<Chapter3-1-8-Y>
「
その言葉を聞いて、胸に浮かんだのは――――なんでしょう。
温かさとも、安らぎとも何かが違う。
寄りかかっても良いのか、というような少しばかりの弱さ。
「……。」
彼は押し黙り。
「…………。」
「…………。」
私達は、互いの目線を見て苦笑する。
(……覚悟ができているか、なんて言われれば。)
幼い頃、巫女としての仕事を学び始めた頃。
殆どがお母さんを泣かせてばっかりだった私が覚えている、その始まりの頃。
『ごめんね、芳乃。』
朝武の家の呪いについて、詳しく教えられたあの日。
あの時はちゃんと理解することはなかったけれど。
お母さんが死んでしまって、その時の空白と。
私の頭に生えてしまった、獣耳で理解せざるを得なかったあの頃。
(……死ぬ前に、知らない人と結婚して。 そして、死んでいくのかな。)
そんな風に思い出したのは、いつだろう。
茉子と初めて
他の土地の権力者の子息と見合いを勧められるようになった頃だろうか。
自分で諦め始めてしまった、あの時だろうか。
(……そんな今の私が、何かを想う権利なんて無いんですから。)
心の内に秘めた感情ではなく。
心の外に自分の想いを吐き出す権利なんて無い。
誰かに求められればそれに従う。
嫌だ、と思って跳ね除けることが出来ているのは……多分、お父さんの許してくれる贅沢で。
もし、貴方が求めてくれるなら。
心の内の感情を、静かに底へと鎮めて奉る。
彼は、何も言わない。
ただ、私達を見ていた。
だから、私達も彼を見つめ返していた。
手が伸びる。
身動ぎもせずに、その動きを二人で待つ。
右の肩を、彼に抱かれた。
力強い――――けれど、何処か悲しさを交えたような腕。
腕の内側へ。
ごつんと、彼の胸板に頭が当たる。
少し目線を向ければ、茉子も同じく。
仕方ないなぁ、なんて考えていそうな表情で。
とくん、とくん。
心臓の音が煩いほどに聞こえながら。
私には、何も返せる言葉がない。
「――――。」
何かを、彼が呟いた。
その言葉は、耳には届かない。
もし。
『巫女姫』の役割から離れることが出来たなら。
唯の女の子として――――『朝武芳乃』として在る事が許されるのなら。
呪いが、祟りが終わるのならば。
私は、彼を受け入れられるのだろうか。
彼は、私達を受け入れてくれるのだろうか。
前者は、多分簡単で。
後者は、問い掛けるのが怖くて。
何方かだけだなんて。
するがまま。
されるがまま。
小さく腕を伝う、雨漏りが。
小さく服を濡らす、雨粒が。
幾つか、室内を湿らせていた。