そして少しばかり甘い。
<Chapter3-3-7>
「いらっしゃ…………何々、随分なお客様ね。」
顔を見せた先、珍しく客足が全く見えない田心屋。
店番というか、看板娘のように笑顔を見せた芦花姉を見つけて一安心。
「芦花姉、ちょっと聞きたいことがあるんだ。 時間大丈夫?」
「聞きたいこと? ……まあ、先に席へどうぞ。」
焦ってしまい、最初に掛けた言葉がそれ。
首を傾げつつも、後ろから入ってきた三人を見たようで。
立たせたままも悪いと案内された席へ四人で向かう。
……先程の言葉をムラサメちゃんに指摘されながら。
「……此処ですか?」
「そうです。 芳乃様は初めてですもんね。」
店内をぐるりと見回す芳乃ちゃん。
それに頷きつつ、俺とも来た事がある茉子ちゃんが応じて返す。
それぞれの今までの立ち位置が見えるような会話。
「取り敢えず……注文はありますか? お客様。」
一旦そういう態度をとることにしたらしい。
店員……というよりは経営者として間違いなく正しい行動に苦笑し。
どうする、と三人に声を掛ける。
それくらいの余裕はあるから、無論俺が払うつもりで。
「芦花姉、俺お茶。」
「全員纏めてにしてくれると助かりますお客様。」
廉太郎の言葉に一瞬固まったように見えた。
あ、ちょっと怒りゲージが増えたな今。
「ええっと……何かお勧めは……。」
「あ、これとかどうです? 以前に好きとか言っておられた甘味ですが。」
「ああ……そうね。 それならこれと……。」
二人は女の子らしく甘いものを色々と見てははしゃいでいる様子。
余り見られない光景に少し目の保養をして。
「俺は二人と同じ奴を。 後持ち帰りで一個お願い。」
「はいはい。 帰り際に渡せば良い?」
「うん、それで。」
そんな風に軽く、自分で選ばずに任せてしまう。
余り良くはないと分かっていても、今優先すべきは其処じゃない。
本来なら此処にやってくることも想定していなかったのだし。
『甘いもの、のう。』
味わったことがないメニューを上から見つめ、呟く言葉。
「あー……ムラサメちゃんも食べられれば良かったけど。」
『食事も大分進歩したものじゃ。』
ただ、”食べる”という意識よりは興味が優先されているらしい。
幾度か神社に持ち込んではいるが、その時とは違ったように眺めて暫し。
各人が各々の注文を決め、それを伝え。
奥へと通達し戻ってきた後。
「さて。」
近くの席から椅子を引っ張って腰掛ける。
苦笑が幾つか、芦花姉らしいと思う弟分二人。
「……良いの?」
「この時間じゃお客さんは殆どいないから。 後一時間位で店仕舞だしね。」
……まあ、経営者様がそう言うなら良しとしよう。
前来た時に見掛けた小春の姿はない……多分今日は休みってところか。
「それで態々聞きたいことがあるってことだけど。」
「ああうん。 昔のことで調べなきゃいけないことがあってさ。」
問題は此処から。
血縁はなく、地縁のみが残る相手。
彼女が知らない場合は自力で探す必要性が出てくる、とある種の覚悟を持っての問い。
「私に?」
「廉太郎も駄目で祖父ちゃんも分かんないってさ。 だから覚えてたら、でいいんだけど。」
「内容によるけど……うん、まあいっか。 それで?」
先程も聞いたような言葉。
ただ、詳しく聞いてこなくて助かった、と思いつつ言葉を選ぶ。
「昔俺達あっちこっちで遊び回ってただろ?」
「あ~……子供の頃?」
「そうそう。」
懐かしいなぁ、なんて思い返している姉貴分。
俺達の面倒を見てくれていた、と言って間違ってはないが。
引っ張り回すような側面がなかったわけではない。
……嫌いじゃなかったけどな、あの頃も。
「で、川辺で遊んでた頃ってどの辺りだったかって話をしたいんだ。」
「川辺~? いや
――――目線を全員に向けた。
考えすぎと言われるかもしれない。
単純に忘れてしまっていたというだけかもしれない。
それでも、唯一覚えていたのが芦花姉という事実だけは存在する。
……そもそも、川辺に何があるのかさえ分からないというのに。
小さく頷く何人か。
何でだ、と考えに沈む幾人か。
それらを置いて、問い掛ける。
「それってどの辺りだっけ?」
「え、何。 皆場所覚えてないの?」
「いや遊んだことは覚えてるんだけどさ。」
廉太郎に視線を向けて。
「俺が転んだりしたってことばっか記憶に残ってる感じかな?」
「あ~~~。 まー坊が転ぶってのも珍しかったもんね。」
何で誰も彼もそんな事を覚えているのか。
転んで……細かく何があったかは忘れたが足を切ったくらいしか記憶に無いぞ。
妙に凸凹してるように感じたんだよな、当時。
「で、その場所が知りたいってこと?」
「そう。」
「ん~、でも大した場所じゃないけど良いの?」
「良いの。」
店の奥から芦花姉を呼ぶ声がする。
それに返事を返しつつ、立ち上がって椅子を戻し。
まあ細かいことは良いか、と言わんばかりに指を向ける。
「向こうの道の森に十分位入った辺りの川辺だったと思うよ。」
当時何でそんな場所に向かったのかも曖昧なまま。
”下流”の場所を、聞き出した。
……奇妙な程に、その場所が大事だと信じ込みながら。