<Chapter3-2-5>
結局向かうことになった時間帯としては昼間、それも正午。
長くても数時間、日が更ける前には確実に戻ってこれる余裕を持って。
そしてその都合上、
(……これピクニックじゃないのか? というか現地で食べて大丈夫か?)
という疑問点はあったが。
食料を澱ませる……正確に言えば土地を腐らせる呪いであったとしても。
それに拮抗してきた巫女姫の霊力ならばどうにか出来る範疇らしい。
まあ、行くとしたらムラサメちゃんも同行するし。
……毒見みたいな形にはなってしまうが、刀に霊力を注いで貰って弾く手段も取れる。
だからこそ、俺は叢雨丸を持っていくことを絶対条件とした。
そんな午前、ぱたぱたと準備の物音がする中で電話のコール音を鳴らしている。
宛先は祖父ちゃん。
……早速、先程の話に関して伝えておける部分を伝えておこうというわけだ。
4コール、5コールくらいしてからか。
ぷつん、と繋がった時特有のちょっとした物音。
「もしもし?」
『将臣か? 今日はどうした。』
「幾つかあるんだけどさ、今時間大丈夫?」
電話先から聞こえるのは矍鑠とした声色。
電子機器に対しても偏見を持たず、取り入れていくその姿勢は本当に頭が上がらない。
……ただ、まあ。
俺はちょっと聞いただけなんだが、変な事も一緒に取り入れてしまっているとかなんとか。
何を聞いてしまったんだ廉太郎。
『そうだな……十分程度なら問題あるまい。』
「あー、なら続けちゃうよ。 出来れば直接会って話したいこともあるから、明日の放課後の鍛錬の後も時間貰える?」
『明日は……少し厳しいな。 明後日ではどうだ?』
「大丈夫、次の土日までに話通しておきたいってだけだし。」
結局二人を雇用しているのは祖父ちゃん、そして女将さん。
なので話を通しさえすれば、融通を利かせて貰える可能性は比較的高い。
……それに出来る限り早く、あの二人の特異性に関しても把握しておきたい。
『分かった、では明後日の鍛錬は早めに切り上げるとしよう。』
「で、一つ報告と相談なんだけどさ。」
『なんだ? この間のパソコンについてか?』
「いや全く別。 もっと重大な話。」
その際はお世話になりました。
祖父ちゃん……というか志那都荘経由のほうが色々と便利というのは事実なので協力してもらったわけだ。
神社へと運ぶほうが一苦労だったというのはまた別の話となってしまうけど。
「例の……
『午後丸々?』
「正確に言えば夕方前くらいまでは確実にかな。」
戻ったら水垢離……湯で祓う儀式は確実に必要だろう。
山で何か発見したならその対策に時間を食うのもまた確実。
……川付近も先に確認しておきたいんだよな。
『……成程な。 ならば鍛錬は?』
「ごめん、ちょっとどうなるか分からないから今日は自分で素振りだけしておく。」
『分かった。 ……ついでに聞くが。』
「へ? 何?」
祖父ちゃん側からの質問?
『お前は義務感で動いている、というわけではないのだよな?』
と思えば、少し気が抜けるような言葉。
……心配してくれている、というのは有り難いのだけど。
「いや今更過ぎるでしょ。
『……うむ。 念の為、な。 お前の口から聞けてよかった。』
ではな、と告げて切れる電話。
……取り敢えず予定を取るところは問題なし。
実際に動けるのは来週か再来週となってしまうだろうが、出来れば今日中にある程度でも目処を付けたい。
第一優先は呪物の位置特定。
副次目標としては今までの祟り神を祓った場所の調査。
数百年続いていることから考えれば再利用はされていそうだが、何かしらあるかもしれない。
もし、それが前回拾ったあの破片と同一なら――――
『ご主じ~ん。』
「……ん? 入っていいぞ。」
障子戸越しにそんな声と、手だけが突き抜けたような間抜けな光景。
ただもう大分見慣れてしまった光景と声に反応し、入って大丈夫と声を掛ける。
『電話は終わったのかの?』
「ああ。 二人に関しては直接話すことにした。 電話で頼むことでもないし……こういうのって礼儀が大事だろ?」
『大事じゃのう。 そういった気配りが出来るだけ立派なんじゃが。』
今嫌な切り方しなかったか?
明らかに変な目付きというか、溜息吐きたそうな表情だし。
「何その顔。」
『あの二人にもそれだけ気を使ってやれれば……と。』
「十二分に使ってるんだけど!?」
『明後日の方向ではなかろうな?』
いや使ってる使ってる。
使いすぎて若干ヘタレっていうか勇気が足りないとか根性なしとか言われるくらいには使ってる。
……自分で言ってて悲しくなってきた。
だがこの辺全部友人に言われたことだからなぁ……。
お前も同じじゃねーかとは言い返したが。
「……で、まさかそれを言いたいだけ?」
『二人が呼んでおったぞ。』
「それを先に言えよ!」
準備でも出来たのだろうか。
慌てて動き出す俺と。
やれやれ、と表情を浮かべて付いてくるムラサメちゃんと。
二人で並んで、部屋を出る。