<Chapter3-4-7>
その後十分程して。
頭の重さと疲労が大分マシになった頃に神社へと帰宅。
破片の一つがまた神社に持ち込まれたことで、瘴気が結界へと負担を掛けて。
『大丈夫だ。 また夜に……そうだな、芳乃の部屋にでも行く。』
心配する俺達の声を他所に姿を消し。
どうしたんだろう、と思いつつも同じような行動を取る。
破片の一つを取り出し、俺の部屋に保管して。
今日回収してきたものを本殿へ祀り、水垢離からの鎮魂の儀を受ける。
此処までで既に日は落ちて、夜の……瘴気の時間がやってきていた。
(……ムラサメちゃん、大丈夫か?)
食事が終わったら集まろう、そんな相談をして一時解散。
部屋へ戻り、飾られた刀の内一つを持って庭へと移動した。
時間が開き、当然その分腕前は落ちる。
だからこそその後で、食事の用意が整うまでの間は自己鍛錬。
模擬刀を用いて腕の鍛錬、刃筋を立てて疲れない為の修練。
学校の課題だとかそういったものがある場合は風呂上がりにする。
気付けばそんな習慣が成立している此処最近。
(肉体があるわけじゃないから、疲弊するとして……霊力の枯渇?)
ただ、その訓練にも身が入らない。
相棒の調子がおかしい、ただその一点だけで集中力が散漫になっている。
振ることで考えに集中はできているけれど、訓練の意味は為さない。
それと似ているようで――――単純に心配になる。
(そういや、あんまり聞いたことも考えたこともなかったが。)
彼女は叢雨丸が生み出した存在とは違う。
『彼女』という存在が叢雨丸の管理者として宿っている存在。
その霊力の発現元は神刀だけで賄えるものなのか?
(ちょっと言ってたな、叢雨丸自体も俺を見てるとか認めてるとか。)
つまり、彼女だけではなく刀にも意思がある。
刀が岩に埋まって担い手を得るまで眠っていたのも、或いはその意思の影響として。
当初、それを聞くまでは叢雨丸からの供給で意識を保っているものだと思っていた。
だが……それまでの間起きていたムラサメちゃんは一体何処からエネルギーを得ていた?
そして、彼女は今日疲労しているような……正常ではない状態になった。
今日影響を受けた場所は――――神社の結界。
或いは穂織全体を護る結界。
(……つまり、結び付きが大きいのはその結界の方ってことだよな?)
多分当人は気付いてない。
そして二人も、自分が霊力を失ったら体調を崩すと分かっているから気付けていない。
当人か、見えてはいるが呪われていない人物くらいしか気付く切掛は無い……と思う。
しかし、そうなるとだ。
今まで特に考えもしなかった事にふと思考が寄る。
(
結界といった陰陽系にあまり詳しいわけでもないが。
石とか像、何かしらの物体を起点に何角形かの形を描くようにするイメージはある。
そういった物は時代が進むに連れて摩耗、或いは破壊されて崩壊するようなパターンが多い。
ただ、此処は穂織。
土地の管理者も朝武家であるのだから破壊するような輩はいないとすると……。
(…………いや、結界だろ? 良く考えれば駒川家の担当じゃないか?)
思い当たったのは陰陽師の家系。
今度みづはさんに相談に行く際にムラサメちゃんの事と結界に関しても聞いてみよう。
――――考えを、ムラサメちゃんのことに戻す。
俺が今一番恐れていること。
(無いとは思うが、ムラサメちゃんが消えるなんてこと無いよな?)
今はまだ事後の対応で何とかなっているとしても、持ち込む個数が増えればどうだ。
内側と外側から同時に攻撃されて対応できるのか。
もし神社以外で対応できるとしても、祟り神という物理的な手段がある以上危険度は排除しきれない。
……念の為、当人にも聞いたほうが良いな。
(それと、儀式に関して書いてある書類が他にあるならそれも見ておきたい。)
多分口伝で継がれている内容だろうから、一番詳しいのは芳乃ちゃんだとは思う。
ただそれでも一切記載がないとは思わない。
あの儀式が効果があるのは確実。
ただ、どの程度効果があるのか。
そして対処療法でしかないのならどの程度まで持つのか。
そんな記載が無いことを祈りつつ、それでも調べなければいけない二律背反。
(……本当に、嫌な呪いだ。)
刃を振り下ろす。
腕の疲労でだらんと揺らした刀で集中が途切れる。
思考から浮かび上がり、汗が急に吹き出し始める。
はぁ、と息を漏らして刀を納めた。
「まだ、飯までは時間あるよな。」
意図してそんな言葉を口にする。
食事時特有の匂いが漂い始めてはいるが、まだ余裕がありそうだ。
何より出来上がったらいつもどおりに探しに来てくれると思う。
――――そんな生活に、頼り切っているのもおかしいけれど。
そうすることが嬉しいのだと呟いていた、彼女を思うと否定もできない。
「もう少し、やっとくか。」
集中できるかは分からないが。
考えを纏めるには丁度良い。
これもひょっとすれば、趣味だと言えるのかもしれない。
そんな雑念のままに――――もう一度、刃を引き出した。