<Chapter3-2-2>
朝方から疲労塗れになる程走り込んだ。
普段よりも負荷をかけ、速度を上げて距離を伸ばす。
そんな事が身体に良い訳もなく、訓練にもならないと分かっていても。
走り込まないと頭から消すことが出来なかったから。
『大丈夫か?』
『朝から頑張りますね~。』
早朝に出会った二人……廉太郎とレナさんにそんな声を掛けられて。
『いや、ちょっと。』
としか返せなかったのは理由を口に出すのも難しく。
同時に気恥ずかしさなんかの俺自身の状態が原因。
流石に男同士であっても迂闊に言えるか分からないし。
……あー、いや。 廉太郎と二人だったら互いに吐き出す感じで出来たか?
「……無茶するのう。」
倒れそうになる中、神社へと戻れば。
呆れたような表情で此方を見ている……出迎える体勢のムラサメちゃんがいる。
裏側、そのまま庭に面した縁側へ二人で向かって腰掛けた。
「無茶っていうか……まあ……。」
息が切れる、というよりは吐き出せるものを吐き出した感覚に近い。
多分一時間か二時間くらいは休みが必要になる気がするが、その御蔭で多少はマシになった。
なので自分の中で考えて、費用対効果としては五分五分と判断する。
「いや、そうではなくて。」
「?」
気付いておらんのか、という視線。
その意味を理解したのは多分二呼吸程経った後。
「あ~……何、今朝のこと?」
「後は夜のことも含めてじゃよ。」
いや夜のことって何で知ってる。
あの二人が話すとは思わないんだが。
背中に冷や汗。
「二人から聞いておる。
「……え?」
「当たり前じゃろ。 吾輩はずっと見守って来た。 事情は十二分どころではないほどに理解しておるわ。」
まあ、話せる相手はほぼいなかったが。
そんな風に自嘲を呟く姿を見つつ。
知らなかったのは俺だけなのか――――心の内に暗い感情。
そして同時にそれもそうか、と理解した感情が浮かび上がり、湧いた闇を吹き飛ばす。
知っている方が少ない事情を打ち明けて貰える程に信頼して貰った、と思うべきなんだろう。
「じゃから、どうなったか今朝方見に行ったんじゃが……。」
「あ、はい。 それは、うん。」
「余り深く言うつもりもないわ。 年頃の娘……とは言え、
「俺が出来ると思ってる?」
「思わんな。 少なくとも今は。」
酷い、とも言い切れない。
今の立場は薄っぺらい
仮にもし必要性が在るのなら。
絶対に起こることはないだろうが、彼女達は自分の身を投げ出すことだって厭わないだろう。
今行い続けている、祟り神の討伐と同じように。
「それは信用して貰ってると思って良いのか……?」
「まあ自制心を半分。 後はヘタレ成分に半分、と言った所か。」
「それ殆ど同じって言ってないか?」
「表裏一体、というやつじゃよ。」
良いのか?
頭が上手く回らないのだが、それで納得して良いのか?
…………考えたら面倒なことになりそうで、息を吐く。
「で、じゃ。」
「ん?」
「念の為に確認しておこうと思うのだが、今日何かしら予定は在るか?」
「と、言うと?」
足をぶらぶら。
こうしていると子供っぽい。
迂闊に触れると怒るが、全く触れないとそれはそれで怒る。
なんというか面倒な猫とか、或いは妹のような相棒。
「今日が学校ならまだしも、休日ならばどうなるか分からぬからな。」
「……それだけ?」
普段なら聞くような内容ではない。
だからこそ、二人でいる今だからの質問だと思って聞き返す。
「だと思うか?」
「全く。」
首を横に振る。
こういう小さいやり取りでも、出来る人間が限られる以上彼女は楽しんでいる筈だ。
「……ま、そうじゃな。 昨日の
想像の通り、少しだけ頬を緩めながらの言葉。
俺が気にしていた、あの物体。
「ああ、例の。」
「そう、例の。 それについて動くとしても今日からか、と思ってな。」
「あ~……。」
無論優先して動きたい……というよりも調査を進めたい。
だが昼間から裏山に踏み込んで現状安心出来るのか?
それに加えて、可能ならもう少し頭数が欲しい。
だとすると……。
「出来れば今日……昼間に動きたいけど可能か聞いてからだな。 何人かに。」
「? 芳乃や茉子だけではなくてか?」
「あの二人にも当然頼むよ。 ただ、出来ればもうちょい頭数が欲しい。」
首を捻るムラサメちゃん。
まあ、今言っただけじゃ意味分からないよなぁ。
俺もそもそも上手くいくか分が悪いと思うし。
「事情を話して……なんていう事をするわけではなかろう?」
「当たり前だ。 俺の胸の奥の奥に閉じ込めてるっての。」
「ならばいいが。 それで、どうするんじゃ?」
あー、と一声上げた。
「祖父ちゃんとかにちょっと協力して貰えれば……って感じかな。」
「玄十郎に?」
レナさんに穂織の山中の案内を。
合わせて普段は絶対駄目だ、という言い聞かせを。
その辺合わせれば、何とかならないか。
ずっと昔、俺が二人と出会ったときのように。