<Chapter3-3-10>
楽しい時間と言い切って良いものか。
気付けば時間は過ぎており、安晴さんの連絡で帰宅したことを知る。
その時間帯と前後して、恐らくは親と連絡を取っていた茉子ちゃんが先に移動していた。
「今後どうなるか分かりませんから。」
という恐らく
二人で歩く道の先。
「……茉子ちゃんも神社に移動するの?」
「恐らく帰宅時間が遅くなるでしょうし。 それに……。」
「それに?」
「一人だけでは、ズルいですから。」
そんな互いに顔を真赤にする会話もありつつ。
荷物を取りに帰った茉子ちゃんと山道中で合流。
念の為に、と付き添っていったムラサメちゃんも問題はなかったようで小さく頷いていた。
彼女達の話を聞く限りでは、暫くの間……ある程度現状が落ち着くくらいまでは。
神社の空き部屋――――実質的に神社内の茉子ちゃんの部屋に寝泊まりするとのこと。
そんな彼女が両腕に抱えた荷物を持ち運びするのを手伝いながらの帰宅を終えて。
「おかえり、三人共。」
「ただいま帰りました、お父さん。」
居間で何処かゲッソリしたような表情を浮かべた安晴さんに挨拶。
「……あの、大丈夫ですか?」
「ああ……悪いけど僕だけでも夕食は軽いものにして貰えるかな。」
それだけ疲労を感じているのか、言葉も何処か重い。
……お疲れ様です。
荷物だけを置いて、居間へと全員が集合し。
「いや、待たせて悪かった。 普段よりも色々圧力が酷くてね。」
少しだけ休んだからか、声だけは上向きになったのを感じる。
全員の手元に置かれた湯呑茶碗。
茉子ちゃんが手早く用意してくれたそれで全員がゆっくりとしながらの話し合い。
「……ええと。
「どう説明すれば良いのやら、と言った感じなんだけれども。」
多分同席していたらもっと酷かったかもしれない、と口走る。
……一体どういう話を持ってきたんだ相手は。
「そんなに?」
「普段よりも酷く感じた、と言うのはあるけれどね。
押し引きではなく押してくるだけ、とでも言おうか。」
違和感はあったものの、元々押しが強い人物ではあったようで。
無いわけではないだろう、と判断して話を終わらせたらしい。
ただ、しつこさが普段の比ではなかったと。
「婚約相手としては勧める彼の方が優れていますよ、とか何とか。」
彼にしては珍しく愚痴るように呟いて、気付いたように失礼と口にした。
「ええ……?」
いや、それを安晴さんに言うか普通。
言ってしまえば関係性が終わってしまうと分かるものだろうに。
ただまあ、自分で経験したように。
穢れの効能の一つは、微かにでも考えていることを肥大化させる。
その辺りに引っ掛かってしまったのだろうか。
自分が上だと少しでも思う相手とはあんまりやり取りしたくはないが……。
「元々近隣の……裏山を超えた先の長一族でね。」
「最初は息子、次は従兄弟……孫もありましたね。」
二人は合わせたように溜息を吐いた。
……なんだろう、その相手に対する悪い感情しか浮かばない。
言い方もあるんだろうけど。
芳乃ちゃんの候補だった、という部分に引っ張られてるのか?
「ワタシとしても余り接したくない方ですからね~……。」
「……というか孫がいるってことは。」
「ああ、息子と言っても次男だよ。
……まあ、一回り以上離れてるのはどうかと思うだろう?」
そんな風に聞かれれば、大きく顔を縦に振る。
政略結婚にしか聞こえないし、それを受け入れる程に
朝武家の血の関係上、若くして結婚するのは至上命題となっていた部分があるのだろうけど。
……余りこんな話を続けても気分は下を向く一方だな。
「後、安晴さん。 今の話とは全く関係ないんですが……。」
「うん?」
話を別の方向に持っていく。
二人も顔を真面目に戻し、視線を俺へと向け直す。
「帰ってくる最中に二人には話したんですが、一度全員に鎮魂の儀を受けさせて貰えませんか?」
「全員に?」
「はい。 正確に言えば俺に茉子ちゃん、後は安晴さん。」
そして、これは可能であれば。
行う側ではなく、受ける側として必要な可能性の確認。
「後は……
え、という言葉があちこちから聞こえる。
「わ、ワタシがですか!?」
「……あれ、これに関しては言ってなかったっけ?」
「聞いてないです!」
あー……結構大事なことだったけど漏れてたか。
危ない。 自分でも気をつけないとな。
「将臣くん。 それはどういう……?」
「あー、とですね。 想定でしか無いので一度やってみては、という意味もあるんですが。」
細かい理由に関しては二人にも説明していなかった。
丁度いい機会だ、説明を兼ねてしまおう。
「そもそも、今の呪いは複数人の意識が束ねられて起こってるもの……と俺は考えています。」
「みづはさんとしていた話……ですよね?」
「そう。 ちょっとした負の感情とかを取り込んでいったとしても、大元は多分二つか三つ。」
伝承から考えると、最後の意識は一人のモノではない。
「犬神とされた生贄の意識。 呪った当時の長男の意識。
……後、あるとして長男を呪う当時の民の意識。」
この内、芳乃ちゃんが受ける側になる……茉子ちゃんが祓う側になる事によるメリット。
「巫女姫が当時の代表と考えれば。
「……ムラサメ様では駄目、っていうのはそういうことですか。」
「そう。 無理に祓うんじゃなくて段階を踏む。」
……ただ、この行動にも問題はある。
仮に上手く行ってしまったとして。
それだけで済まなかった場合。
「……試しても、良いですか?」
茉子ちゃんも『巫女姫』の一族として認める事が必要になる。
血を取り込む――――再び統合する。
つまりは。
呪いを祓うために誰かが二人を娶る必要性が出る。
……安晴さんに、土下座しておこう。