恋心、想花の如く。   作:氷桜

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初めての訪問?


<Chapter3-4-8>

 

<Chapter3-4-8>

 

二度目の風呂の後。

元々嫌いじゃなかった風呂も、穂織に来てからは大好きよりになっている。

長風呂よりは何度か入る方向性なので、今の俺の生活に合っているのもあるんだろう。

そんな湯気を纏いつつ、自室ではなく……普段は近寄ることも無い一室の扉を叩く。

 

「どうぞ。」

 

扉越しの少しくぐもった声を聞いてから扉を開ける。

ふわりと漂ってきたのは、焚きしめたような香の匂い。

部屋中を覆っているわけではなく。

その身体に染み込んでいる訳でもなく。

恐らくは香り袋か何かに包まれているような微かな香り。

 

「将臣くん。」

 

綺麗に整理された部屋に、少しだけ和の成分が見え隠れしている。

丁度扉が見える位置に腰掛けて、普段よりもゆったりとした寝間着姿。

此処が芳乃ちゃんの部屋、か。

 

「お邪魔します。 ……来るのは多分初めてだよね?」

「そう……だと思う。 私が知る限り。」

 

暗に「こっそり来てるなら分からない」と告げながら。

そんな訳ないだろ、と首を左右に振りながら一歩中へと踏み込んだ。

真ん中から少し端に寄った辺りに置かれた卓袱台。

既に茉子ちゃんは来ていたらしく、お茶を人数分入れている途中で。

布団の上で横になっているような状態のムラサメちゃんが、一人だけ異様だった。

 

「……大丈夫か、ムラサメちゃん。」

『ん……おお、ご主人か。

 大したことはない、霊力の急激な減少だろうからの。』

「急な減少でそんな体調崩すのか?」

 

お主等で言うなら急に血が少なくなったような感じが近い、と。

もう慣れたような口調で、けれど普段よりか細い声で呟く。

 

……俺達で言うなら貧血に近い症状、と思って良いのか。

にしては重症過ぎるし、こんな姿を見て安心とは全く思えなかった。

 

「将臣さん。」

 

お茶を差し出しながら、小さく首を振る。

それがどんな意味を指すのか。

分かっていながらに言葉にしてしまう。

 

「茉子ちゃん、でも。」

「……今は。」

 

抑えて下さい、と。

言葉にせずに表情で示す。

彼女達も言いたいことも、心配したいことだってあるのだろう。

ただそれを抑えて欲しい。

そんな()()に、目を伏せる。

 

「……すいません。」

「……いや、俺も悪かった。」

 

だからこそ、互い互いに謝罪をし。

同じ罪悪感と心配心を共有する。

誰も決して悪くない。

だからこそ今は飲み込むしか無い――――そんな今。

 

「……二人共。」

 

一口だけ、まだ熱いお茶に手を付けて。

熱気を口から漏らしつつ、芳乃ちゃんが呼び掛ける。

 

「話をしましょうか。 ……今は、少しでも前に進みましょう。」

 

落ち込んでいる暇はない、と。

冷静なように見える表情は、強く握られた手と意識が食い違っている。

全員の考えは同じだと、その行動が表していた。

 

「……だな。 ムラサメちゃんは……必要に応じて喋ってくれ。」

『いつものことじゃなぁ。』

 

多分此処で一人だけ除外したら怒り出す。

だからいつも通りに扱う。

誰も彼も()()()()だな、と自分で思うことこそが思い上がりだとは思うが。

多分周りから見れば俺も似たような事思われてそうだ。

 

「それじゃあ、えっとですね……。

 まず、今日更に一つ破片が増えました。 これは喜ばしい事です。」

 

司会・進行のように今日あったことを語っていく茉子ちゃん。

レナさんに関しては既に話し合ったことなので一旦横に置いておく。

そんな共通認識は無意識に出来るようになっていた。

 

「補足しておくと水辺にはまだ幾つか見えた。

 但し下手に複数手を出そうとすると前と同じに成りかねないんでやめておいた。」

「はい。 推測ですが、祟り神が出さえしなければ移動することも無いと思われます。

 それに水辺ですし……私を含めて、余り相性がいいとは言い切れない部分もありますが。」

 

芳乃ちゃんの語るところに寄れば。

浄化、という意味合いでは水辺という場所は相性はいいものの。

例えばその場で固定する必要がある場合はその効果が逆に働くことさえある、との事。

……『流れる』という事象が良くも悪くも働いている感じか。

 

「なら一旦は問題なし、ただ早めに片付ける方向で進めよう。」

「はい。 お父さんにもお願いして少し予定を変えて貰おうと思います。」

「ワタシも出来る範囲でお力になりますからね、芳乃様。」

 

水辺に残る、場所が分かるものを優先するという形で一旦幕。

次、ムラサメちゃんの現状について。

 

「で……はっきり言うと、欠片が結界に悪影響出してると思うんだけどどうなんだ?」

 

初めて持ち込んだ当人が言える言葉ではないだろうが。

あの時は影響なんてものに気を配ってもいなかったし。

正直に言ってしまえば舐めていた、とも言える。

 

「……ぁ~。」

「……そうですね。 恐らく、直接持ち込まれると似たような状態は再発するでしょう。」

 

ちらり、と視線を向けた先は布団の上の女の子。

文句を言いたげだが、それでも少し怠そうな表情。

 

「理由は?」

「持ち込む際に広がる穢れの濃度だと思います。

 それを消すために霊力を多量に消耗するので…………こう、なんと言いますか。」

()()()()、みたいな感じで捉えると分かりやすいかもです。」

 

胃もたれ。

消化不良。

……確実に対応はできるが、一時的に処理限度を超えているから悪影響?

 

「なら持ち込む前に対応すれば良い、って話になるのか?」

「それも中々。 結局消耗するのは土地の……ご先祖様の残した浄化の力なので。」

「結界以外……多分、ワタシ達がその場で対応すれば少しは違うと思うんですけど。」

 

霊力が足りるかどうかは曖昧なもので、と呟く二人。

……そうだなぁ。

 

「仮にの話だけどさ。」

「はい。」

 

仮にの話。

上手く行って欲しくない方法。

 

「俺がムラサメちゃんから余裕がある時に霊力を分けて貰って蓄えて。」

「はい。」

「それを浄化の際に二人に分ける……言い方は悪いけど()()()()()みたいな感じじゃ無理か?」

 

…………。

……………………。

意味深な無言が少し続く。

 

「……やってみます?」

「ムラサメ様の体調が落ち着いたらやってみましょうか。」

 

二人でコソコソ話し合う。

何か今言ってはいけない言葉を言ってしまったような気がする。

 

「なので、将臣くん。」

「覚悟だけはしておいてくださいね?」

「覚悟!?」

 

うるさいのう、と。

ムラサメちゃんが一言、呟いた。

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