死なないからってどうしろと?   作:明石雪路

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忙しすぎてめちゃ時間がかかってしまいました。申し訳ない…。


人みたいなリスと鬼みたいな姉

 

 

前回までのあらすじ

 

異世界に召喚され、不死身となった良太郎。

離ればなれになった幼馴染みを探すため、異世界人エルナ・ドルドエヴァと臓器と引き換えに異世界でのナビを頼むことに。

教会から逃げ出し、とある魔術組織の刺客を撃退し、ようやく一息ついたのだった。

 

 

 

 

 「とりあえず食事にしよう」

 

というわけで、先ほど集めたリスを食べることになった。

都会っ子というわけでも無いが、肉は17年の人生で豚牛鳥くらいしか食べたことが無い良太郎は、初めてのリスにドキドキです。だがその前に、良太郎は優先したいことがあった。

「上裸でうろつく度胸が無いんだけど、何か服ない? シャツとか」

「ああ、それならね」

 

 エルナは背嚢から、ナップザックを1つ取り出した。

「なんか袋とリュックのサイズおかしくね? 袋の方がおおきそう」

「これ魔法道具だから。外見以上に物が入るのよ」

「え、じゃあ四次元ポケットじゃん! すごいなあ……!」

 

 許可を得てウキウキしながら袋に手を突っ込む良太郎。

 背嚢の深さより腕の方が長いはずなのに、伸ばした腕が全部入ってしまった。ウケる。

 

「こっちの方が見てほしいんだけど」

 

 そう言ってエルナが取り出したのは、学ランだった。見間違えるハズも無い。龍童良太郎の通う斑目高校の制服である。右の袖のボタンをうっかり全然違う別のボタンで直した所もちゃんとある。

 

「なんでエルナさんが持ってるの?」

「研究室漁ってる時に、箱の表面に見たこと無い言語で書かれてたから、異世界の物かなって。もってきた。」

「これ俺のだよ。ありがとう」

 

 制服に着替えた良太郎は、ピクリとも動かないリスをつまみ上げた。

 先ほど見たときも思ったが、薄い体毛といい、平たい顔といい、なんだか

「人間みたいだな……。」

「ああ、それってよく言われてるよ」

「言われてるんだ……。これどうやって食べるの?」

 

 

地面に木の枝でがりがりと魔術用の陣を書くエルナに、良太郎が恐る恐る尋ねた。

 

「別にたいした事しないわよ。皮剥いで内臓取り出して、ふん」

 

 少し力んで、切れ込みを入れたリスの皮を一気に剥ぐエルナ。皮の下からピンク色の筋繊維が露わになった。

 

「うッ!?」

 

グロテスクな光景に良太郎は呻いてしまった。皮を剥ぐという行動もだが、この臆病リス、皮を剥がすと人間にそっくりなのだ。

 

「な、なあ。この……臆病リス? 実は喋ったり、知能があったりとかはないよな?」

「ないわよ。見た目で敬遠する人が多いけど、哺乳類の一種だし、牙もツメもあるから手を抜くと怪我させられるわよ。」

 

 内臓を取り出し、中に香草を詰める。スプラッター映画でも見ているようだ。いや、映画の方がマシかもしれない。なぜならこれから食べるからだ。

 確か最近借りた漫画では包丁でたたいて肉団子汁っぽいものにしていた。潰す時点で心がやられるが、肉団子で食べる方が罪悪感は無いk

エルナは鉄串をブッスリとリスの尻から突き刺し、頭頂から貫いた。

まさかのウラド公スタイルである。扱いが魚と一緒。見た目が人間とかなり似ているので、なおさらである。良太郎は大きな耳や長いツメに注目することでリスであると自分に言い聞かせるのに必死だった。

 

「これ、そこの陣の周りに指していって」

「ハイ」

 

 真顔になった良太郎は無駄口をたたかずにブスブス陣の周りに指していく。オカルトチックな模様の円の周りに串刺しのリスを並べるその光景は悪魔召喚の儀でも行っているかのようだ。

 エルナが真言を少し唱えると、円の真上に陽炎が揺らめき、皮を剥かれたリスが油を滲ませながらパチパチと焼き色をつけ始めた。

 頃合いを見計らってエルナは術を止め、小さな袋から塩を少しつまんでリスにかけると、良太郎に渡した。

 しかし良太郎は鉄串を持って固まってしまった。虚ろなリスと目が合った。だが固まった理由はそれだけではない。

 

(どこから食べるんだよ、これ……)

 

 だが良太郎は気づいている。ただ、受け入れられないだけだ。つまり、

 

「いただきます。」

 

