*儀式の前の話。
<Chapter4-1-9>
なんだか良く分からない朝を越え。
少しだけ空いた時間帯に、二人がやってくる午後になるまで少しだけ。
自分なりに纏めているノートを更新する。
その折々で手が空けば、誰もが顔を出す中で。
手元にノート、奥にパソコン。
調べ物をする際の特有の状態で色々と仮説を立てている。
(……なんだか此処最近は俺から色々することが増えてる気がする。)
……そんな集中できない理由もありつつ。
此処最近で増えてきた、若干桃色な出来事なんかを頭の片隅に追いやりつつ。
”叢雨丸が持つ能力の一つは霊力への変換。基本的には担い手を護るために用いられる?”
”そもそも神刀へと至った要因が不明。祟り神発生の要因の頃には既に存在していた?”
分かったこと、分かっていたこと。
知ったことをひたすらに羅列するのではなく、自分なりに噛み砕く。
勿論誰かから聞いた内容に関してはそのまま別に記載し、繋げられるように。
学校での授業ともまた違う
本来なら他の文献から引っ張ってきたら記載しなきゃいけないことも有るはずだが。
こんな内容を研究できるのも、している人間も限られる。
”古い文献の中でも重要だと思われる部分の欠落が有ることを確認。”
”焼失している、という話だったがこれ自体も何らかの理由が存在すると思われる。”
自由に出入りを許可された裏倉庫。
朝食後に見に行った限り、
壁沿いに黒い煤が未だに残っている……のだが、微かに瘴気の残り香のような気配がして。
慌てて周囲を確認しても何もなく。
しかし、結界の内部に残る理由もまた異常で。
もしかしたら、程度の備忘録として研究ノートに残していく。
”以前よりも自然に、視界の中にモノが映り始めている。”
”体内の霊力が増加していく副因と聞くが、体調への影響は不明。”
叢雨丸との結び付きが強くなった結果なのか。
今朝、彼女を起こしてから気付いたことでは有るが。
結界を越えた先の淀みが、普通に視界の中に入り始めていた。
念の為に二人にも聞いてみたが、『気にしすぎなければ影響はないです』とのことで。
霊視とかそっち方面の亜種なんだろうと無理矢理に自分を納得させる。
完全に混在してしまえば混乱はするが、まだ常に映っている訳では無い。
この辺の上手い付き合い方はそのうちに学ぶ予定。
「…………こんなところか。」
はぁ、と漏らしてペンから手を離す。
こうして纏めることで自分なりに整理できている側面はある分。
こうした研究を延々と続けるのは慣れていないし、性分にも合っているか曖昧だ。
何方かと言えば動くほうが得意、というのが有るかもしれない。
「お疲れ様です。」
「うぉあ!?」
そして、誰もいなかったはずの隣から急に声。
驚いて変な声を上げつつ横を見れば、お茶が入った湯呑を二つ持った茉子ちゃんの姿。
「休憩でも、と思ったのですが。 声を掛けても戸を開けても反応がなかったもので、つい。」
「え、それだけ集中してたってことか……?」
自分では全く気付かなかったが。
ひょっとしたらそれなりに待っていてくれたのかもしれない。
「かもしれませんね~……。」
苦笑交じりの茉子ちゃんの表情からそれが伺えて、頭を小さく下げる。
「悪かった。」
「いえいえ、集中してらしたのでしょうし……それも、
ちらりとノートを覗いて、もう一度笑みを見せる。
ただ、その意味は正反対で。
喜びを微かに見せるような、微笑ましいものだった。
「いや、俺の為。」
結果的に二人のためにはなるけれど。
解決しなければ俺にとって大事な
だから、これは俺がしたい事。
芳乃ちゃん、茉子ちゃんに……縛られたままのムラサメちゃんも。
気付けば、俺にとって欠かせない人達だ。
「またまたぁ。」
「いや嘘じゃないし。」
受け取った茶を口に含む。
段々暑くなってきているからか、それは煮出した麦茶のような味。
ただ普段実家で飲んでいたものとは少しだけ違った。
からん、と小さい氷が音を立てた。
「芳乃ちゃんは?」
「舞の練習中です。 ほら、お祭りの時の。」
……ああ、アレか。
確かに練習しないとどんどん錆びついていくもんだしな。
しかし。
「茉子ちゃんは……その、良いの?」
「何がですか?」
「舞の練習とか、後は……儀式の勉強とか。」
前に彼女達が言っていたのは纏めればこういうことだ。
将来的に、という意味も含んでいるが。
同じことを二人ができるのならば、仮に何方かに行わなければならない時でも対応できる。
「ああ……儀式に関しては午後に手伝いに回るつもりですよ。」
「舞は?」
「ワタシは、その。
先祖の業が未だに祟る。
全てが終わるまでは、影に朝武家を支え続ける。
それが家訓で、その通りにし続けて。
彼女自身もそうしたい、と口にする。
「……ああ、でも。」
ぽつり、と一言だけ漏らして。
「将臣さんに見せる為なら、頑張っても良いかも?」
「……まーたそういうこと言う。」
「事実ですから。」
照れ臭さが強くて、お茶を煽る。
それを知った上で、彼女は告げている。
ほんの少しの気分転換。
それでも、心の疲れは大分取れて。
「見たくなったら言って下さいね?」
「その内、二人のを見せてもらうよ。」
そんな軽口で、小さく答えた。
それに対する返礼として。
誰に見せるものでもない、と思っていたが。
折角の機会だ、やれるだけやってみよう。
――――大真面目に、取り組んでみようか。
先程調べていて、ふと目に入った動画の一幕。
剣舞、とやらにでも。