<Chapter3-4-4>
疑問点だらけの、そして得た話に大きな衝撃を受けてから数時間。
教室の中は既に他には誰もいない空間。
そんな場所に残った俺達三人と、後から合流してきた一人。
「……なあ、ムラサメちゃん。」
『ああ……少し想定外過ぎたの。』
ムラサメちゃんにレナさんの事を伝えれば、珍しく目を見開いていた。
赤い瞳に見えるのは狼狽え――――と混乱か。
この後で川辺に行くにも関わらず、今の話題は昼休みのまま。
時間からすれば、後教室に残れる猶予は30分位と言った所。
まあ、ある程度落ち着かなければ分かるものも分からなくなるから致し方ない。
「はっきり聞いてなかったが、見える条件って有るのか?」
『吾輩にも分からんな。
少なくとも御神刀に宿ってから数百年、幾人も見てきはしたが……。』
「その殆どが朝武家と常陸家?」
うむ、と口にするからには彼女自身も謎のまま。
……まあ、その理論で行くと俺も良く分かってないのだが。
「そういえば……将臣くんは後から見えるようになったタイプなんですか?」
ふとした疑問が芳乃ちゃんから飛ぶ。
「……と言うと?」
「ほら。私や茉子は少なくとも物心付いた時から見えたり話したりできましたから。
その点、将臣くんはどうかなぁって。」
「あー……どーだろ。」
子供の頃の記憶は大分曖昧だ。
ただそれでも普段は見ない緑髪と赤眼の女の子なんて見たら多分忘れないとは思う。
それなり以上に滞在していたはずで、その上で一度も見たことがないとすると。
「多分……
『恐らくな。 吾輩も話しかけられた覚えはないし、見られた記憶もない。』
「……うん?」
いや、何でそんな事を口にしてる?
……考えるまでもないか。
元々穂織を自由に移動しているのだから、見られていてもおかしくはない。
「そういやそうだな……子供の頃から見られてたのか。」
『吾輩は少し気にしていたがな!』
「なんでだよ。」
『鞍馬家絡みというのもあるが、玄十郎の所はよく出入りしておったからのう。』
ええ、と多分口から漏れたらしい。
少し気分を害したのか、近寄ってきて胸を叩かれる。
悪かったとばかりに頭に手を置けば。
『子供扱いするでない!』
と言いつつ手を離そうとすればジロリと睨まれる。
「じゃあどうしろと……。」
奥からジトっと視線が二つ。
これに関しては俺悪くないよな?
「んん゛っ。 ええっと……話戻して良い?」
「……仕方ないですね。」
「はい。 この事は後でじっくりと。」
やっぱり最近露骨だな二人共。
それ自体は嫌いじゃないから何とも思わないが。
一緒にいられる時間が増えるといい方向に考え直そう。
「で、だ。 やっぱり俺が見えるようになったのは叢雨丸を抜いたからだよな?」
『じゃろうな。 つまり後天的に見えるようになるのは無いわけではない。』
「とは言え。 レナさんがそうなる大きな変化なんて……あの
なにかに目覚める、なんて中二病みたいな会話が必要になる。
ただ、それに関わらないと大元の解決に携われない。
……やっぱり厄介だ。
「芳乃ちゃん。 他の人と触れてあんな事起こったことある?」
「無いですね。 ……いえ、普通の静電気程度ならありましたが。」
「彼処まで跳ねたこともない……ならやっぱり元から見えてたって考えるのが自然だな。」
今度聞いてみるか。
地元で幽霊やら何か不思議なものでも見たことはないか。
「それで、どうします?」
指を立て、提案したのは茉子ちゃん。
全員の視線が彼女に向かう。
「どう、って言うと……。」
「はい。
レナさんに何処まで協力してもらうのか、と言い換えても良い。
その場合は恐らく廉太郎にも見えないなりに協力してもらうことになる。
スケジュールの調整や他の住民・従業員との対応。
無論朝武家側からも動きは有るとしても、同僚からのフォローがあるに越したことはない。
「……全く説明しないのはまず無いよな。」
その場合彼女が幻覚見てるとかそういう扱いを受けることになる。
実物がいる以上、そして彼女の名誉のためにも説明だけは必要。
『吾輩としては特に隠す必要性もないと思う。 ただ、鎮魂の儀式の後でだがな。』
「念の為に、ってことですね。」
『うむ。 祟り神に知能がどれほど残っているかは分からぬが……。
まず間違いなく悪意は残っている。 どうなるかが読み切れぬからの。』
「……巻き込んでしまうことになりますけどね。」
ぽつり。
芳乃ちゃんが悲しそうな口調を零す。
警戒に警戒を重ねて足りるかどうか。
有り得ない動作、明らかに嫌がる行為を行う。
人の心理なのか、或いは怨念のみなのか。
それを読み切ることさえ恐ろしい。
「分かった。 なら後で廉太郎にも言っておく。」
「お願いします。」
これが変化の一歩になれば良いんだが。
……ところで。
「ムラサメちゃん。 いい加減腕が疲れて来たんだが。」
『むぅ。 ……まあ良かろ。 この後も大事になるやも知れんしな。』
何故そんな上から目線なのか。
多分口に出せばまたふくれっ面になるので言えずに。
結局俺が折れてそのまま数分。
変な視線に耐えるだけの時間となってしまった。