そして得たもの。
<Chapter4-1-5>
周囲の数は見通せない。
此方の人数は一人。
作戦目標は耐久戦。
そんなゲームのような、何処か遠くで見ている俺が状況を整理している。
(つまり、俺がやるべきは突破よりは時間を稼ぐこと。)
今あの背中を追いかければ、それに従って俺の周囲の祟り神も移動する。
そうしてしまえば、折角先に活かせた意味が消失し。
同時に形勢が不利に大きく偏る事を認識している俺がいる。
(……
盤面自体を俯瞰しているような、何処かゆっくりしたような脳内整理。
或いはこれが走馬灯に近いものなのかと認識しそうになり。
少しだけ振動した叢雨丸が、一人ではないと意思を示す。
『ご主人、呆けている暇はないぞ。 男子が言い切ったのであろう?』
ああ、と口にしたはずだ。
口内が乾き、生唾を飲み込んで喉を湿らせて。
なんとなく、今こうして落ち着いていられるのも
(……ムラサメちゃんとはまた違う。 これがお前の意思とやらなのか?)
当然のように言葉は返らない。
……この刀が神刀として生み出された経緯を、俺は何も知らない。
担い手として、それを追い掛け直してみようか。
そんな余裕すら生まれていた。
「……まあ、二人に任せておけば大丈夫だろ。」
『じゃろうな。 多分二人も文字通りに真剣に動いている筈だ。』
「余り無理して欲しくないんだけどな。」
俺みたいな特に何もしていない人間と違い。
二人は好んで(或いは義務的に)色々と行っている。
下手に手を出せば怒り出すくらいだ。
だから、俺には俺しか出来ないことを済ませるしか無い。
「まあ、それが今か。」
近くの木に背中を向けた。
これで背後からの襲撃は避けられるが、同時に逃げ場を失った。
後は二人を信じ続け、耐えきるか――――全てを切り払うしか無い。
「来いよ、祟り神。」
自分を鼓舞するつもりで一言。
それに反応するように、二匹が同時に飛び掛かる。
進行方向を大雑把に確認。
一匹は俺から大きく外れる挙動だと認識し無視。
もう一体に、刃の先を向け周囲に目を凝らす。
『――!?』
ずぶり、と突き刺さる軽い感触。
少しだけ熱を発した叢雨丸が消し飛ばすまでに一秒か二秒。
『…………チッ。』
ムラサメちゃんの呟きが耳に残る。
消し去るのにも霊力が必要なのは当然で。
一度一度に消耗する量は少なくとも、数が増えれば蓄積される。
今日だけでどれだけ祓ったのか――――欠片の浄化など、出来ようはずもない。
「ムラサメちゃん、終わったら強制だからな。」
『抜かせ。 まだまだ余裕じゃ。』
次々に飛び交う、なんてこともなく。
ジリジリと周囲を囲んでは意識を切らした方向からの襲撃。
(……やっぱり、妙だな!)
一度で急所を狙う事を諦めたのか、
人であるなら避けられない、摩耗消耗を狙った戦闘手段。
人ではないからこそ取れる、時間を掛けた戦闘方法。
そんな戦いを、体感で五分以上は続けただろうか。
(動きが、鈍く、なってる……?)
俺自身にやや大げさに回避する癖が付いている、というのもあるが。
木々に擦り、地面を滑り。
服の上から、見えている肌に切り傷擦り傷が少しずつ増えていく。
疲労が着実に溜まって、理想の動き方が出来なくなっていく。
今までであれば直撃したような、全力の攻撃の頻度が減っている。
『ご主人、分かるか?』
「……何がだ?」
時折こうして声を掛けてくれているから意識を強く保てている面もある。
だが、それよりは息をするのに必死で返事も荒くなる。
全力で走った後の、体力を使い果たした後にもう一度走る前のような呼吸。
ただ、幸いなことに――――早朝の自己訓練でその辺は経験済みだ。
普通の剣道ならば行わないような方法。
『こやつらの呪詛の密度が薄くなっておる。 使い魔か、それに類する物じゃな。』
「……だからか? なんか動きがおかしかったの。」
つまりは操り人形のような個体だったのか。
それなら動きが妙だったのも、普段の祟り神とも違うのにも納得がいく。
距離が離れれば、或いは
その分操作する難易度も跳ね上がっていく。
それが単体の意識であるなら兎も角、祟り神は
「つまり、後少し耐えれば良いんだよな?」
何故それが崩れたのか、という理由。
それは二人が操っている当人……欠片を持つ存在を追い詰めているからに他ならない。
他の理由で逃げ出す理由を、俺は今思いつくことができない。
だから、そう信じる。
飛び掛かる頻度が増してくる。
周囲を取り囲んでいた獣が背を翻し。
大きく踏み込んで背中を貫き。
地面を転がってその隙を出来る限り削る。
ひたすらに、ひたすらに。
「終りが見えてきただけマシだな……!」
時間を稼ぐことだけに徹する。
焦りという感情があるのかどうなのか。
ひょっとすれば、欠片以外のところで意識を得た存在なのかもしれないが。
そんな物は関係ない。
『足元!』
「見えてる!」
彼女達全ての害になる相手なら、俺の敵だ。
声が導く。
刀が誘導するようにふわりと浮く。
視界の外からの攻撃を防ぐために、意識して見ない。
疲労が増すからこそ。
頭痛がしてくるに連れ。
身体の傷が広がるごとに。
力を入れずに動く感覚に、指が掛かる。
「これ、で――――!」
呟いたのは、ただそう感じたから。
遠くで二人が刃を食い込ませたような。
そんな不可思議な直感に、言葉を載せた。
真下にいる敵に、刀を振り下ろす。
頭部、食い込み顎下へ。
地面に接するかどうかで、力を抜き。
それとほぼ同時に、周囲の気配が煙の如く溶けて消えた。
「あー…………終わり、か?」
『うむ。 ……吾輩もヘトヘトじゃ。』
「そーっかー。」
ならまあ、宣言通りにしないとな、と。
胡乱な脳裏の中で。
再度木に背中を押し付け、地面へと腰を落ち着けた。