恋心、想花の如く。   作:氷桜

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しかし当然入る邪魔。


<Chapter4-1-3>

 

<Chapter4-1-3>

 

二人の儀式を明日に控えた週末日の放課後、神社。

普段であればもう少し街中を散策したり、瘴気の確認作業を行ったり。

少しでも対応に動くか、或いは気分転換……若干のデートに付き合う時間帯。

そんな俺達の前には、()()()()()()いつもの物が映っていた。

 

「…………この日に、ですか。」

「いや。 この日だから、じゃないか?」

 

視線の先は、本殿に持ち込んだ鏡に映し出された芳乃ちゃんの頭部。

人のものではなく、けれどある程度感情に対応して動く獣の耳。

発現するのは祟り神が現れた時。

つまり、呪詛の力が強まった時。

そして同時に、彼女に多大な負担を引き起こす状態異常。

 

――――もしかすれば。

芳乃ちゃんの先祖代々早死したのは、この耳の負担が止めだったりしないか。

その程度には見ていて恐ろしい、末代の呪い。

 

「明日のことを見据えて、ってことでしょうか。」

 

そう、ぽつりと芳乃ちゃんが漏らす。

 

「負担を掛けるため、と俺は見てるけど。」

「負担……ああ、そうですね。 明日に疲労が残れば。」

「いや、勿論()()()に対してもそうだけど。」

 

敢えて名前ではなく、称号で呼ぶ。

その役割は代々引き継がれてきたモノであるのも間違いはない。

が、今はそれだけではないと指摘する意味合いでも。

 

「多分、()()()()()()を削りに来てるんだと思う。」

 

ぁ、と言葉が隣から一つ漏れ。

視線を向けた先は同じように悩んでいるムラサメちゃん。

この数日である程度回復したようで、彼女に命じられるまま少しだけは霊力を溜め込んだ。

とは言えその量は多くもない。

その総量と呪詛の総量が目で見て確認できる訳でもない以上、少しでも削るのは当然の攻撃。

 

『…………有り得るな。』

「実際の所なんだが、祟り神が暫く徘徊していた場合ってどういう状態になる?」

 

そういえば、と聞いてみる。

ある程度予想はしているが、実際に発生したことが有るのか。

もしあるのならどんな影響が出たのかを確認しておきたい。

主体性を持ってはいたが、そういった詳細部分を聞いた覚えがあまり無かった。

 

『そうだな……。 まず、アレは実体を持った呪詛の塊じゃ。

 精神的な存在から変化しているからこそ霊力を込めた武器が通じる、というカラクリでな。』

「影響で言うなら……そうですね。 まず少しずつ私達が不調になります。」

「まあ、それはそうだよな。」

 

家系の呪いの集合体だもんな。

それが凝縮してると考えるなら影響も大きくなる。

 

「その後、ある程度安定化するまでは山中を彷徨いますが……。」

『そうだな、野生の獣を想像するがいい。

 そしてその獣の好物は結界に取り囲まれた吾輩達、巫女姫達だ。』

 

一時、もしかしたら不味かった時期があったのかもしれない。

文章か何かに残されているのか、行動の末路は思ったよりも具体的だった。

 

「つまり……()()()()()()()()()()

「肉体がありますし、もしかすれば穂織に降りてきて町民を襲う可能性もあります。」

 

遥か昔に数度あったらしい記録があります。

そう付け加えたのは芳乃ちゃんで。

だからこそ、危険度は熟知しているらしい。

 

「結界自体が崩壊……するかどうかは分からないが、攻撃。

 つまりは揺れれば不味いのは変わらないんだろ?」

『じゃな。 仮に今の状態で結界が消えるならば。

 朝武も常陸も、何方も襲われ滅びる可能性は十二分以上にある。』

 

無論揺れるだけであれば其処まで酷い結果にはならんと思うが。

そう返答はしているが、結界が揺れる――――つまりムラサメちゃんへの負担が再度起こる。

つまり討伐は最優先目標に上がってくるのは確実で。

攻撃する側が圧倒的有利な状態ってのはこんなもんかよ、と心の内で吐き捨てる。

そしてそれらを認識しているからこそ、彼女達の顔は少しだけ青くなるだけで済んでいるのだろう。

本来は二人で行う、無限に続く役割だったのだから。

 

「何にしろ、今日は討伐……で宜しいですか?」

「俺は構わない……けど、芳乃ちゃんはそれで大丈夫なのか?」

無理でも動きますよ?

 

ぐりん、と俺達へ顔を向けた彼女。

その眼は、何処か澄んでいて。

同時に、虚無を抱えているような気がして。

背筋に寒気が急に突き立った。

その表情をさせたままでいれば不味い、というある種の直感。

 

「……なぁ、茉子ちゃん。」

「はい、多分考えていることは同じだと思いますが。」

『む?』

 

その眼を見たのは位置関係上俺と茉子ちゃん。

だから、言葉にしなくても分かってくれたのだと思う。

 

「明日のこと考えると、芳乃ちゃんに無理はさせられないって話。」

「ワタシ達が矢面に立ちます。 ムラサメ様、ご協力をお願いします。」

『そりゃ、当然するが……。』

 

今は迂闊に話題に出すのが怖い。

獣耳の影響か、或いは何かしらの特異な発生理由なのか。

少なくとも今までで此処まで酷い目を見たことはなかった。

 

嘗ての彼女は、もしかすれば私生活であんな眼をしていたのかもしれない。

誰も知らない場所で。

……後で、問題がない状態で。

色々と聞いてみたほうが良さそうだな。

 

「……二人共?」

「まあ、芳乃ちゃんの本番は明日だろ?」

「今日くらいはワタシ達に譲って下さい。」

 

祓うために消耗する霊力。

出来得る限り叢雨丸ではなく、個人が持つそれを使用した討伐。

……少しだけ溜め込んだ分なんて簡単に消えてしまいそうだな。

最悪は――――茉子ちゃんと。

ムラサメちゃんに注ぎ込む必要だって考えなければ。

 

そんな、日が暮れる直前。

彼女の変異を、知ってしまった日。

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