<Chapter3-3-3>
「はぁ……。」
放課後。
一人で帰ることを二人から認められず。
いつも通りに
『ねえ、有地君。』
『はい?』
そんな声を掛けられたのは二人が席を外している時。
話しかけてきたのは一クラスメイトに過ぎない女子。
普段は殆ど話さない……用がある時でもなければ接する機会が少ない相手。
だからこそ、唐突に話しかけられた時に最初に疑問だったのはその理由。
『ちょっと気になったから聞きたいんだけどさ。』
『と言うと?』
周囲に余り聞かれていないのを確認して、小声で問い掛けてくる。
一体何だ、と思いつつ。
『……良く巫女姫様と常陸さん見てるけど、ひょっとして
『……え?』
視線を咎められた……というよりは、忠告か?
見ていることに気付いた彼女が鋭すぎただけか。
本来はこの辺りは付き人を兼ねた茉子ちゃんの領分な気もするし。
『いや、ふと気になってね。
暫く過ごしてるから二人がどういう扱い受けてるかは分かってると思うけど。』
俺と彼女達の関係性。
公開しているのは、やってきた当初に何人かに告げた範囲。
家の関係で知っている相手。
それ以上は今は――――言えるような状態ではない。
たった三人だけの関係性の秘密。
『あー…………ちょっと、色々と。』
『ふぅん。 まあ深く言うつもりはないけど、余り真剣になり過ぎないほうが良いよ。』
恐らくは、彼女からすれば本心の言葉。
薄く笑って言葉を返し、彼女と別れ。
ぎゅう、と机の下で片手を握り締め。
気付けば放課後。
朝方のふわふわとした気分は既になくなり。
彼女の言葉は決して受け入れられないけれど……そういう視線があること自体は理解する必要がある。
(神聖化し過ぎてる……ってのは確かなんだよな。 そう思う理由も分かるけど。)
彼女は
安晴さんが当初心配していた『芳乃ちゃんを特別視しない友人関係』。
これ自体は古くから穂織に住む人間であればある程そう思ってしまうもの。
だからこそ。
安晴さんと秋穂さん、二人が幼馴染で結ばれるというのがことさら奇異に捉えられた側面は無くもない。
外部の血を取り入れる。
霊力の総量を増やし、祟り神との決着を付ける。
この二つを前提とし、この数百年受け継がれてきた――――そう考えるほうが自然だからだ。
(ただそれが今では……ああだもんなぁ。)
思い返すのは幾度か見聞きした『見合いの相手』。
自分で来るならまだ良い方で、代理だけがやってきてその場で口で決めてしまおうとする場合さえある。
確かに彼女は見目麗しい(言い方が変だが)し、その元になる朝武家の代々の重みもある。
霊力という普通ではない能力も併せ持つ……言ってしまえば『美味しい相手』なのは間違いない。
だが、まあ。
(周囲から見ても最低限おかしくない身分を整える。 ……なんかの小説とか中世じゃねえんだが。)
言葉と心を交わしあったのが昨晩。
あれが夢幻と消えないように動き続ける必要はある。
……心配させない範囲で。
「将臣さん。」
「お待たせしました。」
そんな心持を確かめていれば、二人の声が影から届く。
そちらを向けば、ちょうど側面から歩き出したくらい。
此方からも向かい、合流する。
「今日遅かったね。」
「ええ、まあちょっと。」
普段よりも遅い……とは言っても五分十分程度の差ではある。
誰かと話でもしていたのだろうか、と思って問い掛けてみた。
その返事は曖昧で、そして困ったような表情を浮かべる二人。
……深く聞かないほうが良さそうだな。
「分かった。 で、この後なんだけど。」
「はい。
話を切り出そうとして、笑顔で圧を掛けてくる芳乃ちゃん。
「いや、それ程大事にはならないと思うんだけど……。」
「それでも、一人で行こうとしたことには変わりありませんよね?」
冷や汗に対する返答もまた笑顔のまま。
今現在の状況では口で絶対に勝てないので黙り込む。
圧が強い……いや、心配? 或いは独占欲?
もしそうなら、少しだけ嬉しいんだけど。
「……芳乃様、その辺りで。」
「はいはい。」
それを隣で見ていた茉子ちゃんが押し留め。
致し方がないように怒りを鎮める。
幾度も見た光景、でも少しだけ見方が違う流れ。
「えー……じゃあ、祖父ちゃんにちょっと確認と報告をしに行きたい。」
「玄十郎さんに、ですね。」
こほん、と咳を一つ。
分かっています、とその後の言葉に頷く彼女達。
「それに加えて、祖父ちゃんの許可とみづはさんに話を通した上で当人への話になるんだけど。」
「大分遠回りしますね……?」
「必要なことだからさ。」
最初が当人でないのは、そもそも俺の考えが間違ってた場合に無駄になるから。
それに加えて、俺に強制力がないってのも理由の一つ。
「……一度で良い。 レナさんに清めの儀式を行って欲しいんだ。」
「……レナさんに?」
それ自体は構わないけれど、というように。
首を傾げ――――最初に思い当たったように手を叩いたのは、茉子ちゃんだった。