ムラサメ様もなんかそっちよりになってきている気がする。
<Chapter3-4-10-M>
一見普通に見えるけれど。
何処かおろおろとしたような表情を浮かべる彼に、溜息を漏らしました。
(……分かってない、ってことはないんでしょうけど。)
芳乃様がワタシと同じような眼をしているのは分かっています。
多分抱いている感情、思いは同じだろうから。
『彼の方からして欲しい。』
この間のような、彼を救い出す為に行った事でも良い。
そのテスト……練習としてでも良い。
出来れば何もなしに、
言葉ではなくて、行動で示して欲しい。
……この間はちょっとやりすぎたような気がしますが。
思い返すだけで顔が真っ赤になりますし。
「……ねえ、茉子。」
「はい?」
呟く言葉は少しばかり寂しそう。
一体どうして、と思うワタシと。
そうですよね、と納得するワタシと。
そんな二人が同じように存在していて。
「はっきり言ったほうが良いのかな?」
「普段だったらどうしましょう、って言うところなんですけどね~……。」
はっきり言ってしまえば、戸惑っているのが今のワタシ達。
こんな経験自体が無いものだから、暴走しがちになっているのも間違いなくて。
欲しい物を欲しいだけ要求してしまう、子供のような感情が浮かんでいるのも間違いなくて。
だからこそ、
相手が、ムラサメ様だと分かっていながら。
相手が、ワタシ達の手の届かない間柄だから。
相手が、疲弊して寝込んでいるとしても。
――――いや、だからこそかもしれない。
ワタシ達が望んでしたことだからこそ、多分。
特別にしたいと思いこんでいるのかと、そう思う。
「芳乃様はもっと迫っても良いんじゃないです?」
「迫る……って何をどうすればいいの?」
ムラサメ様を見る将臣さんの視界は少しだけ特別にも見える。
兄弟姉妹はいないと仰っていましたし、そういう理由で?
……いや、それは多分あの甘味処の店員さんを見る目のほうが近い気がする。
「さあ?」
「さあ、って。」
「実際、ワタシが一から十まで決めちゃって良いんですか?」
そうしたらワタシが思うようにしますけど、と言い含め。
半分笑顔、半分は真顔。
色んな感情が入り混じった表情を、ワタシにだけ見える角度で向けてくる。
それに対してワタシは、普段の笑顔で返すだけ。
「言うようになったわね、茉子も。」
「まあ……何ででしょうね。 色々思っていたことはありましたけれど。」
本家と分家。
主と従者。
幼馴染。
色んな呼び方は有るとしても、お互いに秘めた言葉があったのは当然で。
口には出さず、口には出来ず。
同じ感情を持つこと自体が出来ていなかったような気がします。
それを取り払って、同じ感情を抱いたのが――――同じ相手に対して。
残酷だ、と思わなくもないですが。
「今の、この状態がワタシは楽しいので。」
「そうね。 ……もうちょっと、積極的になってほしい人はいるけどね。」
「それを言い出すと仕方ないですって。」
……少しだけ、芳乃様を押してみようか。
ワタシと同じように真っ赤になるのか。
或いは彼が暴走してしまうのか。
ちょっとだけ、見てみたい気もします。
……理性が鉄壁過ぎますし、後者は流石に無いかなぁ。
「茉子。」
「はい?」
「悪い顔。」
「そうですか?」
そうよ、と告げる視線の先には。
年の離れた、仲の良い異性同士のじゃれ合いが映っている。
そして、ワタシの目にも同じように。
「……………………。」
「……将臣さん。」
だから、そんな光景を見ているだけで耐えられずに。
少しだけ、積極的に動いてみることにした。