<Chapter3-2-6>
キッチン周りには幾つかに纏められた手荷物類。
普段の祟り神祓いの時の身支度に近い格好で、髪の辺りが僅かに湿った二人が
頬の周囲が僅かに紅く、少しだけ雰囲気が柔らかい。
一瞬見惚れて、すぐに自分の意識を取り戻す。
「呼んでるって聞いてきたけど。」
「あ、ムラサメ様。 態々申し訳ありません。」
言葉に反応し、火を止めて二人が振り返る。
見返り美人なんて言葉はあるけれど。
この場合は見返り美少女なんだろうか、なんて。
益体もない事を浮かべてしまう自分を黙らせる。
『構わん構わん、吾輩も手隙じゃったしの。』
「とは言え、無理を言ったわけですから。」
三者三様の応答。
今までに幾度も見ている姿ではあるけれど。
やはり、こういった――――柔らかい姿は
普段の強くあろうとする二人も魅力的なのは間違いないが。
同年代、ということを改めて理解させようとするこの状態。
彼女達を見るだけで胸の奥が跳ねそうになる。
「将臣くんも一度水垢離をしておいて下さい、と伝えたかったんですが。」
「ああそっか、俺も済ませなきゃ。」
「はい。 いつも通りですが……警戒しすぎて損はないでしょうから。」
芳乃ちゃんの告げるそんな忠告。
それもそうだよな、と小さく頷く。
二人も俺も、安晴さんも。
正確に言い直すなら、神社関係者はとにかく風呂……水垢離を欠かさない傾向にある。
普通の場所ならば此処まで執拗に行うことなんてないのだろうけど、今起こっている事象が事象。
特に山に関わる場合は念入りに身体の穢れを落とす。
……
なんて思っていたりもする。
「あ、そうだ。 将臣さん。」
「ん?」
普段通りに、という言い方も失礼だが。
色々と準備を続けている茉子ちゃんからの問い掛け。
「出る前に洗濯だけ掛けておきたいので、纏めて洗濯機の中に入れておいて貰えますか?」
「あー、うん。 分かった。」
多分こういう部分も歴史が積み重なったことで変わった部分だと思う。
洗濯する量が多いから、乾燥機や洗濯機も大型のものが取り入れられて一日一度は最低でも動いている。
昔を考えれば全て手洗い。
…………多分、常陸家がやってたのか?
そんな風に思ってしまうと頭が上がらなくなる。
『しかし。』
そんな言葉をし合う俺達三人に。
割り込むようにしみじみと呟くムラサメちゃん。
「?」
「どうかしましたか?」
『いやな、当初に比べれば大分丸くなったと思っての。』
いやまあ……そう言われればそうだけども。
言うか言うまいかちょっと悩んで、言ったほうが良いなと判断。
指摘するつもりで口にする。
「その言い方やめたほうがいいぞ、年寄りっぽい。」
『なんじゃその言い方!?』
「ムラサメ様、申し訳ありませんが確かにそう言われるとそう聞こえます。」
『芳乃までそんな事を言うか!?』
いやだってそうでしょ。
普段から何となくそんな風に感じていたけれど、その話し方は流石にそう言わざるを得ない。
そういう扱いされるのも、子供扱いされるのも嫌うっぽいから面倒といえば面倒。
「見た目は妹とかそんな感じっぽいのに……。」
そんな呟きに更に目を細めたムラサメちゃん。
あ、機嫌が急降下してる。
それが分かるくらいには関係を深めてきたつもりだ。
ただ、完全に悪化しているというわけでは無さそうなのが面倒臭い。
『ご主人、今見た目を馬鹿にせんかったか?』
「馬鹿には全くしてねーよ。」
ついついそんな口の聞き方をしてしまう。
ただ、それでも互いに一線は超えない程度に言い合うだけ。
彼女からの諫言や暴言も。
俺からの質問や軽口も。
全てはその一線で保たれている。
「……ふふ。」
形の良い口元から笑みが溢れる。
そんな口を自分の手で塞いだのは芳乃ちゃん。
『……なにか面白いのか? 芳乃。』
「目が暗いっていうか怖いんだけど、ムラサメちゃん。」
『そうもなるわ!』
すいません、と謝る彼女に突っかかる
そのあからさまな程に冷たい表情に対して指摘すれば。
先程と同じように軽い沸騰。
全く、と呟いているところからして気分は多少上向きになったらしいが。
「芳乃様。 後少しですから終わらせてしまいましょう。」
そんな俺達に苦笑しつつも、茉子ちゃんの言葉が飛び出した。
「あ、そうね。 ごめんなさい二人共。」
「大丈夫。 ……あー、その。」
だから、残っていたであろう準備。
安晴さんの昼食の準備や
何か言い残したことでもあるのだろうか、と疑問でも抱いたような顔で振り向く彼女へ。
「……
そんな気恥ずかしさ混じりの言葉を呟き、水垢離の為に着替えを取りに自室へと向かう。
背中越しに声が届くが、聞こえなかったことにして突き進む。
『ご主人ご主人。』
「あー! 早く穢れ流さなきゃなー!」
『いや無理矢理すぎるじゃろ。』
そんな風に張り付くムラサメちゃんの言葉と共に。