恋心、想花の如く。   作:氷桜

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新チャプター。
原作だと伏線と選択肢シーン。


<Chapter3-2>
<Chapter3-2-1>


 

<Chapter3-2-1>

 

小さな、夢を見た。

 

『いいかい、将臣。』

 

周囲は暗く、顔は見えない。

けれど、聞き覚えのある深い囁くような声。

それだけで、何を見ているのかを理解した。

 

『うん、婆ちゃん。』

『もし、私が死ぬ時が来たら。 これだけは大事にしてくれるかい。』

 

そういって大事そうに撫でたのは。

今はまだ、茉子ちゃんに渡したままの小さな御守り袋。

ずっと幼い時の夢。

亡くなってしまった祖母が、俺に言い残した遺言と約束。

 

『なあに、それ。』

『私の御守だよ。 巫女姫様直々に中身に祈って貰った、爺さんとの大事な思い出さ。』

 

そういえば、詳しく聞いた覚えもなく。

外から――――女性の目から見た話を殆ど聞いた覚えもない。

ただ、『巫女姫様』というのがとても有難い存在だって言うのは。

その話し方から、何となく感じていたんだと今になって思う。

 

『それって、なんのおまもり?』

『これはね――――。』

 

その後は、記憶も曖昧で。

『大事にしてくれ』と言われた思い出と。

 

『も(・)し(・)巫(・)女(・)姫(・)様(・)に(・)何(・)か(・)が(・)あ(・)っ(・)た(・)な(・)ら(・)――――。』

 

そんな言い残しが、あったような気がした。

 

「…………んむ、ぅ。」

 

かさり。

小さく擦れる物音で、目が覚める。

 

自然と起きる時間帯。

以前に比べて太陽が昇る時間も早くなり。

けれど、未だに暗闇が支配する朝焼け前。

 

(あれ……?)

 

少し感じる肌寒さと、両腕に感じる温もりと。

明らかに普段寝る体勢とか場所とは違うらしい。

左右に見える、二人の顔。

普段より明らかに近く、だからこそ睫毛や唇までもが近いそんな状態。

 

(……何、してたんだっけ?)

 

寝起き特有の曖昧な感情。

そして現状からの現実逃避を混ぜ合わせて、そんな事を考える。

恐らく。

その日は崩れるように、そのまま三人で眠ってしまったのだろう。

冬でなかったのは良かったが、それはそれとして良くはない。

 

「……………………どうしよ。」

 

ついついそんな事を呟いてしまう。

少しずつ思い出す、昨晩の事。

最後に眠ってしまった状態だけは覚えていないが。

それより前の――――そして、二人に対しての理解してしまった感情を思い出すと頭(・)が(・)茹(・)だ(・)る(・)。

 

とりあえず、両腕をゆっくりと外す。

そのまま畳へと頭を下ろし、周囲を確認。

手近にあったタオルを頭の下へと敷いて簡易的な受けとする。

 

(普段なら茉子ちゃんは動き出しててもおかしくない時間なんだけど……。)

 

すう、と寝入った様子の彼女を……見れない。

見てしまえば変な感情を抱いてしまいそうで。

余計なことを考えないでも良いように、普段よりも走る負担を増やそうと心に決める。

……そういえば、普段であれば来てもおかしくないムラサメちゃんも来ないな。

 

(寝てるところでも覗かれたんだろうか……。)

 

有り得る。

触れられるのが俺だけなのだから、それ以外は普通に通り抜ける。

つまり毎日とは言わずとも、そこそこのペースで彼女は俺の部屋にやってくる。

朝晩時間を問わないが、一番多いのはやはり早朝か深夜……ランニングに出かける前か寝る前か。

二人で話すことが多い、と言い換えても良い。

 

(後でこっそり確認しとこう……。)

 

普段なら部屋で着替えるが、そんなわけにも行かなくて。

外着……或いは運動着か。

寝巻きとは別に用意しているそれを掴んで部屋から出ようと戸に手を掛ける。

 

「…………ぅ。」

 

小さい声が赤い唇から漏れる。

少しだけ体勢を変え、横に転がるように動いた芳乃ちゃんの服装が少しだけ乱れた。

胸元……というよりは首筋か。 白い肌が普段よりも露わになり。

不味い、と思って出来る限り物音を消し。

同時に急いで部屋を出る。

 

(……不味い、不味い、不味い。)

 

あのままいたら、というよりはもう少しでも残っていたら危なかったかもしれない。

それくらいには俺自身の感情に信用を持っておらず、自分の理性が簡単に崩れるものだと思っている。

或いは、蓋をしていられた頃なら別だったかもしれないけれど。

板敷きの廊下を滑るように移動し、向かった先は脱衣所。

他に誰も居ないのが当然だが、それでもいないことを確認した上で入って即座に着替えてしまう。

 

(……そういや、最近はもう自分で洗濯しなくなってたな。)

 

そういえばいつからだろう。

少し前、「ワタシにお任せ下さい」と。

茉子ちゃんに笑顔で押し切られたあの時からか。

上着はお願いしても良いのだが、気付けば下着関係までやって貰っている。

同年代の女の子に任せるにはかなり気恥ずかしかったが、慣れって怖い。

 

「……よし。」

 

いつも通りの運動着。

学院での運動用のものとは違うジャージに近いが、暑くなってきたら半袖でまた用意が必要だと思う。

買うなら……穂織独自のモノが良いかなぁ、なんて思いつつ。

出る前に水を一口。

喉元を過ぎ、胃の辺りにまで冷たさが落ちる。

 

「行くか。」

 

誰に聞かれることもなく、玄関先へと出る前に。

俺の部屋で、未だに寝ているだろう二人に対して顔を向ける。

 

行(・)っ(・)て(・)き(・)ま(・)す(・)。

 

声には出さず、口だけを動かし。

玄関を静かに開け、山特有の涼しさの中に身体を投げ出した。

……部屋の方で。

誰かが何かを返した、そんな錯覚がした。

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