恋心、想花の如く。   作:氷桜

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めっちゃ短いシーンを膨らませる。


<Chapter1-2>
<Chapter1-2-1>


 

<Chapter1-2-1>

 

 

「ん……。」

 

鳥の鳴き声、だろうか。

普段聞き慣れない音で目を覚ました。

見たことのない天井。

あれ、確か、此処は――――。

 

(あ、そういや……。)

 

寝惚けていたからか、普段の自分の部屋を思い出してしまったけれど。

今日からは違うんだった。

 

目を巡らせれば、床板とか言うんだったか?

和室作りの中の板敷き、その中の一段高くなったところ。

其処に祀られるように台に置かれた、一口の日本刀。

掲げられた掛け軸、若干似つかわしくない液晶テレビ。

そして、そんな俺を覗き込む一人の少女の姿。

 

「起きたか、ご主人。 おはよう。」

「ああ……おはよう、ムラサメちゃん。」

 

彼女の姿があるということは。

 

「やっぱり、昨日のは夢なんかじゃないんだよな。」

 

叢雨丸。

担い手。

朝武家。

そんな関わることになった事象を思い返し、昨日の晩の事を頭に浮かべた。

 

 

*****

 

 

『勿論、今すぐに結婚しろなんてことじゃない。』

 

まあまあ、と焦る俺を抑えるようにしながら淡々と。

安晴さんは、取って欲しい「責任」に関しての説明を続けていた。

 

『お互い知り合ってから決めてくれて構わない……そうだな、古風な言い方になるけれど許嫁とか婚約者、なんて言い方のほうが適切かな。』

『許嫁……ですか。』

 

確かに現代社会では聞く機会の無い言葉。

そんなものがいるのは、俺とは住む世界の違う人間なのだろうと思っていたくらいだ。

 

『そうだね。 僕の望みとしては、そういった事を視野に入れて一緒に暮らして欲しい……というのが結論になる。』

『でも、俺は宿の手伝いが終わったら帰ることになるんですけど。』

『その事だが……お前には、此方に転校してもらいたい。』

『転校。』

 

……転校!?

え、責任を取ると言った以上それでも仕方ないけど。

母さんとかにはどう伝えればいいんだそれ!?

 

『慌てているようだが……責任を取ると言った筈だな?』

『俺自身はそれでも仕方ないとは思う。 でも、父さんや母さんには?』

彼奴(あやつ)には儂から連絡しておく。 叢雨丸に関して多少なりとも知っている身だ、多くは言うまい。』

 

其処は祖父ちゃんが対応してくれる、と。

……友達への連絡。

休日に遊ぶ友人はいても、ずっと付き合ってきたような相手は誰もいない。

それどころか廉太郎や小春、芦花姉のほうが余程付き合いも長い位だ。

そうなると……。

 

『考え込んでいるようで悪いけど……もしかして将臣君には彼女がいるとか?』

『いえ、独り身です。』

『ならば好いた女子(おなご)は?』

『そっちもいないです。』

 

あれ、そう考えると大分乾いた青春だな。

「彼女が欲しい」と漠然的に考えることはあっても、相手も何もなかったし。

 

『悲しい青春だのう、ご主人。』

 

煩いよツルペタ幽霊!

 

『引っ越すことが嫌なのか?』

『ああ、いやそうじゃなくて。 自分の中で整理してた。』

『整理?』

『そう。 ……仮に此方に来るとして、何か不都合あったかなぁって。』

 

浮かぶのは着替えとかそういった生活用品位。

その辺は母さんに詰めて貰えばいい……が出来れば()()()()はバレたくない。

そんなどうでもいいことだけが浮かぶ。

割り切れてしまうのは、多分。

 

『それが必要なんですよね? 責任、とかだけじゃなく。』

『……恐らくね。 急に迷惑を掛けることになってしまって申し訳ない。』

『いえ……俺も、考えてみればそこまで気にしてないみたいで。』

 

多分、その根底にあるのは。

あの時の二人にもう一度会いたい。

自分では忘れてしまった、約束を違えたくない。

そして、そんな少女に似た彼女を――――。

そんな、エゴにも似た感情があるから。

 

『将臣……すまない。』

 

怒鳴られるとか、叱られることを考えていた祖父ちゃんから謝られれば。

それこそ罪悪感がどんどん増していく。

 

『頭を下げられることじゃないから……それよりも、手伝えなくなってごめん、祖父ちゃん。』

『致し方ないことだ、此方のほうが余程重要だからな。』

『とにかく、今日はもう遅い。 今度また話そう……暫く泊まる部屋に案内するよ。』

 

三人で、そう示しあった。

朝武さんは、部屋の中にいるのに。

一人ぼっちのようにも見えたけれど――――声を掛ける前に、去ってしまった。

 

 

*****

 

 

そんな出来事を過ごし、朝。

妙に寝付きが悪かったような気がするのは、慣れない部屋だったのもあるのかもしれない。

所で、ふとした疑問。

 

「ムラサメちゃんは……あー、寝たり食事をする必要はあるの?」

「吾輩は現世の身体、肉体に縛られておらんからな。 普通にしている限りは睡眠も要らぬよ。」

 

余計に幽霊っぽいんだが。

 

「……便利だったりする?」

「場合による。 壁をすり抜けることは出来るが、皆が楽しそうにしている際に食事に参加することが出来るわけでもないからの。」

「あれ、でも今は畳に立ってるよな? 触れてるんじゃないのか?」

「これは微妙に浮いておるのだ。」

 

どっかの青い狸かなにかだろうか。

あれも確か微妙に浮いてたはずだけど。

 

「昔の感覚が抜けなくてな。 こうしている方が楽なのだ。」

「そういうものなのか。」

 

ただ、誰にも触れられない少女。

数少ない例外でもなければ、見ることも聞くことも出来ない孤独の幼子。

だから、だろうか。

気付けば、手が自然と頭に伸びていた。

 

「…………? どうした、ご主人。」

「あー、いや。 何か昔のこと思い出して。」

 

ずっと昔、小春の面倒を見ていた頃。

なんだかこんな風にしてやった……ような気がする。

 

「さて……着替えて、起きるとするか。」

 

流石に人の家、パンツ一丁で出歩くわけにも行かない。

一応持ってきていた着替えの中から一揃を選び、着替えることにした。

 

「……………………。」

 

ただ、俺の触れた場所。

頭の上を手で触れたままの、ムラサメちゃんを残して。

 

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