*芳乃編も投稿しています。
<Chapter3-1-8-M>
「
その言葉を聞いて、胸に浮かんだのは――――多分。
彼に対しての
それに応えられるような人間ではないワタシへの、小さな悲しみ。
「……。」
彼は押し黙り。
「…………。」
「…………。」
ワタシ達は、互いの目線を見て苦笑する。
(……どうして、こんな事を考えてしまうんでしょうね。)
幼い頃、芳乃様付きとして忍者の仕草を学び始めた頃。
毎日のように怒られ、泣きそうになっていたあの頃のことを思い出す。
『巫女姫様に付き従う人間がそんな事でどうするの!』
朝武の家の呪いについて、詳しく教えられたあの日。
ワタシ達の先祖がしてしまった事。
その影響で苦しめられ続ける朝武の家と、常陸の家。
代々引き継いできた、従者としての役割と『忍び』としての自分。
(……自分の好きな人なんて見つけられずに。 唯役割を継いでいく為に、生きるのかな。)
そんな風に思い出したのは、いつだろう。
芳乃様と初めて
ある程度以上に技を、動きを身に着けてしまった頃だろうか。
感情を覆い隠してしまった、あの時だろうか。
(……そんな今のワタシが、誰かを想う権利なんて無いんですから。)
心の内に秘めた感情ではなく。
心の外に自分の想いを吐き出す権利なんて無い。
刃の下に心を置く。
自身の感情なんかより。 命を投げ出すことさえ行うのが当たり前。
もし、貴方が求めてくれるなら。
心の内の感情を、静かに底へと鎮めて葬る。
彼は、何も言わない。
ただ、ワタシ達を見ていた。
だから、ワタシ達も彼を見つめ返していた。
手が伸びる。
身動ぎもせずに、その動きを二人で待つ。
左の肩を、彼に抱かれた。
力強い――――けれど、何処か痛みを交えたような腕。
腕の内側へ。
ごつんと、彼の胸板に頭が当たる。
少し目線を向ければ、芳乃様も同じく。
泣きそうな、涙を蓄えたような瞳をしていて。
とくん、とくん。
心臓の音が煩いほどに聞こえながら。
ワタシには、何も返せる言葉がない。
「――――。」
何かを、彼が呟いた。
その言葉は、耳には届かない。
もし。
『従者』の役割から離れることが出来たなら。
唯の女の子として――――『常陸茉子』として在る事が許されるのなら。
『姫』として、受け入れてくれるのなら。
呪いが、祟りが終わるのならば。
私は、彼を受け入れられるのだろうか。
彼は、ワタシ達を受け入れてくれるのだろうか。
前者は、多分簡単で。
後者は、問い掛けるのが怖くて。
何方かだけだなんて。
するがまま。
されるがまま。
小さく腕を伝う、雨漏りが。
小さく服を濡らす、雨粒が。
幾つか、室内を湿らせていた。