実際に結ばれる結ばれないは置いといて、片付かなければそもそも解放されないというやつ。
<Chapter3-2-15-Y>
「――――
平然と告げられたそんな言葉に、一瞬耳を疑いました。
「――――え?」
そんな言葉を発したのは、ワタシだったような……或いは芳乃様だったのか。
何方が呟いてもおかしくはなく、何方の声でもおかしくない声色で。
自分だと言い切れない、奇妙な感覚が自分を支配していました。
そういった精神の安定化も学んできていたというのに。
「聞こえなかった?」
「い、いえ! そうではなくて。」
「えっと……その。」
普段ならもっとしっかり出来るはず。
「護衛/忍者」として出来上がってしまったワタシなら。
高いところでは震えが出てしまう。
唯一心を許せる場所……自室だったら、「ワタシ」として過ごすことが出来る。
そんな弱点が有るからこそ、ワタシ自身が「
それだけの
でも、
「……まあ、公言できるような立場じゃないし。 最低なこと言ってるけどさ。」
家系としてそう在るべきだと定められた「ワタシ」ではなくて。
直接自分自身として相手してしまう、同年代の男性。
多分、それは芳乃様も同じ。
ずっとずっと、ワタシと芳乃様は同じように生きてきたはず。
――――象徴と、影として。
もし。
だからこそ。
私達が好きになる相手が出来たのならば。
――――
「それが俺の気持ちだ。 本心。」
彼の顔も、気恥ずかしいことを言ったとばかりに真っ赤に染まっていて。
事実
どうしていいのか、ワタシには分からない。
まるで夢見ていた、漫画の一頁のようだというのに。
気持ちを伝えて、それで終わってしまうのだろうと。
そう自分をごまかしていたからこそ出てしまう、混乱と戸惑い。
「だからさ。 あー…………。」
言葉が出ないのは、ワタシだけじゃない。
芳乃様も(恐らく、ワタシとはまた別の理由で)言葉が出ていない。
けれど、そんな二人を置いて彼は話を進めてしまう。
「一段落したら、改めて俺からも言わせてくれないか。」
何を?
決まってる。
昨日の夜の、ワタシ達のような
……憧れていた、ヒロインのように。
「……って、その。 聞いてる?」
「は、はい。」
「わ、分かりました。」
脳が茹だるような感覚。
ワタシがこんな事を言って貰えるなんて。
言ってしまうだなんて、去年まで全く想像もしていなかった。
恥ずかしい。
嬉しい。
でも。
頑張ろう。
ずっと一緒に。
ワタシは。
重い感情。
強い感情。
強欲な想い。
迷い。
そういった幾つかが入り混じって。
はっきりとした言葉にならずにいた。
(――――助けようと思った、あの時に。)
ムラサメ様に命じられたのもあったけれど。
将臣さんの体内から吸い上げる為に唇を重ねた。
一人の人間が背負うには多すぎる瘴気を二人で分ける為に。
陰と陽、女と男。
そんな太極論にもあるような、異性間だからこそ許される行為。
多少なりとも霊力を持ち合わせるからこそ出来る行為。
吸い上げながら――――浮かんだのは、ほんの少しばかりの
それが救命行為だと分かっていて。
それをしなければいけないと分かっていて。
それでも浮かんでしまったのが、そんな感情。
ワタシが先に。
あの人よりも、先に。
そんな不思議な、思ったこともない感情を含めた想い。
次に芳乃様が口をつけ。
息を吹き込むように、霊力を体内へと注ぎ込んで。
口から光を注ぎ込む中。
妙に長かったような――――ワタシの痕跡を塗り潰しているような。
そんな錯覚さえも感じて。
こんな鬱屈とした、暗い感情が何処に潜んでいたのか分からない。
これが正しいだなんて、とてもではないけど思えない。
それでも。
こんな感情を、打ち明けることが許されるのなら。
彼に告げて、それさえも受け入れてくれるのなら。
(――――ワタシは、やっと”ワタシ”になれるのかもしれない。)
怪訝そうな顔を浮かべた彼に。
少しだけ無理に作った笑みを浮かべながら。
「「……待ってますね。」」
何故か。
その声が二人、重なった。