恋心、想花の如く。   作:氷桜

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少しだけ見られ方が変わる話。


<Chapter3-4-2>

 

<Chapter3-4-2>

 

「有地さん。」

「え……あ、はい。」

 

その日の授業が幾つか過ぎて。

昼休みに入ったタイミングで掛けられた見知った声色。

顔を持ち上げれば、視界に写ったのは芳乃ちゃん。

 

「朝武さん、どうかした?」

 

未だ『婚約者』という立場を伏せた俺達。

普段であれば唯の知り合いの同級生、という形を崩そうとはしない。

周囲の――――正確に言えば友人二名と。

この間の女子生徒達からざわめき声が聞こえた。

 

「少し話がありまして。 ()()()()()()()。」

 

後半の言葉は伏せて、

後ろに付き従うのは茉子ちゃんに……レナさん。

いつも通りに作ってくれた弁当を取り出そうとしていた際の出来事。

例のこと……レナさんがいて、同級生には聞かれたくない会話。

お祓い関係かな、と思い当たる。

 

「分かった。 付き添えば良い?」

「はい。 後は……鞍馬くんも宜しいですか?」

 

その時点で、少しだけ周囲の空気が遅緩したのは何なのか。

そして、レナさんが俺達の話し方に違和感を覚えているような顔をしていて。

けれど口にはしなかった。

 

「俺もですか? 問題はないですけど。」

 

少し遅れて何の話か思い当たったのだろう。

ああ、と口にしながら確かに頷く。

 

……その視線がレナさんに幾らか向いているのはまあ仕方ないことなんだろう。

露骨過ぎない視線には慣れているだろうし、そのせいで当人には気付かれていない。

どっちが良いのかはまあ、当人次第。

 

「では……少し長くなるかもしれませんので。 お昼を持って外で。」

 

分かりました、と異口同音に口にして教室を出る。

背中からは未だに声が幾らか残っている。

……ううん。

 

「……良いの?」

「良いと言えば良い……んでしょうか。」

 

先を進む芳乃ちゃんの後に続き、茉子ちゃんと並んで問い掛ける。

苦笑の中に若干の怒りが混じっているような言葉の鋭さ。

良く考えれば、彼女も少しばかり口調が強かったような気がする。

……何かあったのか?

 

「その顔、良く分かってないでしょう?」

「大当たり。」

「それもこれも、将臣さんのこともあってですよ。」

 

……え、俺?

一体何かした?

 

「正確に言えば将臣さんが()()()()()への返答……みたいな?」

「……されたこと?」

この間、誰かに何か言われませんでした?

 

――――思い出す(フラッシュバック)

数日前のクラスメイトに言われたあの言葉か。

 

「思い当たる事あるみたいですね。」

「……いや、それは分かったけど何でこうなった?」

「ん~……一言で言ってしまえば、()()、みたいなものですかね?」

 

癇癪?

芳乃ちゃんが?

いや、二人が?

 

「ワタシ達はいませんでしたけど、他のクラスメイトはいましたよね。」

「……多少だけどいたね。」

「それと当人から聞きました。 ()()()()()()()()、と言ってましたね。」

 

笑顔を崩さない。

ただ、だからこそ怖い。

 

「ですから、芳乃様も少しお怒りみたいですね。 ワタシも止めませんでしたけど。」

「いや、あの……逆効果じゃない?」

 

更に芳乃ちゃんが俺に対して言い出せば。

その分反応してまた何か言われそうなものだが。

 

靴に履き替え、外へと飛び出す。

前の芳乃ちゃんの顔は……影でよく見えなかった。

 

「何方かと言えば、幼稚な地位争いを止めた形のほうが近いんですけども。」

「――――地位争い?」

 

……そんな争ってる余裕なんてあるのか?

色々な事情を知っているからこその疑問。

 

そもそもトップは巫女姫様……いや、朝武家が確定。

それを支える常陸家と駒川家の二本の柱がある。

ということはそれ以下の部分?

いや、其処まで考えないで良いのなら――――学校内でのモノか?

同級生も少ないまま、外部からの流入も少ないまま。

なら学校での地位がそのままスライドする部分も多少なりともありそうだ。

 

「理解しました?」

「……多分?」

 

合ってるかどうかがわからないし。

そもそもそれを口にしたくない。

 

少し聞こえる話し声。

後ろをちらりと見れば、廉太郎とレナさんが二人で何かを話している。

雑談のようで、互いの顔は笑みが強い。

楽しそうでいいよな、と思いつつ。

彼女も視点を変えれば俺と似たような見られ方をする事もあるんだよな、と。

そんな事を考えてしまう。

 

「まあ……今回のことで将臣さんの見られ方は変わると思いますよ。」

「変わる……かなぁ。」

「ええ。」

 

外部からやってきた、言ってしまえば()()()と。

巫女姫様から何かしらの理由で目を掛けられている()と。

……どっちがマシなんだこれ。

 

叢雨丸の担い手だとか婚約者だとかが明かされたらどういう扱いされるのか。

掌がひっくり返されそうで嫌だ。

そういえば――――叢雨丸に関して住民に話が出回ってないのも理由があるのか。

強く口止めでもしてくれているのかな、と思って聞くべきことがまた一つ増えた。

 

「嬉しそうではないですね。」

「いやぁ……本当に二人は良く対応できるよね。」

「慣れてますからね。」

 

そんな一言で済ませて良いのか。

……良いんだろうなぁ。

本当に、本来なら身分が違うというのを再実感する。

 

「……本当は、あまり良くないんですけどね。」

「うん?」

「ただ――――黙ってはいられませんでした。」

 

その気持ちを汲んで下さい。

そう告げて。

普段と違う、仮面の下の顔を覗かせた。

 

分かってる。

そう答えて。

校庭の端――――樹の下へと、脚を届かせた。

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