「穂織の管理者一族」と「外の者」。
立場と見方の差。
<Chapter4-2-2>
朝方にも関わらず、鳥や虫の鳴き声も微かにしかせず。
普通の声で話でもすれば、神社全体に響いてしまいそうな程に静寂で。
二人で並んでいるからこそ、ぼそりぼそりと呟くのが正しいような。
そんな小さな世界に佇む。
目上の相手に告げるには、恐らく正しくないけれど。
秘密の話をするには丁度良い。
そんな曖昧な、夜だからこそ言えること。
「多分……その内改めてはっきり言うと思いますが。」
「うん。」
先に話を通す。
或いは俺としての意思を告げておく。
親とすれば、受け入れ難いだろう俺達の決断を。
それは、俺の我儘で。
同時に、後戻りしないための決意でもあった。
「俺は、
少しだけ、声が引っ掛かりながら。
それでもきちんと、彼の目を見てその言葉を告げる。
「……そうか。」
ただ、その言葉だけが耳に入った。
妙に重く、妙に心に刺さる。
そんな感情が入り混じった、たった三文字の言葉。
「改めて、というのは?」
「……今の、祟り神の事が終わってから改めて……です。」
終わらせられるのか、とは聞かれずに。
いつになるんだ、とも言われずに。
ただ、小さく頷くのが分かった。
それが、どれだけ重い言葉なのかを互いが理解していたから。
「……それに。」
「うん。」
後二つは伝えないといけない言葉がある。
何方から告げるのが正しいのか、少しばかり思案し。
結局、選んだのは芳乃ちゃんのことを先に。
「多分、これから……これから
親に言うことではない。
ただ、普段いる場所にいなければそれだけで心配を掛ける。
それに此処は安晴さんの家でもあるんだ。
恥ずかしすぎるが、言わないでいられる訳もない。
「ああ……
「ブッ!?」
そして返ってきた言葉が当然知っているような内容。
何を言われるか少しばかり身構えていたからこそ、吹き出す。
気付かれてるのかよ!?
「ああ、気付いてないと思ったのかな?」
「げほっ、ごほっ……そ、そうですね。」
「まあ僕も気が回る方ではないけれど、流石に何度もあれば気付くよ。」
うっわ恥ずかしい。
生暖かい目で見られてるだけマシだけど……。
「……怒らないんですか?」
「将臣君が無理に、とかなら即刻追い出していただろうけど……そういうことしないだろう?」
「仰るとおりです……。」
良かった、ちゃんと評価稼いでおいて。
それなりには俺の評価は有るらしい。
……でも、祖父ちゃんだったら先ず俺の責任にしただろうな。
それで二人に言い返されて気まずい空気になる。
目に浮かぶ。
「……まあ、責任を取ってくれる覚悟も有るようだし。 それに。」
「それに?」
「僕等も……秋穂とまだ学生だった頃は。
先々代の巫女姫、芳乃の祖母の目を盗んで
昔を懐かしむ目。
男同士だからこそ出来る馬鹿話。
俺達の立場……何方も『入婿』という立場だからしてくれた話だと俺は受け止めた。
「だから、僕は何も言わないようにはするけど。
出来る限り僕に気付かれないようにはしてくれよ?」
「は、はぁ……。」
一体どんな事をしていたのか気になるが。
下手に聞くのが怖かった。
……いつだったか。
巫女姫は卒業と同時に結婚し、子供を産むとかいう話と結びつけそうになったのもある。
こほん、と一つ呼吸。
「……まあ、それを知られてるのならもう一つも言ってしまいますけど。」
「うん。」
「本来は先に告げる相手は安晴さんではないんですが……。
だろうね、と。
軽い言葉をしながら。
それと相反して、表情は少し顰め面へと移っていた。
それも、夜の影に隠れて半分程が夜目に映る程度だったけれど。
――――彼は、俺達のしてきたことを知っているから。
彼女達と、俺が共にいることを最も知っている一人だから。
「無粋かもしれないけれど、一応聞かせて欲しい。」
「はい。」
「それは、芳乃も了承して……ということでいいんだね?」
「……はい。」
同じ言葉で二度。
強く、その意味を理解して首肯する。
頭に過ったのは――――緑髪の少女。
彼女に関しては……未だ、何も決めきれてはいない。
「……そうか。」
ふぅ、と。
強く息を吐き出す音が聞こえた。
不思議と、そんな直感がした。
「今だけは、芳乃の父ではなく――――穂織を預かるものとして言わせて貰うよ。」
「……はい。」
「それがどういう意味を指してるのか、分かってるんだよね。」
「勿論。」
だから、折れる訳にはいかない。
明らかにおかしい、
常識ではなく、狂気じみた覚悟を持って相対する。
「……なら。」
一拍の、間が空いて。
同時に、朝日が山間から少しだけ覗き込んだ。
「それを僕等が認めるだけの成果を出して欲しい。
或いは、それを認めざるを得ない答えを。」
それが、彼の告げた返答だった。
「僕を認めさせる事ができるなら。
…………色々言いたいことは有るけれど、
それが今言える精一杯だよ、と言って。
どうするかは考えて欲しい、と残して。
坂道側へと竹箒を持って歩いて行く。
――――その背中に、大きく一度頭を下げて。
二人……いや。
今度も考えるのなら、三人に告げたい言葉があったから。