忘れてることが多い。
<Chapter1-2-5>
「…………。」
さっ、さっ。
昼食を終えて、少し経った後。
「ご主人。 何をしておるのじゃ?」
「見て分かるだろ、庭掃除の手伝いだよ。」
「にしては顔が大分渋く見えるが?」
「ちょっと食事の時に、さ……。」
庭で考え事を纏めたいのもあって、掃除の手伝いを買って出ていた。
そんなところに、何処に行っていたのかムラサメちゃんの帰還。
……一人で考え込み続けるよりはマシか。
「食事時か?」
「ちょっと空気が最悪だったんだよ。」
「ふぅむ…………。 芳乃か?」
「言わないで察してくれると有り難い。」
何を話しても打ち切られる。
話が一切続かず、食事を終えた後は即座に本殿へ去っていって。
その場に残された俺に。
『多分意固地になってるんだと思う。 悪いけど、長い目で見てやってくれないかな?』
『芳乃様も変な所で頑固ですからねえ……。』
なんて、安晴さんに常陸さんは慰めてくれたけれど。
それとこれは話が別。
「ま、言わずとも分かっとるだろうが。 芳乃の奴は内に内にと抱え込む気質だからの。」
「それはまあ……まだ短い付き合いだけど分かる。」
「吾輩からは言えないこともあるのだ。 その内に当人から言い出すとは思うが。」
「俺に?」
「
それは……一体どんな意味を持つんだ?
叢雨丸が御神刀だってのは散々に理解したけれど。
俺をそれだけ遠ざけて――――何か理由があるのか。
それに関しては、誰もが話してくれる気配を持たなかった。
だからこそ、こうして一人溜息を漏らしながら考えているわけだけど。
「普段なら、身体動かせばもう少し気分も紛らわせるんだけどな。」
「身体を?」
「走り込み、って程じゃないけど向こう……元いた場所でも走ってたんだよ。」
「成程のう。 ならば走ってくるのはどうじゃ?」
「明日からはそれもいいかなーとは思ってる。 ただ、土地勘が殆どないからさ。」
とにかく、時間を紛らわす手段に乏しいのが穂織だった。
テレビのチャンネル数が異様に少ないし、再放送を何度も繰り返す地方番組が主体。
一応持ってきたスマホを介してネットは繋がるけれど回線が異様に遠い。
光回線が通っているかも怪しい……志那都荘なら別なのだろうか。
後で祖父ちゃんに聞いてみよう。
今日は時間を潰す意味でも、手伝う意味でも声を掛けてみたけど。
『此方は大丈夫だ。』
の一本で押し通されてしまったし。
「だったら吾輩……じゃないにしろ、誰かに頼んでみてはどうじゃ?」
「流石に急だしなぁ。 ムラサメちゃんがいいって言うならお願いしたい所だけど。」
「うむ。 ま、吾輩からも聞いておこう。」
間にムラサメちゃんが入れば少しはマシに……なるかもしれない。
朝の寝惚けていた時みたいに、多少でも会話になってくれればと言うか取っ掛かりになってくれれば。
「ふむぅ……なぁ、ご主人。」
「ん?」
「すまんが聞いてもいいか。 吾輩の気の所為かもしれんのだが……。」
「そんな勿体振らなくても。 掃除しながらになって悪いけど、それでいいなら。」
山から飛んでくる葉っぱやらを掃いていれば、地味に量が貯まる。
此処に来る前はイメージ的によく掃除してるな、って感じではあったが……実際見てみるとそれもそうだな、と思わざるを得ない。
大体……八割位は終わったか。 もう少し。
「なら。 ……芳乃や茉子と会ったのだろう?」
「会った。」
「なら、今此処に二人しかおらぬから聞くが……時折遠くを見つめるような視線をしているのは、一体
「遠くを?」
「気付いておらなんだか。 昨晩も多少見受けられてな、気になっておったのだ。」
遠くを見つめている。
その理由…………?
「悪い、何のことだか分からない。 気になった時に聞いてくれるか?」
「だろうな。 自分でも気付いておらぬならそうもなろう。 ……再度確認するが、向こうに何か縁のある相手を残したわけではないのだな?」
「何度も確認するな……。 そうだよ。」
何でかは分からないが。
故郷というか、都会での付き合いで深く親しくなれる相手は一人もいなかった。
幼い頃から何度も何度も穂織にやってきていたからか。
「第二の故郷」と呼んでいいはずの此方に、残した何かがある気がする。
それは薄ぼんやりとしながら、
「……ううん。」
「どうした?」
それが何だったかが、ずっと引っ掛かり続けているからか。
身が入らない、とまでは言わないけれど。
何をしても、いまいちきちんとやる気にまで至れない主因なのだと心の何処かで理解しながら。
「何ていうか……改めて考え直すと忘れてることが多すぎるなって。」
「物忘れが激しいのかの?」
「いやー……穂織関係だけなんだよな、忘れてること。」
思い出そうとしても何処かに消えているように。
ずっとそれを考えていることが難しいとでも言えばいいんだろうか。
「まあ、そのうち思い出せばいいさ。」
「ご主人は適当じゃのう。 芳乃も苦労しそうじゃ。」
「苦労してるのは俺なんだけど……まあ、出会ったばっかりだし。 お互いに知り合っていけば良い、に落ち着くんだよな。」
よし、一段落。
終わったし、次は中の手伝いでも――――。
そんな事を考えた時だった。
「あ、あの。 すいません。」
気付けば、背後に女性が立っていた。
不安そうな表情を浮かべながら――――たった一人で話していたように見える俺へ。
それでも、一縷の何かに縋るように。
「男の子を見ませんでしたか!?」
そんな問い掛けを、投げ掛けてきた。