そのことは、自然と伝わるもので。
<Chapter4-2-3>
からからと。
玄関の戸を開ければ。
「……
笑顔で玄関口に佇む、
声には出なかったが、正直本気で動揺しそうになった。
いや。
声には出せなかった、と言ったほうが正しいかもしれない。
「……おはよう。」
「はい、おはようございます。」
確かに気にして然るべきだった。
普段から俺と同じくらいに動き出す彼女なんだ。
当然目を覚ましても不自然じゃない。
……特に、今日は
「ええっと……ひょっとして見てた?」
「何のことでしょうか? ああ、でも。」
恐る恐るにした問い掛け。
戻ってくるのは笑顔と。
「ワタシ、忍者の修行の関係で
にしし、とでも笑いそうな笑み。
誂う時特有の声の上がり具合。
ただ、明らかに焦っている時の早口。
……聞かれてたな、うん。
「……まあ良いや。 時間大丈夫?」
「はい、勿論。 芳乃様も既に起きられてますよ。」
ため息混じりで言葉にして。
追撃で更にボディーブローでも喰らうような衝撃。
……二段構えでダメージを与えてくると思わなかった。
「…………起きてるの?」
「はい。 まだ将臣さんの部屋にいらっしゃいますけど。」
「いや自分の部屋に戻ってないの!?」
縁側にまで移動する前。
「……それはそれとして。 少しだけ、良いですか?」
そんな言葉に、足を止められた。
居間を抜けかけた場所。
何とも、話をするには中途半端な立ち位置で。
もう少し進むか戻るか、ちょっとだけ悩む中。
「ん?」
「ああ、いえ。 大したことではないんですけど……。
ワタシとしては言っておきたいことがありまして。」
明らかに照れている。
逃げ出さないだけ頑張っていると思って良いのか。
普段からしてこういう事に弱いけれど、一定を踏み越えると寧ろ積極的になる。
そんな彼女のことを、少しだけ知り始めることが出来て。
だからこそ――――ああ宣言をする勇気が出た部分は間違いなく有る。
曖昧な場所で足踏みをしながら、ええとと口を開いて閉じて。
実際の時間にすれば、多分ほんの数秒。
ただ、俺達にしてみれば。
妙に長い、ゆっくりとした時間に感じられた。
「……有難うございます。」
「何も知らないんじゃなかったのか?」
これくらいは言い返す権利はあるだろ。
先程の彼女の惚けに対して、そう返せば膨れ面。
ただそれ以上は何も出来ずに、睨むような目線でジッと見つめられる。
…………いや怖い。
「……色んなことに対して、ということにさせてください。」
「それを言い出したら俺だって同じだよ。」
初めから俺が二人を、と言っていたらどうなっていたか。
それを考えるのは
少なくとも、今のような関係性には落ち着けていないと……そう思う。
そして、今以外の関係性を望むつもりも当然無い。
「あの夜に言ったのが初めてだけどさ。
同じことは俺だって思わないでもなかったんだし。」
「……そうなんです?」
「そうなんです。」
朝方から重い話と、内心を伝える話。
夜だから良いとか時間帯次第で変わるわけでもないが。
その日の始まりとして引き摺るかどうか、で言うならどうなんだろう。
「だから、ある意味であの日に言って貰えたのは嬉しかった……のと。」
「と。」
「申し訳ない、って気持ちがあったからさ。」
だから今朝方のことは出来れば一人で済ませたかった。
それ以降の……何をしないといけないのか、は相談するとしても。
安晴さんへ告げるのは、最初に俺だけで。
「……まあ、自分勝手ってだけ。」
「……あのですね、将臣さん。」
「ん?」
早く部屋に戻ろうと一歩進もうとして。
今度は腕を引かれ、身体毎戻される。
……前から思ってたけど、力強いよな茉子ちゃん。
「前々から言おうと思ってた事があるんですけどね。」
「うん。」
「……なんでそんなに欲望を表に出さないんです?」
……ん?
結構出してるつもりでいるんだが。
「いや、そんなつもり全く無いんだけど。」
「なら気付いてないだけですかね~?」
「逆にどの辺がそう見える?」
「これはワタシの勘違いの可能性もありますけど。
将臣さん、何をしても堪えてるように見えるです。」
そんなつもりは、欠片も。
「もう少し言ってしまうと。」
彼女の言葉は途切れない。
「無論……え、えっと。 お風呂のこととか。
後は夜の添い寝みたいな状態を常に求めるとかはまた別ですよ?」
彼女の言葉は終わらない。
同時に浮かぶのは、今までの俺の考え方。
……いや、確かに我慢してる部分はある。
ただ、それが
「我慢しすぎて、とか。 とやかく言える訳では無いですけれど。」
ほんの少しだけ、背丈が下の彼女が見上げる。
少しだけ、目が潤んでいるようで。
微かに、震えているようでもあった。
「少なくとも。 ワタシと芳乃様は、もっと色々したいことがあります。
……ですから、将臣さんも。 もっと、したいことを言って下さい。」
こうして欲しい、とは言わずに。
飽く迄願望として、彼女は言葉にした。
顔を真赤に、恥ずかしいながらも言っておかなければならないと考えて。
ワタシ達の願いだから、という免罪符を以て。
掴んでいた手を離して、身体の動きは自由になった。
だからこそ、ぎこちないままに一歩踏み出そうとして。
……ほんの少しの欲望が、頭に浮かんで。
彼女の手を、強く握り直した。
――――潤んだ瞳を、何処かで見たような。
そんな錯覚を覚えながら。
ひょっとすれば、安晴さんも昔は似たような状態だったのかなと。
先程の話を、思い返していた。