<Chapter3-2-7>
太陽が出ている時に登るのはこれで二度目。
急な角度を持つ山道というわけではないのに、それでも汗が吹き出ては消える。
普段の緊張とはまた違う緊張感。
周囲の警戒は勿論だが、それよりも重視するのは足元と簡単な
目印を探すために右往左往するような状況下。
「……ううん。」
木々が影となっているような道なき道を進んでいる部分もあるからか。
直射日光は当たらないが、周囲の熱は少しずつ籠もってきている。
少しだけ後ろを歩く二人を確認する。
顔には出ていないが、恐らくは見えない部分で負担が積もっているのは間違いない。
何しろ普段から(深夜帯に帰ってくる、というのはあるが)戻り次第水垢離をして直ぐ就寝するくらいだし。
『どうかしたか?』
俺の首振りに反応して。
時々藪の中なんかを探してくれているムラサメちゃんが問う。
「いや、山中だと
『確かにのう。』
それが何か、を理解しているのは俺と相棒の二人。
他に発見できる基準でもあればまた別だが、唯でさえ普段から瘴気に塗れた土地と化している山道。
最近では目にも慣れてきたのか、自分の意志である程度見る/見ないをコントロールし始めている俺。
昔だったら少しだけ憧れたかもしれない。
霊視、と呼ばれるそんな能力だが……そんな良いものではない、と言うのは俺自身が一番理解させられていた。
(
意味を為さない目から通常の視界へ。
まだ此方で石を見つけたほうが可能性はありそうだが、山道での破片というのが更に条件を厳しくする。
足に当たれば転がっていくし、雨や風で簡単に流される。
それに加え他の石も混じっているんだから余計に面倒。
「将臣さん。」
足元を見つめて、少しだけ足を止めた俺へ声が掛かる。
掛けた当人は茉子ちゃんで、芳乃ちゃんは柏手を打ち微かではあるが周囲の瘴気を減らしている。
「何か見つけた?」
「いえ。 ただ、此処までの道は大雑把ですけどメモしました。」
木の上にでも登るのかと思ってたが全て歩幅を揃えてからの徒歩カウント。
気になって聞いてみたが『高いところは、その……。』と涙目になっていたので理解した経緯があったりする。
「分かった。 ……どうする? 方向変える?」
「そうですね……。 今までにワタシ達が祓った場所もあちこち散っていますし、場所も特定するのも難しいですし。」
「目印とか考えてこなかったしな……。」
今までの前提は『祟り神を祓う』事のみ。
つまりどの場所にいるのかを察知して追いかけ、後はその道をまた戻るだけ。
幾度も通った事で少しだけ踏み固められた簡易的な道だけは俺も記憶していたが。
山に踏み込んで以降は考えてこなかった……これも対策が必要だな。
「取り敢えず、神社から余っていた注連縄を何本か用意してあります。」
「注連縄?」
「はい。 木に結んで、調べた大雑把な最高度地点を示す感じで。」
確かにそれならそう簡単に外れることもないか。
「俺も用意はしてたけど……そっちのがいいな。」
幾つか結べそうなモノは用意してあったが、茉子ちゃんの案の方が神社らしいという面もある。
物体を腐食するのかまでは確認できていないが、また今度に利用しよう。
「ではそういうことで……この後どうしましょう。」
「そうだな……俺には周囲の瘴気くらいしか見えないけど。」
改めてその問題に立ち返る。
茉子ちゃんも似た感じなのか、そうですよねえなんて呟いている。
「芳乃様、どう思われます?」
「そうね。 ……東側を少し見ておかない?」
「東?」
えーと、北側があっちだから……右手側か。
山道だとこういう方向感覚が狂いそうになって困る。
或いは、そういう意味合いもあっての瘴気かもしれないが。
「そう。 段々下っていった先の……川の方。」
「あー、川かぁ!」
言われて気付く。
穂織の街中を通る小川の上流が東側に当たるなら、見ておく理由にはなる。
それに『水』。
流すものであり、自然の結界でもある。
何かを伝えるにも利用される地形。
水――――
流される。
ひょっとして。
「そうですね……小川の周りは見ておいて損は無さそうですね。」
『祟り神は現れんとは思うがの。 地形といい、その在り方といい。』
そんな二人の言葉に思考の海から舞い戻る。
「だよなー……。」
そんな言葉を呟きつつ。
一旦思考をリセットしようと軽く頭を叩く。
そんな折だ。
ふと、脳裏に過った光景が一つ。
ずっと昔、二人に会う前だったか会った後だったかは曖昧だが。
廉太郎や小春、芦花姉と水遊びをした覚えがあったが……あの水辺って何処だっけ。
後で聞いてみるか。
「なら、川辺に向かうということで良いですか?」
「分かった。」
その前に、と注連縄を結びに向かった茉子ちゃんの背中を見送ってから。
ちょいちょいとムラサメちゃんに囁く。
「下り道だともしかすると見つかるかもしれない。」
『理由は?』
「流されてるかもしれん。 水辺側にな。」
だから集中してくれ、と頼んだ。
それに口にはしないがもう一つ。
……
そんな予感が、さっきからし始めていた。