恋心、想花の如く。   作:氷桜

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やってきて、その後で。


<Chapter4-1-10>

 

<Chapter4-1-10>

 

――――しゃん。

――――しゃん、しゃん。

 

周囲の窓が閉じられて。

不自然な程にしんとした本殿の中央。

 

「…………。」

「…………。」

 

穂織特有の、和の意匠を取り込んだ服装に身を包んだ男女が座り込んでいる。

目を瞑り、息を整え。

深く深く沈むように、意識を音に向けている。

 

(…………さて。)

 

二人の正面。

いや正確に言えば周囲を回るように祈りを捧げ。

舞を披露し、儀式を執り行う巫女姫。

そして入り口の傍には叢雨丸を佩いた俺が座り。

その隣に、相棒としての小さな少女が佇んで。

対角上に、見たことがない巫女服姿の幼馴染が座っている。

 

周囲を囲み、更に霊力で満たされた空間。

擬似的な、短時間であれば神社を覆う結界よりも強力かも知れない空間。

成り立たせている状態であるからこそ、脂汗が吹き出ている。

そして。

その中央の少女の――――豊かに育った胸元の間からも。

いつもよりも薄暗い、湿った気配が吹き出している。

 

(出た……いや、でも何だ?)

 

ふらりふらりと浮き出たそれは。

レナさんと廉太郎――――二人に対して侵入しようとしていても。

それが出来ずに弾かれているようにも思える。

恐らくそれが見えている廉太郎は恐れているような表情で。

レナさんは……それに負けず劣らずか、上空を見回している。

 

「~~~~。」

 

しゃん、しゃん、しゃん。

鈴の音が速度を増していく。

それに相対して、浮かぶ気配も少しずつ色が薄くなっていく。

上空に消えていくのではなく。

地面に引きずり込まれるようにも見える、その光景。

 

(物体化出来ない……どころか二人に宿ることさえ出来てない、ってのは何だ?)

 

かたり。

少しだけ、叢雨丸が音を立てた。

無意識に立ち上がろうとしていた俺は、その音に我に返る。

隣と対角からは鋭い視線……瞳を伏せて、謝罪の意を示す。

 

(……()()()()()()()()()()()のか?)

 

いや、多分俺が気になりすぎただけ……だとは思う。

彼女に引っ張られる理由は無い。

それどころかあの黒い存在に引き込まれる要因もないと思う。

ただ。

そう、ただ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「~~~~はっ!」

 

しゃらん。

一度大きく、鈴が鳴る。

それを契機として、地面に完全に飲まれていき。

ムラサメちゃんが少しだけ体調を悪くしたようにうめき声を漏らす。

 

「以上です。 ……お疲れ様でした、お二人共。」

 

芳乃ちゃんが一礼を執り行い。

板の上へと玉のような汗が滴り落ちる。

それ程に集中していた、ということで。

同時にそれだけ消耗した、ということでもある。

 

「……あー、巫女姫様。 すいません、幾つか聞きたいことが有るんですけど。」

「そうです。 芳乃、聞いてもいいですか?」

 

彼女を支えるように、茉子ちゃんが肩を貸すように近付く。

有難う、と小さく呟いているのが口の動きで分かった。

そして、そんな二人に対して当然のように質問を投げかける二人。

 

「当然ですね。 ……ですが、その前にもう一度水垢離を。」

「肌に残った僅かな穢れを洗い流した上で、話をしましょう。」

 

先が女性陣でいいですか?

大丈夫です。 じゃあ任せていいですか?

先に行ってきますね、廉太郎。

 

そんな話が少し遠くで伝え聞こえてくる。

廉太郎の番……男勢の番になったら俺も一度清めてくるとして。

今の内にムラサメちゃんに確認しておく事がある。

向こうの彼奴が俺に目線を向けているのは分かっている。

後でな、と顎で俺の部屋を指せばその通りに動き出した。

 

「なあ、今のなんだ?」

『瘴気……穢れは穢れでも、色々と違和感が強かったな。』

「やっぱりそう見えたのか?」

 

俺にだけああ見えた訳では無い……ということだよな。

薄くなる理由ってなんだ?

量が少ないとかならまだ分かるんだが。

 

『逆に聞くが、ご主人にはどう見えた?』

「いつもの純粋な黒……って言うよりは灰色か? 明るい色が混じったような暗さ。

 後はなんか湿()()()()気がする。」

『……()()()()()()()

 

俺に見えたものを告げれば。

意味深な問いかけを、返される。

 

「なら、ムラサメちゃんには?」

『片方……レナ、とかいう外つ国の方から見えたのは同じじゃ。

 だが……廉太郎から出たのは見えなかったのか?』

「……悪い、全く見えなかった。」

 

彼奴からも?

やっぱりどこかしらで憑かれたってことか?

ただそれが抜けた後にも関わらず周りを見てたことからして、まだ見えてる?

……駄目だ、良く分からん。

 

『まあ、更に薄い……霧に近かったからの。』

「色が薄かった理由って分かるか?」

『分からぬ。 ただ……そうじゃな。 アレは、恐らくだが……()()()()()()じゃろうな。』

 

元々穢れ自体が矛盾した存在だとは思うが。

そういう意味ではなく……だよな。

 

『穢れでありながら清められている。 正と負が同時に存在している……というのが近いだろうか。』

「……普通瘴気って清められれば立ち消えるよな?」

『ああ。 だから、あの小娘が何かしらを持っている可能性のほうが高いじゃろうな。』

 

先程までは過ごしやすい空間だった本殿。

人が消えたからか、儀式が終わったからか。

初夏と言って良い季節だというのに、急に寒気を感じた気がする。

 

「……何か、は聞かないと分からないか。」

『吾輩も共に行くが……ご主人。』

「ん?」

『…………吾輩も出来れば絶対にしたくはないが。

 霊力の補給の覚悟だけはしておけ。』

 

…………?

つまり、その。 口付けする覚悟を?

 

「何故? あんなに嫌がってたのに。」

『あの小娘の持つもの次第では、全力を出さねばならぬ。

 廉太郎にも影響があったのだろうし、気恥ずかしさは後回しだ。』

 

……分かった、と口にして。

伸ばされた手を握り、俺の部屋の方へと戻っていく。

さて。

鬼や蛇程度で済めば良いんだが――――何がいるんだか。

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