<Chapter3-4-9>
「自分で言ったんですからやってくれるんですよね?」
笑顔の種類が少しだけ違う。
普段のような心からのとも違うし。
悪戯混じりの口角が少しだけ上がったのともまた別。
結局俺は。
絶対に逃さない、とでも言いたげな二人の圧の強さに押し負けた。
「……まあ、それが有効ならだけど。 実際どうやるんだ?」
技術的な方法は全く知らないんだけども。
実際にどういう行為を取るのか、というのは。
その。
ほんの少し前、実体験したアレになるんだとは思うが。
「一番単純な例で言うなら……え、えっとその。」
「……
まあ想定はしてたけれども。
飽く迄実験なのに此処まで希望されるのは……えーっと、その。
いや、男としては凄い嬉しいことではあるけど。
そういう意味で捉えて良いんだよな?
そんな幾つか浮かぶ考えを端の方に放り捨てる。
「今は霊力無いから試すにも試せないけどな。」
お互いの感情を吐露し合った間柄だからこそ。
互いが互いに好意を抱いている間柄だからこそ。
迂闊に踏み込むと収まりが効かないのは間違いない。
なので一旦自分でセーブを掛ける。
『色惚けでもしとるのか、お主等……?』
細い目で見つめられる。
睨む、に近い。
ただ、普段と違いすぎる態度に違和感が先に立つ。
「ムラサメちゃんに霊力分けられれば良くなるとは思うんだがなぁ。」
『阿呆。 乙女の唇を何だと思っておるのじゃご主人。』
じーっと細い目で俺を見ないでくれ二人共。
ムラサメちゃんに行うとすれば輸血に近いんだし。
身体を保つための霊力が不足している、という状態に対応するならそれが理想だろ。
……実際どうなんだ?
取れる選択肢としては無くはない……んだよな?
「ムラサメちゃん、そういう部分差っ引いて疑問なんだけど。」
『……疑問?』
横臥状態の彼女に問い掛ける。
本来なら頬が押し潰されるだろう姿勢で、その部分が布団に埋まっている。
こういう時に温もりすら無いのはキツイよなぁ。
「仮に俺がムラサメちゃんに霊力を分け与えたとして、今の状態から立ち直れるのか?」
『……どうじゃろうなぁ。
「と言うと?」
ムラサメちゃんから俺に受け渡せるのだし。
その逆も出来ておかしくはないと思うんだが。
そんな事を考えつつ、か細い声に対応する為にムラサメちゃんの傍に移動する。
それに付き従うように芳乃ちゃんに茉子ちゃんも少しだけ身体を近寄せてくる。
一箇所の密度が急に上がった。
良い匂いとお香のような香りとが入り混じって、くらくらする。
『何というかの……芳乃が普段から行っておる鎮魂の儀式が有るじゃろう?』
「あるな。」
「はい、しています。」
芳乃ちゃんも鸚鵡返しのように答えなくてもいいんだけど……?
まあ可愛いからいいか。
『あれは
「……内包?」
「え。 ムラサメ様、初耳なんですけど。」
『特に必要がない部分じゃからな。 吾輩に影響があるというだけでの。』
あの儀式の影響がムラサメちゃんにも有る?
……結界に与えてる影響が波及してる、というところか?
そのタイムラグがほぼ無いからそう思えるだけ、とか。
『話を戻すぞ。 当然では有るが祟り神の鎮魂、周囲の瘴気の慰撫。
それに加えて結界の維持・発展に叢雨丸への霊力の供給。 それだけの意味がある。』
「…………ん? 霊力の供給?」
『普段から土地の霊力を吸い上げてはいるのだがな。
儀式の流れを利用する事で吾輩を介してへんかん?している……といえば通じるか?
土地から叢雨丸までの流れは固定化されておる以上、吾輩だけが立ち直れるかは不明じゃな。』
……んんん?
つまりだ。
普段は土地→ムラサメちゃん→叢雨丸の流れで霊力の供給を行っている。
で、その流れは途中で止めることは出来ない。
ムラサメちゃんの今の在り方は叢雨丸の管理者、つまり其処から手に入れるお溢れの霊力。
ただ、今は結界の為の力が足りないから逆流して補完している。
結果、叢雨丸(と結界)の霊力が安定化するまでは落ち着かない……ってことだよな。
「なあ芳乃ちゃんに茉子ちゃん。 ひょっとして俺の考えがおかしいだけかもしれないんだけど。」
「はい。」
「どうしました?」
今のムラサメちゃんの説明に浮かぶ穴。
いや、本来は穴ですら無かったが産まれてしまった対処法。
「
そもそもの話。
彼女は肉体がない霊体だからこそ何かに宿って其処からお溢れを貰っている筈。
そして今の話を聞く限り、流れの始点と終点は彼女自身ではない。
つまりムラサメちゃんから始めれば行けそうでは有る。
「…………。」
「……将臣さん。」
返ってきたのはとても冷え切った目線。
「そんな冷たい目で見られることか!?」
「私達をさておいて早速浮気ですか?」
「悲しいです、芳乃様……。」
分かりやすい程に嘘泣きされても困るんだけど。
……まあ、理論上は出来るってことだけ覚えておこう。
『……ご主人。』
「ん?」
『もう一度言うが、乙女の純血を何だと思っておるのじゃ。 阿呆。』
人命救助に近い内容なのにか!?
ただ、顔を少しだけ紅く染めているのは珍しい。
「それでも俺はムラサメちゃんが消えちゃうくらいなら強引にするからな。」
それだけは、きっちり告げておく。
……目線の温度が、更に下がった。