<Chapter4-1-11>
「……さて。」
話し合いの場所に選ばれたのは居間ではなく何故か俺の部屋。
理由は幾つか有るという。
ただ、一番大きな理由としては『此処に叢雨丸が置かれているから』らしい。
それだけで周囲に溢れてしまった場合の瘴気に対応してくれるから……と。
蚊取り線香か何かか、と神刀と便利グッズを同列に並べてちょっとだけ笑ってしまった。
「何処から説明しましょうか。
先に言っておきますが、説明できない部分もあります。」
全員が風呂から上がり、微かに湯気が漂っている。
甚平のような男性陣二名。
物理的に湯に浸かれた、寝間着にも見えなくはない女性陣三名。
そして宙に舞う相棒一人と一本。
それらがぎっしりと詰まった部屋は、普段よりも明らかに狭く感じられる。
「おー……浮いてる……。」
「え、誰かいんの?」
……やっぱり見えてるんだな。
一応紹介だけはしておくか。
一人だけ見えず、声も聞こえない状態になってはしまうが。
「レナさんに先に説明しておくと、彼女がムラサメちゃん。
穂織の守り神……みたいなもんだと思って貰えればいいよ。」
『説明が雑じゃなぁ……。 後は其処の将臣の相棒でもある。』
「おー。」
よろしく、と手を伸ばしてはいるがやはり空を切る。
直接触れることは出来ない、と。
……うわ、廉太郎の顔が真っ青になってる。
そりゃそうか、実在するって彼女の視点から確定しちゃったんだし。
「細かい自己紹介は後にしましょう。 ……では、聞きたいことはありますか?」
どう説明するかを投げて、二人の質問に答えるスタイルに切り替えたらしい。
ほら、茉子ちゃんも苦笑いしてる。
「じゃあ……はい。
顔を真っ青にしたまま、廉太郎が口を開く。
おや、と思ったのはその呼び方。
以前に廉太郎、と親しげな呼び方をされていたのを確認はしているが。
此奴からも呼び捨てにするほどに関係性は近付いたのか?
「そうですね。 まず見えている、という時点で異常なんですが……。
単純に言ってしまうなら、私達の家系が代々対応してきた存在です。」
やっぱり、という顔をしている廉太郎。
それ以上の部分に関して、どう話の展開を作っていこうか悩む様子の芳乃ちゃん。
なら、俺からも提案しよう。
「……その前に俺からもいいか?」
「ああ、どうした?」
「あの時、レナさんの胸元から何かが飛び出したように見えた。
今も紐だけは見えてるが、その首から下げてるのってなんだ?」
前提条件の確認。
体内から吹き出したようには全く見えず。
仮に物体から出ているだけ、というのなら若干変わってくる。
……ムラサメちゃんが見えている、という時点で色々と異常なんだが。
「これですか?」
紐を引っ張る。
胸元……豊かな合間に落ちているのか、服が引っ張られて見えそうになる。
冷たい、絶対零度のような視線が三つ飛んできて。
直視しないように咄嗟に首を捻る。
「あー……高祖父から代々受け継がれてきた御守です。
わたしが穂織に興味を持った切っ掛けも、高祖父絡みでして。」
首から外し、全員に見えるように提示される。
あちこちが掠れ、摩耗しているようには見えるが。
それでも大事にされてきたことが分かる。
「高祖父……ってどれくらい離れてるんだっけ?」
「祖父の祖父……ですから年齢にも寄りますが。 100年くらいでしょうか。」
それを見た時に浮かんだのは、祖母の事。
この間、夢にさえ見た。
受け継いだ――――
「……なあ芳乃ちゃん。 普通の話でいいんだけど。
朝武神社の御守って内側に何を入れるんだ?」
「折れることを防止する板と、清めた布。
後は神言を書いた紙です。」
そして、普段は販売していないと付け加えた。
神社の在り方が、前提条件が。
他の神社とは少しだけ違うから、と。
その言葉を前に。
事態を飲み込めていないレナさんを除いて。
全員の眼が鋭くなったような錯覚を覚えた。
「ですから、御守を持つのは穂織の住人か何かしらの理由がある相手。」
「……でも、この御守。 見る限り中身違うよな?」
「祖父ちゃんも持ってはいるが普段は神棚だな。
水取り替える時に毎日見るが、確かに折れないように硬い感じだったぞ。」
「え……えっと?」
『すまぬな。 もしかすると一大事やもしれぬのでな。』
「……レナさん。」
「あ、はい!」
「すいません。 この御守の中身、確認させて頂いても良いですか?」
そして、
「中身……ですか?」
「はい。 ……その代わり、明かせる範囲で先に開示させて頂きます。」
当初の予定通りではありますが、と付け加え。
自分が聞いても良いのか迷っている廉太郎の肩を叩く。
「お前も聞いておいてくれ。 祖父ちゃんもある程度は知ってるが……。
事がこう至った以上は知っておいて貰った方が俺も助かる。」
「将臣……お前何抱えてんだよ。」
「それを今から芳乃ちゃんが明かすんだろ。」
山に出る祟り神。
人の負の感情が引き起こす災害。
対応策。
依代――――欠片。
それらの繋がり。
結界の存在。
500年前の事実を除いて、何処まで伝えるのか。
「まず。 穂織で山に入ってはいけない、ということの真実から説明します。」
その権限を持つ彼女が、言葉を選び始めた。