<Chapter4-1-12>
ふぅ、と全てを述べた彼女が息を吐き。
一度席を外し、全員分に用意された茶を含む。
「…………あー、あー。 山に登っちゃいけないとは言われてたが。」
「……芳乃に茉子。 二人も先祖から引き継いできたのでありますか?」
「……ですね。 それが当然でもあり、同時に使命でもありましたから。」
500年前の真実――――つまり朝武家の抱える恥を伏せ。
先祖代々から継いできているからこそ朝武家は此処の『王』として成り立っていると。
そう思わせるような言い回し。
或いは、だが。
ある程度事情を知っている人物は、こんな言い回しで説明されてきたのかもしれない。
一般の情報。 少し踏み込んだ情報。 真実の情報。
その三つを区切ることで……なんて、想定が頭を駆け巡った。
「将臣。」
「ん?」
「お前はいつからこれ知ってたんだ?」
言ってくれても、位の眼で見つめてくる。
そりゃ流石に無理だろ、と思いつつ。
「知ってたか……で言えばそうだな。 春祭りの時の刀折った騒動あっただろ。」
「……ああ。」
「あの後で色々とあってな。 事情に深入りしてるってところだ。」
刀を折れたから担い手になった、っていうのは普通に考えて納得できようもない。
ただ、朝武家に大きく関わる切掛になったのはあの時。
――――ただ、もし。
あの時に刀に触れることがなかったとして。
ムラサメちゃんが見えていたのか、触れられたのか。
それだけは分からない。
だから、今の状況は俺は自分で選んだものだと認識している。
『話を戻そう。 芳乃、御守の中身だったな?』
「はい。 ムラサメ様にはどう見えますか?」
『外側……袋を念入りに清めたような跡が見える。』
唯一聞こえていない廉太郎には俺やレナさんが通訳しつつ。
ムラサメちゃんの言葉で話を元へと戻す。
つまり、御守の中身に関してだ。
「口を開けるだけで戻せるんだよね?」
「はい。 基本はそう作られていますね。」
破らなければいけない、とかで普通は作らない。
中身を入れ替える可能性だってあるんだから非効率過ぎる。
見る限り紐は100年間変えていない、と言った色合いではない。
「……どうですか? レナさん。」
飽く迄此方は依頼する側の立場だ。
そして仮にその中身が
二人は更に一歩踏み込んでしまうことになる。
「……分かりました。 開けさせて頂きます。」
そんな真摯な願いに彼女は頷いた。
全員が中身を見ることが出来るように中央へ。
それを取り囲むように見つめつつ。何かあってもいいように俺達は準備をする。
集中し。
目線を鋭くし。
ムラサメちゃんと手を結ぶ。
そんな中で紐を緩め、口が解けた。
逆さにして振る。
かさり、と落ちたのは古びた……黄ばんだ何回か折り畳んだような紙と。
その後に続くように、見覚えのある指先にも足りない
「っ!」
『待て、芳乃!』
咄嗟に動き出そうとした彼女へ突き刺す言葉。
一瞬だけ動くのが遅れ、だからこそその物体の異常さが分かってしまう。
「……なんだこれ。 ガラスか?」
「廉太郎、触れるな。」
「お? おお。」
手を伸ばそうとした奴には声を掛けつつ。
俺自身も触れずに、遠巻きにそれを確認する。
(特有の奇妙な雰囲気が欠片もない。 どころか……。)
糸が伸びない。
それ自体は問題ない。
レナさんが結界に触れた際も、こうして表に出てきた時も影響がない。
つまり祓われているのは間違いないとして。
「……芳乃様。 これ。」
「うん。 霊力……神力、
そっと二人が、その紙に対して手を伸ばしている。
光ってさえ見える、という矛盾。
既に何度か儀式を介して祓ってきていても、『それ以上』には届かないのに。
100年経っても継続され続けている欠片の存在。
「だからか? あの色がおかしかったの。」
『もしかしなくとも、吾輩が見える理由の一つにはなっていそうだな。』
「この欠片の影響で、ってことか。」
分かっている側だけで話を進めてしまい。
「……おい、将臣。 説明しろ説明。」
「お願いできませんでしょーか……?」
よく分かっていない二人が置いておかれるのも不味い。
分かってる、と呟きつつ。
……とは言っても、先程芳乃ちゃんが説明した事と直結した内容では有るのだが。
「今までの動きで、祟り神の宿ってる媒介……依代が何らかの欠片だってのは分かってる。
で、恐らくレナさんが持ってたこれも同じ欠片だと思う。」
「……同じ!? ってことはレナは!」
「落ち着け。 俺等に見えてる限りこれは全く危険に見えない。
それどころか祓う側の力が宿ってるようにしか見えないんだ。」
理解が追いついたのか、叫びそうになり。
声を抑えさせながら、この違和感に関して思考する。
「えっと、レナさん。 この御守に関して何も聞いてないか?」
「細かくは聞いてないのです。 唯……高祖父と高祖母の思い出の物とだけは。」
そして代々リヒテナウアー家に伝わってきた大事なものである、と。
……それだけ大事にされてきたからこそ、こうして特別な形になっているのか?
「……皆。 ちょっといいですか?」
そして、言葉が一つ。
紙を開いていた二人が真顔で見せるように広げる。
それを、上から見つめてみれば。
男性の名前。
女性の名前。
そして、「朝武」と書かれた名前。
それらが筆で達筆に書き込まれた紙。
周囲に御札のような意匠が描かれた。
そして裏側に何かが貼り付けられた、小さな紙。
「……これは?」
「多分ですが。」
一息置いて。
「
……。
沈黙が、少しだけ。
周囲に広まった。