臓がやたらバクバクしてる」
息も絶え絶えに鎧騎士が言った。
「逃げないと。荷物はある?」
「そりゃ、集めたけど……」
「じゃあ飛ぼう」
「は?」
鎧騎士は、背嚢とクロスボウを抱えた少女を背負うと、割れた窓から飛び出した。
「キャアアアアアア!」
「ウオオオオオオオ!」
落下速度がグングン増し、地面がドンドン近づいてくる。
「ねえちょっと待って死ぬ死ぬ死ぬ!?」
結論から言うと、少女は死ななかった。
鎧騎士が落下寸前に、自分を下にしながら木をクッションにしたからだ。
しかし。
「リョータロー! しっかりして!」
鎧が解除された良太郎は両足をあらぬ方向に折れていた。
耳からも血を流しながら、良太郎は死に体になりながらも口を開いた。
「痛いので……あんまり揺すらないで……」
「生きてる?」
「死にそう」
「……ねえ、なんで私を助けようと思ったの?」
「そりゃあ……」
良太郎は咳き込んで血塊を吐き出し、
「えっと、貴女が……名前なんだっけ」
「エルナ・ドルドエヴァよ。エルナで良い」
「エルナさんが、最初に助けてくれたから……」
たったそれだけで。それだけで迫り来る兵士や爆発に立ち向かい、恐るべき祝福持ちを打ち倒したと言うのか。鎧だって、装着できる確信があったわけでもないのに。
「あなたってお人好しなんじゃない?」
エルナが言ったが、返事は帰ってこなかった。
「リョータロー?」
龍童良太郎は、絶命していた。
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