翌日の事前準備パート。
<Chapter4-1-8>
翌朝。
うつらうつらとする意識を覚ましたのは、普段通りの小さな目覚まし。
そして枕元で眠るように揺れるムラサメちゃんだった。
(結局マジでやってくれたんだよな……。)
聞き覚えのない旋律。
古い言葉なのだろうか、余り意味が分からなかったけれど。
不思議と安心して眠りにつくことが出来たのは真実。
有難う、と心の中で告げて部屋を出た。
「あ、おはようございます。」
ぎしり、と板の音を立てながら縁側を超えて居間へ。
外からの朝日が入り始める、薄暗い時間帯。
にも関わらず人工の灯りが付いていて、忙しそうにする茉子ちゃんが既に起きていた。
「おはよう。 ……朝から忙しい?」
「昨日帰って寝てしまいましたからね~……。」
私服姿に無地のエプロンを身に着けて。
食事に洗濯、身近な掃除と。
ぱたぱたと忙しそうに動き回る彼女の手伝いでもするかと声を掛ける。
「何か手伝えることある?」
「あれ、朝のランニングはどうなんです?」
「まだ少し擦り傷が攣っててね。」
問題はないだろうが、疲労が残っているのも確か。
無理をしすぎるのも良くないし、彼女の手伝いへと意識を変える。
「そうですか……。」
顔を一瞬暗く沈める。
そんな顔をして欲しい訳では無いのだから、言葉をもう少し選べば良かったか。
ただ、次の瞬間にはまた元へと戻っている。
……伏せていた内心の一つ、かな。
「でしたら、一つお願いしてもいいですか?」
「ああ。 何をすれば良い?」
洗濯……は二人の下着が一緒だったときに気まずい思いするし。
掃除か食事の手伝い辺りか?
全く出来ないわけじゃないし、出来る所だけでも――――。
「
「え。」
だからこそ、言われた言葉に思考が回らない。
今なんて言った?
「芳乃ちゃんを起こしてくる?」
「はい。」
「なんで!?」
起こす必要性が有るのは分からないでもない。
色々忙しいし、今日の午後のことを考えれば早く起きる必要性も有る。
それに毎朝から儀式を捧げているのもあるからその分早倒しするのも違和感はない。
で、それを起こす役割を俺に振るの!?
「将臣さんに今任せられるのがそれくらいですし……。」
あれ、今役に立たないって言われなかったか俺。
「それに、多分芳乃様も飛び起きてくれますし。」
「そりゃ飛び起きるだろうけど。」
部屋に勝手に入られて起こされればそうもなる。
……あれ、そういや
慣れれば違うもんなのか? 良く分からん。
「と、とにかくお願いします!」
ぶしゅ、と鍋から湯が吹きこぼれる音がして。
不味い、とキッチンへと慌てて戻っていく背中を見送り。
小さく溜息を漏らし。
数日前に入った、彼女の部屋へと向かう。
(……色々と心臓に来そうなんだが。)
同じ部屋で眠ったことさえ有るとしても。
もう少し……そう、何時間か早ければ夜這いとすら勘違いされそうな行為。
そんな中で、何方かが意識を失った状態で部屋に入るのは流石に緊張する。
(さて。)
小さく息を漏らしつつ。
彼女の部屋に辿り着き、軽く小さく戸を叩く。
既に起きていることを期待していたがやはり無理。
特に反応はなく、声もなく。
致し方なく、障子戸を滑らせる。
「………………。」
声を押し殺しながら、部屋の中へと踏み込む。
此処で声を掛けても良かったが、早朝から大声を上げるのはどうかと思って。
カーテン越しに灯りが薄く入り込む室内。
まるで異界か何かのようで、少しだけおかしくなった。
視線の奥、眠ったままの少女が天を見上げている。
(……こうしてみると、普段と違う印象にもなりそうなものだけど。)
部屋の中に滑るように入り込む。
少しだけ畳が凹み、それを繰り返し布団際へと近寄る。
「……。」
胸元が上がり、下がり。
繰り返し呼吸して、息をし続けていることを表している。
そうでもなければ、もしかすれば眠り姫のように眠り続けると勘違いしたかもしれない。
そんな、冗談を脳裏に浮かべた。
「芳乃ちゃん。 時間だって。」
布団から右肩だけがはみ出している。
肩口にそっと触れ、少しだけ揺らす。
声を掛けながらのそれで起きるかとも思ったが駄目。
少しだけ口元を歪めるくらいで、起きる兆候はない。
(……こういう時はどうするべきなんだろうなぁ。)
流石にこの状態で眠ったフリなら気付く自信がある。
寝起きが悪い、とでも言うんだったか。
確かに朝弱いってのは聞いていたんだが。
「芳乃ちゃん?」
先程よりも少しだけ大きく揺らし、声を近くで掛ける。
「んん……。」
けれど、やはり目覚めない。
寝返りを打ち、此方側へ半回転。
布団が少しだけ捲れ、同時に寝巻きの胸元をちらりと覗かせる。
一瞬見つめてしまい、何してるんだと首を振り。
(……仕方ないか。)
耳元に近付く。
肩を掴む手は変わらずに、揺らし続けながら。
少し強引に、目覚めるような言葉を選ぶ。
「起きないと、
――――果たして。
それに意味があったのかどうなのか。
急に目を開き、起き上がりそうになるのと。
俺が方を抑える力は運良く(或いは運悪く)釣り合い、動かずに。
目線だけが俺に向き。
急に熱を帯びて、肌が赤くなるまでにほんの数瞬。
「……朝、本当に弱いね。 おはよう、芳乃ちゃん。」
「あ……おはよう、ござい、ます?」
何故、という眼。
理由としてははっきりしているが、少しだけ手間を掛けさせられた仕返しを呟く。
「
「~~~!」
まるで茹でダコになるまでにそう時間は掛からずに。
朝から湯気を出すように、布団に埋もれたままの彼女がいた。
…………やり過ぎた?