恋心、想花の如く。   作:氷桜

144 / 171
日常、の中の一欠片。


<Chapter4-1-2>

 

<Chapter4-1-2>

 

結局、神社近くまで背負った状態は続いていた。

後少しで入り口、という辺りで彼女は漸く四肢を緩め離脱して。

その姿を二人に見られることはなかったものの。

 

「そういえばムラサメ様、今朝は何方に?」

『今朝か? ご主人と共に散歩していたの。』

 

朝食時。

そんなヒヤヒヤするような会話が挟み込まれ。

出来る限り反応しないようにしたつもりではあったが、芳乃ちゃんには不審がられたらしい。

 

「それで今朝、何してたんですか?」

 

そんな繰り返しの質問を受けたのは、学校も終わって帰宅した後。

祖父ちゃんとの剣道の鍛錬から戻った時だった。

 

「……いや、だからムラサメちゃんが言ってただろ?」

「ええ、ムラサメ様は仰っていましたね。」

 

態々俺の部屋に押し掛けてきてまで。

そして分かりやすい程に()()()()()()()()()()()()()

顔全体が少しだけ暗く、嘘は許さないと言いたそうな表情。

 

「でも、将臣くんの反応少しおかしかったですよね?」

「おかしい……?」

「びくぅ、と目に見えて反応してました。」

 

え、してたの!?

そんな露骨に反応したら自分でも気付くと思うんだが!?

 

「……気の所為じゃない?」

 

だから、そう呟いて目線を逸らす。

 

「へー、ふーん、ほー。」

 

手が伸びてきて顔の向きを元に戻された。

ジッと見つめる距離は、妙に近い。

少しばかり青色の二つの眼が逃さないと告げている。

 

()()()()()

「はい。」

「もう一度聞きます。 何があったんですか?」

 

そんな強く聞かなければいけない理由があるのだろうか。

いや、俺も隠す必要があるとまで思っていないんだが。

ただ、口にすれば不機嫌になりそうだと思ったから。

可能なら言わなくて済むならそうしたかった。

 

「……って言っても大したことじゃないんだが。」

「はい。」

 

其処まで聞きたそうにするなら仕方ない。

 

「ムラサメちゃん背負って散歩してきただけだよ。」

「そうです……え、背負って?」

「そう。」

「変な話していたとかではなく?」

 

……あ、そうかそれを疑ったのか。

露骨なまでの反応を見せてくれるだけ、信頼してくれてると思うべきか。

或いは愛されてると苦笑するべきか。

 

「しないよ。」

「そうですか……。」

 

明らかにホッとしたような顔を浮かべ。

少しだけ周囲の空気が緩和して、呼吸がしやすくなった。

……芳乃ちゃんは怒るっていうか、こういう態度見せるんだよな。

茉子ちゃんははっきり口にしてくれるから分かりやすいんだけど。

 

「でも、何故背負う事に?」

「いや、はっきりとは分からないかな……。」

 

こうじゃないか、という想像はあるが。

それを口にすると彼女の内心を勝手に明かすことになる。

それに想像に過ぎない、という部分もあることだし。

彼女一個人とは特別な関係性を結んでいるけれど。

其処から変わることは――――どうなんだろうな。

 

「……良く将臣くんの傍にいますもんね。」

「うん、まあね。」

「……。」

 

口を少しだけ動かしながら、目を伏せた。

 

……何が言いたいのかは何となく分かる。

ただ、それを口にするのを。

もう少し正しく言い直すなら、感情を表に出すのに慣れていない。

自分の欲望を伏せるのに慣れすぎて、幼い時からの知り合いにしか出せなくなっている。

……まあ、表に出しすぎて良いことなんて何もないけれども。

 

「あー……芳乃ちゃん?」

「はい。」

 

一番最初に安晴さんが俺に頼んだのはこういう理由もあったのだろう。

まあ、良かったのか悪かったのかは分からないが。

 

()()()()()()()()()()?」

「…………はい。」

 

それでも、今の彼女の変化が俺にしてみれば好ましい。

嫉妬してくれる、欲望(かんじょう)を少しだけでも見せてくれる。

他と違った扱いをしてくれる、というだけで違う。

 

だからこそ、こういった事を聞くことが出来る。

恥ずかしさとか覚悟とか、複雑に入り混じった上での言葉。

ただ、そんな俺の内心とは違い。

彼女は色々と真っ直ぐに向き合ってくれる。

 

「…………。」

 

距離はほぼ隣り合わせ。

向かい合うのではなく、隣に座ることを彼女は選んだ。

真正面には何もなく、ただ障子が映るだけ。

――――秋とかだったら、風情があったりしたのかもな。

 

「これで、いいの?」

「はい。」

 

今はこれで、と小さく漏らした。

かちり、かちりと時計の音だけが聞こえる。

普段だったら後少しで食事の時間。

だからこそ……というのがあるかもしれない。

 

「……もし。」

「ん?」

 

二分、三分。

不思議と苦痛に感じない、ただ座るだけの時間。

意識はしっかりしているのに、安らいでいるような時間。

 

「……夏が終わって……秋になったら。 もう一度、こうしてくれますか?」

 

そんな中で、小さく願いを口にする。

 

「時間が有るなら幾らでも。」

「……約束ですよ?」

 

約束にならない約束。

いつでも、幾らでも。

彼女達が無事でいてくれさえすれば、叶えることも容易い約束。

ただ、裏を返せば――――そんな約束さえも叶うか分からない。

そんな不安な状態に、彼女達は居続ける。

 

「……約束だね。」

 

だから、早く終わらせたい。

そう募る焦燥感の中で。

 

こてん、と。

肩に倒れる、頭が一つ。

 

するがまま。

されるがまま。

時間が、ただ流れ続けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。