恋心、想花の如く。   作:氷桜

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やっとメインヒロインのもう片方が出る回。

*性的な描写があります


<Chapter1-2-3>

 

<Chapter1-2-3>

 

 

「よし、っと。」

 

何かあれば便利だと、母さんに押し付けられた布袋……というか小さく畳めるマイバック的なやつ。

まさかこんな事に使うとは思わなかったが、それに詰めて向かった洗面所。

その扉に手を掛け。

 

「――――!?」

 

開いた瞬間。

一瞬誰かの声が聞こえた気がして。

それと同時、ナニかが床に当たる音が響いた。

 

(……? 何か落ちた……いや、誰かいたのか?)

 

部屋の中、普通の家と違ってかなり大きめに作られた洗面所。

比較するのなら多分祖父ちゃんの旅館のものが近い……だろうか。

明らかに複数人で入ることが前提とでも言うような豪華さ。

お風呂好きなのか、朝武家。

そんな事を思いつつ。

 

「…………。」

 

目の前にある異物へ目を向ける。

 

「何故丸太。」

 

床に転がっている丸太。

いや洗面所に丸太が置いてあるのはどう考えても不自然すぎるだろ。

さっきの音が丸太が落ちた音とするなら、もう少し高いところにあったはずだし。

 

「……いや、ただの丸太だよな?」

 

落ちている場所は洗面所の中程。

左右に首を振って、扉を締めてからそれに触れようとして……。

唐突に、背後から人の気配。

振り返ろうとして、目の前に鋭い何かを突きつけられた。

 

「動かないで下さい。」

 

それは見るからに鋭利な刃物……というよりは、時代劇とかゲームでしか見たことがない物体。

苦無(くない)と呼ばれる、携帯型の刃物のようにも思えた。

ただ、今現在感じているのはそれによる恐怖というより。

()()()()()()()()()()()に気を取られていた。

 

(これって…………。)

 

確かに柔らかい、けれど跳ね返るような弾力。

首元に押し付けられる程に近いからか、吐息も首筋に感じる。

そして、何処か感じるいい匂い。

これって、まさか……いやいやそんなわけがない。

 

誰が、とか。

何で、とか。

苦無、とか。

そういった気になること全てを置いておいて、背中に全神経を集中してしまう。

 

「動くと刺します。」

「あの、ちょっと待って。 刃物っていうか苦無よりも背中に凄い感触が刺さってる。」

「ワタシの質問だけに、答えて下さい。」

 

首筋への圧力が増した。

同時に背中への圧力も増した。

やばい。

 

「わかりました……。」

 

頭が回ってないのは自分でも分かる。

だからこそ、明らかに反応が狂ってしまう。

 

「何の目的で侵入を? 窃盗ですか?」

「……侵入?」

「それ以外の何だというのですか?」

「いや……この部屋に入ったのは、洗濯をしになんですけど……。」

 

腕にぶら下がった袋が悲しげに揺れた気がする。

 

「……バカにしていますか?」

「ええと……何か行き違いがあるかもしれないので、説明してもいいでしょうか……?」

「……どうぞ。」

 

少し考えた後で、許可が出たので話し始める。

とは言っても話す内容も単純だ。

 

「俺はこの家に侵入したわけではなく、昨日から世話になっています。」

「……昨日から?」

「ノックをしなかったのは、安晴さんと朝武さんの二人は別の場所にいるはずで。 他に誰かがいると思ってなかったから。」

「……証明できますか?」

「二人の何方かに聞いて貰えれば……。」

 

ドキドキしながらの会話。

ずっと首と背中に感じる別感触が俺の理性を邪魔する。

生と死と、多分其処を反復する感覚。

何処か冷たさも感じるような声――――見知らぬ声。

この家に俺の知らない3人目がいた、ということなのだろうけど。

 

「では……何故、朝武家にお世話に?」

「ええと……聞いているかは分かりませんが、神社の御神刀を抜いたと言うか、折ってしまって……。」

 

ぴしり、と固まるような音が聞こえた気がする。

苦無がちょっと皮膚に触れた気がする。

怖い!

 

「で、その責任を取って結婚……するかはともかく、婚約者みたいに暫くは世話になるように、と。」

 

若干早口になってしまったと思う。

聞き取れたかは怪しかったけれど。

 

「そ、それって……お名前を聞いても、宜しいですか?」

「有地将臣です。」

 

首筋の苦無が降りた。

ただ、未だに胸の辺りに右腕が当たっている。

 

「あ、有地将臣様!? 知らぬこととは言え、大変なご無礼をっ!」

「いえ、それは良いんですけど……。」

「あの、御神刀を抜かれたことは聞いていましたが……共に暮らしているというのは聞いていなくて!」

「まあ、分かって貰えたならそれで――――。」

 

後ろの声の持ち主……女の子だろうか。

首を回して、後ろを向こうとして。

 

「あっ、ちょっ、待って下さいッ!」

「…………ぅぉぉっ!?」

 

それを押し留めようとして、無理に抱き着く形になったからか。

更に背中の感触が増して変な声が出た。

 

「あの……此方を見ずに、そのまま聞いて下さい。」

「ふぁ、ふぁい……。」

 

え、この体勢で?

 

「まず、ワタシはこの家でお世話になっているわけでは有りません。」

「……え?」

「あっ、申し遅れました! ワタシは常陸茉子(ひたちまこ)と申しますっ!」

「は、初めまして。 有地将臣です。」

 

この体勢で挨拶するの!?

そんな風に思う自分が半分くらいいる。

もう半分は流されつつある。

 

「ワタシは、昔から朝武の家に仕える者です。」

「仕える?」

「はい。 朝武の家は昔、穂織の地を治める御家でしたので……先祖代々お仕えさせていただいています。 普段は、家事などを。」

「成程。」

 

仕える相手がいる家系、でさっきの丸太。

……リアル忍者だったりするのだろうか。

実在するのかニンジャ。

 

「朝はまずお風呂場の掃除をしているのですが……ワタシ、お風呂が好きで。」

「……ひょっとして、さっきまで入ってた?」

「……はい。」

 

だからか、この香り。

……というか、ひょっとして。

 

「あの……ひょっとしたら、で聞くけど。」

「……はい。」

「今、その……そういう、アレだったり?」

「……その通り、です。」

 

だからかよ!

 

「ですから! 動かないで下さい……。」

「いや、いくら何でもこのままは……その。」

 

俺の精神的にも辛い。

 

「ただ……その。 さっきも言いましたけど、いや口に出すのも失礼だけど!」

「それ、は…………み、見られるよりは多少マシですから。」

「良いのかよ!?」

 

気を使った確認に、今のほうがマシとの答え。

反射的に後ろを振り返りそうになり。

 

「ひゃぁっ!」

 

甘い声……のようなものが首筋から響いて動きを止めた。

 

「えっ、えっ!?」

「動かないで下さい……。」

「ご、ごめんなさい!」

 

そのまま、互いの呼吸が落ち着くのを待った。

いや落ち着いているようで全然落ち着けてないけれど。

 

「……それで、じゃあどうするの?」

「そう、ですね……。 あ、そうだ。」

「?」

「痛いのと、痛くないの。 何方が良いですか?」

「何その二択!? 痛くない方に決まってるけど!?」

 

実質選択肢がない問い掛け。

では、と。

後ろの彼女が呟いて――――首筋に、軽い衝撃。

目の前が急に暗くなる。

同時に、柔らかい感触が離れていくのを感じた。

 

一体、何が。

でも、なんだか……幸せだった気が、する――――。

 

そんな、どうでもいい(バカみたいな)思考をしながら。

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