エルナは、リスの頭部からガブリと噛みつき、食いちぎった。筋肉反応か、前足があがって口に当たっていた。まるで自分を食おうとする巨人にあらがう無力な人間だ。

 あまりにもあんまりな食べ方に、良太郎は唖然とした。

 

「ほ、骨とか堅くないのか?」

「臆病リスって文字通りすごく臆病で、逃げるためにひたすら減量するのよね。だから肉は多くないけど骨密度もあまり高くないから、かみ砕けるわよ」

「さいですか。……いただきます。」

 

 良太郎は覚悟を決め、ひと思いに口に入れた。

 パキッと頭蓋をかみ砕く歯ごたえ。さらになにかトロリとした柔らかい舌触りがする。

 いくらよりも堅いこの球体は目玉だろうか。奥歯で潰すとパチュ、と割れた。

 あまり感触にとらわれないように集中して頭部を食べ終わり、そのまま全身を食べ終えた。どこを噛んでもパキパキと骨の折れる硬質な感触があった。味は中々良かった。鶏肉っぽい。

 

「歯ごたえが嫌すぎる……」

 

 食べる前よりもげっそりした様子でいうと、同じタイミングで食べ終わったエルナは苦笑した。

 

「最初はみんなそういうけど、だんだんハマってくるのよね」

「まさかの珍味ポジか。始めに言ってほしかったな」

 

その後、良太郎はもう二匹食べた。エルナの言うとおりだった。

 

 

 腹が膨れると冷静になってくる。

 

「さっきの襲ってきたやつは誰なんだろうか。教会のヒト?」

「あれは学院の懐古主義の伝統派ってやつね」

「ふん?」

「魔術の捉え方が違うというか……。簡単にいうとさっきのやつは魔術の研究をしてる学院っていう組織の人間で、学院は教会と殺したいほど仲が悪くて、あなた達異日本人は教会で召喚されたから教会派の人間と思われてる。言っておくけど、学院の全員が日本人を嫌っているわけではないよ」

「でも一部には俺を殺そうとする人間がいるってことね」

 

 うんざりした様子で良太郎は言った。

 俺はただ友達と元の世界に帰りたいだけなのに。

 異世界旅は早速いくつかの問題を抱えて始まることとなった。

 

 

 食事を終え、二人は進み始めた。

どのくらい歩いたか、遠くに発見した民家の群れがだんだん近づいてきて

 

「着いた。ここが私の住む街、ベルムよ」

 

 そこには、木と漆喰でできた家屋が等間隔に並ぶ街が広がっていた。

 

 

 ベルムの街は、三十年以上前に作られた円形の街である。主な産業はウィラトの森で伐採された防音性の高い木材だが、近年は伐採によって縄張りを侵し過ぎて「森の主」の怒りを買うのではという懸念があり、出荷率を抑えると共に教会によって植林が行われている。

 

 

 

町並みは、良太郎の想像よりも普通だった。

 三角屋根の大小様々な家々が連なって整頓されている。店舗も兼ねた民家が建ち並ぶ道は街の中央に集まり、真ん中には周囲の建築物より少し背の高いアーディア教のエンブレムが掲げられた教会が建っている。街の周囲は太い木々とレンガの壁で円く囲まれていた。

 

「こっち」

 

 エルナの先導に従って良太郎はついて行く。

 木々の隙間をすり抜け、レンガの壁に当たる。エルナが慣れた手つきで壁を押し込むと、ボコリと音を立てて一部が外れ、人一人通れそうな穴ができた。

 

「なぜコソ泥のような入り方を?」

「この町は教会が仕切っていて、検問にも教会の人間がいるからよ」

 

 足がつくと言うわけだ。見つかったら地下牢に返され、また「臓器の木」にされるだけだ。

 

(教会の人間に見つかったらヤバいって話だけど、この格好って目立たないのかな?)

 

 良太郎は疑問に思ったが、そこであることに気づく。

 街ゆく人間の服装が、どうも既視感があるのだ。何というべきか、家屋の素材や構造、並びはどこか欧州を思わせるのに、着ている服はワイシャツやジャケット、学生とおぼしき子供に関しては黄色い帽子や黒の学生用蘭服を着ている。スーツ姿の人間もいた。

 

「なあ、俺の居た……日本の学ランに似てる服着た子供が多いけど、この世界じゃメジャーなの?」

「前に召喚された日本人の服を模倣して、学校の制服にしたらしいわよ。あの黒いスーツってやつもねとか、他の服とかも。デザインが良くて私は好き」

 

 良太郎より以前に来た人間が学ランやスーツを広めたらしい。この世界はすでに地球文化に影響を受けているようだ。もしかしたらスマホやコンビニが並ぶのも遠くない……。いや、既にどこかで作られているかもしれない。

 

「着いたわよ」

 

