そして対応できる程度に鍛えられてしまった主人公。
<Chapter4-1-4>
暗闇の中に白刃を以て
ただ縦に横に振る、という単純な技も「続ける」ことを考えれば。
必然的に一撃に全てを賭けるのではなく。
続けやすい形へと落とし込んでいくことになる。
昔インターネットか何かでちらっと見掛けたことがあった言葉。
剣舞とはこういうものか、というのを骨身に染みるように感じている。
「……次ィ!」
「将臣さん、右です!」
茉子ちゃんの言葉に直感と共に反応。
振り被られた腕のような部位を身を屈めることで回避する。
そのまま突き刺し、引き抜く。
腕の疲労と引き換えに祓ったのは大したことのない
「ムラサメちゃん!」
『確実に数は減っておる!』
叢雨丸を用いて人ではないモノを祓う戦闘である以上。
本来は邪道でさえ有る当たるをよしを徹底した技術となる。
その為の回避手段であり、足捌きであり。
そして相手の攻撃を、ある程度以上の有効打で受ければ呪われる。
その強度は二人で嫌になるほど理解している。
お互いに当てればそれで勝利が確実になる戦い。
その事実に気付いたのは二度目の祟り神祓いの際で。
だからこそ、脚を本気で踏み込む相打ち狙いという形は修練の中から捨てていた。
とはいえ、だ。
「嫌がらせにも程があるだろ……!」
目の前に広がるのは集団の祟り神。
今までのような人程の大きさではなく、もっと小さい……四足獣のような背丈。
獣特有(と言う程見た経験も有るわけではないが)の動きというよりは少し鈍い気はする。
ただ、数が周囲を取り囲んで襲撃してくる状況。
今まではこちらの方が数的有利だったのをひっくり返された状態。
ぎりり、と奥歯を噛みしめる。
『――――!』
その隙を相手は見逃さない。
飛び掛かってきたところを左に飛び、首の後ろを茉子ちゃんの苦無が刈り取る。
「助かった!」
「いえ!」
互いに声を掛け合いながらの戦闘。
息は少しずつ上がるが、まだ余裕はある。
それだけ体力は付けているつもりだし、実感としても付いている。
だが、少しずつ摩耗していくことには変わらない。
(……しかし、違和感が凄い。)
何故か連携を取ってこない。
獣が獲物を狙う時特有の集団連携を取らず、一体ずつ動いてくる違和感。
摩耗でも狙っているような、幾らでも生み出せるような余裕。
多分、其処が付け入る方法だと思った。
なので。
「芳乃ちゃん! どう!?」
「多分正面奥です!」
出来る限り動かないで欲しい、と懇願した相手。
その言葉と裏腹に、芳乃ちゃんを近くの木に登らせて確認して貰っている。
本来なら身軽な茉子ちゃんのほうが正しいのだろうけど。
戦闘中にも関わらず一瞬固まったり、声が震えていたので取り止めた。
……しかし、何とか登れて良かった。 本当に。
途中落ちかけて冷や汗をかいた。
「正面……!?」
「其処だけ妙に祟り神の数が多いのと……其処から
多分俺が向いている方向。
見える範囲で4体から5体。
更にその奥、か。
しかし気配がする、とは言い方が奇妙だとは思った。
まるでこの小さい存在に気配がしないような言い方。
「茉子ちゃん!」
「はい、合わせます!」
背中辺りに芳乃ちゃんが降りる物音。
十秒程待って、大丈夫ですと声が聞こえた。
後ろを振り返って確認したい。
ただ、今それを確認する余裕はない。
この状態を切り抜けてから聞くしか無い。
気付けば背中に横に――――影に付き従うように現れる彼女へ意を伝える。
「ムラサメちゃん、行くぞ。」
『うむ。 ご主人の思うがままにするが良い。』
もう一度叢雨丸を握り直す。
手汗で濡れてはいるが滑り落ちる事はない。
握力が未だに保っている、というのは勿論ある。
だがそれより、糸が巻かれた柄が吸い上げてくれているのも大きい。
最後の攻防までは持ってくれる、そんな安心感。
右足を踏み込む。
『――――!』
右上、回避した足元を追撃する左下へと叢雨丸を振り。
『――! ――――!』
即座に切り返し更に一歩二歩と踏み進む。
……確かに。
正面地帯に近づくにつれ、こいつらの動き方が明らかに変わった。
連携を取るように、知能が上がったような。
或いは本能が目覚めているかのような動き。
「二人共! 先に!」
一歩遅れて、背後から襲撃する音。
右前方から飛び掛かってくる、足元に喰らいつこうとする動きの顔面に刀を突き立てる。
「分かりました!」
背中を通り過ぎる飛び道具の音。
しゃなり、と聞こえた鈴の音。
ぎゃうん、とまるで犬のような鳴き声がしたのはほぼ同時。
足音が二つ、その隙間を縫って先へと進む。
……後はあの二人に任せるしか無い。
「さて……。」
『ご主人。 分かっておるな?』
「ああ、耐えてればいいってことだろ?」
相手にも此方にも明確な弱点が存在する。
此方側は、立ち向かう二人自体の身柄と体調。
そして相手側は、今まで判明さえしていなかった呪物の存在。
俺はそんな中で、
無茶をしても、それだけでパワーバランスが崩れ切る訳では無い。
どれだけの破片と化しているかは不明だが、その呪物を見つけ出し祓えば総数は減る。
対応できなくとも、つい先程戦闘中に閃いた事。
――――川の中央に破片を封印する、という一時凌ぎの手段があるのだから。
破片持ちを打ち祓い、彼女達が戻るまでの多少の時間。
「これくらいは、耐えなきゃな。」
敢えて軽口で、そう呟く。
彼女達と――――相棒と。
それらの隣に立つには、これくらいは。
もう一度心の奥底を確かめて。
『――!』
『ジャ、マ、ナ……!』
何十体いるのかも分からない。
獣達の中心で、腰を低くして佇んだ。