区切りがいい場所が難しかったので今回は色々と場面転換が重なってます。
<Chapter1-2-6>
「……男の子ですか? 念の為格好とか教えてもらえます?」
焦った雰囲気。
走っていたのか、息も絶え絶え。
行方不明……とまでは言わないけれど、何処かに行ってしまったというのは明白だった。
「と、歳は五歳で……髪は短め、青いTシャツを着ている筈です!」
「そうですね……。」
ちらり、とムラサメちゃんへと視線を向けた。
会話が一方的に聞こえる反面、俺を介さなければ例外の人以外には言葉が伝わらないのも不便。
「吾輩も見てはおらぬな。」
「お昼過ぎくらいから境内にいますが、見ていませんね。」
「そう……ですか、やっぱり
「!」
その言葉に明らかに顔色を変えたのはムラサメちゃんだった。
初めからそういうものだと決めつけ、否定を続ける周辺地域。
俺よりもずっとずっと知っている筈だから。
「落ち着いて下さい。 見失ったんですか? 何処で、何時頃?」
「此処に来る途中で、急に走り出して……追い掛けたんですけど、見当たらなくて。」
「少なくとも、境内では見てません。」
「やっぱり…………イヌツキなんかに連れてくるんじゃなかった……。」
いなくなったのを他の要因に押し付けたくなる気持ちはわかる。
ただ、それでも。
当人には言わないけれど、
其れ位には、考えている俺がいる。
「ですから落ち着いて下さい。 祟りなんて有りません、多分何処かで迷子になっているだけです。」
「でも!」
「俺も一緒に探します。 もう少し詳しい特徴を教えて貰えますか?」
「……良いんですか?」
「勿論。 早く見つけたほうが良いでしょうし……警察に連絡は? 俺も知り合いに当たってみます。」
混乱していたからか、すぐに見つかると思いこんでいたからか。
警察への連絡もまだだったとのことですぐに依頼しながら、もう少し詳しい特徴を確認した上で別れた。
……とは言っても、探せる範囲も狭いんだが。
「警邏……警察に頼れば良いのではないか?」
「神社に来ようとしてたって言うなら、どっかに隠れてる可能性もあるしな。 ムラサメちゃんも頼めるか?」
「それ、は……まあ勿論手伝うが。」
一瞬、少しだけ顔色を悪くして。
それでも
「助かる。 俺には入れない狭いところとかを頼みたいんだ。」
「ぇ…………ううん。 ご主人の入れない所、じゃな?」
「そうだ。 見つかったら大声で叫ぶか、此処に戻ってきてほしいんだけど。」
「ああ、叫ぶ必要はない。 叢雨丸の担い手たるご主人の魂を探れば、大体の位置は把握できる。」
「……監視? いや、便利だなぁって割り切るべき?」
常時監視されてるのは流石に嫌なんだけど。
「安心しろ。 ”吾輩の意思で””大体の位置”だ。 全てが分かるわけではない。」
「……その程度で良かった、と思うことにする。 まあ、早く見つけて終わりにしよう。」
「うむ。 任せよ。」
その場から消えるように去るのを見届ける。
腕だけを伸ばした変な子、と見られる前に動き始めよう。
……一応、安晴さんには伝言だけしてから。
*****
「……いないな。」
日が傾くくらいまでの間、神社周辺を探したがその姿は見当たらなかった。
此処まで見当たらない、となれば……着く前に何処かに逸れたのか。
出来る範囲で探してみるか……ムラサメちゃんは場所の把握できると言っていたし、合流に支障はないはずだから。
小走りで神社までの道……あまり把握しきれているわけでもないので、差し掛かり程度までを探す。
奇妙な目で見てくる人々もいるが、そんな視線を無視して探せどもいない。
何処かで入れ違いに――――いや。
(もしかして、山の方……?)
建実神社の場所は山の近く。
少し逸れれば登山道……とまでは行かないけれど、山へ登る道だってある。
小さい子供だ、昔の俺みたいに山へ行った可能性だってあるかもしれない。
探検だ、なんて思えば危険なんて考えもしないのが男の子というものだから。
ただ。
『よるは、あぶないよ?』
あの時、あの子達にされた忠告が引っ掛かる。
それでも。
一度、それを振り切って――――山へと、向かうことにした。
(……ごめん。)
誰に対して謝っているのかも、分からないままに。
*****
がさり、がさりと夜の山を登る。
もう少しすれば春の花でも咲くのだろう木々は、夜に見れば邪魔であり。
恐怖を与えるだけのモノでしかない。
「……流石に考えすぎたか?」
登り過ぎないように、大体このくらいまで、と定めた辺りを基準に探している。
この辺りになってくれば道から外れすぎているし、幾ら何でも子供がここまでは来ないだろう。
仮に来ていたとしても引き返しているとは思う。
「暗さがちょっときっついな……。」
そんな独り言を漏らしながらの探索。
時々、行方不明の少年の名前を叫びながらではあるけど……それでも、段々と喉が枯れてくる。
ランニングで使う筋肉とはまた別の場所だから、地味に足が痛かったりする。
それでも足取りをきちんと保てているのは、体力がついているからなのだろうけど。
月明かりがあるからまだマシで、これが曇りなんかであればまず山という選択肢は外していただろう。
(……仕方ない、戻るか。)
スマホで時間を確認するついでに電波を見たが、場所が悪いのか圏外表示。
朝武さんの家に連絡するにもこれでは繋がらない。
はぁ、と溜息を漏らして。
元の山道……本道へと戻ろうとすれば。
向かっていた方向、今は背にしている方向。
そちらから、妙な音がして。
同時に、凄まじい違和感――――。
「…………ッ!」
瞬間。
子供のこととか、そういった物を全て放り出して駆け出していた。
びゅん、と何かが元いた場所を駆け抜ける音がだけが聞こえ。
ちらり、と後ろを振り向いた後再度駆け出していく。
(一体……何だ!?)
後ろを向いてしまったのは、反射的に。
それが何なのかを知っておきたかった、と言うだけの話。
野犬でもいるのか、或いはもっと凶暴な動物なのか。
それとも――――イヌツキと呼ばれるだけの理由がある、オカルト的な何かなのか。
結果。
一番想像したくなかった最後の何かが其処にいた。
ナニカ、泥にでも覆われたように見通せない全身。
ただ、人ほど高くはない……四肢を持つ、四足獣に近い格好。
そんな物体とも生物ともいい難いものが、此方に敵意を抱いている。
走る。
走る。
走る。
途中通った道なき道、自分ひとりが通るのが精一杯なほどの草木を分けただけの道。
其処を荒らすように、必死で駆け抜ける。
ただ。
後ろの生物は、それ以上に足が早かったらしい。
だん、とでも言うように。
周囲の木々、枝を折りながらの何処かの攻撃が右肩に届いてしまった。
「が…………ッ!?」
焼けるような熱、響き続ける苦痛。
多分、それでも木々で威力は落ちていたのだろうけど。
走っている最中、急に受けた横からの打撃。
バランスを崩すには、十分なものだった。
上下の感覚の喪失。
宙を舞う感覚。
全身を叩きつけられる衝撃。
痛苦。
そのまま幾度となく肢体をぶつける、あちこちへの痛み。
背中を強く打ったからか、息をするのも絶え絶えで。
回る。
廻る。
最後に、一度。
もう一度何かにぶつかってから、叩きつけられる感覚。
――――それを感じて。
ぷつん、と意識の線が切れる音がした。