<Chapter3-1-7>
「俺としては――――関われて良かった、って感じだな。 二人に対しては悪い感情は全く無い。」
実際の所。
叢雨丸の担い手として選ばれることがなければ関われる機会は無かっただろう。
そして、同時にあの時の誰かを思い出せることもなかっただろう。
……彼女達の先祖に対しては一言二言言いたいことはなくもないが。
彼女達自身には、一切無い。
「……そう、ですか。」
小さく、ホッとしたような表情を浮かべたのは芳乃ちゃん。
今まで、実際の――――真実の話をしてこなかったことが負担だったのか。
先程までの緊張したような顔からは、少しだけ和らいだ顔を浮かべている。
「……本当に?」
それに反し。
自分のせいだ、とまでは言わないにしろ。
自分たちのせいで――――くらいには、背負い続けてきたのだろうか。
責任感、罪悪感。 代々引き継いできてしまったそれらが、結晶化したように。
悪意にでも飲まれているように、普段の彼女とは全く違った姿を映し出していた。
「先祖は先祖、二人は二人。 一番最初にも言った……あ、いや。 あれは安晴さんにか。」
「お父さんに?」
ごちゃごちゃ考えていたのを掘り下げていけば。
結局最後に思い当たるのは、二人の為という結論に行き着く。
……何で二人の為に其処までするのか、と考えてしまって。
多分それは――――そう、
不誠実にも程がある、傲慢な俺の今の感情に。
少しばかりの沈黙。
それを振り払うように、電球の明るさで顔の赤みが照らされないことを祈って。
首を左右に振りつつも、覆い隠すように別の問いを投げかける。
「今は関係ないから良いよ。 ……ついでに、読んでて気になったことがあるんだけど。」
「はい、今でしたら何でもお応えしますよ。」
……今、少し言葉がおかしくなったか?
いや気の所為だよな。
「前に聞いたかもしれないけど、って前提でね。」
「はい。」
「長男が発動した呪いが土地すら汚染するレベルの穢れだったとして、芳乃ちゃんには
読んでいて疑問になったこと。
土地全てを覆う呪い、それをある程度は祓った霊刀。
未だに朝武家が執り行う儀式の半分以上は恐らく、染み付いたように残った呪いに対して。
――――
それがその程度で済んでいたのか、改めて確認する。
「……気付きますよね。」
「まあ、将臣くんの今までを見てればね。」
それに対し苦笑する二人。
……いや、当たり前のような表情をして何を。
「一体どういう……。」
「将臣さんの言う通り。 ワタシ達には呪いの影響はあります。」
「正確に言えば……多分此方が本当の呪いなのかもしれませんけどね。」
諦めているようで。
どうしようもないようで。
少しだけ……いや、一瞬。
「将臣くん、不思議に思いませんでしたか?」
「……何を?」
「お母さんからこの歳で受け継いでいることと、もう亡くなっていることです。」
それは、と口が動きそうで。
けれど、その表情の前に動かずに。
「大きく分けて、二つの呪いが残っています。」
「ワタシもです。 ……ひょっとすると、霊力の差も
「かもね。」
一体何を。
いや、まさか。
考えたくないことが頭に過る。
オカルト話を散々に調べてきたからこそ、思いついてしまう事。
「
「朝武の家には、女しか生まれない。 そして、短命で終わる。」
「呪いが解けるまでは――――そう思いつつも、解けずに続いてきた呪いです。」
呪いに抵抗できているからこそ、獣耳で済んでいる。
抵抗できなくなるからこそ、呪いに負けて短命で終わる。
茉子ちゃんに耳が発現しないのは、呪いの強度と直接の関係性が薄いから。
けれども、呪い自体は直系全てに及んでいる。
「こんな事、他の誰にも言えませんから。」
諦めているわけではないのだろう。
でも、その表情は儚くて。
「ワタシ達が外に……穂織の外に逃げることが出来ないのも、同じです。」
抵抗し続けているのだろう。
でも、その憂いは表に出ていて。
「だから、将臣くん。」
「どうしたいかは、貴方にお任せします。」
何を。
声が枯れたように、言葉にならない。
自身の感情に気付いてしまったからこそ。
「私達は、ある意味諦めて……受け入れています。」
「もし、この呪いが解けたら。 そう思うこともありますけどね。」
「だから、全力で解呪を目指しています。」
先代も。
先々代も。
ずっとそうして受け継いできたからこそ。
「――――。」
何かを、口にしたはずだ。
俺は、彼女達のために何かを呟いたはずだ。
けれど、その言葉が思い出せない。
「全てが終わったら。」
「いえ、終わる前にかもしれませんけど。」
一拍、空いたことだけが強く記憶に焼き付いて。
「「私(ワタシ)達を受け入れてくれますか?」」
――――。
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――――――――――――。
呟いた、言葉は。
伸ばした、手は。
思った、感情は。
三者三様のままに、空間に溶け散った。