恋心、想花の如く。   作:氷桜

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川辺での出来事。


<Chapter3-4-5>

 

<Chapter3-4-5>

 

芦花姉に教えられた川辺へは、学校から40分程の距離にあった。

道程としては俺が穂織にやってきた道の側面に当たる場所。

よくよく見れば幾らかの人の足……獣道のように踏み固められた草の上。

 

川から直接降りてこれないのは、くねくねと蛇行しているのもあるし。

建物などに遮られ寧ろ大回りとなってしまうからでもあった。

 

「……さて、この辺か。」

 

小さな森を抜ければ小石があちこちに転がる水の際。

大きな石や岩なども置かれた、特に管理されてもいない場所。

ただ、川沿いには何かを集めたような小石の山が残っている。

だからこそ、自然由来と人の手が入った雰囲気があり。

その光景に、忘れていた筈の記憶の何処かが刺激されるような錯覚もする。

 

「此方の方にこんな場所あったんですねぇ……。」

「山には入れないし、水遊びしたいならこういう場所になるんじゃないかな。

 いや推測だけどさ。」

『そうじゃなぁ。 余り水深があるわけでもなし。

 今でも夏場には時折顔を見せる子供もおるようじゃぞ。』

 

だからか。

足跡が残っているし、あの小石の山が残っているのは。

……まあ、今はそんな事は後回しでいい。

 

「さて……此方にもあるのかね、あの破片は。」

 

神社の中で唯一浄化していないあの破片だけは持ってきていた。

近付けることで再度何かの悪影響を引き起こす懸念が残っているが。

アレは言ってしまえば呪われた探索機としての応用が効くかもしれない。

その為のテストを兼ねており、帰宅後には前と同じように儀式を受ける事を取り決めている。

だからこそ、俺は自分の身を護ることを全員からきつく言い渡されていたりもした。

 

「さて……どう探します?」

「あの時は何か見えたから偶然、って形だったもんな。」

 

からん、と小さく音が鳴る。

神社の中では小さい布に包んでいたが、それだけでは駄目だと芳乃ちゃんに笑(・)顔(・)で(・)言い渡され。

今は小さな瓶をコルクで蓋し、紐で首に掛ける奇妙なネックレス状の入れ物に封印しての所持中。

 

「あるとすれば……川の中、水の中だとは思うんだけど。」

 

周囲に転がっている、と言うよりは川の中で転がり続け此処まで来てしまったという方が妥当。

その分周囲が欠けて小さな物体化している可能性もあったが。

俺個人としては、そんな形へは変化しないだろうという奇妙な確信があった。

 

「この中を一つ一つ拾い上げるんですか?」

「まだ水も冷たすぎるだろうし風邪引いちゃうだろ。

 いや水着なら見たい気持ちはあるけど。」

 

足元を濡らすにしろ、やるのは俺だけでいいと思う。

特に女の子だし、二人の場合は体調崩してしまえば暫くの間影響が大きく出てしまう。

もう少し暑くなってくれば涼しさを得る為にとか言えるだろうが、まだ時期が早すぎる。

 

「……将臣さん?」

「いやそんな変な表情されても。」

 

茉子ちゃんのからかうようないつもの表情。

こんな百面相のような表情の一つも、好きな顔の中の一つ。

 

「そんな事、誰にでも言ってたりしませんか?」

「言うわけ無いだろ。」

 

俺のことをどう思ってるんだ。

地元じゃ異性との出会いさえ欠片もなかった人間だぞ。

……いや、自慢できる事じゃないな。

 

「二人にだから言うんだって。」

「…………///」

「あ、は、はぁ。」

 

当たり前の言葉で切り返せば顔が急に真っ赤に染まる。

……いや、言ってて恥ずかしい気持ちもあるが事実は事実。

側面で頬を膨らませているムラサメちゃんがいたりもするが。

彼女、濡れないからなぁ……。

 

「ま、それはさておき。」

 

こうなってくると一旦置いておいた方がいい、というのは最近分かってきた。

勝手に離れ過ぎると心配を掛けさせるし、先ずはこれが役に立つのかどうかを確かめる。

 

――――ガラス瓶を睨み付ける。

今までは、変なものが見えるのは受動的。

つまり何かが発生してからやっと気付いていた。

それを自分から能動的に。

今見えていないものを見ようとして、集中する。

 

(俺にそんな才能があるとは欠片も思わないが。)

 

叢雨丸と繋がったことで見えるようになった彼女。

恐らくは何らかの別の理由で見えるようになった黒い何か。

それらを後から見えるようになった俺だからこそ。

普段見えるものと、見えない物の境界が見えると信(・)じ(・)た(・)。

 

(これが、俺の出来ることだとするのなら。)

 

ぼんやりと黒黒とした世界が映り出す。

川の、水辺の中だけが普段と変わらない景色。

森の中、石の下からは何かが浮かび上がるように黒い瘴気が薄っすらと見える。

ガラス瓶の中に入り込もうとするそれらの糸。

けれど弾かれ、内側に入り込むのを許さない――――ガラス瓶に対する彼女達の影響。

 

(二人のためなんて言わない。 俺は、俺(・)の(・)望(・)み(・)の(・)為(・)に(・)動(・)く(・)だ(・)け(・)だ。)

 

中から染み出す、細い薄い糸。

伸びる先は川辺の中程。

少しだけ色が変わっているように見える、多分深くなった場所。

他にも幾つか点在して見える、糸同士の繋がり達。

 

「……あ、見えた。」

 

ど(・)く(・)ん(・)。

心臓が大きく跳ねるのが分かった。

強く、大きく息を吸う。

気付けば息を止めていて。

それと同時に、周囲の景色は元へと戻る。

 

「え?」

 

その声色は誰から発されたものだったのか。

熱に浮かされるように、気付く前に動き出す。

手元足元を捲り、靴を脱ぎ去る。

先にタオルを用意しておき、靴下までを其処に置いて。

冷たさが痛みにすら感じる水辺へと足を踏み入れる。

 

「将臣さん?」

『……ご主人、また何か無理をしたか?』

 

声には、今は返事をせずに。

先程見えた場所へ。

足首ほどの深さだった水辺は脹脛から膝程へと深くなっていた。

 

手先を沈める。

そのまま座りたくなるような衝動は一瞬。

指先が捉える幾つかの硬質な感触の中で、一つだけ刺さるような違和感。

摘み上げ――――。

 

「…………これか。」

 

水に濡れ、夕日を反射する小さな破片。

周囲の物を吸い上げるような違和感を抱く、刺さりそうな物質。

……破片の一つが、また手元に増えた。

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