 同じようなデザインの民家の1つの前でエルナは立ち止まった。

 ドアの前の鉢植えの下から鍵を取り出すと、エルナは鍵を回して家の中に入る。

 続いて入ろうとして、ドアの前に動こうとして……。

エルナが水平にぶっ飛びながら飛び出してきた。

 

「え?」

 

 突如吹っ飛ばされた相棒を見て、動揺しながら駆け寄った。

 鼻血をだして目が虚ろになっている。どれほどの衝撃を受けたのか。

 

「エルナさん!? 何があった?」

「あの……お姉ちゃんが……」

「姉?」

 

 ドアの前には、寝巻きとおぼしきゆったりとした服の上からカーディガンを方にかけた、『病床の美女』がそこに立っていた。腕を組んで足を肩幅に開いての堂々たる出で立ちである。柔和な笑顔に怒気を添えて。

 

「エルナちゃん。なんで叩かれたかわかる? 」

 

 人を2メートルぶっ飛ばして叩いたと来た。

 にっこり笑顔からにじみ出る圧が強い。初対面だが、良太郎にもこの女性が怒っていることがわかった。

「返事をして欲しいのですが」

 

 

 せめて庇わねばと思い、良太郎が割り込んだ。

 

 

「あ、あの、エルナさん気絶しかけてるというか意識混濁してるっぽいんですけど……」

「あ?」

 

 素早く伸びた右腕が良太郎の襟を掴んで持ち上げる。足を振るが、石畳に届かない。まるでビレトスに捕まったレオンだ。

 

「私は指名手配された妹との話し合いで忙しい。貴方は何処のどちら様ですか? 答えによっては命を差し出していただきます。」

「ぐうう……せめて表情と声色はそろえてくださいよ! ミスマッチさが一層恐ろしい怖いッ!」

 

良太郎は息苦しくなって涙がにじんだ。

 

「待ってお姉ちゃん……その人は、お姉ちゃんの病気を治せるかもしれない人なの……」

「うん?」

 

 持ち上げられていた体がゆっくりと下ろされ、良太郎は地面のありがたさを噛みしめる。

 姉を名乗る人物はコホンと小さく咳をこぼした。押さえた右手は血で少し染まっている。

 彼女は、エルナと良太郎を交互に見た後、ふぅと息を吐き、

 

「詳しい話を聞きたいと思います。」

 

 ドアを開け、二人を家の中に促した。

 

 

 

「なるほど、彼が祝福を受けた日本人で、不死身で、教会に利用されていたと……」

 

 一階のテーブルに、エルナと良太郎が並び、エルナの姉・ニーナ・ドルドエヴァが向かいに座った。

 これまで会ったあったこと、良太郎のこと、そしてエルナと良太郎の契約内容を聞いたエルナの姉、ニーナ・ドルドエヴァはお茶の入っていたカップを置くとしばし瞑目した。

 そして、口を開く。

 

「エルナちゃんが出稼ぎに行ったと嘘をついて、教会に潜入した挙げ句お尋ね者になったというのは姉として恥じる他ありません。ですが、私の身を案じての行動なのでそこは感謝し、考慮しようと思います。ありがとう、ニーナちゃん。私のために無茶をしてくれて。」

「お姉ちゃん……」

「具体的には拳骨5発で済ませます。」

「ヒッ!?」

 

 エルナの顔が青ざめ、恐怖で引き攣った。

 

(どんだけ怖いんだ?)

「それと……龍童君? ああ、家名はこちらですか?」

「はい、そうです」

「良かった。あなたが私のドナーになってくれると言う話ですが。甘んじていただきたいと思います。もちろん報酬もできる限りお支払いします。」

「本当ですか!」

 

 良太郎の声がうわずった。これで異世界での旅で足りない知識や物資を補える。

 

「ですが、エルナちゃんを連れて行くことは許可できません。」

「え?」

「は?」

 

 エルナと良太郎は同時に困惑した。

 

「お姉ちゃん、どうして」

「龍童君が探している幼馴染みは今も睨み合っている西の戦地にいるかもしれないのでしょう? そこにたった一人の家族が行くことを許すことはできません。」

「しかし、僕はこの世界に知らないことが多いので……」

「私の昔の知り合いに元ベテランの冒険者がいます。きっと力になってくれるはずです」

「……それはありがたい」

 

 良太郎は言葉を失ってしまった。理にかなっているし、今後の旅の案内人がエルナである必要性は無い。

 

「とりあえず今から医者と連絡を取って、来てもらいます。近いうちに手術をお願いしてもよろしいでしょうか」

「は、はい、それはいつでも」

「ありがとうございます。それでは。適当にくつろいでいてください。部屋は客間があるので、そこで」

 

ニーナは席を立つと二階に上がっていき、リビングにはエルナと良太郎だけが残った。

 




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